鬼ごっこ
最近見た夢がラノベ過ぎた。
小さい頃、祖父母によく言われていた。
逢魔時には鬼が出る。
鬼は人に悪さをする。
だから、逢魔時に出歩いてはいけない。
『――昨夜、〇〇〇駅付近で殺人事件がありました。警察の話によりますと、例の連続殺人犯の手口と――』
テレビから流れるニュースをBGMに洗い終わった食器を片付けていく。早くしないと学校に遅れる。壁に掛かってる時計を見ながら急いだ。
ラフな私服から制服に着替えてカバンを手に取る。が、カバンが動かない。
重いというより固定されているみたいに動かせない。
どうしてだろう?
カバンの方に目を向けて、動かせなかった原因にイラッときた。
「起きて、ください!」
「うおっ!?」
横に凪ぎ払うようにカバンを振れば、上に乗っていた青くて丸いのが飛んでいく。と思ったら空中で止まり、そのままふわふわ浮いた。
地面に落ちればいいのに。舌打ちをしそうになる前に青色が視界いっぱいに広がる。
「花穂!危ねーじゃねーか!」
「アオ。人のカバンの上で寝ないでください」
白いドクロのような仮面をつけた青くて丸い、アオが怒るが私には知ったことではない。
アオを無視して玄関に向かう。アオは慌てて私の肩に乗ってくる。重さはなかった。
――アオは青くて丸い。大きさは私の頭ぐらい。ちょこんと出てる小さい三角形みたいな手なんてないのも当然に思えてくる。でも上部分の両側から角のようにゆらゆら揺れながらあるものやとドクロのような白い仮面みたいなので、よくある可愛い系のキャラとは少しだけ離れている――
外は春が近いっていうのまだ寒く、マフラーを首に巻かないと歩いて登校なんてできない。私は寒いのが嫌いだからという理由もあるけれど。
そうでなくても同じく登校している生徒たちもマフラーをしていたり手袋をしていたり。
寒いのは、私だけじゃない。
「生きてる人間は大変だな。暑いとか寒いとか」
「アオには分からないんですよね。羨ましいです」
「……別にわかんねぇってわけじゃ……」
「あと、話しかけないでください」
ついアオと話してしまったが、これ以上話すのは止めよう。
周りの生徒から不審な目を向けられる。私はマフラーで口元を隠すようにして早歩きで学校に入った。
まだ生徒はそんなにいなく、それでも私は顔を伏せて教室へと歩く。
そんな私をアオが心配そうに見ていることを、私は知らない。
* * *
何事もなく放課後になり、どこにも所属していない私は早く帰ろうとカバンに必要な物をつめる。
早く帰りたいというより、帰らなくてはいけないから。それは、義務と当然で、だからなのか焦りが生まれてくる。
やっと準備し終わり、窓から外を見れば夕日が沈みかけていた。
急がなきゃ。
「あ、ここにいたんですか伽島先輩!」
「……」
廊下の方から顔を出したのは後輩の紫波君。ここ最近知り合った後輩で、オカルト好きの子だ。
私は紫波君が苦手だったりする。いや、だったりじゃなくて苦手だ。
犬みたいに人懐っこい笑顔でやって来た後輩から目を逸らし外を見ると、夕日は沈み出していた。
ダメだもう。私は諦めて、紫波君に向かい合う。
「なんですか」
「聞いてください先輩!また駅の近くで殺人があったそうなんです!これはもう"鬼"のせいですよ!」
興奮気味に話し出した紫波君。そういえばそんなニュースが流れていたと思い出す。
そして紫波君が言った"鬼"というのに余計気が滅入ってくる。
いつからか都市伝説のように"鬼"の噂が流れ出した。"鬼"というのは人に悪さをすると言われていて、その悪さは最悪事件にもなるという。
そんな"鬼"が都市伝説として扱われるのは、誰も"鬼"見たことがないから。噂だけが一人歩きをしているような状態が続いている。
紫波君は一度でもいいから"鬼"を見たいと言って私に絡んでくる。
何で私なのか。それはわかりきっていること。
「大丈夫か、花穂」
「……平気です」
「けど「伽島先輩?誰と話して……もしかして幽霊ですか!?」」
「違います」
アオは、普通の人には見えないし声も聞こえない。
ならなんで私はアオと話せているのか。簡単なことだ。私は俗にいう視える体質だったから。
アオがわかるのも、紫波君が関わってくるのもこの体質だからだ。
最も、私にとっては迷惑なもの以外の何物でもないのだが。
「なので先輩。僕と一緒に駅に来てください!」
「……はぁ、いいですよ。貴方のことですから、断ってもまた来るでしょう?」
諦めきった声で言うと、眩しい限りの笑顔で「ありがとうございます!」と喜んだ紫波君にため息が出た。
自分をお人好しだなんて思わないけど、ちょっとは断ることもしよう……。
幸せの絶頂にいるような紫波君に案内されて事件があったところに行く。といっても、昨日の今日だからロープで立ち入り禁止になっていたりと、行けそうなところは限られていた。
紫波君はそれが少し不服のようだったけど、一般人である私たちにはどうすることもできない。
遠巻きに事件現場を覗いていく。
「先輩。なにか見えますか?」
「……何もありません」
「え~……被害者もですか?」
「それなんですが、被害者はどんな人なんですか?」
ニュースは聞き流していたから詳しく知らない。
紫波君はいい忘れていたのか、ばつが悪そうに被害者の特徴を教えてくれた。
短めの黒髪の可愛い子だったらしい。
連続殺人なだけあって、狙われるのは女子高生。鋭い爪のようなで切り裂かれたらしい。
けれど容姿は余り関係ないみたいで、今の時間帯と駅の近くっていうのがキーワード。
だから女の人が少ないのか。確かに駅に近づくにつれて女性の、特に学生の姿がなくなっていくわけだ。
「こうなったら駅に入って調べましょう!あ、ちゃんと先輩のことは調査が終わったら家まで送りますよ」
「しなくていいので今すぐ帰らせてください」
「それはイヤです」
舌打ちを我慢して紫波君に着いていく。少しだけ、空を見ると夕日は後数分で沈み終わりそうだった。
これなら大丈夫かもしれない。
目線を戻そうとして、肩に乗ってるアオと目が合う。
「油断するなよ、花穂」
「しません。油断なんて……」
するはずがない。
していたら、今ここに私はいないに決まっている。
「伽島せんぱーい。何かありましたー?」
「なんでもありません」と紫波君に返し、駅へと入る。
駅の中はそんなに人がいなく、広々したホールがよく見渡せた。
紫波君が駅の案内図を見ている間に注意深く周りを見る。
特に気になるところはなく、でもどこか不自然さがあった。
その不自然さは知っているけどなんだかはっきりしない。
なにかが変だ……。
考え込んでいると、紫波君が声をかけてきた。
「あの、先輩……トイレ、行ってきてもいいですか?」
「……いいですよ。準備は事前にしてください」
「すみません!」
速い……。
我慢していたのかすごい速さで走っていく紫波君を見送り、また駅内を見渡す。
こんな時間には大人はまだいなく、派手な男女のグループが一番目につく。ホームに電車が入ってきたのか、人は段々減っていった。
……何もない、かな。
ほっと安心しながら改札口を眺める。すると、急に悪寒が背中を駆け昇ってきた。
それと同時にくる吐き気と息苦しさ。
「花穂!」
アオの声が聞こえる。けれど、視界は真っ暗で何も見えない。
油断した……。
気持ち悪くても途切れないよう意識を保っていると、何か見え始める。夢のような、映画を見ているような、不明瞭な風景。
ここは……駅?さっきまで私がいたところみたいですが……。
どこか違う駅の風景に戸惑っていると、自分の意思と関係無く体が動き出す。
ふと近くのショーウィンドウが視界に入る。そこにはまだ幼さが残る、私と同い年ぐらいの男の子が写っていた。
彼の位置は私が見ている位置と同じで……ああ、そういうことですか。私は彼を通して風景を見ている。
こんなことは良くあった。
波長が合ってしまう度に視てしまう。
私はこれを上手く制御できないから、いつも視終わったあとはひどい目に合う。
その一通りの流れがいつものこと。
また、何かあるのか。
思わず憂鬱な気持ちになっていると、場所はホームへと移動する。すると、誰か寄ってきた。
数人の女子みたいで、服装からして彼と同じ学校の子みたいです。何か話ながら、彼を囲んでいる。
ショーウィンドウの時からわかっていましたが、彼は顔が整っていましたし、女性にモテるのでしょう。
しばらくして話していて、彼は女子達の向こう側を見た。
そこには彼女達と同じ制服の女子がいて、静かに本を読んでいる。彼はその女子生徒を見つめて、走り出す。
彼女の後ろに、押し出そうとする人影が見えたから―――
「花穂!起きろ!」
「あ、お……」
「今すぐ逃げろ!早く「きゃあああああああ!」」
アオの方を見ようして顔を上げた途端、響き渡る女の人の叫び声に顔をしかめる。
気持ち悪さと怠さがある今の私にとっては、つらい。
何が……。
声の方にいたのはあの派手なグループだが、様子は大分違っていた
女の人が一人、倒れてる。背中から血を流しながら。
そして、彼女を見下ろすように近くに立っているのは人の姿をしているのに人じゃない存在。
異様に長い爪。
所々から見える骨。
頭から生えている角。
赤色の光にに包まれ、赤色に染まるそれは"鬼"―― "赤鬼"
「くっ、くんな!」
「お、鬼が……!!」
"赤鬼"は男達には見向きもしないでもう一人の女の人の方へと歩き出す。
女の人は狙いが自分だとわかると泣きながら叫び、私に気づくと走ってきた。それはそうだ。"赤鬼"の狙いは女性。なら、自分が生き残るためにも身代わりを考えるのも無理はない。
私にとっては腹立たしいことこの上ないが。
男達は一目散に逃げ出し、女の人は私の後ろへと行く。
"赤鬼"は狙いを私にして近づいてくる。まだ重い体では立つのだって手を付きながらでどうしようもできない。
"赤鬼"が、鋭利な爪を振りかざす。私は思わず目をつぶった。
──ああ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛!!
この世の者とは思えない低い地鳴りのような叫び声に目を開けると、目の前に"赤鬼"はいなく、代わりにいたのは青い光に包まれている青年だった。
「お前はホント、めんどくせーなぁ」
「っ……うるさい、です。私一人でも避けれました……アオが勝手に出てきたんです」
未だに慣れない。目の前にいる鬼と似たような、でも似ていない彼がアオということが。
いつもの丸い形じゃなく、人の姿をして"赤鬼"の前に立ち不敵に笑う男が本当にあのアオなのか疑うときだってある。
アオは自分も鬼だという。けれど、"赤鬼"とは違う"青鬼"だといわれた。
"赤鬼"は人に害を与える存在だとしたら、"青鬼"は人を守る存在だとアオ自身に言われたけれどそんなこと、私にはよくわからなかった。
だから私が信じるのアオだけ。鬼でもアオだけなら、信じれるから。
「ははっ。本当に可愛くねぇ」
「可愛くなくて、結構です。それよりも……」
「あが……がが……ああ゛……」
"赤鬼"が立ち上がる。アオが蹴り倒したのか、少しだけお腹のあたりを抑えている。
私は一歩、後ろへと下がる。アオは指を鳴らしながら"赤鬼"と対峙する。
最初に動いたのは、"赤鬼"。アオに勢いよく襲い掛かり、腕を振り落とす。それをアオは片手で受け止めた。
衝撃でなのか風が起きる。吹き飛ばされたりはしないだろうけれど強めの風に足に力を入れる。
アオはそのまま"赤鬼"の片手を掴み、そのまま一本背負いを決めた。
地響きと一緒に"赤鬼"が地面に沈む。ホールが壊れていく……これどうやって誤魔化せばいいの……。
後の事を考えて気分が下がる。そんな私なんてお構いなしにアオは"赤鬼"を蹴って今度は派手に壁に衝突した。
……もう、何を言われようが私は知らないを通そう。そうしよう。
"赤鬼"はもうボロボロで、それでもまだ立ち上がれるぐらいに力が残っている。
アオはそんな"赤鬼"を見て笑いながら、近づていく。
「待ってください、アオ」
「ん?」
力が入らない足を叱咤しながらアオに近づく。
"赤鬼"は私に気づいて襲い掛かろうとしてアオにまた蹴られ、今度こそ立ち上がることができなくなった。
なんて乱暴な……。言いたいことはあるけれど今は抑え、"赤鬼"を見る。
ちゃんと見れば"赤鬼"がどんな人の姿なのか少しだけでもわかった。
だから確信した。もっと近づこうとしてアオに掴まれ、離す気がないことからそれ以上近づくことはできない。
はぁ……。心の中でため息を付いて、聞こえるよう口を大きく開ける。
「女の子は、無事でした」
「……あ、あ?」
「貴方が女の子の手を引いたから、女の子は無事でした。……代わりに、貴方が死んだんです」
「…………ホン、ド?」
"赤鬼"の口からは、ちゃんとした言葉が出た。
よかった。まだ、彼の人としての理性が残っていて。
安心しながらまだ警戒もして"赤鬼"を、あの走り出した彼に話しかけ続ける。
自分自身でもどれだけ偽善ぶっているのだろうと嫌悪しても。
「……もう、やめてください。女の子は死んでいなかった。これ以上、彼女を落そうとした女子生徒を憎んで、関係ない人を殺すのは」
「……オレハ…………そっカ……ぶじ、だった……」
「……」
爪が、骨が消えていく。
"赤鬼"だった彼はショーウィンドウに映っていた姿に戻って、私たちの前に立つ。
赤い光は薄く、まだ彼を包んでいる。これだけじゃあダメだ。でもどうすればいいのかわからない。
アオが私を背に隠す。
窓から差し込む光は少しづつ消えていく。
彼は私たちに微笑んだ。
「多分、まだ俺は成仏できないんだろ?」
「……はい。貴方は、地縛霊みたいなものに戻っただけですから」
「……わかってる。あのさ、お願いがあるんだ」
―――後日。
警察の人の調査と駅の修理がまだ行っているそこで成仏のためのお払いが行われた。
それ以来あれだけ騒がれていた駅周辺の連続殺人事件は音沙汰もなく終わった。それを知り、彼がちゃんと昇れていればいいと願う。
「きっと僕がトイレに行っている間に何かあったんですよね!?そうですよね伽島先輩!!」
思いの外長い時間トイレに籠っていたらしい柴波君はそれについてずっと騒いでいた。
面倒なほどいろいろ聞いてくる柴波君を宥め、当然誤魔化した。当分うるさそう……。
「お前はお人好し過ぎんぞ」
「……気のせいですよ。私は何もできませんから」
丸い姿のアオが肩からジト目で見てくるが私は目を逸らす。
逢魔時にしか人の姿になれないと知っているけれど、慣れないのもあるからどちらかのままのほうがいいと思う。別に、人の姿の時に助けて貰っているから文句なんてないけど。
駅の近くはまだ工事をしていて行けるところは限られている。
外から駅を眺めていると、駅のホームに向かって手を合わせているお婆さんがいた。
思わず気になっていると、そんな私に気づいたお婆さんが微笑んだ。その微笑みは、どこか彼に似ていた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
「ふふ。ごめんなさいね。気になっちゃうわよね」
「えっと、ごめんなさい」
「いいのいいの。気にしてないわ。……今この駅は工事中なのね」
「はい」
それからの会話はなく、お婆さんはホームを眺める。
どこかで見たことあるはず……。考えてみても思い出せない。あと少しで思い出せそうなのに……。
お婆さんはしばらくしてまた私に軽く会釈し、去っていった。「ありがとう」と去り際に聞こえたけれど……気のせいかな。
「花穂。逢魔時が来るぞ」
「……早く帰りましょう」
『逢魔時に出歩いてはいけないよ』
『なんで?なんでダメなの?』
『それは鬼が出るからだよ』
『ふーん……』
『でも、悪いオニさんばっかりじゃないと思うなぁ』
ご拝読ありがとうございました!!
次からは登場人物と設定に関してです。興味があればどうぞ!!
※登場人物&設定()
・伽島花穂
中学生。父と母が幼いころに事故死したので祖父母に引き取られ、今は一人暮らし中。
幼いころの『ある事件』で視える体質になり、そういう系のことに巻き込まれては自力で生き延びてきた。そのこともあり友達は少なく、本人も壁を作るために敬語で話すようになる。
アオとは少し前にかかわり、なぜか一緒に暮らす羽目になっている。人の姿のアオより丸い姿のアオのほうがちょっとは可愛いので好き。けど本人には言わない。
・アオ
"鬼"は"鬼"でも"青鬼"という存在。普段は丸い姿で花穂に纏わり憑いている。
花穂を守るために花穂に近づき、名前を付けてもらった(だまして)。名前を付けてもらったし、もうペットみたいなもんだよなーとか勝手に言って一緒に暮らしてる。
自分が死んだことについてはよくわかってる。人の姿になれる時間が決まっているのがもどかしい。
・柴波
花穂と同じ学校の後輩。重度のオカルトマニアで、都市伝説となった"鬼"を一目みたいと、怪奇現象に会いたいという理由で花穂に懐いたちょっと迷惑な子。
霊感ゼロで、しかも間が悪い(良い?)せいでそういうことには一切会ったことがない。きっとこれからも会わないと思う。
花穂に対して悪意はないし、むしろ優しい先輩だと慕っている。
・鬼
鬼は地獄の鬼などではなく死者の方を指している。
呼び方については、"赤鬼"は死んだ人間が害をなす存在のときに使われ、、"青鬼"は人を守る存在のときに使われる。ほかにも色はあるらしいが花穂はよく知らない。
逢魔時は行動し出して一番行動しやすいってだけの時間であり、強い"鬼"になると朝日が昇るまで行動しているのもあるらしい。アオは知っているけれど教えていないから花穂は知らない。