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仮面と奴隷と不思議な世界  作者: エイシ
二章:教皇区
33/41

028話:巫女

本日2話目です。(一応)

 バニーの前に兵士達が集まってくる。

 俺や俺の足にひっついているミラ、俺の後ろで無言を貫いているルビーにはまるで気にする様子もない。

 次々と増える男達の目にはバニーのこと以外のものはまるで見えていないようだった。


 そのゾロゾロと整列するその男達は白い格好もあいまってまるでボーリングのピンだ。

 そして先頭に立つ隊長らしき男がやや興奮気味に口を開く。




「し、失礼! 巫女が持つ『マケロの紋』を見たと言うものがいるためその腹をあらためさせてもらいたい!!」




 驚いた。

 バニーの姿は奴隷の着るような簡素な灰色服だ。

 つまり、通常であればその見た目から彼女を奴隷と思い、頼み事をしたい時はその主人を探すだろう。

 しかし、この兵士達は奴隷であるバニーに頭を下げているのだ。まるで目上の者に相対したがごとく……


 腹の紋様を見せろと言われたバニーはその勢いに押されつつも、コチラをチラリと見てくる。許可を求めているのだろう。もしかしたらどうすれば良いのか意見を求めているのかもしれない。

 しかし、別にイヤらしいことをしようって訳でもない、この兵士達の声は真面目そのものだ。

 断れるような理由もなく、俺は結局何も言えないままバニーの視線にコクンと頷いた。


 服の裾を持ち上げその白い腹を、紋様のついた腹を兵士達に見せるバニー。

 秘密にしていたと言っても彼女も別に見たいと言ってくる相手にまで秘密にするつもりも、その理由もなかったようだ。

 ただ、なんだか恥ずかしそうに服を持ち上げるバニーの仕草はとても扇情的だった。ゴクリ……




「お、おぉ……これはまさしく『マケロの紋』!! まさかこんな所で……!! オイ、各所に連絡しろ、巫女様発見、巫女様発見!! 生存を確認した!!」




 若干の歓声を漏らす兵士達。

 なんだか変な熱気に包まれてきたぞ……やっぱりコイツら魅了されてんじゃねえか!?

 それから巫女様ってなんだ? バニーは巫女様ってやつなのか……?




「さぁ、行きましょう巫女様、我らと共に教会へ!!」


「ちょっ、ちょっと待てぇい! バニーを教会へ連れて行って何する気だ!?」



 やっと言葉を発せられた俺。

 今までの怒涛の展開で呆気に取られていたが、兵士がバニーの手を引き出したのでやっと口を出せたのだ。

 教会へ連れて行く気か? いったいそこで何を……?

 巫女ってのは協会の関係者なのか???

 聖女じゃなくて???




「なんだお前は?」


「いや、こっちが聞きたいよ! あんたら誰っ!?」


「我ら神聖騎士団! 神と教会の名の元に正義を執行する者!!」


「何それカッケェ! じゃなくて、巫女って何!? バニーは今この時間は俺の奴隷で……」


「えぇいウルサイウルサイ、我らが神聖騎士団は巫女様をなんとしてでも連れていかなければならないのだ!! 邪魔立てするならば……」




 バニーの手を引くもの以外の騎士達は腰に携えられた剣に手を伸ばす。

 武力を用いて解決しようと言うのか。

 冗談に思える部分は欠片も感じられなかった。

 しかし、その内の一人、前から2列目に立っていた男の剣は次の瞬間には鞘ごと宙を待っていた。

 ルビーが瞬時に近づいて蹴りあげたのだ。

 いや、手を出すの早いよ!! 出したのは足だけど!!




「お、お前らぁぁぁ!!」


「ああっ!! す、すいません、ルーに悪気があった訳ではなくてですね、こちらは本当にただ話し合いで解決したいと……」


「お前らと話す事はない!! さぁ行きましょう巫女様、お父様とお母様も大変お喜びになるでしょう……」


「えっ!?」

「なっ、バニーの両親がいるのか!? 教会に!? ちょっと待て、まだ話は終わってないでしょ、バニーを勝手に……」

「しつこい奴等だ……オイ、こういう時の新入りだろう。アイツを呼んで来……おっ、丁度来たようだな」




 ルビーの行動でこちらの話を聞く耳も持たなくなった騎士達。

 彼等はグイグイとバニーの腕を引く。

 そして、それを引き止めようと必死に訴える俺。流石にルビーにはもう手出しさせるつもりはない。ミラと俺の後ろで待っていてくれ。

 また、バニー自体は両親の話を出され混乱しているようで騎士達への抵抗などはなかった。


 そしてそんな中、さらに騎士達を割って奥から一人の男が現れる。


 他の騎士達のようにお揃いの神聖騎士団の鎧とマントに身を包んでいるものの、甲冑をかぶることなくその顔は露見していた。

 赤髪に、額から生える二本の角。

 その男はルビーと同じく『鬼人族』だったのだ。




「隊長、聖女様が見つかったんです……あれ、久しいなフェリス。元気だったか?」


「……ウアァァァアアアァァァッ!!!!」

「えっ?」




 気付けば、ルビーはその鬼人族の男に突っ込んでいた。

 左足を軸足に連続で蹴りを繰り出す。

 それを手の甲や足の甲でいなすように防ぐ鬼人族の男。

 その衝撃音は大きいが、まるで赤子の手を捻るかのように手も足も出ないルビーがいた。

 嘘だろ、あのルビーが遊ばれてるかのようだ、っていうか、どうしたんだルビー!?

 いくら足が出るのが早いからってまるで本物の鬼のような勢いで襲いかかっている異様な姿がそこにはあった。




「オイ、新入り! クロウだったか? この場はお前に任せる。私は巫女様を教会へ連れていかなければなるまい、巫女様が見つかったとなれば聖女様も顔でも見に帰ってこられるだろう!!」


「了解……ところでフェリス、お前その左腕動かないのか?」


「ウルサイィィ!! 死ねぇ!!! お前だけはっ!!」


「ちょっと待てルー! どうしたんだよっ!?」




 命令も聞かずに暴走し、明らかに様子のおかしいルビー。

 連れていかれるバニーを追いかけようとしようものなら、その進行方向にこの鬼人族の男が立ちはだかり、ルビーと戦いを始めてしまうため追いかけられず、バニーは見る見る遠ざかっていく。

 ルビーは止まらないしこいつはいったい誰なんだ!?


 俺は【鑑定のマスク】でこの鬼人族の男の情報を読み取った。



 名称:クロウ・ボルテクス

 種族:鬼人族

 性別:男性

 年齢:二十歳

 レベル:七十

 ……



 ……は?

 ……オイオイ、レベル七十ってマジでか!?

 ユリアさん並だぞ!?


 俺は急いで【怪力のマスク】へ仮面を変え、ビビって静かになっていたミラに絶対にここから動かないように言い聞かせる。そして……




「やめろルー!! 戦うな、そいつと戦うんじゃない!!」



 奴隷には隷属魔法がかかっているはずだ。

 命令に背くと身体に激痛が走るという物で、だからこそ俺はそんなもの使いたくもなかった。

 だから『命令すること』を今まで避けてきたんだ。

 だけど、今はそんなことを言っている場合じゃない、激痛を与えようとルビーを止めなければいけない。

 レベル七十と戦うなんてユリアさんの時のことを繰り返すだけだ。




「がぁぁぁあああ!!!」




 しかし、止まらない。

 北川修一を彷彿させるその歪んだ顔、いままで見た事のないルビーの持つ憎悪の顔だった。

 効かないことを分かりつつ蹴りを繰り出し続け、動かない左手までを攻撃に使う。

 避けられても避けられても攻撃は止まることなく加速していた。



「ぐぅぅぅううう!!!」



 足技が効かない、動かない左手の掌底が効かない。

 次にルビーが取ったのは体全体を使ったタックルだった。

 それだけではない。軽く避けられつつも充分に相手に近寄ったルビーは歯をむきだして噛み付きにかかったのだ。

 ルビーは獣が獲物を取るがごとく鬼人族の男の首元に噛みつこうとしていた。



「フェリス、良い主人を持ったみたいだな。しっかり生きろ(・・・)よ」


「ガッ! ……ク、ロ……ウ……」



 一撃。クロウとかいう男の右手刀から打ち込まれたたったの一撃でルビーは静かになる。

 それだけで、意識を手放し地に倒れ伏したのだ。

 俺はすぐに駆け寄り、安否を確認する。

 良かった呼吸はしている……




「す、すみません!! 突然攻撃なんてしてしまって……だけど許してください! もうこんなことはさせないのでっ!」


「いえ、俺が恨まれているのは分かっていたことですから。フェリス、いや今は違う名前がなのでしたか? とりあえず、彼女のことをよろしくお願いします」


「は? はぁ……」




 俺は直ぐに謝った。ルビーは生きているしこれ以上大変なことにならないよう謝罪したのだ。

 しかし、それに対するこの男の返答はいやにアッサリとしていた。

 まぁ拍子抜けだったが助かった。ホッとした。

 レベル七十なんて強さからしたら、ここで皆殺しにされるかもしれなかったのだから。

 とりあえず、よく分からないままクロウなる鬼人族の男は去っていく。


 もしかしたらルビーの親族か何かだったのだろうか。

 フェリスと言うのはきっとルビーが捨てた奴隷になる前の名前だろう。


 とりあえずバニーを追わなければ、俺はそう思ってあいつらが向かったと思われる一番近い教会に行こうとしたんだ。

 でも、ミラと気絶したルビーをどうするんだと立ち止まる。

 特にミラは怖かったのかブルブル震えて今にも泣きだしそうだった。




「っ!! ……ごめんなミラ、もう大丈夫だから、一度クランハウスへ帰ろう。その後、ちゃんとバニーを連れ戻すから……」



 目線を下げるため膝を付き、頭を撫でてやる。

 それで安心したのかワッと泣き出すミラ。

 ここまでのやり取りは街のど真ん中で行われていたため俺達はとても目立っているのだが、もう仕方ないだろう。

 泣き顔のミラを俺はこの時初めて見た。

 ……ゆっくりと帰ろう。


 ルビーを背負い、ミラと手を繋いで帰ろうとした時だった。


 一人の女性を中心にまたしても俺の前にはゾロゾロとローブを頭まですっぽりかぶった人達が集まってくる。

 見るからに怪しく、もう……なんなんだ!! と不機嫌になりそうだったが、ローブから覗くそのいくつもの顔がどこか見知った顔だったため俺は冷静になる。




 ……っ!! 紋章者!


 そう、紋章者()だ。


 しかし、俺の目の前にいる集団の中で一番先頭に立つ女の子。

 彼女だけは違った。

 ローブから見えるのは白く長い髪。それは明らかに日本人のものでは無い。

 目は小さく、鼻は団子鼻、口は大きい……うん、絶対この世界の人だな。この世界において美女と呼ばれるような人間であることが伺えた。

 そして、その彼女が俺に話し掛けて来る。




「もし、あなた……先程の兎の獣人とどういうご関係ですか?」


「……それを言ったとして、いったいどうする気だ?」


「フフ……別に何もしませんよ。そんなに怒らないで。ただ、『巫女』と聞こえましたので少し気になりまして」


「『巫女』……何か知っているのか? いったい巫女っていうのは……?」


「そうですね、少し場所を変えましょうか……あ、そうそう。私の名前はシンシアです、よろしく」


「……俺はシン……」





 ……


 その後、俺はこの何か知っていそうな女性達と、とある酒場で待ち合わせする約束をした。直ぐにバニーの元へ行きたかったのだが、彼女達はバニーがどこに連れていかれるのかを分かっているらしいのだ。それどころか居るべき所に帰っただけだと言っていた。確か、両親がいるとか言っていたし、神聖騎士団とやらはバニーを様付けで呼び、敬語を使っていた。とりあえず悪いようにはされていないだろう。


 目の前のシンシアと名乗る人物を調べるために仮面を再び【鑑定のマスク】に換えたいとも思ったが、奥にいるのは俺と同じ紋章者。怪しい行動は出来なかった。

 よく見ればそこにいたのは男子三人、女子五人、そして先生の九人の紋章者だ。

 よくもこれだけこの一月の間に紋章者が集まって、なおかつ上手くやれている……

 北川修一のような男が出なかっただけ良かったとしか言いようがない。

 この白髪の女性シンシアが要因なのだろうか……?


 とりあえずミラ達をクランハウスに置いてから酒場には行くつもりだ。俺を罠にかけるメリットもないだろう。彼らが俺を紋章者と見破っているならば顔だけ見せるのは怪しさを深めるだけでしかないしな。

 先程のやり取りを見ていたようなので、ルビーも起きない今こそが俺に何かする絶好のチャンスだっただろう。

 それもないということは、本当に向こうもバニーの話を聞きたいのだ。そして恐らく俺もバニーや巫女についての話を聞けると思っている。




 俺はミラとルビーを急いでハウスに連れて帰る。

 気絶したまま起きないルビーを布団に寝かせると、ミラには寝ている彼女と待っているように言いつけた。

 心配そうな顔がミラに浮かぶが、「大丈夫だよ!」と【魅了のマスク】を着けて言っておく。酷いかもしれないが魅了の力に頼らせてもらった。この力は無条件に俺への信頼や思いといった物を高めるのだ。そうして魅了されたであろうミラも俺の言葉をすんなり受け止めてくれた。


 一階へ降りればクランメンバーでそこにいるのはソフィアのみ。

 少しだけユリアさんについて行って貰おう等と考えていたのだが、どうやら外に出ているようだ。いつもあの人とはタイミングが合わない。


 一方、ソフィアは俺の慌てた様子を見て近寄ってきた。




「どうした? 何かあったのかシン?」


「ちょっと、レンタルしていた奴隷が連れ去られちゃって……無事、というか危険はないみたいなんだけどゴチャゴチャしていてね、とりあえず今から事情を知っている人に詳しい話を聞きに行くつもりなんだ……」


「なにっ!? なんて卑劣な奴がいるんだ!! 人様の奴隷を奪うなんて許せんな、私もついて行こう!」


「えっ!?」




 何故か分からないがソフィアが付いてくることになってしまった。

 まぁ戦闘はないと思うが一応レベルも二十二、ありがたい……のか?

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