第01話 ポンコツなロリ女神に出会うの回
俺、木練紫遠は夢を見ていた。何台ものトラックに突撃される夢。
4トントラックが一斉に俺に向かってくるのだ。恐怖以外の何物でもない。
ところが俺ってもう5年は家から出ていないのよね。
だからトラックに『突撃!隣の通行人』されるなんて冷静に考えておかしい。
故にあれは夢だ。間違いない。証明終了。
「あの、そろそろ……」
「へっ?」
なんだか聞き慣れない声。凛と澄んだ、キレイな声が俺を誘惑する。
膜から声出てるみたいな?
アニメつけっぱで寝落ちしたっけ? 新人? いえ、知らない声優ですね。
「そろそろ、お話しても宜しいですか?」
「ええ、宜しくってよ……んっ? ってひょっとして俺に言ってる?
女子に声掛けられるのって、その、ものすごく、久しぶり、なんですけど?」
「えっと、それは光栄です。あの、突然で申し訳有ありませんが、貴方は残念ながらお亡くなりになりました。
トラックに轢かれて享年23歳ということになります」
目の前で美少女が喋っている。なんだか、透けそうなくらい薄手の白いロングドレスに床に届くほどの綺麗な金髪をした北欧系の白人美少女だ。
ワンショルダードレス、ヒラヒラのスケスケですごく無防備な感じ……とても素敵です。
いけない蕾が見えても知らないんだからね?
「ん? 今なんて? 俺が死んだって言った? トラックに轢かれて死んだって言った?」
「ええ、そのとおりです。誠にお気の毒でなりません。
お忘れのようですのでご説明しますと、木練紫遠様は歩道を歩いていてトラックに轢かれました。
まず1台目、トラックが迫ってきた所を素晴らしい反射神経でこれを躱します。
次いで現れた2代目もこれまた躱しますが、危うく眼鏡が割られます。
そして3台目はついに躱しきれず、右足を轢かれて腓骨と脛骨が粉砕されます。
とうとう4台目が直撃して、無残にも腎臓・肝臓・膵臓が次々と破裂――」
「いやいやいやいや、なに? なにその超絶カースタント! しかも描写がやたらとグロいよ。
4台目ってなに? ダンスアイドルだって3代目だよ?
香港映画のエンドロールでNGシーンやってんじゃないんだよ? つーか君、誰?」
俺のグロい死に様を嬉々としてくれる見たこともない美少女。
「あ、申し遅れました、私、貴方達に神と呼ばれる役職に就かせて戴いてる者です」
おおう、女神。この娘の正体は女神様らしい。ああっ、女神さま! っていうかむしろロリ?
可愛い顔してグロ怖い事を言うロリ女神。
大きな碧色の瞳を爛々と輝かせている。怖くて可愛い。
あかん、これドキドキするヤツや。吊り橋効果や、惚れてまいますよ、マジで。
「……とにかく、貴方は現世ではお亡くなりになりました。お若い身空で生命を散らした事でとても無念だと思います。
そこで、紫遠様には新天地で存分にお力を振るっていただきたく、こちらにお喚びしました」
「いや、若い身空に生命を散らすのはいっそのこと大歓迎なんだけど……お喚びしました?
何それ、あ、ひょっとして、これって巷で流行中のトラック転生とかじゃないよね? ドッキリ?」
ロリ女神の瞳が一層見開かれて俺も眼が釘付けになる。
スゲー、こんな美少女と至近距離で見つめ合えるなんてもう死んでもいい!
あ、もう死んでる? ホントに? そう言えば、なんでか心臓がドキドキしてない気がするじゃん。なんかちょっと残念じゃん。
「紫遠様、さすがですね!ご理解が早い! それではこれから貴方に特別な力をお渡ししたいと思います。ご準備は宜しいですね!」
「ちょちょちょ、ちょい待ち、待って、ご準備は宜しくない。展開早い、早い。っていうかほら、それって選べないの? こういう所でくれる能力って超絶なやつが定番じゃん?
死んでも死なないとか、俺だけ地球と往復できるとか、異世界なのにエアコン・ネット環境衣食住性奴隷完備、家賃無料の地震に強い家に住めるとか?」
俺は持ち前のあらゆる知識を総動員して現状を理解しようと務める。
このままでは何もわからないまま強引に転生させられてしまう。
「せ、性奴隷? ……あー、残念ながらそういった能力は現在、在庫を切らしておりまして……」
途端に歯切れの悪いロリ女神。つか、なんだよ能力が在庫切れって、使えねーな。
クレーム入れるぞ? ニートクレーマーの本領発揮やぞ? 炎上しても知らんからな。
「じゃあ、あれだ、俺の能力が知力、体力、魔力が最大レベルになる系。これなら品切れ問題なし!
俺の能力を強くするだけだぜ? 超地球人! みたいのを、是非!」
「ああ、紫遠様の全部の力が100倍とかいうタイプですね。それは何ていうか扱いが大変な能力ですね。
ちょっと他人に触れただけで腕がもげたり、くしゃみで肋骨や肺がグシャグシャになったりしますよ? 本当にそれでも宜しいですか?」
っつかこのロリ女神、説明がいちいちグロい。他に言いようがあるだろう。
しかも、妙に俺に薦めたくないみたいな言い方、なに?
「じゃあ、他に何があるってのさ」
「そうですね! おすすめは史上最強の魂を紫遠様に憑依させるタイプです! コレは凄いですよ!」
打って変わってに饒舌になるロリ女神。もしかして喜怒哀楽が激しいタイプかな。
躁鬱とか患ってないといいな。美人に多いって言うし。
「私の知る限り最凶の力を持った人間です!!!! "強き者を殺し、弱き者を殺す"が存在意義と言っても過言ではない、史上最強絶対無敵の殺戮者です。
敵を滅殺し、味方を抹殺した、神をも畏れぬ『六界の覇王』。民衆は恐れ慄いて彼の事を『降臨せし魔天』と呼びました。
一日に最大3500人を虐殺し、一週間休みなく続いたそれは『血の七日間』と呼ばれ、世界は屍山血河の巷と化しました! また、彼は強力な魔法の持ち主で――」
「ちょちょ、ちょい待って待って、ストップ、ストップ! 何の話? ねえ、それ何の話?」
熱に浮かさたように、活き活きと恐ろしいことを滔々と語りだすロリ女神に着いて行けない。
熱弁に水を差されたロリ女神がギロリ、と俺を睨みつける。
おお、怖い、怖可愛い。あれ? 俺、なんかマズイこと言った?
「これから、貴方に、お渡しする魂の説明をしているんです! 黙って聞いて下さい、どこかわからない所ありました? もっと詳しく説明します?」
凄い怒られてるんですけど。この人ひょっとしてあかんタイプの神様じゃない?
完全に暴走してる感じだよ?
「うん、全部がわからない。何でその人限定なん?
こう、もう少し常識を持った節度ある魂じゃだめなの?」
「ああ、そのことですか」
女神は余談だとばかりに説明を始めたのだった。
本日中に第02話をアップ予定