026話:持田 真樹
一章はこれで終わりです。
関西弁は自信がないです。変換ツールを使っているので……
変なところがあったら教えてください
海に来ていた。
別にビーチにナンパをしに来たわけではない。
そもそも、この世界で自信ありげに水着を着ているのはブッサイクな方々のはずだ。
俺の趣味には大概合わない。
今日は黄昏に来たのだ。
本当は一人で黄昏たかったのだが、ルビーは頑なに付いてこようとするし、ミラは海と聞いた瞬間にテンションマックス。最早一人で行きたいと言える状況ではなかった。
そんな訳で俺の可愛い奴隷達と三人で海へやって来た。
馬車に揺られて三時間もかかったためケツが痛い。
こんなことに金を使うな?
いいじゃないかたまには!!
なんやかんやで今の残金は四十万ガルドほどあったのだ。ユリアさんに紹介された貸切馬車だったが、お代についても奴隷を一日レンタルするより安いしこのくらい許されるだろう。
そして、そんな馬車移動だが最初は大興奮だったミラも途中からスースー寝息を立てて寝てしまうくらい長かった。
夜の海で叫んだりしてみたかったが、これは夜になる前に帰ろう。
帰るのが深夜になってしまうしケツが痛くなって寝れなくなりそうだ。
「わぁぁぁ!! すぅぅぅ……っごくおっきい!!!」
馬車から降りればもう海は目と鼻の先だ。
そして、そんな光景を見ながら腕を目一杯広げて叫んでいるミラがいた。
なんだこの可愛い生物は。
まぁ、あれだこういう時の鉄則を教えてやるか。
「いいかミラ、こういう時はなこうするんだ……海だぁぁぁ!!!」
俺は唐突に砂浜へ向かって走り出す。
もう、全速力だ。
そして、笑いながらそれについてくるミラと無表情ながらウキウキした雰囲気でついてくるルビー。
なにぃ!? ルビーは分かるが、ミラ、お前足早いな!!
いや、ちげぇ!! 俺が遅すぎる! ウソん!
「キャハハハハハ!! たのちぶしっ!!」
「うおっ!! 盛大にこけたな! 大丈夫かミラ!?」
「うん!! キャハハハハハ!!」
「おぉ、走り去っていった。元気だな。ルビーお前も気をつけろよ? けっこう砂に足を取られるからな」
「……もう、走らないのか?」
うん。だって疲れたもん。
俺は無言で目を細め海を目で楽しんでいるのだよとアピールしながら歩いて行った。
少し不満そうだったが、ルビーは特に何も言うことなく付いてくる。いいんだぞ、お前も童心に帰ってミラのように走ってこいよ。そう言おうとしたがやめた。蹴られそうだし。
「つめたーい!! キャハハハハハ!!」
海に入るにはちょっと気温が低すぎる。
すぐに唇がパープルカラーになってしまうだろう。
そんな海に足先だけ入れてミラは遊んでいた。
えっ、靴?
あっ、さっき走り出した時に脱ぎ捨てたんだ。
ちなみにルビーも靴を脱いだようで履いていなかった。意外としっかりしてんな!
はぁ、浜に荷物置いたら盗まれる前に回収しに行くか。
ざっと見回して見れば人っ子一人いない。
シーズンオフだからだろうか。まぁそりゃそうだわな。
隣を見れば、波と戯れるミラを見つめながらなんだかうずうずしてるルビー。お前もやっぱり遊びたいんか、遊びたいんだろ?
「全く、ルビー、俺はちょっと皆の靴を回収に行くからミラと遊んでやってくれ」
「……ん」
仕方ないなぁといった様子で海に向かって去って行くルビー。
全速力だった。
靴を回収した後は本来の目的だった黄昏タイムを開始する。
砂浜に体育座りして、ザザーンザザーンという波音を聞きながら、ひたすら【真のマスク】を通して地平線を眺めていた。
少し寒かった。毛布を持ってくれば良かった。
そうして俺は潮風に吹かれながらも胸の中の苦しい思いを少しづつ癒し、消化していった。
……
暫くして、頭が随分落ち着いてスッキリしたので少しこれからのこと、これまでのことを考てみる。
紋章者、何故こんな理不尽な物が俺達に課せられたのか。
時間制限も範囲制限もないバトルロワイヤルだ。
戦わない選択は帰還の意志がないということを示すものの、殺し合う必要もなく安全だ。爆破する首輪が付けられているわけでもないし。ただ、一人でも帰りたい者がいるならば戦う意志がない者には命の危険が常につきまとう。
理不尽なんだ。帰りたくない者は淘汰され、帰りたい者だけが生き残り。そして、最後の一人が日本へ帰れる。
……なぜそんなルールがあるんだ?
何故俺達だけ?
……確か、この世界は教会とかあるし、神の存在を信じているはずだ。
俺達をこちらに連れてきたのが神でなかったとしたらわからないが、もし、この世界が神の実在する世界だとしたら、そして俺達をこの世界へ連れてきたのがその神だったとしたら。もしかして、その理由もいくらか分かる方法があるのではないだろうか……
聖女の欠損治療の話もある、少し調べてみよう……
欠損を治せるほどの力……
そんな力があったなら、あの状態の安田志帆も助けられたのだろうか。
もしかしたらあのクソッタレの神らしきものから貰ったこの『仮面の力』を使えば……
後から何度も後悔した。
この力は俺自身よく分かってないが、他人の顔につければその者の性質、願望などを反映した仮面に変わるようなのだ。
ミラは知りたいという願望が、ルビーは怪力という性質が、バニーはどっちなんだろう。俺からすると充分魅力的だから性質にも思えるけれど、本人はもっと魅力的になりたいという願望があったのだろうか?
兎に角、あの場には沢山の子供達が安田志帆を救いたいと願っていた。回復魔法が使えるカンラもいた。
もし、俺があの仮面を誰かの顔へ押し付けていたならば……
違った未来を思い浮かべると後悔する。
そんなことは誰もが感じたことがあるだろう。
もしあの時こうしておけば、ああしておけば。
仮面はそんな願いも叶えてくれるだろうか?
過去に戻りたいという願望を持つ人がいれば、仮面は過去改変の能力を持つことが出来るだろうか?
死者を生き返らせたいという願望を持つ人がいれば、仮面は死人を復活させる能力を持つことが出来るだろうか?
流石にそれは無理だと思う。そんなこと言ったらなんでもありだ。それこそ神になりたいなんて願望だって叶ってしまう。でも欠損治癒の仮面はありえるのかと言われれば出来そうでもある。
結局の所、やってみなきゃわからないのだがそんな実験のためには俺は仮面を外さなくてはいけない。
そうなると正体のバレるリスクもあるし、そもそも緊急時以外は基本的に顔を晒したくないんだから結果的に実験など不可能だった。
一応、奴隷を買って秘密厳守の上実験してみたり、クラン内で秘密厳守の上お願いするって案もあるが、奴隷についてはミラを買ったばかりだからまだ先だろうし、クランはダイナの口が軽そうでなんか不安だ。
そういう訳で、無かったことをいくら考えても無駄なこと。
仮面の力だって、元々【真のマスク】で満足していたはずだし、このままでいれば俺の正体もバレないと思っている。
そりゃ、新しい力はありがたく頼らせてもらうが、常に現状に満足し、今ある手数で上手く生きていこうと考えていた。
ウンウンと考えの深みにハマっていると、ミラが何かを持ってくる。
「シンさま、みてみて! これ、なぁに!?」
「んー、どれど……ナマコォォォォッ!! ミラ、お前よくそんな気持ち悪いもの素手で持てるなっ!?」
【鑑定のマスク】を着けなくても分かった。
デロンとミラの両手から垂れる、ヌルヌルな気持ち悪い物体。ナマコだ。マジキモイ、マジエンガチョ。
すぐに捨ててきなさいと言ったら、ミラは少し悲しそうだった。飼わないからね、そんなキモイの!!
「オイ、私も……見つけた」
「なんだぁ、お前もかルー?」
「向こうだ」
ルビーもなんでもないような様子だが内心ウキウキなんだろう。
ミラのように何か獲物を見つけて俺に見せたいようだった。
仕方ないなぁとつぶやきながら、俺は砂浜から少し離れた岩場へ向かう。
しかし、そこには……
「……紋章者!!」
うつ伏せに倒れる、我が高校のセーラー服を着た女子がいた。
安田志帆の格好を覚えていたためルビーは俺に報告してくれたようだ。とんでもないもん見つけてくれた。ナマコよりもビックリだ……
打ち上げられているってことは水死体だろうか?
いや、土左衛門ってもっと色々と酷いことになっているって聞いたことあるけど……
とりあえず首元に触れる。脈は小さいながらも確かにあった。
「生きてる!! おいっ、君……っ!! あ、れ? お前は……持田 真樹!!」
コロンと上を向かせて呼びかけようとしたのだが顔を見た瞬間こいつが誰か分かった。持田真樹だ。
俺が最も苦手な相手。正直関わりたくない相手だった。
でも、このままでいいのか?
髪も服も海水でびちゃびちゃに濡れている。
この時期、海水は冷たく体の熱はドンドン奪われてしまうだろう。
持田真樹の唇は青く、呼吸や脈もだいぶ薄かった。
見捨てる?
俺の中でそんな選択は自然と消えていた。
こいつは俺にとって苦手な相手で、一番会いたくなかったはずなのに……
一向に意識が戻らない彼女の濡れた服を脱がせて、下着姿の持田真樹を自分の上着で包んでいた。
俺の頭の中にあったのは安田志帆に伝えられた『生きて』という言葉と彼女を助けられなかった事実。
もう後悔はしたくなかった。
もう誰も目の前で死んで欲しくなかった。
「ミラ、ルー、ごめん。海は終わりだ。帰るよ」
「あぁ」
「おねえちゃん、だいじょうぶー? おなかいたい?」
「どうだろう。きっと寝ているだけだから、暖かいお布団まで運んであげよう」
「うん!」
俺の非力な両腕ではどうにもならなかったため、【怪力のマスク】に仮面を変えて、彼女を馬車へ運び込むと、俺達は急いでクランハウスへ帰ることにした。
◇◆◇◆◇
突然。
それは突然のことやった。
ウチは神様の前に立たされとったんや。
神様っちゅーても姿は見えんし、声だけしか聞こえないんやけど……
兎に角、そんな神様にウチは、ウチらは、残酷な運命を告げられた。
そして、次にウチが気付いた時そこは浜辺やった。
近くには知り合いが一人もおらんし、さっきまでの教室でのおしゃべりが嘘みたいに感じられた。
だから「誰かー!」って声を上げてしもうたんや……
それが最大の失敗やった。
すぐに変な男らがやって来て、追い回されて、そんで捕まったた。そのまま船に乗せられた時は怖くて怖くてオシッコちびりそうやった。
結論から言うとアイツら海賊だったみたいや。
ドクロの旗が見えたありゃホンマもんの海賊やった。
変な力を神様に貰ってしもたせいで、こりゃブスだけど儲かるとかなんとかってことで結局檻に入れられてな、ウチはブスちゃう! こんなとこに入れてウサギちゃんかーって最初のころは騒いだんやけど、全然出してもらえんくて。
あぁこのまま餌付けされつつ何処かの暗黒大陸へ売られてまうのやろうかって諦めかけてた時、嵐が来た。
船がメッチャ揺れてなぁ。
ウチの入ってた檻なんて壁に激突してぶっ壊れよった。
だからチャンスと思って逃げ出したんや。アホやなぁウチ、海の上だからどこにも逃げられんのに、甲板に出てしもうた。
お陰で海賊達に見つかって、さらには船が大きく揺れおって、ウチは荒れ狂う海にドボンや。
んで、気付いたらベッドにいた。
ちょっと戸惑ったけど、たぶん神様が転移場所間違えていたことに気付いて、急いでベッドの中にウチを移したんやと思った。全く神様も困ったちゃんやでぇ。
あぁ、良かった。さっきまでのは夢みたいなもんかぁなんて思ってたらなんかちっこくて可愛いのがピョコっとベッドの縁からこっちを見てくる。金髪で外人さんの子供みたいな感じ、でも耳は長くてスラッと細くて……エルフかいなっ!
いや、エルフだったんやけどね。
とりあえず、ご飯を持ってきてくれたそのエルフっ子が言うには『シン』って男に助けられたらしい。
こないな美少女を助けるなんていったいどんなイケメンやねんって思ってたら食事を終えたウチの所にやってきたのは『仮面』やった。
出オチでもなくてマジな感じで、変なやつやなって思ったわ。しかも、なんだかウチのことを避けてるような気もしてますます変人やった。
「もう、大丈夫そうだな」
「あ、ども、おかげさんで。おおきに……」
「じゃ、見送ろう」
……え? 見送り?
いやや! ベッドに美味しいご飯、ここは天国や!!
ウチはせめてあと一日、いや二日くらい滞在したい思うてた。
だから少し悪いとは思ったんやけど、仮病を使うことにしたんや。
「ゲホ、ゴホゴホ、す、少し調子が悪くなってしもたな、良かったらもう少し寝させて頂けたりしたりしなかったり……?」
「……はぁ、だから嫌なんだ……明日までだぞ!」
「あ、ありがとうござんます!!」
や、やった!
でも、明日か、明日からどうしよう……
海の中でお金も落としちゃったみたいやし、参ったなぁ。
とりあえず悩んでも仕方ない、ということでこのお屋敷を探索してみた。
なんだか凄く広くて使ってなさそうな部屋も幾つもある。こんなあるなら一つくらい貸してくれてもええのになぁ……
そして見つけたんや、さっきまで真っ白な仮面をつけて何考えてるかわからん男が今は顔半分が出てる素敵な仮面を着けている所を。
ドアの隙間から覗いたらチラリと見えたんや。
かーなーりー男前だったけど、どこかで見た事ある気が……
んー、どこやったっけ……全然思い出せへんなぁ……