第05話 もしもし、冒険者ギルドってどこですかの回
衝撃の告白から、数刻――。
俺は宿屋で朝食を食べていた。見知らぬ天井は宿屋のものだったのだ。
せんべいのような硬くて平たい無発酵のパン、鶏っぽい肉と野菜が入った具沢山のスープ、蒸かした芋がゴロゴロと。どれも味付けは濃い目だが旨い。
3食カップラーメン生活から比べれば健康的すぎてパン10枚でも余裕だぜ。
3枚目以降は宿屋の女将が露骨に嫌そうな目で見てたけどキニシナイ。
「それにしても……」
隣で俺と同じメニューを行儀よく食べているプリセラをチラ見する。
会って間もないのに、あんな大胆な告白をするなんて……。
ちなみにパンは1枚で充分だそうだ。初めて食ったけど俺のオススメだよ?
1枚でいい? ホントに? あっ、そう。がっついてるの俺だけじゃん。
「あの、どうしました。こちらの食事はお口に合いませんか?」
「いやいや、食事はお口にピッタリだよ? そうじゃなくてね。
突然カリスマとか言われても全くノープランでさ」
そう。カリスマなんてJKかモデルか店員くらいしか知らない俺には何をどうすればいいかさっぱりだ。しかも盗撮と襲われシチュエーションのやつしか観てない。ナマの情報が足りない。
「ああ、そんな。シオン様がカリスマになるのは私にはとても簡単に思えますけど?」
俺を見るプリセラが不思議そうに首を傾げる。サラサラの金髪が流れて俺の目を射るように輝く。その可愛さに眼が潰れそうだ。
「その自信の根拠が是非知りたい。そりゃあ、前よりイケメンになったかもしれないけど、それじゃあ頑張ってもモテモテハーレムでウハウハが限界でしょ? 大歓迎だけどっ!
カリスマってもっとこう、全国アリーナ制覇とか、全世界同時中継とか、誰が見ても超セレブ! もう私待てないのっ!
来てッ! 見てッ! 触ってッ! みたいな、ってあれ? 同じ?」
可愛いアバターは俺の言っていることが半分もわかっていないのか、スプーンを口元に軽く咥えて少し考えている。
彼女は周囲を伺って少し声のトーンを落とすと俺に囁くように告げる。
耳がこそばゆい。熱い息が掛かっちゃう!
「あの、アリーナさんがどなたか存じませんが、ヴォルフガング様の力が解放されればシオン様に敵う生物はこの世界に存在しません。その気になれば一週間も保たずに世界は灰燼に帰すでしょう」
「ああ、なるほど。人類が滅亡すれば唯一残った俺が最後のカリスマであると。
ってそんなわけあるか! 異世界最後の男になってどうする!」
ロリ女神のアバターの割によく出来てると思ってたんだ。
うん、やっぱりポンコツだったね。
「そういうんじゃなくてさ、もっと具体的に人々の役に立つとか、皆が喜ぶとか、そういうアレがないと誰もついてこないんじゃないの?」
「ああ、そういう……。あの、私が知ってるヴォルフガング様は他人を喜ばすとか、役に立つといった能力は全くありません」
おい、そこ断言するのかよ。暗黒の破壊神を転生しといて自己責任でご自由にどうぞかよ。
「じゃあ、どうせえと。手当たり次第にぶっ殺して賞金首にでもなれと。
悪党として名を挙げ……はっ! ロリ女神はそれが目的かっ!!
くそう、まんまと罠に嵌められたぜ。調子に乗って、地元にヤクザに手を出して、ガタイの良い男共に囲まれて、異世界で若い操を散らしてしまうなんて……ああ、なんて可哀相な俺――」
「あの、あの、取り敢えず、冒険者に登録しましょう!」
「もう、穢されたらその道のカリスマを目指すしか……なに? 冒険者!
なるほど! それはいい考えだな、流石プリセラ。俺の嫁」
危うく妄想から還って来られなくなりそうだった所をプリセラの助言で難を逃れた。
流石、俺の嫁。大事なので2回言おう。
「あの、嫁じゃなくて――」
「さあ、そうと決まれば冒険者ギルドに出発だ。迷わず進め。考えるな感じろ!
習うより慣れよだ!」
俺は残った飯を掻き込むと宿屋を後にする。宿屋の食堂はこじんまりとしてドアもなく、外に出ると目の前には舗装もない道に埃が舞っているだけだ。
雲ひとつない空を見上げれば、大きな太陽と小さな太陽が競い合うように照りつけている。
午前中の陽光が俺を茹でダコにするかのごとくジリジリと肌を焼く。
ああ、確かにここは異世界なのだ。宿屋は普通にボロいだけだったからちょっと不安だったんだ。とうとう俺は来ちまったんだ。ウエルカム・トゥ・ニューワールド。
道を行き交う冴えない服を着た村人風の人、厳つい鎧を身にまとった冴えない戦士風の人など、誰もが異世界情緒たっぷりに俺を無視しやがる。
エルフやオークのような「お前それ、特殊メイクちゃうんか?」といった風貌の人々がいないのが残念だ。
その代わりと言ってはなんだが、身なりの整ったデブのオッサンが酷く薄汚れた数人を引き連れて歩いているのが目に入った。あれはもしかして噂に名高い奴隷商人?
「あの、お待たせしました。冒険者ギルドに行きましょう」
後ろからプリセラの可愛い声が聞こえて振り返る。宿屋の支払いをしてくれたのだ。
俺はここの通貨を持ってないからな。
最強のヒモになったらいくらでも出世払いしてやるぜ。
まだヒモ属性はレベル1だ。
「あの、それにしてもシオン様は冒険者ギルドなんてよく知ってましたね!」
「フフン、知らいでか! こんなこともあろうかと、昔『完全異世界マニュアル ~誰にでもできる世界征服編~』っていうのを熟読したからな!」
「か、かんぜんいせかいまにゅある……ですか。ま、まさかそんなものがあるなんて……」
「そう、完成していたのさ。世界征服は大げさ過ぎるけどな。で、マニュアルによるとだな、
1.異世界に飛ばされる。(なんとかロードが開く場合もある)
2.冒険者ギルドに登録する。
3.女奴隷(幼女)を買って仲間にする。
4.くっころ女騎士を助けて仲間にする。
5.女王(ホントは強い)を助けて仲間にする。
6.魔王を倒す。
7.世界統一王座(超ヘビー級)に就く。
8.世界征服完成!
と、まあこんな感じだったかな。だから、早く冒険者ギルドに行って奴隷を買おう!」
俺の説明を聞いて、プリセラが目を丸くする。きっと俺の完全計画に驚いたに違いない。
そう、さっきはオタオタしたが、計画を思い出したからには世界征服したようなものだ。
ルートに従って行動すればオートプレイでカリスマまで一直線だ。
なんたって(超ヘビー級)だからな。
「あの、えーと、くっころも気になりますけど、ど、奴隷を買うんですか……?」
「あ、なんかマズい? この計画に沿って行けば100パーカリスマになれると思うんだけど。ちょっとぐらい違法でも目を瞑ってくれるよね? 俺の嫁なんだし」
「あの、違法ではないですが――」
「よし、じゃあ、早速冒険者ギルドが何処にあるか調べないとだな。
あ、プリセラは冒険者ギルドが何処にあるか知ってる?」
「――嫁じゃなくてですね、あの、えっ? ああ、それはこの道を北に向かってすぐ正面にある建物です」
プリセラはさっきから何か言いたそうだが、亭主は関白であるべきなのだ。
女は3歩下がってついてくればよいのだ。
とにかく、このまま北に向かえばいいのだな? 北ってこっちでいいんだよね?