それはよくある昔の話
これはよくある昔話です。
ある所に、一組の幸せな夫婦がおりました。
その夫婦の間には子供が一人、名を大和と言います。
大和はごく普通の少年でした。
普通に笑い、普通に泣き、普通に怒る、そんなどこにでも居る普通の男の子。
ただ普通と違ったのは、その生まれ。
大和は、夫婦の本当の子供では無かったのです。養子、だったのです。
なかなか子供が出来ずに、施設から預かったとの事でした。
大和がそれを知ったのはとても後の事になりますが、薄々そうでは無いかと思っていました。
だって、大和は似ていません。
お父さんにも、お母さんにも似ていません。
目の色も違います。
髪の色も違います。
およそ両親の面影と言える部分もありません。
それに、どこか線があるのです。
友達の家に行ったときに気がつきました。
その子の家族には無い、線があるのです。
具体的にどうとは言えませんが、それでも感じます。
何か、えも知れぬ違和感を。
お父さんは優しいです。でも怒りません。
怒られるような事をしたと僕自身が感じていても、お父さんは困った様にたしなめるだけで、けっして友達のお父さんのように怒鳴ったり、手を挙げたりはしません。
ただにっこりと、微笑むだけです。
お母さんは厳しいです。でも笑いません。
教育ママなのだとお父さんは言っていました。
行儀良くしなさいと、よく怒られました。
それは大切な事なのだと教えられてから、一生懸命お行儀良く努めました。
けれどお母さんは笑いません。
僕が言う通りにしても、言いつけを守っても、今日の出来事を話しても、笑いません。
ただ何かを言いたそうな顔をして、黙っています。
笑って貰えるように、話して貰えるように、僕は頑張りましたし、話しかけました。
でも、お母さんの言いたいことを聞く事は、最後まで叶いませんでした。