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小夜時雨  作者: 久世アリス
6/7

少し遠くて近い記憶

私には4つ違いのお兄ちゃんがいる。

勉強もスポーツもできて、妹の私が言うのはおかしな話かもしれないけど、とってもモテるらしい。正義感も強くリーダーシップをとるタイプで、学校でお兄ちゃんを知らない人はいないくらいの人気があった。

中学にあがったばかりの頃は、あの秋月先輩の妹と注目されて騒がれたこともあった。のかな。

お兄ちゃんを羨ましがる声なんてしょっちゅう聞くけど、妹の私からすると、ただの口うるさいお兄ちゃんなんだよね。「門限は守れ」とか「無駄遣いするな」とか、本当にうるさい。せっかく中学生になったのに自由にさせてほしい。


自由にしたい。遊びたい。


そんな欲求が少しずつ溜まっていき時間だけが過ぎていった。

自分の気づかない間にその欲求は、とても大きな塊になったみたいで、私の中で一種の原動力としてその塊を分散させる方法を考えていた。


「夏休み……!」


そうだ、夏休みじゃん。

私が中学生にあがってから、ママは私とお兄ちゃんを置いてパパの住むアメリカに行くことが増えた。私たちが夏休みの間にも、1週間に渡りパパの元に行くらしい。ママからは一緒に行こうと誘われたけど、私は私で友達と遊ぶ予定があるし、いろいろとやりたいこともあるので断ってしまった。もちろんお兄ちゃんは部活があるから行かないと言うことで、ママは少し寂しそうな表情を見せた。未だにラブラブなパパと会いに行けるのだから「私たちに気を遣わなくてもいいじゃん。行ってきなよ」と笑顔で見送った。

私のその笑顔には理由がある。もちろん……!!



──



「花蓮、門限守れよっていつも言ってるだろ」

ママが不在になった初日のことだった。いつも部活の帰りが遅いから、今日も遅くなると思うじゃん?まさか私より早く帰ってくるとは思わないじゃん?

「ごめん」

「夏休みだからって気を抜きすぎ」

「……」

「朝も何時に起きてんだ?夜更かしばっかりして」

「ごめん」

「母さんもいないんだし、心配かけるようなことするなよ」

「はーい」

お兄ちゃんは少し眉間に皺を寄せながら、くどくどと一生懸命に私に語りかけてくる。結局私は話半分も聞いていたのか、自分でもよくわからない。とりあえず、はいはいと返事していたら、お説教は終わるはず。

「話聞いてるのか?」

「うん、聞いてるよ」

「なら次、約束やぶったらお仕置きな」

「…はぇ?う、うん」

やっばい!お兄ちゃんよ話、適当に聞きすぎたのかな。なんの話かわかんなかった。

まあ、お説教が早く終わったからいいや。



──



「昨日、俺が話したこと忘れた?」

さすがにお説教された次の日は早く帰ってこないだろうと考えて、門限を1時間過ぎた20時に玄関の扉を開けたら、目の前に腕を組んで仁王立ちになってるお兄ちゃんがいた。

「それとも、なんか理由でもあるのか?」

「……特にない」

またお説教かと思うと、ついため息が出てしまう。そんな私のため息と同じタイミングで、お兄ちゃんのため息が漏れたのが聞こえた。

その時だった、お兄ちゃんら私の右手首をぐっと掴んで部屋の中に引き入れようとした。

「ちょっと!靴、脱げないじゃん」

「待っててやるから、早く脱げよ」

あまりに強く腕を引っ張るから、私は半分キレながら言ったのに、お兄ちゃんは冷ややかな表情は少し怖い。靴を脱げと言いながら、私の右手首は掴まれたまま離すつもりはないらしい。

私は左手と足だけでどうにか靴を脱いだけど、玄関に飛ぶように左右の靴はバラバラに転がっていった。

「ちょ、ちょっと痛いって」

思いっきり引っ張られている右手首が痛くて肩が抜けてしまいそうだ。

「俺、思ったんだ。昨日今日でこれだろ。言っても聞かないなら、実力行使したいところだけど、俺にも予定があるし、逐一見張るなんてバカバカしいことするつもりもない」

「はなしてよ!痛いってば」

私がしびれをきらして、右手首をつかむお兄ちゃんの左手をぺしぺし叩く。まったく動じないお兄ちゃんは、私に言い聞かすようにゆっくりと口を動かしている。

「母さんが不在の今、俺が花蓮の保護者だろ」

「お兄ちゃんだってまだ高校生じゃん」

「関係ないね」

「門限やぶったこと、なにも反省してないみたいだし、お仕置きな」

お兄ちゃんはそう言うと、リビングのソファまで私を引きずる。そのままソファに座り、私の手をぐいっと引っ張って、無理やりお兄ちゃんの膝の上に腹ばいとなった。

私は何がなんだかわからずに、思わず周辺をキョロキョロと見回す。

そんな私の驚きを気にすることなく、お兄ちゃんは花柄の白いワンピースの裾をペラっとめくる。

「ちょ、なに?ヘンタイ!!」

「お仕置きだって言ったろ」

「だってパ……パンツみえてるし」

「だからお仕置きだと」

「ま、まさかお尻叩くとか?」

「よくわかってるじゃん。ガキのお仕置きはおしりぺんぺんだって相場が決まってる」

「私もう中学生だよ?子どもじゃないもん」

「だったら約束守れ」

「これからは、そうするから。お仕置きはナシにして」

「やっぱりちゃんと躾とかないと、調子乗るんだよな」

まったく会話が成り立ってなくて泣き出しそうになる。

もう中学生なのに、お兄ちゃんからお尻叩かれるとか無理!

でも腰や背中はがっつりホールドされてて、体格差もあるお兄ちゃんから逃げ出すのは無理だ……。

「20回叩くから」

と、お兄ちゃんの声が耳に入ったときだった。パシッと乾いた音が聞こえた。その音と同時に私のお尻が痛みが走ったのがわかった。

下着の上からなのに、、1発なら耐えられる程度だけど、しなった手で何度も打ち込まれると、じわっと痛みが重なり、少しお尻が腫れているのを感じる。

「やだぁ……痛いよ……ごめんってば」

と、謝っても痛がっても、お兄ちゃんの手は止まらない。

私の喚き声と、皮膚同士がぶつかり合う乾いた音だけが部屋中に響いている。

バッシィんと、ひときわ大きな音が鳴り手が止まった。

「門限は何時?」

「し、7時」

「門限やぶったら、どうなる?」

「……お仕置き?」


これが私の初めてのお仕置きだった。それからの私の生活は一変することとなる。

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