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仮面と奴隷と不思議な世界  作者: エイシ
序章:仮面と奴隷と不思議な世界で
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005話:月光石の欠片

 朝から朝食も食べずに冒険者ギルドに行くと早速、恩人であるソフィアさんを探した。

 鑑定のマスクでギルド内を片っ端から人の名前だけ見ていく。

 すぐに依頼書を持ってウロウロしている所を発見した。


 名称:ソフィア・ルーラー

 種族:人間族

 性別:女性

 年齢:十七歳

 ……


 あ、俺とタメなんだソフィアさん。

 とりあえず【真のマスク】に戻して声をかけるか。




「あ、あのーこんにちは」


「……」




 一瞬だけチラリと見られた後無視される。

 えっ!? なんでよ!?

 俺は心が挫けそうになりつつもなんとかもう一度声を掛けてみる。




「ソフィアさん、こんにちは」


「えっ!? わ、私かっ!? ここここんにちはっ!!」




 凄くビックリされた。

 昨日助けて貰ったお礼と、全部擦りつけてしまった謝罪を行うと、やっと誰だか理解してくれたようで逆に回復魔法を掛けてもらったからと感謝された。

 とりあえず、朝飯もまだだったので何か奢ると申し出ると再度ビックリされる。




「えぇっ!? す、すまないな、実は金欠で困っていたんだ……! 有り難く頂こう」


「まぁ俺も朝食まだだったので。確か、ギルドで軽食を売ってるんですよね?」


「あぁ、ホットドックを売っている。し、しかし、私なんかと二人きりで、その、いいのか? えっと……」


「あぁ、スミマセン、俺はシンです。ヨロシク。別に二人で構いませんよ? 昨日のエルフ二人は実はレンタル奴隷ってやつだったんですよ、ハハ……」


「いや、シン君が構わないなら私はいいのだけれど……」




 そう言いつつも、ホットドックを買って席に着いてから盛んに周りをキョロキョロと見回すソフィアさん。

 全然構っている。周りの視線をめちゃくちゃ気にしていた。


 そう言えばホットドックは転移者が広めたのだろうか?

 味もけっこうイケた。





「今日は依頼を受けに来たんですか?」


「あ、あぁ、金欠でな……割の良い依頼があったんだがパーティを組んでくれる奴がいなくてな……」




 パーティとは共に依頼を遂行する仲間のことで、共有財産をギルドに預けられる口座を得られたり、条件を満たせば依頼等でも優遇が受けられる制度だ。

 ただし、一度パーティを作成すると半年は解散出来ない仕組みがあるので簡単には申請できない。一応、クラン内でのパーティ変更は可能とか特例はあるみたいだけど、パーティもクランもまだ俺には些かとっつくには早い制度だ。


 そして、今回ソフィアが言う『パーティ』とは制度上のパーティではなくて、単に一緒に依頼を受けてくれる仲間の意味だろう。

 先程から彼女がチラッ、チラッとこちらを伺ってきている。

 俺は【真のマスク】を付けているので表情は読めないだろうに……

 それにしてもわかり易いな、なんだか可哀想だしとりあえず話を聞いてみるか。




「どんな依頼なんですか?」


「ドブさらいだ!」


「……え?」


「スライムが大量発生してしまったドブを洗浄する依頼だ! なんと、水が通るようになれば二万ガルドも報酬を貰える! けっこう良い金になるだろ!? だけど、スライムの相手とドブさらいを同時にやるのは一人だとキツくてな……」


「あぁ、そ、そうだね……」





 もっとダンジョン探索とかを考えていた俺には拍子抜けだったがスライム、つまりモンスター見たいという気持ちが湧いて来る。

 俺はソフィアさんが持っていた依頼書――コピーされた物だが――を盗み見ると依頼クラスもGだった。俺でも受けられそうだな。





「じゃあ一緒に受けましょうか?」


「え!? 本当かっ!? い、今更ウソとかはなしだぞ! 同情だとしても嬉しい、ありがとう!!」




 凄く感謝されました。

 因みに報酬は半々で、スライムはソフィアさんに任せて俺がドブさらいをする役割分担にした。

 流石にレベル一で戦闘する度胸はない。

 パワーレベリング出来るかはわからないけど、とりあえず今回ので経験値分けて貰えるのか様子を見てみよう。


 俺達はさっそく依頼書に指示された町外れまで向かった。

 俺の荷物は常に持ち歩いてるカバンと杖、それからスコップ。

 カバンは肩かけ出来るので楽だ。

 一方、ソフィアさんは騎士鎧に帯剣、麻袋を担ぎつつスコップだ。

 スコップのせいで全く絵にならないな。





「そう言えば、シン君はなんでずっと仮面を付けているのだ?」


「あぁ、えっとこれは色々と事情がありまして……」


「あっ、いや、す、すまない! 別に色々と人の事情を知りたがる趣味がある訳じゃないんだ! ただ、珍しいなって、気を悪くしたなら謝る!」


「えっと、いや別に気は悪くしてませんよ? まぁ人様に見せられるような顔じゃないんだと思ってください」


「そ、そうか、でも私は気にしないぞ? そんなこと言ったら私こそ人様に見せられないような酷い顔だからな! ハハハ……」


「いや、ソフィアさんはすげー綺麗な顔してますよ? あっ、もしかしてドブってあそこですか……?」


「え、え、そ、そ、そそそそうだなっ!! ドブだ、ドブ! わ、私が綺麗な顔のドブだ!!」


「……え?」


「ゲ、ゲフンゲフン。す、すまない、取り乱した。えっと、うんそうだ。ここがそのドブで合っている」





 自虐ネタを始めたので、フォローしつつ話題を変える。

 なんか明らかに半透明なオレンジ色の物体がそこらに見え始めたからだ。

 目も鼻もないゼリー状の物体、こいつがスライムか。

 体の中心には石ころが見える、恐らくあれが魔核、つまりモンスターの心臓なのだろう。


 丁度その時遠目に見える小屋から一人のおじいさんが出てきてこちらにやってきた。




「お主ら依頼を受けた冒険者か? ワシがここの水路の管理者なんじゃがつい二週間ぶりに来てみればこの有り様だったんじゃ。ワシゃ近寄りたくも無いんで小屋にいるあとはヨロシク頼むのぉ……」


「任せてくれご老人。よし、では歩きながら依頼を確認しよう……シン君、ほら左の方に見える水路がせき止められてしまっているだろ? あれをこの右側にある水路まで通すのが今回の依頼だ……ッ!! はぁっ!」



 ザンッ!!



 突然腰から剣を抜くとソフィアはそのまま俺の後方に向かって縦一線に振り下ろす。

 振り返るとそこには真っ二つになったスライム。

 おぉ、お見事!

 ゼリー物質は水のように地に広がり、魔核だけが残った。




「い、一応私は護衛しなければならないからな。今からは君にピッタリとくっつかせて貰う。嫌かもしれないが、が、我慢してくれ! そ、その代わり魔核は私とシン君と半分こにしようじゃないか」


「はい、気にしませんのでヨロシクお願いします。それと魔核は全部差し上げますよ? ドブさらいで一万も貰えればかなりの儲けもんですし……」





 いや、むしろソフィアさんとくっついて行動できるだけで御褒美です!

 等とは言えない。

 一応、転移者であることやこの仮面が固有(ユニーク)スキルであることは隠しておきたいからな。

 なんとも面倒だ。


 はぁ、臭い……土砂と言うよりヘドロだなこりゃ。

 俺は用意されていたスコップでその泥を次々とかき分け、俺の側では近寄って来るスライムをソフィアさんが薙ぎ払いまくっていた。

 スライムの体は酸性でずっと触れていると溶けてしまうらしいが、一瞬で切り伏せることでダメージを全く受けることなく倒せるらしい。

 完全初心者向けのモンスターだ。


 そんなソフィアさんを他所に暫く掘り進めていると、ふと俺は泥のような土砂の中にキラキラ光る小さな粒があることに気付く。

 なんだあれは……?




 こういう時はあれだ、【鑑定のマスク】!


 マスクをつけた俺の視界に拡がってきたのは……




 ……

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 月光石の欠片

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 月光石の欠片

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 スライムの糞

 ……





「うぉぉぉい!!! これ、ただの泥じゃなくてスライムの糞じゃねぇか!!」


「ん? そうだぞ、だから洗浄の仕事だと……」


「く、くそー! 体中糞だらけだ……てか、ソフィアさん女の子が受けるような仕事じゃないよコレ?」


「えぇ!? お、女の子? 腐れ騎士の私が……?」


「あっ、てか月光石の欠片ってなんですか?」




 危ない、話題を変えよう。

 現地人っぽく振る舞うのって大変だな……

 さっきから気になっていたスライムの糞の中に見えるキラキラした石ころ、鑑定では月光石の欠片と出ている。

 いったいこれはなんだ? 名前からはけっこう凄そうなアイテムに聞こえるけど……





「月光石ってのは錬金術師や魔法使いが触媒に使う魔力の篭った石だ。凄く高価なので万年貧乏な私は見たことがないがな、ハハハ……所でマスク変えたのかシン君?」


「あ、そ、そうなんですよ。気分でよく変えるんです。そっかけっこう高価なんだ。因みにこの欠片っていくら位になります?」


「……え? これ……月光石の欠片?」


「らしいですよ。ここら辺にいっぱい落ちてます」


「うぇぇぇ!? こ、これ一つで千ガルドはするぞっ! な、なんてこった、ここはもしかして宝の山!? うぉぉぉおおお!!! スライム達よ消えろおおお!!!」




 その後ソフィアさんは凄い勢いでスライム達を蹴散らして行った。

 本当にレベル十一なのか不思議になるくらいの強さで、調べて見るとレベルは一レベル上がったのか十二になっていた。

 因みに俺もレベル二になっていた。ありがとうソフィアさん。経験値分けて頂きました!


 目に見える限りのスライムを倒しきると、今度は俺の手伝いでドブからドンドンスライムの糞をどかしていく。

 ねぇ、この依頼ソフィアさん一人でできたよね絶対?


 そうして、なんと昼過ぎには水が通るようになっていた。

 わーい、依頼達成だー! なんて喜ぶのも束の間。

 ソフィアさんは止まらない。


 素手でスライムの糞の中に手を突っ込み、光る月光石の欠片を探し出し始めた。




「シン君、これは!?」

「月光石」


「シン君、これは!?」

「月光石」


「シン君、これは!?」

「ただのツルツルの糞」


 ……





 夕方。

 辺りが暗くなり始めた頃。

 俺達はパンパンなカバンと麻袋を背負って、泥だら……糞だらけな体で冒険者ギルドへ帰還した。

 俺とソフィアさん、二人の顔はとても希望に溢れた物だ。





「スイマセン、依頼が終わったので報酬の受け取りと素材の買い取りをお願いしたいんですけど……」


「はい、了解しま……クサッ!! ス、スイマセン、とりあえず素材の確認と報酬を用意しておきますので、先に裏手の井戸でお身体を洗って来ては如何でしょうか……?」




 ギルドの裏手には確かに井戸があった。

 カバンの中の学生服などは汚さないようにそっと出して置き、後は頭から水を浴びてひたすら汚れを流し落とした。

 隣で鎧を外したソフィアさんと水浴びを続ける……


 ……って! ソフィアさん透けてる!! 透けてるから!!

 急いでカバンから取り出した学生服を被せるが、良かった誰もいない。全く、冒険者は恥じらいがないみたいで困る。





「あ、温かい……」




 ソフィアさんは身を包む俺の学生服をぎゅっと握って顔を真っ赤にしていた。

 風邪ひいたか? 俺も寒いな……こういう時火の魔法とか使えると良いんだけど……はぁ。


 もう日も暮れているので濡れた服を着こんで俺達は冒険者ギルドのカウンターに帰ることにした。

 体を擦りながらカウンターに近づくとなんだか慌ただしい。

 職員の人がバタバタとしていた。




「あっ!! ソフィアさんとシンさんですね!? ちょっと奥へお願いします!」




 俺はソフィアさんと顔を見合す。

 お互いにニヤリと笑みが零れたが、すぐにソフィアさんが不気味なものを見せてゴメンと謝ってくる。

 自虐が酷い。


 冒険者ギルドの奥の部屋ではふくよかなお腹の中年男性が椅子に座っていた。





「やぁ、待っていましたぞ、お二人共! ささっ、座って……今回呼び出させて頂いたのは他でもない、月光石の件です。依頼の方は成功、スライムの魔核もいくつか預かっていますが、いったい何故あんなにたくさんの月光石の欠片を持って来て頂けたのか、そこを教えてくれませんか?」





 やっぱり月光石か!

 この情報は金になる。俺はそう思い無言のままソフィアに視線を向ける。

 俺は仮面を被っていたがソフィアも視線を向けられたらことが分かったみたいだ。静かに頷いた。





「それは水路をせき止めていたスライムの糞の中から拾い出したものです!」


「えぇ!? 言っちゃうの?」


「うぇ!? だってギルドの依頼で手に入れたのだからギルドには伝えねばなるまい! ギルド中に入手したアイテム、情報その他はギルドで買取るためギルド外へ持ち出さないようにと教わったぞ!」


「いや、それでももうちょいこう駆け引きとか……まぁいいか、どうせいつかバレるし」


「ハハハ……、いやぁソフィアさんは冒険者の模範ですなぁ。となると、スライムの大量発生は月光石を食べに来たと言うことか……ふむ、まだ人の生活圏なため強い魔物が住み着くこともなかったのはせめてもの幸いだったようですな」


「え? もしかしてだからあんなに大量の糞があったんですか?」


「恐らくそうかと……いやぁ、情報ありがとうございます。水路の調査と、スライムが寄ってこないよう月光石の撤去をギルドは進めます。今回持ってきて頂いた月光石と魔核は買取りますので報酬と共にお受け取りください。おーい、持ってきてくれ!」





 そう言って小さな袋を持ってくるギルド職員、チャリチャリと音がなっているので硬貨が入っているのだろう。

 でも意外と少ないな……アタッシュケースみたいのを渡されるのかと思っていたが……





「しめて二〇六万と八千ガルドです」




 袋から出て来たのは金色のコインが二枚と小さな銀色のコインが六枚、そして大銅貨八枚だった……


 二百万っ!?

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