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異世界にいっちゃいました

いつもの朝


おはようございます。

鈴原すずはら 芽依子めいこ、28歳、独身、事務職、派手さを好まない地味女子です。

08:02発の京○線、いつも通りの朝でございます。

いつもと変わらない満員の車両、社会人ならわかって頂けるはず、恒例のプチ戦争でごさいます。

乗ってすぐ左側。一番角ののつり革。いつもの決まったポジションに何とか滑り込めた私。

第一関門突破です。よしよし。

でもここから、40分の立ち地獄です。が!…大丈夫。

速攻、網棚に重ーいカバンを置きまして、すぐに肩の負担を減らします。

これでカバンが無い分、横の人にぶつかる心配も無し。

あ、座りませんよ、絶対に。

過去、高齢の腰の曲がったお婆ちゃんに勇気を振り絞って席を譲ろうと声をかけたら、

案の定、大丈夫だと断られた経験があって。。。

以来…席を譲ることの難しさを思い知って、立ってます。はい、座れなくなりました。

一度断られた位で…と、侮るなかれです。

声を出す勇気とは思った以上にハードルが高いのだ。初対面なら尚のこと。

今の世の中、「知らない人に声をかける」とは、一歩間違えると変人扱いされかねない。ホントこわい時代です・・・。

知らない人に、「こんにちは」の挨拶すらしない様にと、小学生は学校で教わっている。

私の育った田舎では、あり得ないことだか、今の時代は普通なのです。

この街に引っ越してきた時、お隣さんに挨拶に行ったら、迷惑がられた時は戸惑った。

けど、慣れてしまえば…何かのトラブルに巻き込まれない為の、自己防衛なのだと納得してしまう。

これが、都会が冷たいと印象づける原因なのだろうが…仕方ない。

私もこの【他人と関わり過ぎない生活】が当たり前になりつつあった。

平凡で、平和な日常。

退屈で死にそうだけど、変化をつける行動力は、錆びてしまったのか、全く沸いてこない。

車窓からの風景は、ちらほらピンクが流れてた。もう春。今年こそゆっくり花見ができるだろうか

____________________________________________________________________________________________


(1)なぞのお婆ちゃん



いつもの朝のルーティーン。

混雑した苦しい状況を、少しでも安心に過ごすための方法。

ラッキーなことに、今日もいつものポジションに乗れた私。グッジョブ!


けど、そんな私のいつも変わらない朝が、今日はちょっと違ってた。


さっき乗ってきた、左横に居るお婆ちゃんが私の腰当たりの服を片手で鷲掴みしているのである。

手すりでは無くなぜか私を。

なんでやねん。

関西弁はしゃべれないけど…思わず。


見た目80歳代ぐらいで、140センチ位の小柄なお婆ちゃん。笑顔が可愛い…。

お婆ちゃんの目の前には鉄製のパイプの手すりが有るんだけども…。

お婆ちゃん…身長170センチ(ヒールを、入れたら175センチ)ある私が、手すりに見えたのかな?

…あんまりだ。

とりあえず「あの…」と声をかけると、お婆ちゃんと目が合った。

体調が悪くなって、掴んだのかと心配したけど、違うみたい。

お婆ちゃんは私向かって良い笑顔を見せてくれた。

ニコニコだ。

私もつられてニコニコ…

て、ちゃうわ!


……どうしようか。

ただ掴んでいるだけだし…むやみに離せとも言いにくい。

んー…お婆ちゃんどこで降りるんだろう。

と思ってたら、次の駅のアナウンスと、緩やかにかかるブレーキの音。

駅に着くらしい。私の駅はまだまだ先だけど。


扉の開閉音と共に人の雪崩が起きる、つり革に捕まって耐えていると、

グイッ

腰が横に引っ張られた。

「え?」

耐えようと力を込めるが尚もグイグイ引っ張られる。

「ちょ、ええ?」

その時、服とズボンが、ビッと軽く悲鳴をあげる音に

思わずつり革から手を離してしまった。

何より肌露出は避けたい。ボタン位ならまだしも、破けたら修復不可能だ。

ソーイングセットなどの、女子的なものは持ちあわせていない。

ドドド

人の波と共に電車から出されると、腰を掴んでいるのはお婆ちゃんと再度目が合う。

ウフフ素敵な笑顔よ、お婆ちゃん。


いやいやいやいや、だからお婆ちゃん!意味わからん!


降りた乗客に続き、次々乗り込む乗客。

お婆ちゃんの手を、ズボンから引き剥がし、

慌てて私も乗り込むべく、満員の流れに連なった……が!


ガッシ!

お婆ちゃんが、またも私の腰にへばり付く。だから…なぜに!


これぞ、剥がれない妖怪、子泣き爺ならぬ…子泣きお婆ちゃ…

て、感想してる場合じゃなかった!


懸命に剥がそうと、奮闘するも剥がれないお婆ちゃん。

えーーー?どうしろとー?


そこで、

バタン。シュー…

目の前で、無情にも閉まる音が



「え??うそーーー!」

うそじゃありません。閉まりました。ピッタリと。



=「電車から、お下がりください」=

響く、アナウンス


だめだめだめーー!

置いてかないでーーー!



急行はサラっと、立ち去った。

残された手ぶらの女と、妖怪……じゃなく、お婆ちゃん。



「…………」

終わったね。


カバンは網棚。スマホもカバンの中。

身ひとつで、置き去りですよ。お婆ちゃん…。

あんまりな出来事に、怒りも湧かないよ。どうした自分。

とにかくお婆ちゃんをひき剥がして(うそ、優しく宥めて)駅員さんに事情を話すしか無い…よね。


「あの」

腰にへばり付く妖怪に声をかけると、

満面の笑顔の、お婆ちゃん。

おい!こっちは泣きたい気分なのに…

「えっとね、お婆ちゃん。とりあえず向こうに、」

移動することを伝えようと話かけると、


「…ミツ…ケ…タリ」

お婆ちゃんが、ポツリと独り言を言った。


ん?ミツ?

小さな声だったので、ちゃんとは聞き取れなかったけど、

お婆ちゃんの声は、少女の様な…幼い声だったので、少し驚いた。

可愛らしい声。



「……ユルシタモ…」



「え?」

囁くような小さな声は、聞き取りにくい。

お婆ちゃんの顔を覗き込むも、それ以上は喋らなくなっちゃった…。


益々、不思議さの増す、お婆ちゃんに戸惑いつつ、

「あの、とりあえず駅員さんの所に行きましょうか、お婆ちゃん。

私、すぐ職場に電話しないとヤバいんだ。」


ふと、駅の時計を見ると、長い針はすでに、50分を過ぎていた。遅刻確定である。


カタコトお婆ちゃんの素性は、駅員さんに丸投げ決定だ。ごめんなさい。

お婆ちゃんの手を引いて、ゆっくり誘導する。

私のジャケットの左胸ポケットには、自分の名刺が確か入ってたはず……

だから会社の電話番号は判る(グッジョブ自分)。

とりあえず事情を説明して、仕事カバンを回収しなくては!

お財布も家の鍵も入っているのだ。無くなったら悲惨すぎる…。


まずはオフィスに電話して、もう出社してるだろう、青木先輩に話さないと…と、

考えを巡らせていると、


お婆ちゃんと、つないでいる右手が強い力で握られた


「痛っ」


振り返るとお婆ちゃんが、もう片方の手で、私の右手首を掴んでいる。

強く引っ張っちゃったかな?と思って、謝ろうと口を開くと


お婆ちゃんは急に謎の足踏み?をはじめた所だった



タン、タン、タン、



「お…お婆ちゃん?」



トタト、トタ、タトタ


右手はさらに強く握られて、足踏みも止まらない。


あの・・何かの儀式で・・・すか・・?



トトトン…トトト



あーーー…

どうしよう…か…


意外と力が強いお婆ちゃん。

動きそうにない。

気が済むまで、させてあげる…?

はぁ

とため息と一緒に、何気なく、空を見上げて目を閉じた・・・・



タタン!!



一瞬。

ほんの一瞬だったのに


目を開けると、そこは一面〈黒〉だった。



さっきまで、澄んだ青空だったよね・・・?



ん?黒…?



それに、いつのまにかお婆ちゃんのステップ音は消えている。





閉じた目を開けただけ。1秒。

風景が変わってた。



目が徐々に、黒の世界に慣れてきて、

かすかに、部屋だと分かってきた。



「あ~んれ??」



頭上には、枝と緑の葉っぱが天井を、埋め尽くしてる。

照明器具が無い。

「葉っぱ…」

思わず上を見上げた体勢のまま、頭を仰け反らすと、

背後から、大きな手で、背中を支えられる。


「そのままだと倒れるぞ」


穏やかなテノールの男性の声。いい声。

視線だけで声がする方を追えば、逆光なのか、暗いシルエット。


あ、駅員さん。


当初の目的を思い出し「あの、電話…」と、駅員さんに伝えようと思ったが、喉が、かすれて声が出なかった。


さっき、口を開けっ放しにしてたから、喉が乾燥したかな?

しまった!駅員さんに、アホ面見られたかも。


ゴホン!


よし改めて

「えっと、電車に鞄を置き忘れてしまいまして…

スマホもないんです。電話を、お借りできないでしょうか。」

と逆光の人に問いかけると、その人は、私の手を引いてくれる。

明るい部屋に導かれて……る?のかな。


手を引かれるまま、私は言葉を続ける。

「電話をお借りした後、カバンを取りに行きたいんですが、

忘れ物預かり所は、どこの駅になりますかね?

貴重品も入っているので、今日中に取りに行きたいと思――。」


視界が明るくなると、思わず黙った。

言葉が出ないのには訳がある。


手を引かれた先の、明るい部屋は、

ログハウス風の太陽の光が差し込む、暖かい部屋だったからだ。


もう一度言います。

木の香りに包まれた……ロ・グ・ハウス。



そう、駅にある対応室ではなかった。

全然、全くもって……



思わず振り返ると、さっきまで居た薄暗い部屋は―――、棚が並んだ、薄暗い部屋だった。



「あ…れ?駅は?」

今しがたホームに居なかった?電車が…さ。

お婆ちゃんに…



「そう!お婆ちゃん!!」


突然叫んだ私に、手を引いていた人がビクッとする。


「あ、ごめんなさい。さっきまでお婆ちゃんと

手を繋いでたん・・・・です」


周りを見ても、私一人。

あれ?お婆ちゃん?


何度も見渡すが、お婆ちゃんの姿はどこにもない。



あれ?



……え?



この状況は……なに?



混乱で、頭がグラグラしてくる。



訳が分からないまま、正面に顔を戻すと、

手を引いてくれた男性の、布越しの胸板があった。


顎が自然と上がる……

すごい…190センチ?はあるだろうか、背の高い男性。



170センチある私は、日頃、人を見上げる事はあまり無い。

こんな風に見下ろされるのも、久々だ。

目元が前髪で見えにくいけど…

少しだけ見えたグリーン?……明るめな瞳。

綺麗な色。

もう少し見たいかも。と顔を近づけると


男性の肩口から女性が現れた。

「お告げ通りだったわね!」


は?


艶やかな黒い巻き髪を揺らして、妖艶な赤い唇をした女性がぴょんぴょん跳ねている。


「ほら!ほら!

エル!やっぱりそうだったわ!本物の巫女様よ!」


「…わかりましたから、跳ねないでください。危ないですよ。」

肩口に寄りかかっていた女性を床に降ろすと、


「ようこそ木漏れ日の館へ、

巫女様を心から歓迎致しますわ。」


黒髪美女は黒のワンピースを裾を持ち、ふわりと微笑んだ。

その際、豊満な胸がチラリと見える。


ナイスバディー……ですね。


「とりあえず会社に、連絡……」

頭が痛い。

さっきから、視界もグラグラ揺れて気持ちが悪いし。


夢ならば、早く覚めろと願いながら

私は意識を手放した。


_____________________________________________________________________________________


(2)モフモフすきですか?




あたたかい。気持ちいい。

顔の横から、何かやわらかいものに包まれている。

ふわふわで、タオル…では無いな。毛足の長い絨毯?てとこかな。

にしては、やわらかい。。。幸せな感触。

さわさわ、もにもに…。

新発売!【無限モニモニ!】


「買いまーーーす」

ギュっと抱きしめると


「ヴニャァー」

【無限モニモニ】が腕から飛び出した

「ぐふっ」

飛び出した瞬間、私の胸を蹴った模様…


ハッ

さすがに目が覚めた。

明るい。草や木の匂い。

と、視線の先に【無限モニモニ】だったであろう猫。


「ごめんね」

寝ぼけて、抱きしめてしまったことを、猫に謝罪し

周りを見渡す。

生い茂る葉の隙間から差し込む日差し。

木の香りにつつまれた、寝室(ベッドがあるから、たぶんね)に居る。

夢からは覚めたが、

〈ログハウスの夢〉は覚めなかったらしい。


私はブラウスとグレーのパンツルック。出勤時のまま。

えーと。

頭を抱えだした私に

「起きられそうか?」

と声がかかる。

ああ、この声は聞いたことある。あの背の高い人だ。

視線を上げると猫が目の前で鎮座してた。

うん。かわいい。

あれ?けど声の主が居ない。猫の頭を撫でながらキョロキョロすると

「こっちだ」

むにっと肉球を私のアゴに当ててきた猫。

魅惑の肉球タッチ、ゴチでありますっ(←訳:ありがとうございます)

お返しに、その可愛いおててにキスをした所

「わ!やめろ」

慌てて発言したのは猫だった。

「へあ?」

間抜けな返答になった私に

「あ、この姿じゃ解らないか?オレだ。」

胸を張るオレ君。

オレだ、と言われても・・・

・・・

・・・・・。

あれれ~?猫が喋ってるZE☆・・・・・・こういうの何て言うんだっけ?

あ~~・・・化け猫?・・・・いや獣人?


じっと見つめると、オレ君は、すっと姿勢を直して座った。


大きめな猫。

クリーム色のふわふわ毛並みが艶やかで、手が、ワキワキしそうになる。

瞳はエメラルドグリーン。

・・・すごく綺麗。

ん?

声と目の色・・・、はい!思い当たる人がいます!

そうなの?この子が?あの長身のお兄さんなのですか??

リアルファンタジー!??うそ、マジか。

夢にはみてましたが!実際に、猫さんに、喋りかけてもらえる日がっ・・・来ようとはっっ

くぅ~っ感動ですっっ

しかも・・・猫さんの声が低めなのが良いっ

どこかのアニメ映画の猫みたい・・

これで紳士なら完璧ですっ


「あの!私、鈴原(すずはら) 芽衣子(めいこ)っていいます!

あなたの、名前をお聞きしても、いいですか?」

聞きたいことは多かれど、まずは自己紹介だ。

できることなら、早く仲良くなりたいっ


オレ君は、少し、考える素振りを見せたけど・・ぱっと顔を上げ、

「オレは、エルドレット。

エルと呼べばいい。・・・メイコ。

あと、…敬語もいらない。」

と、言ってくれた。


そして、エルは器用に後ろ足2本で立って、両手を胸に当て、ペコリとお辞儀をした。

「よろしくな・・」

と、小さな声。


ぐはっ!

にゃ、にゃにゃ、にゃんこがっっ!おじぎをしておるぅぅぅっっっっ

がわい過ぎやろっっっ


私は、押さえきれないニヤ顔を、速攻、両腕で隠したのだった。


_____________________________________________________________________________________


(3)ネズミだと思ったら違ってた



エルとの自己紹介も済み


下の階で、お茶にしようと、エルに誘われた私は、

かわいいフワフワお尻を、フリフリしているエルにゃんの後ろを追いかけていた(鼻血)


どうやら私が寝ていた場所は天井に近い所だったらしく、らせん階段を降りてリビングへ向かっている。


さっきエルに聞いて驚いたのだが、このログハウスすごいのだ。


大きな樹を中心に、部屋が木の幹に添うように、左右にいくつも有るのだ。

だから部屋を移動するには中央の幹に巻きつく様に作られた、らせん階段を上り下りする。しっかりとした階段で、揺れたりもしないが、1.5人分位の幅なので、2人並んではキツそうだ。


エルも荷物を運んでたりしない限りは、猫の姿で階段を使うんだって。ま、たしかに、体大きいから、幅がね。


ヒトの姿の時のエル・・・、

まだ、ちゃんとは見てないけど、肩幅のしっかりした、男性らしいひとだったな。

少し猫背だったけど・・・猫だけに?(笑)はは・・ゴホン


え?しっかりみてる、って?

そりゃ・・・パパッと、少しだけ見ましたよ?(笑)

一瞬だったけど見えた瞳の色とか、とても素敵だった。

絶対このひとモテるんだろうな~!て思ったし!



はぁ、いいなぁ・・・

私も一度で良いから、モテてみたいです・・・


年齢イコール彼氏いない歴のメイコにも、

いつかはきっと、できるだろう恋人に、想いを馳せながら、階段をおりていった。


頭だけ、かなり脱線してたけれど、

…目的のリビングは、まだ着かない。

結構下りた気がするんだけど・・・・


この樹、実は相当、大きいのかもしれない。らせんの周回の幅が広くなっている気がするし・・


う~ん、立派な幹。

一度、遠くから見てみたいな、この樹。


ぶつぶつ独り言を言いながら、下りてる私に、

エルから、ついたぞ!と声がかかる。


パッと正面を見ると、はじめて見る部屋だった。

あれ?最初の部屋じゃない?

ドライフラワーなのか、草や花がこれでもかと吊されている。

棚には瓶がいっぱい。研究室みたい。雰囲気のある部屋でかっこいい。

天窓がひとつあって、そこからサンサンと陽が差し込む様は、思わず黙ってしまうくらい綺麗だ。


「アリア~」

エルのテノールの良い声が、誰かを呼んでいる。


陽が高いなぁ

てか今何時?

私、無断欠勤扱いになってるのかな・・・・

など、絶望的なことを考えつつ、天窓を見上げていると


ガチャ

扉が開いた音がして、自然と視線が向いた。


てちてちてちてちてちてちてち

裸足で床を歩く音がやって来る。

不思議なのは、その音をたてているのが

小さな小さな……


「ネズミ?!!」

叫んだ私に、


「失礼な!!

あんな下等なモノと一緒にしないでください!」


ネズミにしか見えないんだか……


てちてちてち

私の足元まで近づいたネズミは腰に手を当てて

ふんぞり返ると、自信満々というようなポーズで宣言した


「失礼な君に教えてあげましょう!

僕は、ジャイアントモルモットの血を引く、

偉大なる、アルジャーノンしゃまでシ!」



・・・

・・・・・・。

おしい。ポーズは決まってた。

小さな子が噛むとかわいいよね。

ちょっとニンマリしちゃったのは許して欲しい。


「あ!笑うのは失礼でシよーーー!」

ネズミ、じゃないモルモット君が、毛を逆立てて叫んだ。

…ごめんて。


そこにエルが、スルリと近寄ってきて

「アルジャーノンは、5回に1回は噛むから。いつも通りさ。

気にするな。」

全くフォローになってないよ、エル。



アルジャーノンは手をグーにして、片足をトンと、踏み鳴らしながら

「これでも減ってんでしゅっ」


あ。また。(笑)


んきーーー

て効果音が当てはまりそうなアルジャーノンが、頭抱えてる。あらら。


…そういえば、さっきジャイアントモルモットと言ってたような。

小さ過ぎて、ジャイアントの部分が分からないけども、

とりあえず私も挨拶しちゃおうか。


「あの、

はじめまして、アルジャーノン。

私は、鈴原(すずはら) 芽依子(めいこ)

ネズミと間違えてごめんねなさい。

ジャイアントモルモット?なら、

きっとこれから大きくなるのかな?楽しみだね。

私としては今の姿も、充分素敵だと思うよ。」

アルジャーノンの前にしゃがんで、手を差し出した。



アルジャーノンは、ポカンと、口を開けて固まったが、

すぐにハッとなると、赤い大きな目をパチパチさせてから

私の差し出した手の上に、ちょこんと右手を乗せた。



「…アルで結構です、レディー。

見苦しい姿をお見せしましゅた、申し訳ごじゃいません。」



わあ、安定の噛み具合。

てか、レディー・・・


アルも、エルも、いくつなのかな?すごく若く見えるんだけど・・

歳聞いたら答えてくれるかな?

なんて考えていると、


アルジャーノンは姿勢を正し、

両手を胸に、お辞儀のポーズをとる。

ペコリ。


だから、それ萌えるから。やめっ。

【両手を胸に、お辞儀】はここでの挨拶の基本なの?


「メイコ様、紅茶はいかがでシか?エルがしゅぐ用意致しまシよ。」

さっきとは打って変わって、ご機嫌なアル。



「オレ?!」



「僕は、メイコ様のお相手をシてるから、よろしゅく。

あ、棚にチエリのクッキーがあるから、しょれも付けて。」



エルに声をかけながら、アルは窓際の席を指さし、

そちらへどうぞ

と動作で知らせてくれた。


「はい、はい」

面倒くさそうに、返事をしたエルだが、

素直にとなりの部屋に向かって行く。


エルって、言葉がちょっと雑だけど……結構優しいよね。

戻ってきたら、色々話かけてみようかな?

嫌がるかな?

いや…でも!結局聞いてくれそう・・・・な気がする。

ま、たとえ

罵られたとしても、猫の姿でなら、可愛いな・・・。



ひとり、妄想に浸ってニマニマしてると

いつの間にか、テーブルの上に登ったアルから声が掛かった。


「メイコ様、大丈夫でしゅか?」


「ハッ!」


いけない、いけない…

意識が他所に飛んでた。


「大丈夫。ごめんなさい。」

お席へどーぞ。とアルの小さな手がテーブルを指し示す。

席に座ると、


アルが質問してきた。

「エルから、この世界のこと、どこまで聞きましたか?」



「んー、まだ自己紹介くらいかな」



アルはエルの居る部屋の方を一度睨んでから、

「そうでしゅか。では、紅茶を待つ間に、

何かお話しでもしまシか?

メイコ様は、私に、何か聞きたいことは、ありまシか?」

丸いテーブルの上でちょこん、と座りなが聞いてきた。

アルは、さ行が、本気で苦手よね。ふふ。


「えっと、、ここはどこですか?かな」

帰る方法とか、聞きたいことは山ほどあるけど、先ずはそこだよね。



______________________________________________________________________________________



(4)魔女アリア


「ここは、キミ国のアリア村でしゅ。」


「アリア村?知らない土地だ。」


「もう少し、詳しく言いましゅと、大陸全体が、大きく4つの国に分かれてまし。」

アルは、私の背中にある壁を指し示す。

そこには、大きな地図が飾ってあった。

目玉焼きの様な形の大陸が描かれている。


「中央にあるのがキミ国。国土は一番小しゃいが、歴史は一番古い国でし。僕たちが居るのはこの国で、多種族が暮らしていましゅ。

このキミ国を囲む様に、3つの国があり、

西から南にかけての範囲が、オキナ国。国土が一番大きな国。一年を通して暖かく、獣人族が多くいる国でしゅ。肥沃な大地と、豊な資源があり、他国からよく、ちょっかいをかけられてましゅよ。


北~西にかけての範囲が、ホカド国。一年を通して雪が降っている氷の大地。妖精族と、オオカミ族が共存している国とされておりましゅが、他国間の外交はほとんど無く、閉ざされた謎の多い国になってまし。


最後に東のトーキ国。一見、小しゃな国に見えましが、キミ国よりは大きな国土を持ってまし。歴史は一番浅く、建国150年位の赤ちゃんみたいな国でし。人族の国で、国全体が魔術を研究する大きな学校の様な国になってる様でし。人族は、獣人族を恐れてましから、国の要人が外交で会う以外は、我々は、ほとんど付き合いはありましぇんね。

簡単に言えばこんな位でしょーか。」

エッヘンと胸を張り、私をチラチラ見ている、アルくん。

うん、超かわいい。


そんな、かわいいアルくんに、お礼を言おうとしたその時、

横から、

「よーく言えましたー。はい邪魔~。」

ティーポットの載った大きなトレイが、テーブルの上に降ってきた。

「うわあああああっ」

慌ててテーブルから飛び降りるアルくん。


いつの間にか、エルが隣の部屋から戻って来ていたらしい。

そう〈人型バージョンのエル〉


そりゃそうだよね、猫のままじゃトレイ持てないよね。

エルは、大きな身体を屈めて、ティーポットから紅茶を注ぐ。

身体は大きいが、食器の扱いには優しさを感じる。


思わず、じーーと見つめてしまうと、前髪の合間から、エメラルドの瞳がキラリと、こちらに流れる。


ホント綺麗な色…


遠慮なく見惚れていると、エルの方が先に視線を外した。

目元がほんのり赤いかも。

見過ぎちゃったかな。すみません・・・。

「どうぞ」

エルの手で、目の前に白地のティーカップが置かれる。


そこに、新たな声が加わる。

「エ~~~~ル~~~~」

声の位置が高い。あれ?

「危ないじゃないかぁ!潰れる所だったぞ!」


「ちゃんと声かけたろ?」


「いやいやいや!

既に、トレイが迫ってた!」


「・・・当たって無いじゃん。」


「僕が、避けたんだよ!!」


エルは気にした様子も無く、自ら注いだ紅茶のティーカップを片手にし、椅子に跨る様に座ると、

ズズ…と紅茶を啜る。


えー・・・会話の流れ的に、エルの横で仁王立ちで居るのが、アルジャーノン・・・

人型バージョン???

見た目、高校生ぐらい?若い。

身長は私ぐらいで、肌は健康的な小麦色。髪は艶やかなアッシュグリーン。

モルモット時のシルエットは丸くて、ふっくらしていたのだが、スラっとした青年になっていた。


〈部活に励む健康男子高校生〉て感じ。腕まくりした、ジャージがすごく似合いそう。

うんうん…似合いそう…(笑)

そんな、熱い視線を向けていた私の方へ、青年が顔を向ける。

あ、耳…は、丸く、フワフワの毛で覆われてる。


「メイコ様、クッキーもどうぞ。チエリと言って甘酸っぱい果物が入っています。

チエリはこの国の特産品なんですよ。」

山盛りのクッキーの籠を、私の前に掲げてみせる。

赤い瞳がランランとしていた。



「あれ?その姿だと、セリフ噛まないんだ・・・」と、

私は、何気なく思った感想が、声に出てしまっていた。



シュンと明かに凹んだアルに、

「あ!ごめんなさいっ」と手を合わせて即座に頭を下げた私に、


「あはは。大丈夫。気にしないよ。」

と、エルの声が入る


「なんで君が答えてるんだよ。」


アルからのツッコみが入る中、ティーカップをテーブルに置いたエルが、

「噛むのは【小っちゃいアルジャーノン】の大切な特徴じゃんか」


アルが持ってるクッキーの籠に、エルは手を突っ込みながら、ニヤッと笑った。


「そりゃ、どーも!」

お返しのアルの笑顔


ゆったりとした口調だが、二人の間には、黒い闇が立ち込める……。


「どーいたしまして(笑)」

サク・・・

エルの口から、軽快なクッキー音が響いた瞬間だった。



クッキーの籠が宙を舞う


ティーカップが跳ね上がり、巨体が瞬時に重なり合う

先に飛びついたのは、アルだった。


だが、エルは解っていたかの様に、アルの体を受け止める。


全てがスローに見えて・・・


たったさっきまで、穏やかなティータイムの雰囲気だった空間が、

突如、起きた≪衝撃≫に包まれた。



素早い二人の行動に、私は、目が追い付けず固まるしかない。

私は、反射的に目を閉じた



その時、ひと筋の【音】が通り抜けた________________【――ユク、安息ノ吐息】




ん?

いま誰か喋った?

金属?の様な、キーンと高い音が響いた時、確かに【安息】て聞こえた気がする・・・けど

おそるおそる目を開けると、

ぐちゃぐちゃになった食器など、

最悪の惨状を予想していた私の目の前は、

不思議な光景となっていた。


一面を包む、黒いモヤの中、

ティーカップは、跳ね上がり、下を向いてる状態で漂っている。中身の紅茶も空中に。

クッキーも籠からこぼれた姿で、空中で泳ぐ。

視線を少し下げると、

上から覆いかぶさろうとしたのだろう、空中のアルも、

エルの攻撃を受けようと椅子から少し腰を上げてエルも、

眠ってるかの様に目を閉じ、プカプカ漂っていた。



「またコイツらは、こりもせず・・」

色気のある大人の女性の声。


振り返ると、そこには

薄手の黒ワンピースに、柔らかそうな白いショール肩に掛けた、お姉さんが立っていた。

胸元には、豪華なレースがあしらわれ、豊満な胸を包んでいる。


真っ赤な唇が艶めかしい・・・<色気の塊>なお姉さん・・・・


まさに実写版、FUJ○KO登場。

エロさだけで男を殺せそう・・・。

思わず自分の胸に手を当て、残念な気持ちになっていた私に、

F○JIKOが、そばに駆け寄ってきた。


「大丈夫?ごめんなさいね。

うちのゴミ共が、何か大馬鹿な事をはじめたみたいで。

貴女に被害がある前で、本当良かったわ。

このゴミ共は、後でギッタンギッタンになるまで反省させとくから、許してねん(ウインク)」


大きな目をパチパチさせた、セクシーなF○JIKOは、

語尾が明るく、聞き様によっては、甘く心地よい声で、ゆったり喋るのだが、

なんだか、言葉のセレクトがキツイ。


【ギッタンギッタンになったゴミ】とは果たして・・・生きて・・・。


「申し訳ありません

…私、少し横になっていましたの。

そのせいで、ちゃんとした挨拶ができていませんでしたね。」

F○JIKOは、指を一回くるりと空中でまわす。



すると先程まで、空中に漂っていたティーカップや、クッキーが元の位置に戻っていく。

二人の若者を省いて、全てが何も無かったかの様に、紅茶もスルスルと戻っていく。

動画の逆再生みたい。


「…あ、の」

食器類が戻った後で、横で放置されたままの二人を指さすと、


「ああ、粗大ゴミは気にしちゃダーメ。」


と、絶対わざとだと思える声量(二人に聞かせる為だろう声)で、言い放ったF○JIKOが、

お尻でドンと、エルに体当たりを食らわす。


すると発砲スチロールかの様に、軽い二人が、スーーーと横滑りしていく・・・。


二人とも、全て固まっているから、感情は読めないけど絶対泣いてると思う。


横滑りする二人は壁に当たって、止まった。


うん。・・・超シュール。


心底かわいそうに思えたが、魔法で紅茶を温めなおしたF○JIKOが、話し出したので、

意識をF○JIKOへと戻した。


ごめん、私も同じ発砲スチロールにはなりたくないので、ちょっとだけ待ってて、二人とも。

心で強く謝罪をした私は、落ち着くために紅茶を一口含んだ。


F○JIKOは、私の目の前まで来ると、

右手を胸元に添え、左手でスカートの裾を摘まむと、深く頭を垂らす。


「スズハラ メイコさま。

私は、アリア・キミ・タトゥーキア。

改めまして、女神カヤ様が導きし、あなた様を心から歓迎致しますわ。」


ごきゅ

グフ!ゲヘッ


紅茶の嚥下に失敗して、豪快に、むせてしまった。


そんな私を、慌てて支えるアリア


「まあ!大丈夫ですか?巫女さま。」


「ミゴ?…ホゲホゲホ」


なかなか喋れない。

ミコ?て、なに?え?



涙目でアリアさんに強く視線を向けると、

何かを感じたのか、アリアは、少し遠慮がちに、頷いた。



「お会いになりましたよね?女神様に」


へ?は?

女神?会って無いけど…。


首をブンブン降って否定する私に、アリアは言葉を続ける。


「女神は、

時に、少女や少年に、

はたまた、老婆や老父にも、なるそうですが、

…お会いになっていませんか?」


「確かに…

お婆ちゃん・・・には会いましたけど・・・」

イマイチ状況が飲み込めない私に、あら!と笑顔になるアリア。



「姿は、会う者の一番好ましい姿に変わるそうですから、

メイコ様の前では、老婆だったという事ですね。」

穏やかな笑顔のアリア。


あの引っつき虫お婆ちゃんが何?

・・・女神?はい!??

女神っぽさとか、全然・・・すごく素朴なお婆ちゃんだったよ!!?

まあ・・タップダンスはしてたけど・・・


「待って!待って!

・・・お婆ちゃんが女神とかは、ひとまず置いといて、

なぜに、私がココに??」



頭を抱えた私に、「え?」と笑顔のアリア。



「はい、ですから、

〈女神様は、メイコ様をお選びになり、ここにお導きになった〉これが、全てです。」

ウインク付き。



「これが、全てです」じゃなくてっ!

説明はしょり過ぎでしょ!!!

やだ・・・なんか怖くなってきた。


「そうじゃ無くて、なんで〈私〉が?って事をですね・・、

う~~~、とにかく!!いますぐ帰りたいんです!

その、そろそろ・・本当に帰らないと、立場的にヤバイんです(泣)」


未だ、職場に電話していない事を思い出した私は、焦ってしまう。

怒られるだけならまだしも、無断欠勤と判断されたら下手すると、減給とかも、ありえるかもしれない。


だが、オロオロと落ち着かない私を見ても、アリアの笑顔は変わらない。

しまいには、優雅に紅茶を飲みはじめる始末。


私は不安でいっぱいなのに!!

なんで紅茶なんか、飲んでいられるのさっっ!!!


「ちょっと、ねえ!アリアさんてば!

一度、会社に戻らせて!夜また、来るから~~~!」


流石に、変化の無いアリアに腹が立って、アリアの肩を揺さぶると、


「あ あ あ あ あっ

メ、メイコさま!おおおお落ち着いて~~~~」


揺さぶられても、笑顔のままのアリア。

なぜアリアは、終始こんなに嬉しそうなの?

私の焦りが、全然伝わらないっ


「どうやったら、帰れるのっ?」


「あんっわかりません☆」



・・・え!?



「・・わ・・かりません?」


「はい☆」


「うそだ!やだやだやだっ」

アリアの肩を掴んで、めーいっぱい揺さぶった


「ぅむっ、メっ、めがっ、

女神、サ、マに、しか戻、せ、マセンっっっっ」


「その、女神様はどこっ!?」


「ハア・・ハア・・ハア・・・

わ・・わかりません☆」


「なんで、わからないの!?」


「女神様の、ハア・・意志は、

計れませんから・・ハアハア、次、ハア、いつ現れるかは・・・解りませんの☆」



「っえええええええええ???!」



それはそれは、穏やかな昼下がり、

私の叫ぶ声は、樹をも揺らしていた。



_____________________________________________________________________________________


(5)魔女アリアの夢によれば




しばらくドタバタしていた私だちだったが、


笑いながらもひたすら謝るアリアに、少しだけ気が済んだ私は、

はあはあ・・息切れしながら

アリアの首と腕から、手を離した(つい軽く押さえ込んじゃった)。


あれ?

いつの間にか、じゃれ合いになってた。

落ち着いて、話を聞かなくちゃいかないといけないのに・・・

ことによっては、また締めるけど。こほん。

と、アリアから視線を外さず、席に着く。


「ハアハア、さすが・・・巫女様。コホコホ、護身術も身につけているのですね。」


「ごめん、思わず。

兄と遊びの延長で少し覚えてた・・・ただの、見よう見まねなんだけど、

動きを止めるくらいなら簡単だから。」



「すごいですわ、全く動けませんでした。」



「ごめんなさい!

本来、女性にやることでは無いのに…ちょっとテンションが……」



「いいえ、いいえ。

会いたかった貴方様と、こうしてお話ができた事が嬉しくて、

つい笑いが止まらない私がいけないのですし。」


アリアもテーブルに駆け戻ってきて、席に着く。


少し強めのスキンシップをしたせいなのか、

互いに緊張も遠慮も削げ落ち、スラスラと会話が続いた。


「あのさ!

その『会いたかった人』って、絶対、私じゃないと思うんですが…」



「いいえ、メイコ様です!!」



「どこから来るの?その自信・・・」



「〈女神様が、お選びになった方〉だからです☆」


「はぁ・・・」

これもう、ずっと平行線なんだけど・・・・



「・・・女神様って何者でしたっけ?」



「はい!

女神様は、カヤノヒメの事です。」



「カヤノヒメ?」



「そうです。〈女神カヤ〉とも言われますが、正式には〈カヤノヒメ〉。

この世界の守護神です。

そして、古くからの言い伝えで・・・

【この世界の均衡が崩される時、女神カヤが、巫女を遣わす】とあるんです・・・」


「う・・嫌な予感・・」


「そう・・・その巫女様こそ、メイコ様なんです☆」



「だから、

なぜ、そうなるの・・・」



「…私、夢で、お告げを受けましたの」



「ゆめ??」


「はい・・

『近く、この世界に戦争が起こり、暗黒の世界が訪れる・・・』という夢です!」

力強く、右手を握りしめるアリア。



うわぁ・・・

すごく中二な・・・・

これ「あなたが救世主なの!」とか続かないよね・・・?



「多くの者が死に、苦しみもがく中、光のように現れたのが巫女様ですわ!

巫女様は魔法で、沢山の者たちの命を救うのです!」

アリアは鼻息荒く、キラキラした目で、私に顔をズイっと寄せてくる。


はい正解っ

巫女 = 救世主?

なんちゅう、テッパンな・・・



「これこそ、まさにお告げだと・・私、核心――」


「いえ!残念ですがっ 私は、巫女じゃありません!」

若干、食い気味に言い切った私


「い、いいえっ

いいえ!そんなはずはありません! 

何度も同じ夢を見ましたし、夢で見た女性は、スズハラ メイコ様だと核心をもってます!

私はずっと、待っていたのですから!」


「いや私、極ありふれた、ふつ~~~~の一般人で、

巫女じゃないですから・・・」


「いいえ!女神様に選ばれた時点で、あなたは確実に《巫女》様なんです!!」


はい???

お婆ちゃんに、ズボン捕まれて、電車から引きずり出されただけですよ・・・?

これのどこが〈選ばれた〉になるのさ



「巫女様は、我らが崇めるこの世界のカヤノヒメが遣わす、御使い様です。

とても尊い存在で、巫女様は、女神様の加護により、多くの魔力も持っているとされています。」


「はい!それ!

私、魔法つかえないデス!」


「……え?」


「え?」

不思議な顔をするアリアに、私も同じく疑問系。

・・・なにか?


「つかえないのですか?」


「なぜに、使える前提なんですか?魔力なんて待ち合わせてないですよ?」


「いえ、ありますよ。」


「そう!ありま―――・・・・す?」


「す」


「いや『せん』ですよね?」


「ありま『す』です。現に魔力見えますよ?」


「ええええ?どこ?どこ?」

体のあちこちを見て、あわあわする私に、アリアは笑顔で


「魔力の可視化は訓練が必要なので、メイコ様には難しいと思われますが、

先ほど私の詠唱は、聞こえていましたよね?

その上で、メイコ様は私の術に《かからなかった》。それは、メイコ様の魔力が、私の魔力より上ということですわ。《弾かれた》といった所でしょうか。」


「えっと…

【あんそく】とか、言ってたヤツ?」


「やはり・・・

メイコ様は、魔女の術語を、ちゃんと聞き取れていたのですね。

普通は、魔女が唱える術語は単語や言葉ではなく、ただの過ぎ去る《音》としてしか、

捉えられないはずなんです?」


「でも、全部は聞き取れなかったよ?」


「十分です。

単語は、聞き取れる者に合った言葉になるはずですから、

メイコ様の慣れ親しんだ言語に脳内で約されたのかもしれないです・・・

因みに、私【アンソク】とは、発音していませんわ。」


「へ?……あれ?そうなの?

あ、もしかして、今私が話している言語も、聞こえ方違うのかな?」


「いいえ、この国の公用語である、獣語を話してらっしゃいますよ?

要するに…メイコ様は、私の術語を、メイコ様の言語に訳されて、理解をされた。

ということですね。素晴らしいですわ!」


いや、術語だけで無くて、今の会話も全て、しっかり日本語なんデス・・・

獣語なんて話してません~(泣)


「・・あの、因みに公用語は、何個あるんですか?」


「キミとオキナは同じで獣語。ホカドが妖精語と狼語。トーキが人語です。なので公用語は4つですね。

特に妖精語は難解とされていて、私も通訳が必要です。」


「そうなんだ・・・。あー・・あのさ、アリア。今気付いたんだけど・・・」

アリアに、私の聞こえる言葉は、全て日本語であることを伝えた。するとアリアは、これでもかというくらい、神秘的だの、女神カヤの加護だの、言って感動しっぱなしだった。


アリアは、私が【巫女スキルで獣語を話せている】と思っているようだ。んなバカな。普通のOLが何故スキル持ちなのさ。しかも獣語。ピンポイント過ぎるでしょ。


巫女はよく分からないけど、スキルがホントにあるのなら、ステータスとか見てみたいわ。


「【鑑定発動】。とか言ったら、出ないかな・・・」


独り言を呟いて、アリアに顔を向けると、アリアが驚きの顔でこっちを凝視してる。


なに?


てかアリアの真上の壁、邪魔なんだが・・アリアに少し被ってる。

カベ。

じゃない。ボヤけたボード・・・・・


ボード? 

ステータスボード!?


「【鑑定発動】!」

次は力強く大声で言ってやった!


そしたら、ぎゃー!デターーーーー!

ボード!ボード!白いボードに文字が、浮き出てきた!!

きゃあ!見たことある!こんな感じの!ゲームとかで!


_____________________________________________


【アリア・キミ・タトゥーキア】

HP:520/520

MP:780/780

ジョブ:魔女(最後の魔女)

種族:人族(魔女により、寿命変化)

年齢:794歳

性別:女

属性:水、闇、毒(水と闇の合成)

スキル:魔女術レベル90、調合(薬草学、毒草学)レベル85、若返り

称号:キミ国領主、予知者、長命者

状態:変化なし


_____________________________________________


「うわ~~~~!ホントに、できた!」


きゃあきゃあ、はしゃぐ私に

アリアが、

「メイコ様、今……何を発動しました?

私には聞き取れない【音】でした・・・魔女術では無いですよね?」


「魔女術か、どうかは知らないけど、

ステータス見たくて、鑑定をしてみたら……、デキタ(笑)」


「ああ!鑑定ですか・・・なるほど。

でも、なぜかしら【命が宿る生物への鑑定】は、神官だけにしか扱えない、スキルのはずなんですが・・・。

えっと、メイコ様!

どのようなモノが見えているのです?

確かに魔力を感じましたが、特に現象の変化も無くて・・・私には見えません。

もう少し詳しく教えて頂けますか?」


「え~~とですね、アリアさんが、どういう人なのかが詳しく書かれたボードが現れてて……」


アリアさんのステータスを、かい摘まんで伝えると、

アリアさんは、少し顔を赤くして、気まずそうに視線を逸らした。

「そうですか・・・

メイコ様には隠し事はできないと、いうことですね・・・。・・・お恥ずかしい」


なんか…ごめんなさい。でも、分かった事もあるんだよ!

コレ!私にかけれたらさ!

私のステータスも見れるのではないだろうか!

ジョブが《ただのOL》になっていれば、巫女などでは無いことの証明になるし。

ちょっと悲しいけど、判りやすい。


さきほど、アリアに伝えたアリア自身のステータスは、間違い無かったらしいので、

私のステータスに書いてあることも、正しいはず。


アリアに、自分のステータスを見てみる事を伝えると、

頑張って下さい!とキラキラした目で応援された。


よし。

どうか出ますよーに!


自分の胸に手を当てて発言した。

「【鑑定発動】!」

_____________________________________________


鈴原(すずはら) 芽依子(めいこ)

HP:130/130

MP:∞/∞

ジョブ:言霊士

種族:人族

年齢:28歳

性別:女

属性:言霊(無属性)

スキル:言語解読変換(発言・記入可能)、独学護身術、OL知識、鑑定

称号:異世界からの来訪者、元OL、巫女

状態:変化なし


_____________________________________________


「わぁ見れた・・」


て、称号に【元OL】てあるんだけど……。

元って、ちょっと!

まだOL辞めたつもり無いんだけど私。

それより、巫女も入ってる・・・・・・

でも、ジョブじゃない。称号なだけだ。

ジョブの言霊士て何だろ?

他にも、MPの表記とか……ちょっとヤバイんだけども……?


とりあえず…アリアに早速、私のステータス(MP以外のこと)を伝えると、

アリアも、【言霊士】は初めて聞くという・・・。謎です。

とりあえず私は、魔女でも、巫女(称号だけですから!)でも無いことがわかったのだが……、

アリアは、私が巫女であると言いきり、引き下がらなかった。

うーん………

まぁ……分からないこと山積みなので、ひとつずつ、理解していこう。


私とアリアは、お互いのステータスで気になる事を、クッキーを片手に、じっくり話し込んだ。


アリアのスキルにあった、【若返り】など特に気になった。

私も是非使えるようになりたいデス!はい!


「なら、メイコ様、魔女になりますか?」

だって。魔女の特別スキルらしい……。残念。

【若返り】いつかは・・・欲しい。

けど、言霊士も今後、どんなスキルが、発生するか判らないし。

700歳オーバーのアリアが知らないってことは・・・レアな職業ってこと?

じゃあ魔女に転職するのはもったいないか・・・


色々試して、使っていたら…

そのうち、何か・・・若返りみたいな、何か、便利なスキルが発生するかもしれない。。。

ん~~・・・わくわくする(笑)


うん・・。

女神様と会えない限り、帰れないのなら、仕方ない。

なら、しばらく住む場所だったり、食事の事も、色々アリアに聞かないと・・・



「あの、アリア・・」

アリアに、当分の住居などの相談をすると、

「ここで、一緒に住みませんか?」と言ってくれた。


外に放り出されなくて、良かった・・と、ホッとした芽依子だったが、

一抹の不安は拭えない。


はたして、あの女神様(お婆ちゃん)とは、いつ会えるだろうか・・?

一週間?二週間?もっと?・・・なるべく早めが良いのだけれど・・・

ちゃんと、こっちへ来た時の、『あの朝』に、戻してもらわないと困ってしまう。

会社とか、会社とか会社とか!・・・クビにはなりたくないんですっ


一度、不安の渦にハマると、なかなか抜け出せない芽依子は、心底、項垂れたが・・・、

悩んだ所で、答えが出るはずもない。

「・・・やめやめ。」

少し冷めた紅茶と一緒に、不安な気持ちには、フタをした・・・。


アリアは、というと・・

両手を合わせて、嬉しそうに、芽依子に熱い視線を送り続けている。



そんな二人の間を、軽やかに風は吹き抜け、ポカポカと暖かい陽は、やさしく降り注ぐ。

気を抜いたら、寝てしまいそうな―――柔らかい木漏れ日の中、まったりと過ごす私たち



―――とは逆に、ただ静かに浮く・・・忘れさられた二人。


私とアリアが〈そのこと〉に気づくのは、まだまだ先のことである・・・


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