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小夜時雨  作者: 久世アリス
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ヤキモチが言い訳

スパンキング(お尻叩き)シーンが入ります。苦手な方は閲覧を避けてください。

「五條せんせ〜い!この問題の解き方がわからないんです〜」

「私も!わからないんで、教えてくださぁい」


五條郁人いくとが担当している数学の授業が終わったあとは、いつもこのような情景が見られた。


「どれどれ。あー、これはね、この公式を使えば簡単に解けるよ」


はたから見ると、女生徒からの人気を独り占めしているように見えるが、郁人自身はそこまで深く考えていないようで、普通に生徒の質問に受け答えしている。

異性からの人気があるのが当たり前の状況に慣れているのか、年下である女子高生に興味がないのか、男女差なく接する郁人の態度は、男子生徒からの人気も高かった。


そんな微笑ましい情景を遠目から眺めている女生徒がいる。眉間にシワを寄せ、死んだ魚のような目をした秋月花蓮だった。


「花蓮?顔怖いよ」


隣にいる花蓮の親友・工藤摩耶まやが苦笑しながら声をかける。


「もうやだ」


摩耶の声は耳に入っていないのか、花蓮はぽつりと呟くと机や椅子にぶつかりながら大きな音を立て、教室から走り去ってしまった。


「あいつまた兄貴に叱られそう」

「五條先生も大変だね」


窓際の一番後ろの席に座っていた郁人の弟・隼人は、一連の流れを見ていたようで、花蓮に取り残され窓にもたれたままの摩耶に向かって声をかける。

摩耶は時計に目をやると、休み時間はあと残すところ三分だった。


「工藤さんは課題、大丈夫なの?」

「あっ!やばい、すっかり忘れてた」


授業毎に行われる小テストの点数が悪い生徒には、特別な課題が出されていたのであった。摩耶と花蓮は授業をサボっていたせいもあって、かなりの量の課題を出されていたのだ。


「ややこしい公式だし、わからなければ教えるよ」

「本当に?いいの?」


二人が約束を交わしていると、ちょうど次の授業が始まるチャイムが鳴り響いた。



──



「…ばか」


何も考えずに教室を飛び出した花蓮は、ひとり校舎の中をあてもなく歩いていた。

授業の始まるチャイムはとうの昔に鳴り終わっているので、今更教室にも戻りづらい。


「そうだ!」


花蓮は名案を思いついた表情を見せ、軽快な足取りで保健室に向かっていった。



──



「ごめんね、わざわざ部屋にまであがらせてもらって」

「音楽聞きながら勉強するのに慣れてるから、静かなとこよりも集中できるから構わないよ」


摩耶と隼人は図書館で勉強をしていたのだが、静かな空間で小声で話していると閉塞感が強くて、やはり音楽があって話せるところがいいのではないかと、結局隼人の部屋で勉強することにしたのだった。


「花蓮は今日も来るの?」

「平日は毎日来てるよ」

「そうだよね、誘っても素っ気ないし。親友を五條先生に取られちゃって、毎日暇」

「課題もやらずに毎日何してたの?」


課題に取り組みながらも、摩耶の話を聞きたくて、つい質問をしてしまう隼人の気持ちにまったく気づく様子もなく、摩耶はシャーペンをぐるぐる回しながら答えていく。


「うーん…買い物したりクラブ行ったり」

「そういう遊びが好きなの?」

「別に…暇つぶしだよ」

「ナンパとかされるでしょ?」

「そういうときは適当にご馳走してもらってバイバイする」

「ふーん」


そんな簡単に男に奢らせて、危機感ないのかとイライラしながら隼人は計算をどんどん解いていた。

そんな隼人とは反対に、摩耶の課題はなかなか進んではいなかった。


「課題、進めろよ」


隼人はシャーペンで摩耶の真っ白な課題をトントンと叩く。


「あ、うん」

「親友みたいにお仕置きされないとできないわけじゃないだろ」

「もしかして五條って性格悪い?」

「かもな」


なかなか課題を進めない摩耶の態度や、夜遊びの話を聞いたことで、隼人のイライラは続いている。


「お仕置きかぁ…」

「されたいの?」

「あ、いや別に。違うよ。花蓮、毎日叩かれてるのかなって……ほら授業中とか一緒にお昼食べてるときも、なんか変だし」


摩耶は本題をじらすように、話をしているように見える。課題を解く手はずっと前から止まっているし、いつもより少し早口になっていた。


「さあ、毎日かどうかはわかんないけど。何日かは痛いって聞いたことあるよ」

「そ、そうなんだ。五條は叩かれたことある?」


突然の摩耶の質問に、隼人は驚いてしまった。


「は?」


数学の問題を解いていた手が止まり、隼人の口から出てきた言葉は短かった。摩耶は隼人の返答を聞くと途端に焦りだし、目まで泳ぎ始めてしまった。


「あ、いや、どれくらい痛いのかなぁ…って思っただけで、花蓮可哀想だなって。別にそれだけで、変な意味じゃないから!」


変な意味とはなんなんだろうと、考えながら隼人はまじまじと摩耶の目を見つめていた。摩耶の顔は、普段のクールさを忘れさせるくらい落ち着かない表情をしていた。目は泳ぎ、頬は真っ赤に染め上がり、隼人とは目を合わせてはくれない。


「ふーん。」

「え、あの、叩いてほしいとか、そういうんじゃなくてさ、なんていうのか」

「なに?」

「花蓮、五條先生に大切に思われてるんだなって…少し羨ましいだけ…」


摩耶は本音を漏らした。


「ほらうち放任主義だし、ひとりっ子だし、とりあえず勉強だけしとけばいいとしか言われてないからさ。夜遊びしても、変な男と付き合っても、何も言われないのは寂しいよ」


寂しげな表情で摩耶が話し始めると、変な男と付き合うという発言に、隼人は思わず反応してしまう。


「…変な男と付き合ってたの?」

「昔の話。今は好きな人としか付き合いたくない。って言っても好きな人いないから、まずはそこからだけど」

「そっか」


花蓮から摩耶は誰とも付き合ってないと確認までしたのに、恋愛に慣れてない隼人は、男女関係の話が出ると焦りが出てしまうようだ。


「な、なんか、ごめん。課題教えてもらいに来たのに、変な話しちゃって」

「工藤さん」

「うん?」


隼人が摩耶の名前を呼ぶと、今まで合ってなかった目がやっと合い、ふたりは見つめ合っている。


「暇なとき、俺で良ければ付き合うよ」

「う、うん。ありがとう」


一瞬、間があいたが隼人は自分の気持ちを切り出すわけではなかった。だがこの瞬間で、摩耶に隼人の気持ちが伝わってしまったのは、空気感からわかるだろう。


「あと、今日中にこの課題終わらせないと、俺怒るよ」

「うん、やります。ごめん!」


隼人はまだ摩耶に気持ちが悟られていないと思っている。そんな隼人の気持ちがわかってしまい、摩耶は自分がどうしたらいいのか悩みながら課題を進めるしかなかった。



──



「はあ…」


いつもの場所で課題を進めている花蓮の姿を眺めながら出た、郁人のため息は自分が予想していた以上に深かった。


「課題あとどれくらいで終わりそう?」

「あと2問です」

「終わったら声掛けて」


郁人はベランダに出ると、タバコに火をつけた。親友の伊織には散々止められたが、成人してからすぐに吸い出したタバコは、自分の精神安定剤になってしまっていて、もうやめられそうにない。

教育実習は、あと1日で終わる。

自分が話を聞いていたより少しハードな毎日を過ごしていたので、疲れは限界に達している。それに予想外の子守を頼まれて、郁人は疲労困憊だ。


「郁人くん、課題終わりました」


花蓮の呼びかけで部屋に戻った郁人は、花蓮の座るソファの向かいに、デスクチェアを持ってきて正面に向き合うようにして座った。


「なんか俺に言うことない?」

「あ!そうだ!学校で女生徒といちゃいちゃしないで!」

「…は?」


郁人が聞き出したい話とはまったく違った話を切り出され、しかも職務であり、倫理上なんら問題のないやりとりに対して、お門違いの文句を言われたのでフラストレーションがたまってきていた。


「ああ、なるほど」

「何?」

「俺が他の女の子の質問に答えてたのに嫉妬したから、六時間目さぼったんだな」

「さぼってないもん」

「保健室行った理由は?」

「…あ、頭痛くて」


花蓮の表情は堂々としたものだった。頭痛で保健室に行った記録は残しているので、記録と発言に相違はない。だが、その前の授業態度や休み時間の動きを見ていた郁人に、そんな嘘が通用するわけもなく。


「嘘ついたらどうなるんだっけ?このやりとり続ける?俺疲れてるから、無理やりお尻叩くよ。ブラシで」

「…嫉妬した。」


疲れが溜まってイライラしている郁人が畳み掛けるように言うと、花蓮はすんなりと嫉妬していたことを認めた。


「教育実習は明日までだし、説教はいらねーな」


郁人はそう言って立ち上がると、花蓮の腕をつかんで立ち上がらせベッドまでつれていく。いつものようにベッドに腰掛けると、自分の膝の上に花蓮を腹ばいにさせ、そのままスカートと下着を一気にさげた。


「ごめんなさい!」

「はいはい」


涙声で謝る花蓮を気にもせず、郁人は足を組んで花蓮がよりお尻を突き出す体勢にしてしまう。


バシッ大きな音が響く。予告もないままお仕置きが始まった。


「ごめんなさいっ」


いつもより音が小さいものの、郁人が足を組んだせいで、花蓮のお尻は突き出している状態になっている。この状態だと、普段お尻のクッションになっているものが分散し、痛みが増してしまう。組んだ足の高さがあるので、花蓮は床に足がつかなくて踏ん張ることもできず、両手が床についた状態で安定させているので、お尻をかばうこともできない厳しい体勢なのだ。


そんな厳しい体勢なのは承知の上で、郁人は普段と変わらない、スナップの効いた平手を花蓮のお尻に打ち落としている。


「痛いよ…っん…痛い!」

「俺のお尻叩きが痛くなかったときあるか?」

「ないっ…ですっ…」


腰に回した手は充分にホールドしており、花蓮はどう頑張っても逃げられそうにもなかった。逃げられたとしても、その後が恐ろしくて逃げることすらできなさそうだが。

郁人の平手は確実に花蓮のお尻を叩いていく。一打一打叩くごとに赤みが増していく。まるで重ね塗りをする油絵のように、可愛い花蓮の丸いお尻のキャンバスに、平手を何度も重ねている。


「今日は…嫉妬してぇ…っ頭に!…きたから…ついぃっ…やっちゃった!」

「嫉妬するのと!授業サボるのは!別だろ!」

「…はい」


もう全体的に赤く染まってきた花蓮のお尻に、まだまだ容赦ない平手を打ち込んでいく。

初めのうちは痛みに耐えていた花蓮だったが、我慢できなくなったのか足をばたつかせるようになった。


「足!」


と、郁人に注意され太ももを叩かれてしまった。


「あぁっ…ごめんなさい!」


数も言わずに勢いのまま叩いていたが、郁人は自分の体力の限界を感じだした。明日は実習ラストなので余力を残しておきたかった。


「あと10回な」


いつもなら数をかぞえさせたり、ごめんなさいと言わせたり、色々指定をしていたが、今回は思いっきり一打ずつ叩く。花蓮が動こうが泣こうが、腰を回した手はより強く力をいれているのて、渾身の力を使い10発を叩いた。


「っはぁ…あぁん!!…ったいよぉ!」


10発叩き終えると、郁人はバタンとベッドに腕を広げて横になった。花蓮は下着もスカートもあげずに、郁人に寄り添った形でベッドに横になり涙を浮かべている。

寄り添う花蓮を可愛く感じたのか、郁人は頭をぽんぽんと撫でると、花蓮は郁人に抱きつき腕枕をしている状態になっていた。


「実習終わってもさぼったら俺に連絡くるようにしたから」

「わかった。真面目にします」

「あと俺もう眠くて動けないから、適当に帰ってくれ」

「もうちょっとこうしててもいい?」

「好きにしろ」


郁人の返事を聞いて、花蓮が郁人の胸に抱きつくと、花蓮の頭を支えている手で髪を優しく撫でた。

そこで郁人の記憶は途切れてしまった。

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