表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面と奴隷と不思議な世界  作者: エイシ
二章:教皇区
40/41

035話:教会本部

 バニーのいるであろう教会本部。

 そこはまるで要塞だった。


 俺の中の一般的な教会のイメージは、真白な壁と大きな鐘のついた三角屋根を持つ清潔感のある建物だ。因みにこの世界でも十字架は教会のシンボルらしい。

 しかし、それらはここには存在していなかった。

 ここにあるのは鉄の壁とその前に山のように積まれた沢山のモンスターの死屍累々とした様相だったのだ。




「こ、これは凄いな……」


「あ、あぁ、ちょっと何が起きているのかよくわからない……」


「ほら君達! 入るなら早く入って!」




 神父さんのような人に催促されて、俺とソフィアはその要塞の大きく開け放たれている扉へ向かう。

 そこはせいぜい馬車一台が通れるほどの大きさの扉で重そうな鋼鉄でてきた両開きの扉だった。

 そして、俺達はそこを通り気持ちの悪いデカイ怪鳥やイノシシみたいな奴の死骸を横目にそそくさと教会本部へ入ることが出来た。


 しかし、城塞等と言えるのはそこまでだった。

 この教会は本当に『教会』だったのだ。

 鉄の壁の向こうに広がっていたのは城か何かと見間違えるほどの荘厳とした素晴らしい建物だった。西欧の貴族の屋敷や古城、もしくはモンサンミッシェル、サグラダファミリアと言った元の世界にも在りし素晴らしい建築美にも負けないほどの大きき古めかしい教会が拡がっていた。


 多分この鉄の壁が後付けで出来たのだろう。そう感じるほどに先程までのイメージが崩れ去る。




「うわぁぁぁあああ!! これが教会本部……!! き、綺麗だ……」



 隣のソフィアさんも一気にテンションが上がっている。

 俺は【鑑定のマスク】を着けていたためここまで先導してくれた神父さんに怪しまれていたのだが、そんなソフィアさんに気を良くしてくれたのか色々と話をしてくれた。

 やはり壁はここ最近に出来たもので、邪悪なる者の浸入を防ぐため壁から攻撃出来るよう射撃のためのスペースが作られていたり、上空にも魔法を使ったバリアが張られているのだとか。

 ここから空はよく見えるのだが、あそこにバリアが張られているのか……魔法ってパッと全然分からないな……


 しかし、王国と教皇区の仲は悪くないし、とするとこの壁はモンスターに対してのみの対策として作られたってことだろうか?




「そのとおり、実は魔王復活なんて噂が立っていてね、モンスターが神の威厳であるこの教会を滅ぼし世に魔王の混迷をもたらそうとしてるなんて言われてるんだ。でも大丈夫! 君たちも外の魔物達を見ただろう? 教皇様によってこの聖なる地は守られている、きっと聖女様と協力して魔王なんてすぐに倒してしまわれるよ」


「魔王……ですか」



 聖女もあの黒龍も言っていたな。

 まぁ、俺には関係がないか。早くバニーの所に辿り着かないと。

 それにしてもバニーの役割である『巫女』って単語はこの教会本部でも、昨日寄った町でも全く聞かなかった。

 まだ秘匿とされているのだろうか? なんか教会内部のお偉方にとっては重要な役職らしいが、民衆の認識的にはソフィアも言っていたが百年前に魔王を倒した“過去の人”であり、現在ではその威厳はかなり落ちているようだな。


 なんだよ、教皇と聖女で魔王倒せるなら、やっぱバニー要らないんじゃないか? あの聖女もいがみ合ってないで教皇さんに協力して魔王倒せばいいんじゃないのだろうか。

 まぁなんか両親の話とかも出たし、バニーがどうしたいのか聞こう。すべてはそれからだ。

 それでもし、こんな所へ突然連れてこられて困っているなんて言っていたならば、俺が……




 その後、神父さんは俺たちをお祈りに来たと思っているらしく、大聖堂のような所へ案内してくれた。

 幾人かの教会関係者のような人以外にも結構な数の老若男女がそこにはいて、皆熱心に手を合わせたり目をつぶって女神の像のような物へ祈りを捧げていた。


 神父さんがどこかへ行ったあとも俺達は大聖堂の長椅子に腰を落ち着けていた。俺の隣ではソフィアが何かを祈っている。

 さて、これからどうするか。

 元々俺では、身元も見た目も怪しすぎて巫女に会わせろなんて喚いても絶対にお目通り叶わない。

 やはり順当に先ずは聖女(シンシア)と合流して、そうだな、多分コレットやロアもそこに居るだろうし、二人にも俺が無事だと伝えないと……



 そう、あれこれと考えを巡らせているときだった。




「よぉ、その後フェリスは大丈夫だっかよ?」


「ッ!?」




 冷や汗が吹き出る。

 思考がストップする。

 左隣ではいまだにソフィアが目をギュット瞑り何かを祈っているのだが、俺はその隣で大ピンチに陥っている。


 現れたどころか俺の右隣に腰を下ろしてきたのは『クロウ・ボルテクス』その人だった。

 忘れもしない、赤髪と二本の角。あのルビーをボコボコに打ちのめしたレベル七十の鬼人族だ。


 確かこいつの所属している神聖騎士団とやらは教皇派だったはず、つか騎士団ってこういうところにもいるのか!?

 外でモンスターと戦ったり詰所で控えてるもんじゃないのか!?

 い、いや、俺が甘かった。一人くらいは俺のことを覚えているやつもいることくらい想定してもっと慎重に行動すべきだった……!!

 どうする、どうするこの状況……!!

 さんざん悩んだ俺の口から出てきたのは……




「あ、あの、誰かと人違いしてましぇんか?(裏声)」



 すっとぼけることだった。



「……いや、お前みたいな変な格好のやつ間違えるはずないだろ。それより、えっと今はルビーだっか? あいつは大丈夫か?」

「……ん? うわっ、ちょっ、シン、誰だこのハンサムな方は!? し、知り合いかっ!? な、なんてことだ、こんなにすぐ神への祈りが届くとは……!! こんにちは、わ、私はソフィアと申します! シンとは同じクランのメンバーで……」




 なんか、ソフィアがわたわたと焦りつつ自己紹介を始めた。確かにハンサムっちゃハンサムだよか。鬼人族は美男美女しかいないのかよ、爆発しろ。

 あっ、このクロウってやつ笑顔になってはいるけどスゲーひきつってるよ。

 ソフィア可愛いもんな。それはつまりこのクロウってやつには不細工に見えてるってことだ。

 ククク……いいぞ、ソフィアもっとグイグイ行け!!


 つーか、ソフィア一生懸命祈っていたと思ったら、それ出会いについて祈ってたのかよ。こういう所は女子だよな本当に。


 その後もまさに神が与えてくれた好機とばかりにソフィアが自らをアピールする。先日酒場でイジメっ子によりさんざん鬱憤を貯めたのか、今日は空気を読むこともなくかなり自分の長所を猛プッシュだった。少しこちらを気にしているようにも見えるが俺なんて気にするな! 攻めて攻めて攻め立てろ! 俺は明後日の方向を向いて我関せずを貫いた。

 しかし、クロウがこちらをチラチラと助けを求めるように見てくる。まぁそんなもんは無視だ。流石教会の神聖騎士団様、こいつはどうやら見た目関係なく女には甘い。ダイナみたいな奴ばかりが集まった冒険者ギルドに身を置くソフィアにとっては紳士に笑顔で対応されるだけで簡単に嬉しくなってしまうようでおしゃべりが止まらない。

 というか、この全く険悪でない雰囲気のまま俺はトンズラしたい。




「いやぁ、ではあとは若いお二人に任せて俺はこの辺で、あぁ、気にしないでどうぞそのままそのまま、二人で話に花を咲かせてください……」

「お、おい、待てっ、あの兎に用事があるんだろ!?」


「「っ!」」




 これには流石にソフィアも静かになった。

 いや、理解したのかもしれない。

 この目の前の男がバニーを連れ去った一人だということを。




「あ、あの……今、彼女はどこに!? お、教えていただけませんか?」


「そうビクビクするなよ。別に俺はお前をとって食おうなんて思ってない。良かったら少し話そうか。お前のその格好はちょっと……いや、かなり目立つから聖堂の裏手へ行こう」



 ん、思っていたほど悪いやつではないのかもしれない。

 騙されたかもしれなと一瞬思ったが、腕力に物を言わせれば俺なんて騙す必要もないだろう。大人しく付いていくことにした。


 道中ヒソヒソ声でソフィアがこいつは誰なのかと聞いてくるので簡単に説明しておいた。

 それを聞いたソフィアは衝撃を受けると共に、騎士道に則りこの人拐いがっ! と糾弾すべきか、顔も悪くなく体型も程よく筋肉がついていて、更には神聖騎士団という中々の有料物件との間に先程生まれた関係、その女の幸せを取るべきなのかと悩んでいるようだ。

 俺は先程生まれたクロウとソフィアの関係に女の幸せなど入っていないのでは? とは言えるはずもなかった。


 そうして着いたのは簡易な畑だった。

 岩がちょうど三つありそこに俺達は座る。

 大聖堂は教会の端に建設されており、このスペースは壁とその大聖堂の間を有効活用するために生まれた野菜畑だそうだ。

 この岩は畑仕事の休憩で腰休めにでも使うのだろう。

 今は誰もいないので話をするには丁度良い。




「さて、あー、そうだな。まずは自己紹介か俺はクロウ・ボルテクス。見ての通り教会に飼われている鬼人族だ」



 【鑑定のマスク】をつける俺には今更だが、ソフィアは鼻息がフンフンと荒い。どうやらとりあえず女の幸せとやらを取ることに決めたらしい。

 特に強く避難することはなく、しかし、俺の方を気にしつつ言葉を発する。




「そ、それでクロウ殿はあのシンの兎人族の奴隷の居場所を知っているのか?」


「あぁ、その前にえっと、ルビーだったか、あいつは今どこに?」


「あのあと直ぐに出てきたんだ。気絶したルビーはベッドに寝かせて置いてきた。治療できるやつに任せてきたから多分……大丈夫」


「そうか。まぁ大事にしてくれてるみたいだからいいか……」


「そうなんだ。シンは少し奴隷に甘いからな、私にも気さくに接してくれるしきっと博愛主義なのだろう。それでクロウ殿はあの鬼人族の女の関係者か何かで?」


「まぁ、そんなところだ。同じボルテクス氏族の一人、かな。まあ、お前達がはるばるここまで来たのはあの兎人族についてだろ?」


「そ、その通りだけど……」




 連れ去った本人に返せと言って返ってくるのか?

 こうして話をするということは何らかの取引する余地があるということだろうか。

 いや、巫女という存在自体、公にされていない超重要事項みたいだし、こんな一端の男がどうにか出来るのか?

 これから何を言ってくるのかと身構えていた俺にアッサリとクロウは答えた。




「じゃあとりあえず会わせてやるよ」


「へ?」




 何故か簡単に会えることになってしまった。

 巫女の発見は教会にとって秘匿中の秘匿らしいが、誰も会わせるななんて命令は出ていないとのこと。そりゃあクロウも巫女に害をなすような悪人をわざわざ会わせる必要はないが、元々バニーの主人であるはずの俺には会う権利くらいあるはずだろ。とのこと。

 いや、まぁそうなんだけどさ、いいのそれ?


 本人いわく、騎士団には一年前に入った新参者だし、それも仕方なくやってるだけで、義理なんかはないんだとか。

 ルビーのこともあるしなんだか色々と事情がありそうだな、そう思いつつもバニーに会って俺は何を告げようか考えていた。




 そもそも俺が奴隷を買おうと思った理由はなんだ?


 顔や正体を隠すため、なんならルビーみたいな怪力に冒険者させたり、俺の持つ地球知識で知識入れ込んだ奴隷に商人させてみたりして金を稼ぎこそこそと表に出ることなく生活しようと思ったのが本音だ。

 炊事や身の回りの世話、それに女性と言う部分に少なからずやんわりと下心も持ち合わせていたことも否定できない。


 そして誤算だったのは二つ。


 俺が持ち合わせていた百万ガルドというのは大金だが奴隷を買えなかったこと。そして、思いの外可愛い奴隷が多かったことだ。

 そして結局なんやかんやでレンタルや奴隷を買う約束を取り付けることになって彼女達を知り、情も沸いた。


 バニーは優しい。俺やまだ小さなミラを良く心配していた。少し体を張ってしまう(?)こともあったけれど、おかげで俺は少し救われもした。

 そんな彼女の突然の拉致事件に、俺は連れ去った者達に立腹し、また目の前でそんなことをさせた己の不甲斐なさからここまで来てしまったが、バニーに会って何をすればいいのだろうか。俺は何をしたかったのだろうか。

 巫女というのがどれ程の待遇なのか分からないが、もし、彼女がここに残りたいと言ったら俺はどうすべきなのか、実際彼女を解放することは俺にとって聖女(シンシア)に借金を残す結果にしかならない。そう考えれば俺はバニーをただで手放せるほどの聖人などでは決してなかった。



 そうこうしているうちに一つの扉に辿り着く。

 堂々としているようにと言われたが、本当に堂々とまっすぐバニーのいるという部屋の前まで来てしまった。

 教会の関係者らしき人と何人かすれ違ったが、神聖騎士団とやらの身なりをしている者が率いているというだけで簡単に信用されてしまったようだ。クロウのあとについていけば俺とソフィアは何も咎められることなく一気に目的地である場所まで来れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ