004話:冒険者ギルド
宿屋で朝食を食べ終えた俺達は冒険者ギルドに向かうことにした。
因みに寝る時も外さなかった【真のマスク】を外して、今は【鑑定のマスク】に付け替えている。
フード被ってこのゴーグル付けてるとサバゲーでもしているようだな……
「お、あったぞ! あれだ!」
「おっきぃー!」
宿屋のオバネーチャンに冒険者ギルドまでの道を聞いていたのであっさり大きなレンガ作りの建物までこれた。
【鑑定のマスク】の力によりそこには『冒険者ギルド』と名が表示されている。
さっそく俺達は中に入る。
やはりと言うか、荒くれ者のような奴らが多い。
最早、異世界アルアルの一つだな。
ローブにフード姿で魔法使いのふりをしていても変なマスクをしているためどうしても目立ってしまうな……
ジロジロとこちらを伺うような視線を沢山感じた。
あぁ、これフラグ? もしかして絡まれる系のフラグかな?
周りを警戒するように視線だけを動かす。
【真のマスク】同様、この【鑑定のマスク】では俺の目元は外からは黒塗りにしか見えないゴーグルによってしっかり隠れている。
内心焦っていても、表面上それが悟られることはないはずだった。
ズシャァァァ……
しまったぁぁぁ!
足元が疎かになっていた!
俺は巨体で熊のような冒険者の一人に足をかけられて盛大に転んでいた。
痛い。膝を擦りむいた。
「ギャハハハハ!! なんだよコイツ、ヒョロヒョロのクソ弱い魔法使いか!? 奴隷しか連れてないから相当出来るのかと思いきや、オイオイ、ルーキーさんよぉそんな様子で大丈夫かぁ?」
「っ! ……注告痛み入る」
「おぉ? なんだ分かってんじゃねえか、それじゃあよぉ、もっと注告してやるからレッスン料金払いなぁ!! ブスな奴隷を二人も引き連れてるんだポケットマネーくらい軽いだろぉ?」
はぁ、なるべく大事にならないようカッコよく受け答えしたのだが、結局こうなるのかぁ……
俺だけだったら我慢するんだけど、今コイツ、セラ達を『ブス』って言ったよな……?
これは立ち向かうべきだろう、勝てなくても。そうだ、ここでコノヤローと一言発すれば良いんだ、よし行くぞ、ほら、よし、今から言うぞ……
「おじちゃん! シンさまにゴメンして!」
体が重かった、恐怖や不安に押し潰されていた。
そんな俺が床からなかなか起き上がれずにいると、小さなエルフの声が聞こえてくる。
……あぁ何してるんだ俺は。
早く立ち上がらないから、立ち上がることができないから、こんな小さな子にまで守られてしまったぞ。そんなんだから……
「なんだと? てめぇ奴隷ってやつの存在意義が分かってないみたいだなぁ!?」
「ス、スミマセン! この子はまだ子供でっ……!」
「……はぁ。そうだぞ、ミラはまだ子供だぞ? あんたらなぁ、いっつもこんなことしてるのか? 趣味が悪いんじゃないか?」
俺はゆっくりとそして、しっかりと立ち上がり熊男に非難の言葉を浴びせる。
ミラとセラの前に立ち、彼女達への攻撃だけは絶対に防ごう。絶対にだ。
それは俺がミラにもらった小さな勇気だった。
「あぁん? なんだぁ? ここはお前みたいなお坊ちゃん魔法使いが来る所じゃねぇんだよ! こっちは命掛けて冒険者やってんだ!! テメェみてえな格好だけのやつお呼びじゃあねぇんだよ!!」
「……ダイナ・オーウェン。人間族、男性。年齢は二十四、冒険者ギルド所属、クラスはC、家族は父と母と妹、実家はベルベの村。スキルは斧……」
「なっ、お、オイお前! なんで俺のこと……」
「もういいだろ? 確かに俺は弱いけど、弱くても出来ることはあんだよ。こっちも金を稼がなきゃいけないからな」
「ふ、ふざけんなっ!! お、お前俺の家族をどうする気だ!? テメェ……決闘だっ!!」
あちゃー……
家族の話を出したのは失敗だったわ。
この【鑑定のマスク】って対象を見続ければどんどん知りたい情報を出してくれるんだけど、家族情報じゃなくて性癖でも露見させるべきだったか?
いや、そんなことしたら決闘どころじゃなくその場で殴り倒されてただろうな……良かった変なことしなくて。
こういう時どう切り抜けるか……うーん、俺は自分の強さは分かっている。いや、分かっていなくてもヒョロい俺がこの熊のような男には絶対に勝てないことくらいは誰でも分かる。
安全にかつ角が立たないよう切り抜ける方法……
「待てぇぇぇい!!」
決闘の申し入れに悩んでいると突然の『待て』である。
ギャラリーが出来始めていたのだが、その群衆を割って一人の女騎士が現れた!
お、お、女騎士キターッ!!
しかも、長い金髪に碧眼、天使のように透き通った白い肌とくっきりとした目鼻立ち、俺の後ろで抱き合っているセラミラ親子に負けず劣らず可愛い外見をしているっ!!
……ん? これだけ可愛いってことは……
「ギャハハハハ!! オイ良かったなルーキー、ブスな奴隷を助けにブスな騎士が助けに来てくれたぞー! 仕方ねぇから今日のイライラは腐れ騎士ソフィアで解消するか!!」
「ふっ、よかろう。弱き者から金銭をかすめ取ろうとする者等に私は負けん! 決闘だっ!!」
何故か俺を差し置いて決闘が始まった。
止めるべきだったかもしれないが、なんだか女騎士が凄く強そうなので申し訳ないが事の成り行きに身を任せてしまった。
熊男ダイナと騎士ソフィアは二人で決闘場とやらへ進んで行く。ギャラリー達もゾロゾロとそれにくっついて行ってしまった。
「な、なんだったんでしょうか……?」
「助けに来てくれたんじゃないかな? 凄く正義感強そうだったし……」
「あのお顔。さぞお辛い人生だったでしょうに、心根が良い人なのですね……」
「ミーちゃんもね、あのおねーちゃんすき!」
「とりあえず冒険者登録したら俺達も決闘とやら見に行こう、そんなすぐには始まらないだろう……」
しかし、それは甘かった。
冒険者ギルドへの登録は説明が意外と長く、俺がクラスGだと言うこと、自分のクラスかそれ以下に合ったレベルの依頼しか受けられないこと、クラスGとFは月に一度以上依頼を受けないと降格もしくは除名されてしまうことなどなど……
説明終わって急いで決闘場に行くも、既に決闘は終わった様子で人もまばらにしか残っていない。
「あ、あの! スイマセン、ここで決闘が行われていませんでしたか!?」
「ん? お前、さっきダイナに絡まれてた奴か? 大変だったなぁダイナの奴今日彼女に振られて気が立ってるからよ……ほらソフィアはあそこで伸されてるぞ」
その青年が指さす方向には先程の女騎士がボコボコにされ気絶していた。
気絶していても美しい……じゃなくて!
「あ、あれ、大丈夫なんですか!?」
「あぁ、いつものことだからな。アレで顔が良けりゃ男に介抱の一つでもされるんだろうが、男性陣は介抱なんかして好きになられても困るって近づかないんだ。まぁそのうち……ほら、シスターマリアが来てくれた」
ソフィアに近づくのは一人の少女……
シスターの名の通り、修道女のような格好だ。
うん、顔はさほど良くないけどこっちの世界ではきっと可愛いってレベルなんだろうなぁ。
とりあえず俺も何か手伝えることはないかと近づく。
「あの、そのソフィアさんは俺の代わりに決闘してくれたみたいなんです。何か彼女のために手伝えることがあるなら……」
「ありがとうございます! ですが、ここでは何なので彼女の泊まる宿屋まで運んで頂けませんか?」
丁度男手が必要だったらしい。
セラが自分がと言ってきたが女騎士を背負う役目は男であり、ボロボロになる原因を作ってしまった俺が担うことにした。
因みにセラは回復魔法が使えるらしいので道中ソフィアに回復魔法をかけながら宿屋まで向かう。
え!? 魔法使えたのセラ!?
「回復魔法ですか、やはりエルフの方は魔法が得意なのですね」
「いえ、私は初級の回復魔法しか使えませんので……」
「そんな、私なんてまだ見習いシスターなので回復魔法さえ使えません。でも、こうやってソフィアが良く怪我をするので薬草は沢山用意しているのですが……」
袋にドッサリ入った薬草を見せてくるシスターマリア。
話を聞けば、ソフィアは激弱らしい。
そんな人に俺の代わりであの熊男と決闘させたなんてすげー良心が痛む。
しかも真面目すぎる性格にこの顔のせいであまり友達もいないらしく、レベルも高くないとのこと。その癖、悪いことを見るとすぐに正そうと決闘したりするので怪我が絶えないそうだ。
「レベルって?」
「レベルはその人のだいたいの強さを表す物です。強さは一概に言い表すことは出来ませんが、ギルドで【鑑定石】に現れる数値によってその人のレベルが決定します。一応、ダンジョンに潜る時の指針に使われるのですが、例えばパーティを組んだ時など連携によってはレベル以上の働きができるので参考程度の数値ですが」
鑑定石か……
俺の【鑑定のマスク】でも見れるのかな?
俺はシスターマリアに視線を向け、レベルを知りたいと思いながら見てみる。
名称:マリア・ガーネット
種族:人間族
性別:女性
年齢:十六歳
レベル:三
……
おぉーシスターマリアのレベルは三なんだ。
因みに自分の右手を見ることで自分のレベルを調べるとなんと、一だった。ウソ……俺弱すぎ……
セラは六レベル、ソフィアは十一レベル、ミラは俺と同じ一レベル。
指標として、レベル一~九がクラスG、レベル十~十九がクラスF。ソフィアは俺より一つ上のクラスFなんだろう……
そんな彼女がクラスCのダイナに勝てるはずもない。
俺はソフィアの宿屋まで彼女を送ると、後日キチンと感謝と謝罪をしようと決め、その場はシスターマリアに任せとりあえずセラミラ親子を奴隷商まで送り届けることにした。
「今まで、本当にありがとうございました!」
「ミーちゃんやだよぉ……あんなオイシイごはんはじめてたべた、シンさまぁもっとたべたいよぉ」
二人共泣きそうで、俺まで何故か今生の別れのような空気に泣けてくる。まぁまたレンタルすればいつでも会えるんだけどね。
でもそれはやっぱり俺から会いに来た場合だけであって、彼女達からは俺になんらアクションを起こせないから、今生の別れみたいなものなのだろう。
とりあえず、帰り際に大きく日持ちしそうなフランスパンのようなものを六つ買って奴隷商へ向った。
到着してすぐ、奴隷返還の手続きとやらを行いセラとミラに対する命令権を喪失する。その後再び最安値の奴隷達を呼んで貰った。
セラとミラ以外は買うかレンタルしてくれるのだろうかと思っているのかもしれない。特に犬人族の子は尻尾が揺れていた。
セラに奴隷商人へパンを渡すとキチンと奴隷達の手に渡らないかもしれないと言われていたので俺はパンを奴隷の子達に直接手渡すことにしたのだ。
食費が浮くためか特に嫌がられることもなく商人には快諾された。
「ごめんね、買うわけじゃないんだ。皆ご飯をあまり食べてないと聞いたから今日は差し入れに……」
セラとミラにまずはパンを渡す。
セラは笑顔で、ミラもとびきりの笑顔でありがとうと言ってくれた。これで皆怪しい仮面を被った俺からもパンを受け取ってくれるだろう。
「ハイ」
「あ、ありがとうございます……あ、あの、嘘をついて申し訳ございません。でも、私これから一生懸命ご主人様への奉仕を覚えていくので……」
兎人族はモジモジとパンを受け取ってくれた。
嘘は別に許すけどそもそも奴隷を買える金がないんだ……残念。
次は犬人族の子だ。
姿勢はピンと伸びているが、パンをチラ見しては尻尾をパタパタ揺らしている。凄くわかりやすい。
「ハイ、パンだよ」
「ありがとうございますっ! 僕頑張るので、次は僕もレンタルしてください!」
「ん? あぁ、また今度ね」
俺のその言葉を聞いた彼女は凄く嬉しそうにパンを抱いていた。
さて、次は……
やっぱり元気のない小人族の女の子。
俯いたまま、チラチラと隣のパンを抱く犬人族の子を見ている。
「ハイ、少しはこれで元気になるといいけど……」
「あ……」
そろーっと手が伸びてくるが、パンに触れそうになるとビクリと手を引いて、そうしてまたすぐにゆっくり手を伸ばす。
そんな動作が二度ほど続いた。
流石に焦れったいのでグイッと手を引いてパンを握らせる。
これは君のだから、しっかり食べるんだよと伝えると凄くテンパり出した。
まぁ受け取ってくれたしこれで大丈夫だろうと次の子に向き合う。
そっぽを向いた鬼人族だ。
「えっと、パンは嫌い?」
「……餌付けのつもりか?」
「え? 違うよ……」
「そうやってパンでも与えて奴隷が喜ぶ姿で自己満足してるんだろ? この教会の犬がっ!」
「……」
教会云々は知らないが、多分彼女達がパンを受け取り喜んでくれたことで自己満足してたのは本当だ。
俺はなんだかそれが凄く浅ましいことに思えてきてしまった。
しかし、こんな時でも俺を救ってくれたのは小さな彼女だ。
「おねーちゃん! シンさまがくれるんだからありがとうでしょ!」
ミラはパンを大切そうに抱いたまま、何倍も背が高い鬼人族の女の子に向かって頬を膨らませる。
それに対して鬼人族が睨み返し、場の空気が一気に冷え込んだ。
因みに奴隷商人はどこからか爪楊枝を持ってきて歯をシーシーしていた。舐めてる。
「チッ、有り難く頂いてやる」
そう言うと鬼人族の子はひったくるように俺からパンを奪って行った。
と、とりあえず丸く収まって良かった……
明日もまたパンを差し入れに来ようかな。
俺はその晩一人で手ごろな宿屋へ泊まる。
そして夕食を取った後、ベッドに潜った。
家ではいつも一人部屋に篭っていたと言うのに、パソコンとゲームがなくなるだけでとても寂しくなった。
出費
・朝食 :二四〇〇ガルド
・冒険者ギルド登録料:二五〇〇ガルド
・パン×六つ :一二〇〇ガルド
・夕食と宿代 :三一〇〇ガルド
残金
九〇万と九八〇〇ガルド。