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小夜時雨  作者: 久世アリス
4/7

初志貫徹

スパンキング(お尻叩き)シーンが入ります。苦手な方は閲覧を避けてください。

昨日のお仕置きを引きずっている花蓮は、当たり前ながら朝から気分は落ち込んでいる。

しかも関東の梅雨入り宣言が発表され、空も花蓮の表情と同じくどんよりと重かった。


郁人と昨日交わした約束が、今日の授業の開始時間は朝の九時からだった。

たった二軒隣の家に行くのに、こんなに勇気とエネルギーが必要なのかと思うほど、気分が乗らない花蓮はせめて愚痴を話したいと摩耶にLINEを送った。


『おはよ。愚痴があるから聞いてほしい!夕方くらいから会えない?』


夕方、摩耶と会ったところで、昨日のお仕置きの続きがあるから、お尻の痛みに耐えながら愚痴るという苦行になるのだが、それでも花蓮はストレスを発散させたくて仕方なかった。


ピンポーン


重々しい気持ちで五條家のインターホンを鳴らしたが、花蓮の気持ちとは裏腹に、郁人が爽やかな笑顔で迎え入れてくれた。

郁人の部屋に入ると、いつものソファの上に柔らかいクッションが置かれており、郁人の妙な優しさを感じてしまい花蓮は苦笑いを浮かべた。


「とりあえず午前中は、このプリントやってみて。一年生の時点でわかってなさそうな気がするから、テストして確認したい」


用意されていたプリントは十枚ほどあるのか、数学が苦手な花蓮には気の遠くなる量に感じる。

花蓮の嫌そうな表情を見て、郁人はにこやかに笑みをこぼす。


「わからなくても大丈夫だから、何がわからないのか嘘つき花蓮ちゃんに聞くより俺がチェックしたほうが早いし」

「…昨日嘘ついたことは反省してるから、そんな意地悪言わないで」

「はいはい。俺は午前中に資料まとめておきたいから、とりあえず頑張って!あ、お尻痛いかと思って、クッション用意しておいたよ」

「助かります…」


お仕置きが始まってからの郁人は、優しかった部分より意地悪な部分が見えてきた気がする。

だからと言って、花蓮が持つ郁人への好意的な気持ちがなくなったわけではない。むしろ細やかな優しさが際立って感じられるようになってきた気がする。

フィルターがかかって現実を曲げて見えてしまう、つまり恋心が燃えているのだ。


「…はあ…わかんない」


「…えっと…えー…わかんない」


プリントを始めてから二時間が経過した。

花蓮は問題わからないと独り言が出てしまうらしく、わからないわからないと連呼していた。

耐えきれなくなった郁人が声を出して笑い始めた。


「だから、わかんなかったら飛ばしていいんだって。真剣に取り組んでるんだとは思うけど、すっごい気が散る」

「あ、ごめんなさい。集中してたけど全然わからなくて…黙るね」

「集中して小難しい顔してるのもツボっちゃって、俺こそごめんな。邪魔してさ」


郁人があまりに笑うので、花蓮もつられて笑いはじめてしまった。


「プリントどこまで進んだ?」

「わからないとこ飛ばしたから、だいたい終わったよ〜」


花蓮は苦虫を潰したような表情で答えた。

数学は頭を使うし、ましてや郁人の部屋で過ごしているというプレッシャーもあって、なんだか疲れてしまっていた。


「ちょっと早いけどメシ食いに行くか。今日は朝から遅刻もしてこなかったしいい子だから、おごってやるよ」

「やったー!」

「このあとまだお仕置きも残ってるしね、体力つけないと」

「……」


『お仕置き』という単語で、郁人とご飯食べられるという嬉しさからテンションを思いっきり落とされた花蓮であった。

お尻が痛いことは座ってる限り忘れられないのだが、それでも郁人と過ごす時間は楽しかった。

好きな食べ物や嫌いな食べ物。幼い頃から連れ回して遊んでもらっていたはずなのに、まだまだ花蓮が知らない郁人の側面を知ることができた。


ランチから郁人の部屋に戻ると、楽しく盛り上がったままの空気で授業は進んでいった。

郁人は教えるのが上手いので、彼から教えられた箇所は苦手意識が不思議となくなるのだ。

教えてもらっている間は本当に楽しくて、花蓮は目をキラキラさせながら郁人の話を聞き入れ、自ら疑問に感じたことを質問したりしていた。


あっという間に時計の針は午後三時を指していた。


「さて、授業はここまでにして、昨日のお仕置きの続きやるか」

「…ほんとに、まだお仕置きやるの?」

「当たり前だろ」

「…はぁ」


郁人の口から出たお仕置き宣言は、花蓮に大きなため息をつかせていた。


「ため息をつきたいのはこっちのほうだ。ただでさえ教育実習でめちゃくちゃ忙しいっていうのに、こんな頻度でお仕置きしてたら、俺の体力がいくらあっても足りないだろ。だから今回は本当に厳しくするよ」

「…ごめんなさい」

「謝るなら悪い事するなよ」

「はい、ごもっともです…」

「じゃあ下着おろして膝の上に来なさい」


郁人は昨日と同じくベッドに腰をおろし、自分の膝を軽く叩いて花蓮に合図を出した。

今更どう反抗しても、自分のお尻にすべて返ってくることを花蓮は理解しているので、今日は大人しく郁人のところまで行き、ワンピースの裾を持ち上げ自ら下着を膝までさげ、郁人の膝の上にはらばいになった。

昨日のお仕置きの痕が少し赤くなって残っているのが見てわかる。

郁人は花蓮のお尻をゆっくりと撫でる。触られるだけで痛みがあるのか、花蓮はお尻を左右に小さく揺らしている。


「昨日のお仕置きの痕がまだ残ってるな」

「まだすごく痛いもん…」

「でも仕方ないよな。お仕置ききちんと受けて反省しなさい」

「…ふぇ…はい」


叩かれる前だと言うのに、花蓮の目から涙が溢れてきた。


「じゃあ始めるぞ」


郁人のお仕置き宣言を聞くと、花蓮は体中のが一気に緊張して固くなってしまった。

ゆっくり着実に花蓮のお尻に痛みを与えてるいくのだ、その緊張は長く続くことはない。


昨日は怒りに任せて勢いをつけて連打していたこともあり、郁人の手も少し痛みが残っていた。

だからといって手を緩めることはしたくないし、今回はきちんと躾けておかなければと、心を鬼にして覚悟をきめているので、一打一打平手を花蓮のお尻に打ち込むように叩いている。


「ぅう…はぁ…っん…あっ…」


バシッバシッとお尻に平手が落ちていく音と、花蓮の涙混じりのうめき声だけが部屋中に響いている。

花蓮からは郁人の顔は見えないが、腰を抑えている左手からはかすかな暖かみを感じていた。

昨日は郁人も感情的になっていて、腰を抑えられていた手はとても強かったが、今日は怒っているというより叱っているので、行動のひとつひとつに花蓮への配慮が見える。


配慮が見えるとは言っても、叩かれている花蓮からすれば痛いものは痛い。


「…った…っ痛いよ…反省してるからぁ…もう許して…」

「今後、俺に嘘つこうと思わなくなるまで許すつもりないから」


強めの平手で花蓮のお尻の真ん中あたりを連打する。


「っあん!…ほんとにっ…反省…してますぅ…ヒック…ヒック」

「泣いてろ」


郁人は泣いてる花蓮を気にすることもなく、お尻の真ん中を狙って連続的に叩き続けている。

連続で同じところを叩かれるのは、本当に我慢できないくらい痛い。花蓮はなるべく動かないように我慢していたが、ついお尻を動かしてしまったら、こらえきれず床に着いていた両足も軽く地団駄を踏み始めてしまう。

動いたことを咎めるように、郁人の叩く手がかなり強くなっていった。


「反省したってのも嘘か?」

「ちがっ…反省してますっ!…同じとこ…痛くて…」


郁人の手が止った。


「もしかして、嘘ついたり、反抗的な態度とったり、俺に構ってほしくてわざとやってる?」

「そんなぁ郁人くんのこと好きだし、一緒にいたいけど…お仕置きは嫌だもん」


膝の上でお尻を叩かれ真っ赤に腫らしている状態で、またもや告白してしまった花蓮に、郁人はたまらず笑顔をこぼしてしまった。


「そうか。こんな厳しくお仕置きしてるのに、俺のこと好きなのね。ありがとう」


花蓮の一途な思いを汲み取り、郁人は優しく頭を撫でてやる。皮肉にもさっきまで花蓮のお尻を腫らしていた手なのに、頭を撫でられるとこんなにも優しいとは、罪深き右手である。


「でもまだ彼女じゃなくてよかったな。彼女に昨日みたいなことされたら、こんなレベルで済まされないよ」


と、自然な笑いを浮かべながら語る郁人を見て、花蓮は郁人の恐ろしさを再確認していながら


『まだ』彼女じゃなくてよかった…?


と、同時にその言葉だけで、期待を抱くことができた。

などと花蓮が邪なことを考えてにやけていると、膝から抱き起こされたので、慌てて表情を隠すようにわざとらしい泣き顔を作った。


「お仕置きまだ終わってないのに、なに笑ってるの?」

「あ、いや、笑ってなんかないよ…いや笑ってました。ごめんなさい」


今どう取り繕っても郁人には、すべて見透かされているような気がして、ごまかすことも嘘だと言われたらお仕置きまだ増やされそうだし、と花蓮は必死に考えた結果、素直に話すしか選択肢が残されていなかった。


「お仕置きが効いてるんだな。素直に言えたね。じゃあそっちの机に両手をついて、仕上げをしよう」


郁人は自分の机を指さすと、ソファの脇の棚に置いてあるブラシを手にとり、花蓮が動くのを待っていた。


「早く準備しろよ。数増やすぞ」


自分のお尻をゆっくりさすりながら、花蓮は机のほうに歩み寄り、机に両手をついた。


「もっとお尻を突き出す」


花蓮の上半身を机に預けるように低くさせると、自ずとお尻を突き出してしまう状態になってしまった。


「…恥ずかしいよぉ」

「高校生にもなってお尻を叩かれて躾けられてるほうが恥ずかしい」


郁人の平手が花蓮のお尻に勢いよく落ちてきた。


「ブラシで二十回叩くから、数をきちんとかぞえて動かないこと」

「…はい」

「じゃあいくよ」


バシッバシッともう赤くなってないところがない、花蓮のお尻に容赦なくブラシが落ちてくる。

逃げたいし動きたいけど、今日の郁人は絶対に許してくれないであろうと空気で感じ取っていたので、ただ叩かれる回数を間違えずに数えて我慢するしかなった。


「…ぁあ!じゅうななっ!…じゅうはちいぃっ」


痛くて恥ずかしくて、花蓮の頬にはいくつもの涙の筋が見えていた。


「じゅうきゅうぅ…っにじゅう!」


郁人の初志を貫き通した厳しいお仕置きは終わった。

ふうと大きなため息をつきながら、郁人はベッドに寝っ転がる。


「お尻しまっていいよ。痛くてパンツはけないかもしれないけど」


くくっと笑いながらからかう郁人は、お仕置きをしているときの厳しさはなく、やんちゃな男の子のような表情になっていた。


「私もベッドで少し横になってもいい?」

「いいよ。おいで」


決してやましい気持ちがあって隣で横になりたいと言っているわけではなく、こんなに真っ赤に腫れ上がり、ところどころ薄く痣になるくらいお尻を叩かれていて、本当に下着をはくのが怖くて、少し休憩させてもらいたいだけなのだ!

と、都合のいいことを頭で並べて言い訳にしながら、郁人のベッドに花蓮も寝転がる。

もちろん仰向けにはなれないので、うつ伏せ状態である。


「次嘘ついたら、ブラシで百叩きな。俺の手がもたない」


見せられた郁人の右の手の平は真っ赤に腫れてとても熱くなっていた。


「昨日は本当にごめんなさい。良い子になる」

「良い子じゃなかったら嘘つきだってことで百叩きしてほしいってこと?」

「ちがうもん。意地悪言わないでよ」

「結局、花蓮ちゃんが悪い子のときは俺がきっちりお仕置きするから」

「はぁ…」

「伊織にお仕置きされるほうがいい?」

「お兄ちゃんはマジ鬼だから…郁人くんがいい」

「ってそのまま伊織に伝えておくわ」

「あ、ウソウソ、いや嘘じゃないけど、あーもう郁人くんにはちゃんとなんでも話すから、それは許して」

「どーしようかなぁ」


花蓮と郁人の距離は少しずつ近づいてきている。

それより急接近している二人が身近にいるのだが、それはまた別のお話で。

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