第03話 童貞でも娘に名前つけていいんですの回
目を覚ますとそこは部屋の一室だった。見たこともないような板張りの天井が俺を迎えてくれる。
「知らない、天井だ……」
とりあえずお約束で言ってみた。見知らぬ天井なんてどこにだってある。自分の部屋以外は全部そうだ。他人の部屋の天井をいっぱい知ってるようなリア充は爆発しろ。
つーか、なんか俺、喋れてね? たしかあのポンコツロリ女神様は転生って言ってたような? 言ってなかった? 転生って強くて赤ちゃんからじゃないの?
「おはようございます。無事転生出来ましたね。これからお伴させて頂きます、神の分身です。ご不明な点がございましたらなんなりと仰って下さい」
自分のものより硬くてゴワゴワしたベッドの隣にセミロングの金髪美少女が鎮座坐していた。窓から差し込む朝日に照らされて美しい顔が輝いて見える。外では鳥が啼いている。
これが噂の朝チュンってやつか! 初めての経験にボクの心臓はドキドキのフットー状態だよ? って、うん、違うね、知ってる、知っているともさ。ちょっとくらい夢見たっていいじゃない。
「あ、ああ。えーと、アバターさん? 初めまして、俺じゃなくてボクは木練紫遠っていいます。あの、色々わからないことだらけだと思いますけど、よろしくお願い致します」
よ、よし。挨拶を噛まずに言えた!(ちょっと噛んだ)こんなの小学校の自己紹介以来の快挙だ。初めてのコンビニバイトで最初で最後の客にブチ切れられたときくらい緊張したわ。
アバターはきょとんとした眼で俺を見つめ返す。ああ、もうヤバイ、これだけでご飯3杯じゃ足りない! 俺、今日の出会いを一生の宝物にします! ありがとうロリ女神様!
「そんなに畏まらなくてもよろしいですよ、それとアバターは役職みたいなものですから。これも何かのご縁ですシオン様が私の名前を付けて下さいませんか?」
小さい桜色の唇から鈴の鳴るようなコロコロとした澄んだ声が発せられる。こんなのご飯が何杯あっても足りないぞ!
メデーック! 箱じゃ足りない! ダンボールごと寄越せ! 生命のある限り使い果たしてみせる!! っていうか異世界にティッシュなんてなくね? それって結構緊急事態じゃね?
「っていうか!! 俺が、キミの、名前を、付けて、いいんですか? マジで? ホントに? 後悔しない?」
それって実質俺の娘ってことだよね? そんなこと赦されていいんでしょうか! いいんです! ここは異世界だからいいんです!
異世界って夢の世界のことだったんだ。俺の欲望を忠実に叶えてくれる桃源郷! 童貞オタクでも、ワンデーパス買って炎天下に行列しなくても夢の国に行けるんだ!
「あの、あんまり興奮なさらないで下さいね。こちらの世界に来たばかりなので戸惑ってらっしゃるようですけど。言葉は今までと同じように使えます。文字も読めるはずです。
知識などはヴォルフガング様の魂から継承されているはずなので、少しずつ使えるようになるとのことです。最初はわからない事ばかりかも知れません。私の名前も無理せずアバターのままでも構いませんよ?」
なんて健気な! この可愛い声をずっと聞いていたいくらいだ。グロ好きポンコツ女神のアバターとはとても思えない。
つか、そう言えばアバターも転生って言ってたよね? 俺って今どんな姿なん? アバターと釣り合い取れるイケメンになれてますか?
「無理じゃない、無理じゃないよ! ありがとう、アバター。……アバターってなんかやっぱ変だね。えーと……女神、姫、プリンセス……プリセラとか、どう……かな? い、いい、嫌だったら他に考えるけどっ!」
いかん、初めての経験過ぎておもいっきり前傾姿勢なのが自分でも分かる。こんなん引くよね? ドン引きだよね?
ハァハァと鼻息の荒い俺の前掛かりな応答にもアバターはビビった様子はない。事案じゃないから、通報は無用でお願いしますから。
「プリセラ、ですか。あの、ありがとうございます! 私、産まれて初めて自分だけの物を戴きました! 一生大切にします! シオン様!」
プリセラは思いの外感激したのか、その大きな瞳に薄っすらと涙を浮かべて俺に感謝している。なんていい子なんだ。適当に思いついた名前なのに!
アカーン! この娘ええ娘や! 可愛すぎる! もう食べてしまいたいくらい! あの、俺別に関西人とかじゃないんですけど。気分的にそんなテンションですわ!
神様、ボクもこの娘を一生大切にします! もう誰にも渡さへんでえ!