表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面と奴隷と不思議な世界  作者: エイシ
二章:教皇区
34/41

029話:次期聖女

「遅かったですね……」




 俺とソフィアはとある酒場に来ていた。

 着けているのは先程と同じ【怪力のマスク】。【鑑定のマスク】をつけて行こうかとも思ったが、怪しまれるのも面倒だし、これだけ紋章者達がいると仮面を変えるのも大変そうなため最初から【怪力のマスク】で行くことにした。

 昼過ぎから開いている酒場だが、ホストクラブ・ショウではない。そこには安心だ。

 そして、昼間のためか人も全然いない。目の前のシンシア率いる紋章者集団がとてつもなく目立っている。

 俺はシンシアの前に空けられていら椅子にドカッと座った。



「どーも。とりあえず……」

「お前らがシンの奴隷を不当に奪い去った者達か!?」

「ゴメン、ソフィア少し黙ってて」


「フフッ……とりあえず自己紹介といきましょう。私は教会の次期【聖女】シンシア・シルクロードです」


「……えっ? せ……せいじょ? 聖女、ってあの聖女様?? す、スミマセン!! とんだご無礼をば!!!」


「ゴメン、ソフィア少し黙ってて……俺は知っていると思うがシンだ。それで聖女がこんな所でそんな格好をして何しているんだ? 身を隠すようにローブを着込んでいて聖女とか言われても明らかに怪しいんだけど」


「……まぁ色々と事情がありまして」


「事情?」


「はい。でも先に巫女の話から伺っても?」


「巫女ね、あの子はバニー。俺の……奴隷だ」


「なっ!? 奴隷!?」



 おっ、控えていた女子が口を挟んできた。

 学校の奴等は今までシンシアの後ろで黙していたのだが『奴隷』の言葉に反応したようだ。

 しかし、俺は今気持ち的にもこいつらの相手をする余裕がなかった。無視する。



「で、巫女ってのはなんだ? お前が本当に聖女だとして、ここで何をしている? そして……コイツらはなんだ?」


「わ、私達は……」

「碓氷、ここは私が……私はここにいる子供達の引率役です。皆とある事情でこちらの次期聖女様を教皇区まで送り届ける役目をおったものです、あなたに危害を加えるつもりもありません。お気になさらず」




 先程『奴隷』の言葉に反応したメガネ女子が先生に制される。

 今の俺は【怪力のマスク】もあってあまり平和的に見られていないのだろう。

 向こうとしても無駄なイザコザは避けたいようだった。




「教皇区へ送り届ける? どういうことだ?」


「私達教会の本部は教皇区と呼ばれる一つの国でもあります。その国を統べるのは特別な力(ユニークスキル)を持つ【聖女】、信徒達を取りまとめ、教皇区を運営する【教皇】、そして神の使いの役割であり魔王を討ち滅ぼす者【巫女】の三人なのです」


「巫女……巫女ってそんな重要な人なのか……それがバニー?」

「いや、シン、私も初めて聞いたぞ。巫女様は確か百年前魔王を倒した人のはずだ、今も存在する意味が分からない」


「今だからこそ必要なのですよ。魔王が復活する今だからこそ!」


「なっ、魔王!?」


「あー!! 話を大きくしなくていい!! 魔王は後だ、とりあえず教会に巫女が必要なのは分かった! お前も聖女だとしよう。それよりバニーの居場所を教えてくれ、何にせよ会って連れ戻さないと……」


「連れ戻さないと……?」


「……レンタル料が大変なことになる」


「ぷっ……くくく……プフーッ!! す、すいません……なんだ、レンタルだったんですか、まるで自分の奴隷かのように言うものですからすっかりそうなのかと……プププ……」


「い、いいんだよ! 買う予定だったんだ!!」


「ほう、何故です? 何故買おうと思いましたか? そう言えば先程も奇妙な鬼人族を連れていましたね……」


「ぐっ……い、いいだろ、俺の事は!! それよりもどこにいるんだ!?」


「巫女が見つかったとなれば教会、いえ教皇区へ直ぐに連れていかれるでしょう。お隣の国ですよ。と言ってもこの国とは仲が良いため馬車も出ています。五日もあれば行けますよ」


「そ、そうか。ありがとう。それじゃ俺は行く……」


「あら、どちらへ?」


「レンタル延長の申請して直ぐにでも教皇区とやらへだよ」


「そうですか、しかし一般人が発見された巫女とすぐに面会出来るとは思いませんね、それこそ次期聖女の口添えでもなければね」




 ニヤリと笑う白髪の少女。

 コイツ……!!


 しかし、その通りだ。突っ込んで行ってあのクロウとかいう鬼人族に出てこられるとすんごく面倒なことになる。

 ユリアさんに俺が勝てたのは色々と事情があったからだし、ルビーのあの動きを容易に捌いていたところを見るとまるで勝てる気がしない。

 即ち、強硬策には出れないと言うことだ。

 つまり……




「グッ……お、お願いだ! 俺も共に教皇区とやらへ連れて行ってくれ!!」



 頭を下げるしかなかった。







 ……


 ――奴隷商にて。



「分かりました。では、十日延長ですね。期限は明日の夜明け前までから十一日後の夜明け前までに変更となります。また延長の場合は担保として二十万ガルドを預らせて頂くことになりますのでよろしくお願いします」


「うっ!! そうなんですか……」




 バニーの十日分レンタル二十万ガルドと、担保の二十万ガルド。合わせて四十万ガルドだ……

 ……足りない。

 財布の中身をひねり出しても残り三万とちょっと足りない。

 あぁ、参った。今からダッシュで依頼をこなすか?

 うー、どうしよう。



「シン、遅くなった。これを使ってくれ!」


「え、これ……?」


「少し足りないが十万ガルド入ってる。あと五万はもう少し待っていてくれ」




 ソフィアから銀貨を手渡される。

 それは俺が以前ソフィアに貸し付けた十五万ガルドの内の一部なのだろう。

 ソフィア……お前っ!!

 俺は有り難く受け取り支払いを済まそうとしたのだが……





「もし、そこに立たされている奴隷の方々は?」


「あ、はい、これはシン様のお気に入りの奴隷でございます。あの……所でお客様は?」


「しがない旅人です。そうですか、このシンさんのお気に入り……分かりました。私が全て買いましょう。そのレンタル? とかって奴隷も延長することはありません。私が買います」


「はぁっ!?」

「「「えぇっ!?」」」



 俺もソフィアも、そしてセラ達やゾロゾロとシンシアにくっ付いてきた紋章者達も皆一様に驚きの声を上げる。

 しかし、そんな声を無視してシンシアはテーブルへ腰についていた布袋を取り出し逆さにする。

 中からはいくつもの金貨が落ちてきた。

 チャリチャリと落ちる金貨は全部で十枚以上。

 つまり目の前に一千万ガルド以上の大金が転がっていたのだ。




「おぉ!!! これはありがとうございます!! それではさっそくご契約に……」

「ちょっ、ちょっと待ってください!! 俺に売ってくれるという約束じゃ……」


「あぁ、そうでしたそうでした。冗談ですよ、あはは。ではお客様こんな底辺で可愛げもない奴隷よりお客様の美しさに見合った奴隷はいかがですか?」


「いえ、私は彼女達が欲しいのです。ここにいる彼女達と、レンタル中の兎人族の少女を」


「お、お前っ!! ふざけんなよ! なんで、なんでだよ! お前はこいつらのこと何も知らないだろ! なんで突然買うなんて話になるんだよ!!」


「そうですね。面白いから?」




 クソッ、ここに連れてくるんじゃなかった。

 そもそも、ここにくれば教皇区の三権とやらの一つ、『巫女(バニー)』の所有権を握られるかもしれなかったんだ。

 なんでそんな危ない話聞いときながら俺はこの次期聖女とやらを連れて来ちまったんだ、あぁクッソ!!


 チラリと見ればセラ、ロア、コレット、皆不安そうな顔をしている。

 やはり言葉も交わしたことのない主人よりかは俺の方が良いのだろう。


 ……え?

 ……俺の方が良い?

 ……いや、本当に俺で良いのだろうか?


 今、俺は何を傲慢なことを考えていた?

 そもそもシンシアはこいつらを買ってどうする気だ……?




「お、おい、ここで皆を買って、それからどうするんた?」


「んー、まぁ実は巫女以外興味ないのですよね。そもそも私は基本的に奴隷反対ですし、だから解放しますかね」


「そ、そう……なのか」




 解放するだと?

 奴隷である彼女達のことを考えたら解放してもらうことは最も最良な出来事なのではないだろうか……

 俺の方が、なんて嘘だ。

 俺は解放する気なんてなかった。仮面をつけたまま生活するため、彼女達を利用しようとしていたのだ。

 それに今までのことだって、正当化、自己満足や偽善、それから奴隷契約という強い絆を欲していただけじゃないのか?

 バニーを助けに行くのも口では金を理由にしたが内心はただ、自分がバニーの心配をしていただけなのだ。彼女が無事なのか、安全なのか、巫女なんてものを本当にやりたいのか、それが気になって仕方が無いだけなのだ。

 浅ましい。自分が酷く浅ましく思えた。

 そして俺はそれ以上何も言えずに項垂れた。


 俺の沈黙、それを一種の肯定と取ったのか、「では……」と奴隷商人が動き出す。

 しかし、そこに待ったをかけたのはコレットだった。




「わ、私は……シン様が、いい……ですっ!!」


「……は? ……な、なに言ってるんだお前は!! 商品が口を挟むんじゃない!! お前が買ってもらえるんだぞ!? それだけで有難いことなのに加えて解放まで……いいから黙ってろ! すぐに……」


「シ、シン様っ……! 私達は、シン様にみ、見つけて貰ったんですっ!! 深い、深い闇の中に……いました。シン様は光、私達の、光ですっ!」

「僕もっ、僕も約束したんだ、シン様は一緒に村を探してくれるって!!」

「あっ、わ、私も、私も……あの子と共に……」


「お前らぁ!! いいから黙ってろ! お客様の機嫌を損ねるような真似するんじゃない!」


「……みんな」




 俺なんか、俺なんかでいいのか?

 奴隷が口を挟むなんて本当だったら許されることじゃない。

 奴隷は主人を選べる立場じゃないんだ。

 それでも彼女達は俺を選んでくれた。

 俺で……いいのか?


 ポンッと肩を叩かれる。


 振り向けば何故か目をウルウルとさせたソフィアがいた。

 逆に落ち着いた。ありがとうソフィア。


 迷ってる暇もない。俺はやはりバニーに会ってこれからどうしたいのか、彼女の本心を聞くべきだ。

 皆には俺を選んで、俺に選ばれて良かったと思われるようただ突き進むだけだ。





「シンシア……さん。今まで色々と悪かった……です。心から謝ります、バニーを連れていかれて、どこか焦っていたんだ。それで、彼女達は俺が、自分で買いたいです……だから……」

「分かりました、ではこうしましょう。私がお金をあなたに貸す。あなたはそのお金で奴隷を買う。どうです? 全て上手くいきますよ」


「……は? いやいやいや、お金を貸すって……四人で八百万ガルドですよ!?」


「はい。足りるでしょ?」




 そう言って散らばった金貨を指さすシンシアさん。

 コイツ、マジか……

 俺は金貨とシンシアさんに視線を何度も往復させるが、本気のようだ。




「それから私は十四歳です。たぶんあなたより年下ですから『シンシア』で結構ですよ、シンさん」


「あ、はい……」




 正直このレベルの顔だと顔から年齢が読み取れない。

 失礼かもしれないが、いや、本当に分からない。

 これで十四歳とは……







 ◇◆◇◆◇


「シン様、この度は……」


「いいから、いいから……それよりも早くクランへ帰ろう。ミラだってセラのこと待ってるよ。それに、シンシアとの待ち合わせに遅れたら置いてかれてしまう。あの人突然馬車を買うとか本当にどんだけ金が有り余ってるんだ。行動力ありすぎだろ、御者だってきっとすぐに見つけるわあれじゃ……」



 奴隷契約を済ませた後、再び俺達とシンシア達は一旦別れることになった。

 というか、奴隷商を出た後はシンシアが馬車を買い、すぐにでも教皇区へ行くつもりになっていた。

 俺もそれに付いて行くための準備をしに帰っているのだ。往復十日もかかるからそれなりに用意が必要だろう。着替えやら非常食やら持たなくては……


 クランへ慌ただしく帰ると階段の上から覗いていたミラが飛んでくる。




「ママ!?」


「あぁ、ミラ……」



 抱き合う長耳族(エルフ)の親子。

 セラは本当に嬉しそうだ。

 毎日会ってはいたものの、自由に娘をミラと呼べることや久しぶりの抱擁に喜んでいるのだろう。




「シン様、急ぎましょ……遅れちゃう」


「あぁ……ん? 皆には待っていてもらうつもりだったけど……」


「私は、シン様と、共に……」

「僕も行きます! 役に立つんですから!」

「私も行くぞ、乗りかかった船だ! それにただで教皇区へ行けるとは……聖女様ともお近づきに、いやむしろ護衛の役目を担えるなど騎士としてブツブツ……」




 コレット、ロアそしてソフィアも一緒に付いてきてくれるようだ。

 若干一名動機が不純な気がするが、とても嬉しいことだろう。

 レベル的には少し不安だが、聖女がいればさほど大変な事態には……あれ? そう言えばなんで紋章者達が聖女を送り届けるなんてことをしなければいけないんだ……?

 俺は少し不安を覚えつつ、それでもやはりコレットやロアの気持ちを有難く受け取った。




「ママ、みて! えっとね、『にひゃくごじゅうガルド』これでね、ママをかってあげようとしたの! ミーちゃんが!」


「そう……ありがとうね、ミラ……」


「……二人は待っていてくれ。それとセラ、実はルビーが無茶な戦いをしてまだ目覚めていない、一応回復魔法をかけておいてくれないか? これは十万ガルド。ここにいるジェイドさんは奴隷でもちゃんと対応してくれるはずだ、十日の間、もしくはもっと長くなるかもしれないから三人ともそれでなんとか暮らして欲しい。それと……」




 俺は掃除をしていたメイド服の真樹を引っ張ってくる。

 なんやなんや!? 何する気なんや!? アカンでそんな、まだ心の準備が……とか騒いでいたが、無視した。



「こいつは持田真樹。二人とも何か困ったことがあったらこいつを頼るんだ」


「えっ!? な、なんやねんいきなり! ……って、これはっ! もー、ウチに任せてーな、バッチ来いやで!」



 この女……一万ガルドを握らせたら途端に心変わりした。

 まぁひねくれた奴ではなかったからきっと大丈夫だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ