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汝は裏切り者なりや? シリーズ

恋をした研修医

汝は裏切り者なりや?2の過去編です。これを見てからの方が、より本作を楽しめると思います。

http://ncode.syosetu.com/n8048dt/

俺は子供の頃、実の父ばかり見ていた。

 両親が共働きで、遊んでもらった時間など無かったが、父ばかり見ていたのを覚えている。

 俺は父を尊敬していた。

 俺が大好きな医療漫画を買ってくれていたし、父が勤務している病院で、いつも父の傍にいさせてくれた。

 一番好きなだった所は・・・・・・、手術している所。

 手術室の外から、看護婦と一緒に父が手術している様子を見ていた。

 父が治せなかった患者など、いなかったと記憶している。

 だが。ある日の事。

 

 現実は、容赦なく俺からそれを奪った。

 神の腕を持っていると信じていた父は、ある日突然心臓発作で命を落としたのだ。

 原因は、働き過ぎだったらしい。

 亡くなる寸前に、父は俺に言ったそうだ。

「父さんの手術を、いつも見ていたお前なら立派な医者になれる」と。

 俺は、その言葉を“あの瞬間”まで忘れずに生きてきた。

 そして、これが俺の七歳の時。

 

◇◇◇

 

 対して世話もしてくれていない母と共にやってきたのは、新しい父がいるという家だ。

 母は楽しそうにしていたが、俺は父の死が頭の中から消えず俯いていた。

 ああ。そうか。

 あの日、父が死んだ時もそうだった。

 母は、顔掛けされた父を見ても涙すら流さず、むしろ俺にはその死を喜んでいるように見えた。

 確かに亡き父は、病院中ではかなりの人気者で、憧れている看護婦も沢山いた。

 それだからか、父に似てそれなりに整った顔をしていた俺も、一部の看護婦のおもちゃとなっていた。

 白くツンツンした髪に、赤い奥二重の瞳。顔つきは父に似ているが、髪の色と目は母に似たらしい。

 

 その家に入り、新しい父に挨拶する俺。

 まだ落ち込んでいる気持ちが抜けず、半目で義父に挨拶した。

「なんだ? 新しいお父さんに対してその態度は」

「・・・・・・」

 俺は口を開かなかった。

 ズカズカと大きな足音を立てながら、俺の近くに歩み寄り、もう一度大きい声で義父は言う。

「お父さんに対して、その態度は何だと訊いている。答えろッ!」

「・・・・・・」

 俺はまだ口を開かない。

 まだ喋るようではダメだ。最終的に、相手に俺の胸の内を察してもらう為には。

 俺にとって、義父は下等な存在であると教え込む為には。

 隣にいた俺の母も困り顔で俺を見た。

 それを視線で刺し、何も言わずに黙れと伝える。

 次の瞬間、義父は俺の胸倉を掴み上げて怒鳴った。

「おい、何とか言えよガキ!」

 ――言えよ・・・・・・か。

 仕方ない。教えてやろう。

「俺はお前を父とは思っていない」

 ――。

 すぐに拳が顔面に飛んだ。ふすまに頭をぶつけたが、痛みは大したことない。

 よろりと立ち上がり、よろりと近づいてから、義父の腹に右拳を叩きつける。

 義父は真っすぐに吹き飛ばされ、俺がぶつかった方とは反対のふすまに衝突した。

 俺と同じく立ち上がろうとする父に、素早く接近し、義父を見下ろしながら口を開く。

「これで分かっただろ?

俺はお前なんざ怖くねえんだよ。それ以上余計な事を言ってみろ、ただじゃおかないからな?」

 義父は痙攣しながら、怯えた顔をしていた。

 

 だがいくら義父を父として認めないと子供が言おうが、法には逆らえない。

 俺はその日、義父の苗字で生きていくことになった。

藍田(アイダ)(シロ)()』という名で。

 

◇◇◇

 

 そんな俺も、どんどん大人になっていった。

 その日から十年が過ぎ、高校の詰襟を着て、義父と母との間に生まれた弟達を見つめてから、外に出ていく。

 俺、シロヨは十七歳になっていた。

 亡き父の遺言通り、立派な外科医になる為に、俺は必死に勉強している。

 成績は学年十位を取れるくらいになり、最近の悩みは彼女が欲しいくらいのものだ。だが俺はその欲求が、普通の男子高校生よりも強いらしい。

 母曰く、亡き父はかなり女好きと言っていたが、母の言葉は信じていない。

 俺の父さんは、誰よりも人の命を尊ぶ人で、誰よりも人が大好きで、誰よりも俺を大事にしてくれていた。

 確かに俺は父の死によってあの病院にいられなくなり、もう女っ気があまりない日常を過ごしているが、そこまで強くないと自分でも思っている。

 リア充達の会話をシャットアウトする為に、イヤホンを捻じ込み、自転車のペダルを漕ぐ。

 その途中の事。

「遅刻だ~!」

 交差点で、慌てながらパンを咥え走る女子生徒が一人。黒いセーラー服を着ている。俺の学校の制服だ。

 その女子生徒に衝突しそうになり、俺は慌てて自転車を止めた。

 だが女子生徒は、止めた自転車に跨っている俺に衝突し、自転車ごと俺は押し倒される。

 

◇◇◇

 

「イタタ・・・・・・。大丈夫?」

 女子生徒の方は、大したことはないらしいが、俺は凄く痛かった。

 義父に殴られた時もそこまで痛くなかったので、ここまで凄まじい痛みを感じたのは生まれて初めてである。

「ああ。大丈夫だ」

「それにしても、随分妙な髪と目だねぇ。白髪に、赤眼」

「ほ、ほっとけよ。気にしてんだからさ」

 やべえ・・・・・・。見ないようにしていたのに、顔チラチラと見ちまうよ。

「ふふ。私はカッコいいと思うよ?

あとキミのその反応・・・・・・。多分童貞でしょ?」

「わ、悪いかよ? お前は大丈夫なんだな」

「実は私経験豊富」

「その歳にしてか?」

「嘘だよ~? 処女でーす」

 なんか腹立つなあ。

「何かの縁だと思うし、自己紹介するね。私は、結城(ユウキ)(アヤ)()

キミは?」

「シロヨ・・・・・・。藍田白世」

 この名前だけは、意外と気に入っている。父の名とは似ても似つかないが、某医療漫画の主人公に似ているからだ。

「シロヨ君・・・・・・。カッコイイ名前じゃない?」

 俺は赤面しながら、頭を掻いた。

 

◇◇◇

 

 それからまた数年の時が流れた。

 俺はその日から、彩花と恋人同士ではなかったが、それなりに仲良く話していた。

 同じ大学の、医学部に入り。

 同じ時期に卒業して、研修医になった。

 

 ある日の事。

 俺は、彩花を静かな場所に呼び出した。

 告白しよう、そう思って。

 

「あ、あのさ彩花。俺、お前の事が好きだ。

付き合ってくれないか?」

 隠し事などせず、男らしく堂々とそう言い放った。

 すると彩花が、どこか寂しそうな顔を浮かべながら、口を開く。

「ごめんね・・・・・・」

 眼を大きく開け、小さく開いた口のまま、俺は後ずさった。

 彩花の顔は、フろうとしているような態度ではない。好きではあるが、理由があって付き合えないという顔だ。

「実は最近知ったんだ。私とキミがどういう関係なのか」

 彩花は空を見上げながら、俺に告げる。

「キミと私は、お父さんが一緒なんだって。だから、異母兄妹なの」

 それを聞いて、俺の精神は二重のショックを受けた。

 憧れていた実父が、浮気をして子供を作っていたこと。そして、愛していた彩花と俺は付き合うことが出来ないということ。

 俺は、その場から逃げ出した。

 

◇◇◇

 

 何もかもが嫌になった。

 誰もいない夕方の道を、行く宛も無く俺は駆けている。

 その、途中。

 三人のチンピラ集団に激突してしまう。

「いてて・・・・・・。おいてめえ、何しやがるッ!」

 俺は淡々とした声で、それに言い返す。

「悪いな。俺は今お前らと遊んでいるような時間は無いんだ」

 三人は声を上げながら、俺に突撃した。

 一人は拳、二人はナイフ。だが、俺にとって驚くようなものではない。

 ナイフや刃物なら、義父に何度も向けられた。それでも腕一本たりとも落とすことなく、ここまで生きてきた。

 彼らの攻撃など、脅威ではない。

 拳で掛かってきた一番下っ端と思われる男の顔面を掴み、地面に叩き伏せ。

 ナイフ二人の攻撃も、相手の視線を見て予測し、躱していく。

 持っていた手術道具などを入れている鞄を振り回し、二人のチンピラに当てる。

 二人は同じ方向に飛んでいき、すぐに意識を失った。

 

 そのまま再び駆け出そうとする。

 しかし不意に、後から拍手する音が聞こえて立ち止まった。

「やりますねえ。研修医にしては」

 男の声に振り返る。

 その男は、優しい顔をしているが、何となく只者に見えず。

 警戒心剥き出しで、そいつに問う。

「何者だ、お前」

 その男の後ろから、もう一人少年が現れる。

 茶髪に、中性的な青い瞳の少年。茶色の詰襟を纏い、右腕には囚と黒文字で書かれたオレンジの腕輪。

 その少年が口を開く。

「君、ここにいる人にその口の利き方はどうかと思うよ?」 

「良いではないですか(アマ)()君。この人はこれから、私達の仲間になる人なのですから」

 仲間・・・・・・?

「それもそうだね。じゃあ、始めようか」

 天夜という名らしい茶髪の少年は、ポケットから携帯端末を取り出す。

 激しく点滅する画面を見た時、俺の中で何かが消えていくような気がした。

 早くそこから目を逸らし、正気を取り戻さなければ大変なことになると、自分の本能がそう告げている。

 だが。眼を逸らせない。

 その内、自分の中で何かがこう言ったように聞こえた。

『これはお前を救うもの。見ればお前の苦しみは消える』

 救う・・・・・・? なら良いか。このまま精神が無くなるのを待って。

 自分の中にある、自分にとって不必要なものが消えていく感覚。それが途轍もなく気持ちよく、もうどうにかなってしまいそうだった。

 そして、その快楽が絶頂に達し。

 意識を失った。

 ・・・・・・。

 

◇◇◇

 

「聞こえるかな? 藍田白世君」

 ああ。聞こえるさ。

「これから、貴方は私達の仲間として動いてもらいますよ?」

 ああ。動くさ。

「では手始めに、貴方が倒し損ねた三人を殺しなさい」

 ああ。殺すさ。

 

 俺は眼を開けた。不必要なものが消え去った脳は、俺にこう告げていた。

 そこにいる男に従えば、もう苦しまないと。

 俺の鞄から手術用のメスを取り出し、俺に投げて渡す天夜。

 目の前にいる、排除すべき敵を見て、俺は口を開く。

「潰す」

 先の攻撃で気絶していた三人がよろよろと立ち上がり、もう一度突撃する。

 殺しても良いのか? という問いは自分の中にはない。

 問いを通してからの動作(こたえ)ではない。問いを通さない動作(こたえ)

 即ち。何の躊躇いもなく、俺は三人を殺す為にメスを振るう。

 洗脳前よりも速く手は動き、急所に刃が突き刺さり、今度こそ絶命した。

 

◇◇◇

 

 それから俺達は、天夜達と共に松田(マツダ)(ノブ)(シゲ)と名乗る男と共に、全国各地でテロ活動を開始した。

 沢山の死者を出し、捕まった仲間も多くいたが、俺達はそれでも破壊をやめなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何と言うか・・・中毒性がありました。 短編でここまで読み応えがあるものを書ける事、尊敬します。
2017/11/29 22:42 退会済み
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