022話:ショウスケ再び
少し後半纏まっていないかもです。
読みづらかったら申し訳ないです。
少し時間を開けて……1章が終わった頃に見直して、加筆修正するかと思います。
1章は残り数話で終わるかも……三十話まで行かないかもです。
ロアは結局元気を取り戻してくれていた。
トゥートルフゥを取れたのはロアのお陰だよ! と、褒めたたえまくったのだ。最初は元気が無かったものの、俺達四人でトゥートルフゥを実食する時にはスッカリ元のロアに戻っていてくれた。
と、言ってもトゥートルフゥはなんと言うか“珍味”であり、正直舌の肥えている俺とハンクさん位しかまともに美味しいとは感じなかなったようだ。
ロアは子供の頃から取っていたらしく「やっぱりお肉の方が美味しいです」と言って一口しか食べなかったし、ルビーも「肉やパンのほうが美味いな」とか言っていた。
そのくせこの鬼人族の娘はロアの残したトゥートルフゥまでしっかり残さず食べていたので食い意地が張っている。
……そんなロアをギルドに返してから二日。
俺は冒険者ギルドにいた。
依頼達成報告まではまだ日があったものの、良いFクラス依頼を見つけたのだ!
因みに余っていたトゥートルフゥ五個は占めて十万ガルドで売れた。商人のように適正な市場価格では売れなかったがなかなかの収入だ!
ロアのレンタル料金もしっかり回収できた。そう思うとかなり良い商売な気もするが、けっこう広範囲を探索したのであのまま連日採集するとすぐに森からトゥートルフゥがなくなる気がする。うん、やめておこう。
「ようこそシン様、採集依頼についてあとは報告だけだとハンクから伺っていました。今日はその報告とクラス昇格のための運搬依頼ということで宜しかったでしょうか?」
「ハイ! まずはトゥートルフゥです。それから依頼はこれ。これです、この『引越し』依頼!」
そう、引越し依頼である。
事務所移転で荷物を運んで貰いたいそうだ。
俺は【怪力のマスク】があるためこの依頼は楽勝だろう。
町の外に出ることもなく、難易度も力仕事という点以外はないようだった。
因みに、どういう訳かあの黒い腕を使えば簡単に触れている物に対して力が働くのだ。普通は足腰に来るはずのユリアさんとの力比べもあの黒い腕だけで押し勝てていた。だから今回も上手く行く算段だ。
……
そんな訳でルビーと二人で荷物を積むための事務所のある住所へ向かう。今回は危険もないのでハンクさんは一緒ではない。
さらに、王都内の引越しのため比較的近い距離なのだが馬車が用意されているらしい。なので、身一つで大荷物を運べる冒険者を募集していた。
Gクラスでも出来そうだが、なんか依頼者は金持ちっぽいし一応Fクラス依頼なのだろう。
トゥートルフゥに続いて、結構楽な依頼を受けれた気がする。
「って、これは……」
「おぉ、君が引越しをしてくれる……あれ? そのローブ……シン?」
イケメンが話し掛けてきた。
いや、違う、この人はレオンさんだ。
と言うことは……
「おぉ? シンが来たのか、なるほど……これは運命かもな。お前やっぱりウチで少し働いてみたら……って、お前その仮面はあんまり良い趣味じゃねえな。あの半分の仮面つけろよ、そっちのほうが良かったぞ?」
「……どうも」
やっぱり。
……ショウスケ・フジイ。
ってことはここはホストクラブを取りまとめてる事務所的な所か。あぁ、この依頼やっぱりハズレかもしれない。
俺はソフィアから百万ガルドもぼったくったこの店を、このオーナーを好きにはなれないからだ。
「おーおー、嫌われたもんだな。まぁとりあえずけっこう荷物あるからドンドン運んでくれ!」
「あの、そう言えば依頼者はハルブリード・シグルスって人でしたけど……」
「あぁ、その人はパトロン。事業が順調だから今回新しく広い事務所を用意してくれたんだ。引越し費用まで出してくれる太っ腹な人だ」
……もしかしたら、以前ケツ持ちとか言っていた、バックについている貴族かもしれない。『ハルブリード・シグルス』一応名前を憶えておこう。
ユリアさんも一応貴族らしいし後で聞いてみることにした。
そして、俺は黙々と荷物を運搬する。
その後ろではルビーがただぼおっと立って俺の様子を見ていた。
手が使えない彼女は今回出番がない。
ハウスで待っててもいいと言ったのだが、どうやら付いてきたかったようだ。
「で、シン、あの女は何?」
「……俺の奴隷です」
「へぇー、ふぅーん、奴隷ねぇ……因みに名前は?」
「ルビーですよ。いつもはルーと呼んでますが」
「ルビーか、うん、いいね。お前が付けたんだろ? 奴隷に名前を与えるのは主人の役目だもんな。ふっ、こんにちはルビー。俺はショウスケ・フジイ、よろしく!」
「……」
ショウスケ・フジイはルビーと握手をしようと、己の左腕を伸ばしたが、ルビーの手は動かない。当然握手も出来ないため手を差し出すことはなかった。
「……オイ、シンこの奴隷失礼すぎるぞ? 少しは礼儀を身につけさせておかないといざという時に貴族なんかの怒りを買うことになるぞ……」
「……ルーの手は動かないんですよ」
「あぁ、なるほど。片腕はなくて、残ったほうも動かないと。なぁ、治療させないのか?」
「いや、出来たらしてますよ! 治療士に頼んだんですけどダメで……」
「教会の聖女や転移者なら怪我どころか欠損も治せるって聞いたぜ?」
「なっ!?」
欠損が治せる!?
この世界の回復魔法は簡単な怪我を治療できるくらいにしか思っていなかった俺に衝撃が走る。
もし、欠損が治せるなら。
ルビーは左手どころか右手も使えるようになるのではないだろうか……?
本当にそんな奇跡のような力があるのならば……
俺の顔には仄かに希望の笑みが浮かんだ。
彼女は全く辛そうな雰囲気を出さないが、実際手が使えないことで色々なことを諦めていると思うのだ。
もしかしたら俺の前では勤めて平凡を装っているのかもしれないし、本当に特に何も感じていないかもしれない。
でもそんなことは問題ではないのだ。俺がそのことについてあれこれと考えてしまう現状こそが全て、結局ルビーの手が使えない状況に俺は責任を感じ、勝手に罪悪感を持ってしまっているのだ。
そして、彼女のためにもし再びその腕が使えるようになることがあるならば、それは俺自身にとってのせめてもの救いなのである。
俺はその可能性に希望を抱いたのだ。
荷物を積み終わり、俺達とショウスケ・フジイ、そしてレオンさんの四人で馬車の後方に詰める。
引越し先まで、荷物と一緒に運ばれて、その後新しい事務所とやらで今度は荷降ろしの予定だ。
「それにしてもよぉ……シン。お前、両手が使えない奴隷をそのままにしておくなんて少し人が良すぎないか? お前ここに来てそんなに日も経ってないだろうに、何故そんなことをしてるんだ?」
「……別に、彼女の片腕は俺が使えなくしてしまったんです。だから……」
「だからなんだ? 責任でも取るってか? あぁ、そうか。シン、お前この世界の奴隷のことまだよく分かってないみたいだな。この世界の奴隷は『物』なんだよ。そして、今のお前は壊れた『物』を大事に持っている変な野郎だな」
「っ!? 俺は物なんかと思ってないんだからそれでいいじゃないですか!」
「だから、そんなお人好しはすぐに死ぬぞって注告してるんだ。そんな道楽は貴族か大商人になってからやるんだな。俺はやっと大成し始めた今だからこそそれが言える。この世界はな、至ってシンプル。力のあるヤツこそが強い。お前みたいなやつはそういう奴らに食われちまう餌だ」
「お、俺だってもうすぐFクラスの冒険者に……」
「例えばよ、ここで貴族が来てこのルビーを気に入ったから買わせろと言ってきたとして……お前は断れるのか? 貴族相手に意見を通せるのか?」
貴族に逆らう。それはきっと難しいのだろう。
ユリアさんのように貴族らしからぬ人もいるが、彼女に連れて行ってもらった貴族街のレストランではここと世界がまるきり違っていた。
もし、そんな相手にルビー売れと言われたら?
俺はその時いったいどうするのだろう……
悩む俺をよそにルビーがここで口を開いた。
「無駄だな。私はこいつの奴隷で、こいつは私を手放さない。それで終わりだ」
え?
もう、ルビーさん何言ってんのいきなり?
何か言い切ってやったみたいな満足気な様子のルビーがそこにはいた。
俺は唖然としてしまう。目の前のショウスケ・フジイもそうだ。
言葉が少ないとかって話ではない。手放さないと大変なことになると言って……
あぁ、そう言うことか。
大変なことになっても手放さないと言っているのか……
何故そんな風に思ってもらえるのか分からないけれど引越し先に到着したため俺は積荷を次々と下ろす。
【怪力のマスク】のお陰でこの作業は汗一つ流すことなくなんなく終わった。楽勝だった。
そしてやることやったあとはさっさと帰る。しかし帰り際、俺はショウスケ・フジイに話しかけられた。
「何か困ったら来いよ? 雇ってやるよ」
「……あの、もし元の世界に帰れるとしたらどうしますか?」
「あ? そりゃ帰るよ」
「……え? でも、こんな立派な事務所まで持っていて、悩んだりとか……」
「だから、ここで暮らす? そりゃこっちに思い入れはあるが、俺は日本人だ。日本に帰りたい」
「どんな犠牲を払っても?」
「この身一つが帰れるならどんな犠牲だって払うぞ。なんだシン、お前何か知ってるのか?」
「いや、もしそうだったらどうするのかなって……」
「まぁ、人それぞれだろ。こっちが気に入った奴だっているだろう。それこそ家族なんて出来たら帰れないんじゃないか?」
この人がどの程度本気なのかは分からない。
けれど、日本を懐かしむ顔には俺も少しだけ心を動かされた。
紋章を集めれば日本へ帰れる紋章者達。
俺のように早々に諦めた人はもしかしたら少ないのかもしれない。
斉藤は三人で行動していた、目的も紋章とは関係無かったように感じる。だけど、まだ諦めていなかったのだろうか?
安田志帆は生きるのに精一杯の様子だった。もう紋章のことは考えないようにしていたようだが、諦めていなかったのだろうか?
北川修一は……あいつは何を考えているのだろうか……
時間制限もない。最悪、紋章が一人の元へ集まるのは皆が爺さん婆さんになった頃かもしれない。
だが、逆にそこまで時間がある。人の心は移ろうのだ。いつ、帰りたい思いに焦がれるともしれない。
もしかしたら俺も……?
あぁ、嫌だ嫌だ。
考えても答えは出ない。この話はここで終わりだ。
……俺はショウスケ・フジイの新事務所を後にする。
帰り道、俺はどうしても気になっていたことをルビーに聞いた。
「なぁ、ルー。なんで俺は売らないと思ったんだ?」
「……はぁ」
返ってきたのは溜息。なんでそんなことも分からないんだという雰囲気を漂わせる。
いや、こうやって雰囲気を読み取るだけ凄くない俺?
ルビーの求める高レベル読心術はちょっと身につけられそうもない。
「……お前はパンをくれた。今も毎日あそこへ届けに行く。でも、貴族がパンをくれたことなど一度もない、それどころかお前以外であんなことをした奴は一人もいなかった」
「……」
「最初はいったい何を目的にそんなことしているのか分からなかったが、あのルビーを見て分かった。お前はきっと見た目も悪い私達のどこかにあの美しい輝きを見出して欲していたんだと。だからお前は……お前が特別だったんだ」
パンを買い与えること。
それは、偽善や自己満足。最初はそんな気持ちだったかもしれない。
可愛そうだからという同情だったのかもしれない。
俺自身そんな気持ちでパンを恵むことをとても卑しいことに思えていた。
だけど、今はその思いが少し違うのだとやっと気づけた。
言葉が足りないようにも思えるが、ルビーの言っていることは少し合ってて、少し違う。
きっと彼女達に俺が輝きを感じたのは初めて会ったその時、見た目からだった。
ルビーも合わせて彼女達は皆可愛かったり綺麗な見た目をしていた。とても目を惹く容姿をしていたが、まぁそれは転移者にしか分からないのかもしれない。
だけど、付き合っている内にその内側にもキラキラとしたものがあると感じたんだ。それは素直さだったり、思いやりだったり、愛情だったり、気高さだったり……
彼女達が俺を特別だと思い、惹かれてくれたように俺も彼女達に惹かれていった。
だから、今は俺が彼女達に会いたくてパンを届けに行っている。ルビーの言いたいことは手放したくないから、貴族相手にも手放さない。きっとそういうことなんだろう。
俺はその日、少しだけ気分良くパンを買って奴隷商へ向かった。