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仮面と奴隷と不思議な世界  作者: エイシ
序章:仮面と奴隷と不思議な世界で
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008話:午後の憂鬱

 変化する仮面を急いでバニーの手から取り上げる。


 ――『【魅了のマスク】を手に入れた』――


 新しいマスクを吟味する暇はない。

 俺は直ぐに【真のマスク】へと仮面を入れ替えて顔につける。

 よし、何食わぬ顔と言うのもおかしいが、あとは普通の態度を貫くだけだ。




「あ、れ? 今なにか……?」


「ん? どうした?」


「い、いえ、たぶん気のせいです……」




 うん。気のせいってことにしてくれ。

 それにしても、やはりこの仮面の力ってのは他人の顔に仮面をつけることで新しい仮面を手に入れられるみたいだ。

 魅了……? 【鑑定のマスク】同様、名前の通りの力を持つならば他人を魅了する能力のある仮面だろう。


 何にせよ、仮面の力はまだまだよくわからないことが多い。

 実験……するのは無理だろうな、寝ている人の顔につければいいのかもしれないがそんな状況ほとんどないと思う。

 基本的に他人に知られたくないからどうしようもない。仮面について考察するのは今は諦めよう。


 俺達はその後、弁当屋も見つけたのでそこで弁当を買って公園の木の下で食べることにした。





「はい、シン様お口を開けてください……」


「シン様、こっち……」


「ぼ、僕のお弁当もどうぞ……うぅっ……」




 バニーやコレットが所謂「あ〜ん」をしてくる。上手く仮面に空いている口の所から食べ物を突っ込もうとしてきやがる。

 それは嬉しいのだが、何故かロアは泣きながら弁当箱ごと俺に差し出して来た。

 奴隷である三人な俺に気にいられようと必死だ。

 ただ少々必死すぎないだろうか……?


 本当は何を思っているのか、俺は彼女達にどう思われているのか。

 先ほどの男が言った言葉を思い出す。


 ――仮面? はぁ、気持ち(わり)ぃなっ!


 だからだろうか?

 その笑顔が本当のものなのか。

 バニーとの距離は本当のものなのか。

 コレットの好意は本当のものなのか。

 ロアの懸命さは本当のものなのか。

 何故か考えてしまう。少しだけ胸が苦しい。


 少し遅い昼食後、ミラ達に渡すパンを買って俺は奴隷達を奴隷商へ送って行った。

 どこかへ泊まらないのですか!? と、驚かれたがきっと彼女達も薬草摘みに俺への接待にと久しぶりの外出で疲れているだろう。

 他人を信用出来ない自分を忘れるようにそう言い聞かせて連れて行った。


 ロアなんかは泣きながら「僕は役に立てましたか?」と聞いてくる。

 買う価値はあったかと問われているようで、それでいて、百八十万で買ってくれと暗に言われている。

 善意に潜む利己心。そう思えてしまう自分の思考が凄く辛かった。


 あー、ちょっと鬱入ってる気がする。

 寝よう、こういう時は寝るのが一番だ。

 カバンにパンパンに詰め込まれた薬草は昼寝から目覚めたら冒険者ギルドへ持っていこう。

 冒険者ギルドは奴隷商と同じく二十四時間営業なので依頼達成の報告時間は気にしなくて良い。


 俺は早めにいつもの宿へチェックインすると、久しぶりに仮面を外して眠りについた。










 ◇◆◇◆◇


 暗い、暗い、暗い部屋にいた。

 ぼおっとパソコンのディスプレイが光っている。

 あぁ、覚えている。これが自分の部屋だということを。


「俺は元の世界に帰りたいんだ!」


 ……お前さっきの……っ!? その学生服、まさか……!!


「そうだ、俺はお前の同級生の――だ!」


 ……なっ!? あ、あれ!? か、仮面、仮面がないっ!


「俺は元の世界に帰りたいんだ、だから……」


 そいつがクラスの一員じゃないことは分かっている。

 だけど、確かに着ているのはよく見知った高校の制服だった。


 そして、仮面がなかったんだ。

 自分の顔をいくら触ってもそこにあるのは素肌。

 焦るせいか幾ら念じてみても手の中に仮面は現れない。

 そして、眼前にゆっくり迫る黒い制服……


 そして、そいつは告げた。





 ――死んでくれ。


 ◇◆◇◆◇◆









「ッハアッ!! ……ゆ、夢?」


 ベッドの上で目覚めた俺は汗びっしょりになっていた。

 外からは赤い日差しが窓を通って部屋を照らしている。

 時刻は夕方。そうか、昼寝していたんだ。


 手元にはいつも通りの白い【真のマスク】がある。

 決して出したりも出来る。【鑑定のマスク】も同様だ。

 そして今日手に入れた【魅了のマスク】も出せた。


 【魅了のマスク】……銀色の半面のマスク。

 以前映画で見たオペラ座の怪人に出てくるファントムが付けているような顔の半分だけを隠す仮面だ。

 【真のマスク】とは異なり、顔の形に沿って起伏が付いており、また表面には蔦と薔薇のような模様が描かれている……

 一番デザイン的にも怪しくないかもしれないな……

 ただ、顔バレしそうだ。

 一通り観察した後、俺はさっそく顔に付けてみる。




 ……はぁ、それにしてもなんだか心地悪い夢を見た。


 気分転換に冒険者ギルドへ行ったあと、もう一度ソフィアでも探してみよう。

 そんなことを思いながら宿屋から出る。

 外は既に薄ら暗く、界隈からは晩飯時の良い匂いが漏れ、街道には昼とは違う夜としての賑やかさが溢れていた。

 鑑定のマスクと違い特に今の所この仮面の魅了とやらが目に見えて出ている訳ではないが注意深く歩こう。





「で、その仮面の少年に嫌われてしまったんだよぉぉぉ……」




 街を歩いているとふと、気になる声が聞こえてきた。

 仮面の少年? もしかして……俺?


 どうやら右手に建つ一件の酒場から聞こえてきたようだ。

 店名は……『ホストクラブ・ショウ』。


 ……はっ!?


 ホスト!?

 いったいどういうこっちゃ……!?


 ホストクラブのある異世界なんて聞いたこともないがこれは……?

 少しだけ扉が開いている。

 誰も出入りしないようなのでコソッと覗いて見た。




「いやぁ〜!! ソフィアさん良い飲みっぷり! 流石、アルハス一の女騎士!!」


「えっ、そ、そうかなぁ……私なんて、腐れ騎士なんて言われててハハハ……」


「え!? 誰ですかそんなふざけたことを言う人は……この美しい青い瞳、綺麗な金色の髪、白い肌、あぁ君はまるで天使のような人なのに……そんな君に『腐れ』なんて似合うはずがない!」




 あー。うん。

 見たことある女性が黒髪の男に酒を注がれていた。

 因みに今更だがこの街は『アルハス』と言うらしい。

 王様も住んでいるデッカイ王都だよ。


 本当、何してんのソフィア……

 いや、そんなことより俺が気になるのは隣に座る男だ。


 あいつ、今日の昼過ぎに俺とぶつかった男じゃないか……


 気になって【鑑定のマスク】を使うと驚きの情報を手に入れる。




「ショウスケ・フジイ……転移者!? 年齢は二十三歳、ホストクラブ・ショウのオーナー……! あの人、ここの店長か……?」


「へー君もウチの店長のファン? ってあれ!? 君、男?」


「あっ、スイマセン!」




 入口から中を覗く俺に話し掛けてきたのは『キャッチ』とやらをしている金髪のイケメンだった。名前はレオンというらしい。名前までイケメンか、爆発しろ。





「いや、別に気にしなくていいよ? それより、なんか君もそのマスクが神秘的と言うか、魅力的な雰囲気がするよね? 体験入店してみる?」


「えっ、いや遠慮しときます。それよりあの店長って……」


「あぁ、このホストクラブシステムを一代で作り上げた伝説の人さ、もうすぐ支店も出す予定なんだ! 今この王都で噂の人と言ったらウチの店長だよ! しかも、ショウさんはどんな女性にも甘い言葉をまるで本当にそう思っているかのように囁けるんだ……特に酷い顔の女性であればあるほどね! そこが凄い所だよ!」





 異世界転移で知識チートや技術チートってのは色んな小説で見てきたけど、ホストかぁ……

 転移者はこの世界で言う所謂不細工であればあるほど綺麗に感じるから合ってるっちゃ合ってるのか……?




「今日のお客さんはなんだか凄く金払いが良いらしいからとんでもなく偉い人なんじゃないかって噂でね、なんと店長自ら接客してるんだよ! こんなこと珍しいから見れた君もラッキーだと思うよハハハ……」


「そ、そうですか……はは。あっと、それじゃ俺はこの辺で……」




 去り際にお金に困ったら是非僕を頼るんだよと言ってきた。

 レオンさんはどうやら性格までイケメンのようだ。

 ん? いや、でも魅了されてる雰囲気もあったな。

 うーん、この仮面の効果、イマイチ分かりずらい。


 それにしてもソフィアは大丈夫だろうか?

 凄い騎士とか言われているが実際にはFクラスの冒険者だからな……金払いが良いのはきっと月光石の欠片のおかげだと思うんだけど……

 あの転移者の目的がなんなのか分からないから少し怖いな……


 若干の不安を抱えつつ、俺は冒険者ギルドへ向かった。 







 冒険者ギルドで薬草の依頼達成報酬を受け取った後、何をしようか考えているとふと決闘場の方が騒がしいことに気が付いた。

 昼寝して目が冴えている俺はさっそく見に行ってみる。


 人集りが凄い。酒を飲みながら大声で歓声を上げている人ばかりだ。

 決闘場は簡易的なコロシアムのような作りでその中央で今まさに戦っていたのは……


 熊男ダイナだ!


 あいつまた決闘してんのか……好きだなぁ本当。


 しかも相手はどう見てもダイナより二回りほど細い体の褐色肌の女騎士。銀色の鎧はソフィアの付けている鎧によく似ていた。

 あいつ弱い者いじめやめろよな本当に……


 などと思っていたのだが、どういうことかダイナの方が翻弄されているではないか。


 ダイナが斧を横一線に思い切り振るう。

 危ないっ! と思いきや、その褐色肌の女性は一歩下がって斧の間合いから距離を取り見事に避ける。

 さらには空を切るダイナの大斧を蹴りあげてみせた。


 うぉぉぉ!! とギャラリーが湧く。


 それで、むきになったダイナが斧を縦横無尽に大振りするが、その騎士は次々と斧の当たらないスペースに身体を動かし紙一重でその全てを避けきった。


 す、すげぇ……めちゃくちゃ強いじゃん。


 うがぁぁぁあああ!!

 と、まさに熊のような大声で気合いをため、大斧を振り上げるダイナ。

 今更だが、あれ一撃でも当たったら死ぬよな?

 決闘ってこんな死と隣り合わせだったのか、今度誰かに決闘申込まれたら逃げようダッシュで。


 そして、ダイナのその全ての力は悠然と立つ女騎士に降り注いだ。


 キィィィン!!


 金属がぶつかる高音が決闘場に鳴り響く。

 立っているのはダイナと、そして褐色の女性騎士。

 斧はたった一本の細い剣によって止められていたのだ。

 それは一瞬。

 腰から抜刀し、斧に打ち合わせ、その勢いを殺して見せたのだ。


 再び会場がワッと湧く。


 剣を構える姿はスライムを切るソフィアにどことなく似ているのだが、その格は彼女より遥か高みにあるように感じる。

 何倍も大きな斧とのつばぜり合いにおいても引くどころかビクリとも動かずに笑みを浮かべている。

 そして次の瞬間に決着はついた。


 痺れを切らしたダイナのほうが斧を強く押し出し、その反動で後ろに下がる。

 と、その瞬間まるで押されたという事実がなかったかのように、騎士の剣はつばぜり合いの姿勢からそのまま振り下ろされた。

 それはダイナが身を引く速度よりも早く、剣は一瞬の内にダイナの首元に迫る。


 そうして、首元に剣が突きつけられたまま一拍。

 ダイナは斧を地に放り出した。


 勝敗は決まったのだ。

 勝ったのは褐色の肌の女騎士だった。


 うぉぉぉぉぉおおおおおお!!!


 大歓声の中、女騎士は片手を上げて応える。

 ダイナの方はバツが悪そうに斧を引いて退場していた。

 しばらくダイナに話しかけるのはやめよう。絶対に機嫌悪いよあれ。





「はぁー面白かった。それにしても誰だろあの人。あんな強い人いるんだ」


「お? 君ルーキーかい? あの人はSクラスの冒険者、神剣(しんけん)騎士ユリアさんだよ」


「えっ、S!?」


「そうそう、強いよね! 私達のパーティ『ラヴィアンローズ』も皆ユリアさんのファンなんだよ! 君ルーキーなら色々教えてあげるから少し話さない? 私アイ! んで今君に話しかけたのがハンク、あとこっちが……」


「……俺はバッツ。よろしく」






 確か、ギルドの頂点がクラスSSS(トリプルエス)通称“トリプル”と言われてる人で一人しかいなくて、次いでSS(ダブルエス)のダブルが三人、そしてSクラスが六人だったはずだ。

 あの人冒険者ギルド上位の十人の内の一人かよ……そりゃ強い訳だ……


 俺は面白いもん見たと思いつつそのお誘いを快く受けた。

 【魅了のマスク】の効果だろう。以前むしゃくしゃして絡まれた時の謝罪という訳でもないのに先輩達が優しい。ダイナとは違うな。


 俺に話しかけてくれたのはCクラスの三人組冒険者だ。

 男二人に女一人のパーティでなんでも最近田舎のギルドからユリアさんのいるこの王都のギルドに移転して来たらしい。田舎ではCクラスの冒険者はかなり優遇されるらしいが、ここではそうでもなくて大変だと言っていた。

 男性はアタッカーで優しそうな剣士ハンクさんとディフェンダーで無言な大盾持ちのバッツさん、そして女性はおしゃべり魔法使いのアイさんだ。全員十八歳らしい。俺の一つ上か。


 皆田舎っぽい大人しそうな顔だが、アイさんなんかは磨けば光るような顔だと思う。

 でもまぁ、磨かないんだろうなこの世界的に……





「そうそう、それでダイナはいっつもユリアさんに戦い挑んでは負けてるの! あれはもう愛情表現だよね本当に! 戦いの中に芽生える愛……燃えるっ!」


「へぇ、ユリアさんってやっぱり強いしSクラスともなるとモテるんですか?」


「ははは……そうでもないんじゃないかな? ユリアさんは一応騎士爵を持ってるし収入もすっごいんだろうけどそんなに浮いた話は聞かないな。アイは同じ女性だからこんなこと言ってるけど、僕もファンではあるけど女性としては見ていないしね、顔があれだからさ……」


「“あれ”……?」


「……俺も女性としては遠慮する……」


「え? ねぇ、“あれ”って……」



「ほう……私の顔があれだと? はて“あれ”とは一体何なのかな、んー?」





 ギルド内にある長椅子に座り話をしていた俺達の所に突然声がかかる。

 俺の後ろに立っていたのは褐色の肌、白い髪、そして紋章の入った銀色の鎧を身に纏う超絶美女。

 その顔は俺が今まで見たことがないほどに整っており怖いくらいに完璧な物だった。

 “あれ”とはこのことだったのである。恐らくこの世界では畏怖されるほどに酷い顔になっているのだろう。

 そう、彼女こそが神剣騎士ユリア・シーカーその人だった。

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