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仮面と奴隷と不思議な世界  作者: エイシ
一章:クラス昇格試験
22/41

019話:鼻の効く奴隷

 クルルが回復し、目覚め、俺達は本人から「ありがとう」と、感謝を述べられた。

 集落の孤児達が総出でクルルの回復を祝い、今は全員が集落の中央に集まっている。

 土の上に腰を据え、五十人ほどの大所帯の集落の祝いの場の端っこに俺達は座り、集落のリーダーであるアルと話をしていた。




「トゥートルフゥはあんたらじゃ見つけられないよ」


「えっ!? アル……だっけ? 君、俺じゃ見つけられないってどういうこと? この森にあるって聞いてきたんだけど……」


「あぁ、あるよ。この森の土の中にね。だから、俺らも見つけられたらラッキーなくらいさ」




 ……土の中!?

 土に隠れてしまう場合、【鑑定のマスク】では発見出来ない。表面の土を鑑定してしまうからだ。

 と言うか、土の中のキノコって……




「松茸かトリュフみたいだね」


「あぁ、確かに……」




 そう、安田志帆の言う通り俺もこいつはトリュフに似ていると感じた。松茸は分からないがトリュフは人間の目ではなかなか探せなかったはずだ。

 いや、詳しくは知らんけど。

 でも、前にテレビで豚を使って探していたのを見たことがあった。




「匂いを察知できれば探せるか……?」


「あぁ、そうだシン。こういう場合買って届けてもいいがトゥートルフゥは一つ五万ガルドはするぞ?」


「高っ!! ……さすが高級食材。な、なぁルー、鬼人族は鼻が良いとか……」

「ないな。でも美味い物は好きだ」



 美味い物は誰でも好きだよっ!!

 と、ツッコミを入れることなく思案する。

 とりあえずそろそろ日が暮れるので今日は帰ることになるが、どう『トゥートルフゥ』を探し当てるかを考えなければいけない。

 その前にまずはパンを買って皆に届けないとか……




 ……ん?



 鼻の良い奴、いるじゃん!!


 あー、でもレンタルは二万かぁ。

 五万出すよりは安いけど。うーん……

 とりあえずパンを届けた時に少し話をして考えるか。




「……それじゃ今日の探索は諦めて、そろそろ帰るよ」


「えっ? 帰るって町に!? 奴隷狩りに会わない!? 大丈夫!?」


「いや、大丈夫だぞ? 十五歳以上は成人らしいからな。別に完全に安全って訳ではないけど……」


「そ、そうなんだ……もう帰っちゃうの?」


「「「えっ!?」」」




 この発言にはビックリした。

 いや、俺以外にも主に集落の男子諸君から声が上がった。

 俺は単純に魅了が効き過ぎている様にビックリしたのだが、男子諸君は魅了されてしまった安田志帆の発言にビックリしたようだ。

 というか、睨まれている。アル君、君ちょっと視線が鋭すぎる。




「シホを連れてかないで! シホは僕のお嫁さんになるんだよ!」


「こ、こらカンラ! シホにはもっと相応しい男が……」

「僕もねー、シホ姉ちゃんと結婚するんだぁ」

「僕もするー!」

「お、俺も!」


「はぁ、ホンットおとこってバカね!」




 カンラを皮切りに孤児達の主に男子が安田志帆と結婚すると集まってきた。

 そして今まで回復を祝われていたはずのクルルが取り残され、向こうの方でやれやれと手の平を空に向け、頭を振っている。

 クルル……五歳児とは思えない言動だ。幼いながらその顔は俺が可愛らしいと感じるのだから色々と苦労しているのだろう。




「み、みんな……! 大丈夫、私はここにいるよ! で、でももう少し町の話とか聞きたくて……良かったら泊まってもらって……」


「「「ええっ!?」」」




 再び驚き。

 流石に泊まる気もないし、これには集落全員が驚いている。

 これ以上は流石にヤバイと思い、逃げるようにその場を退散した。

 魅了はその効果が人により変わるらしいが、帰る際にこの集落のことは他言しないと言っておいたが信じてくれたようだ。





「さて、それじゃ森を出たら僕も帰るとするよ。また明日森に行くんだろう? 明日ギルドに来てくれればまた一緒に行かせて貰うよ」


「ハンクさん、ありがとうございました。また明日お願いします!」


「それにしてもいい買物したね。鬼人族は流石に強い。手は使えないみたいだけど僕並かそれ以上の強さだったね……! この顔にこの欠損、あの時のデスサイズの魔核で買ったのかい?」


「えっと、まぁはい……」




 数十万で買えるはずがない。彼女にかけられた値段は百八十万ガルドだった。

 そもそも元は片腕を使えたのだ。

 俺の性で使えなくなってしまったけれど……

 ハンクさんと別れた後の帰り道、パンを買うまでの路上では元々あまり会話をしない俺達だったが、どこか責任を思い出して気まずさから一層会話し難くなっていた。




「なぁ……おい」


「ん、なんだルー?」


「鬼人族はたまに鼻が良くなる」


「……は?」


「……」




 なんだ突然?

 と、思えばなるほど。確かに良い匂いがしてくる。

 焼き鳥だ。あぁ、これも転移者の作った物だろうか?

 見るとすぐそばに出店が出ていてそこから焼き鳥の良い匂いが漂ってきていた。客に見えるよう焼かれたタレを付けられたネギマが凄く美味しそうだ。


 そう言えば、あの集落でも特に食事を出されるということはなかった。一日動いて腹も減っただろう。

 俺は、俺とルビーの分二本だけ、今日頑張った御褒美として買おうとする。

 これがルビーなりのお強請(ねだ)りなんだろう。

 こんなことで罪悪感が軽くなる俺はどうかとも思うが、買わないより買ってあげたいのだ。





「オジサン、ネギマ二つ! タレで!」


「あいよっ!」



 醤油ベースのタレが焦げる香ばしい匂いのする串を二つ渡された。

 早くくれとルビーは無表情ながら目で訴えてくる。と言うか血走っている。怖い。

 自分が食う前にまずはルビーにあげるか。




「ほら、持ってるから食え、横から食うんだぞ? そうそう、上手いぞ。そうやって串から抜いて……あぁ、がっつくな! ほら口元がタレでベタベタ……」


「ハムっ、アム、ゴクン……」



 夢中で食べるルビー。そんなに美味いのか?

 無言……というか息をする間もなく次々に肉とネギを口に入れていく。見る見るネギマは無くなり、ドンドンルビーの口の周りが黒く汚れていく。

 すぐに食べ終わりペロリと串と口の周りを舐めると一息ついて一言。




「これは美味いな」


「そうかい、全くがっつき過ぎだ、ほらこんなに口の周りを汚して……少し止まってろ拭いてやるから……」


「……んー」


「ほら、これで良し。さてそれじゃ俺もいただきまー……」

「……(じーっ)」



 結局、俺は肉とネギを一つずつ食べれただけだった。

 残りを全てルビーにあげてもう一度口を拭ってやる俺。

 はぁ……


 まぁいいか、とりあえずパンを買って奴隷商まで届けよう。






 ……


 奴隷賞では今日もミラが嬉しそうに出迎えてくれた。

 いつも嬉しいとぴょんぴょん跳ねるのでとても分かりやすい。

 しかし、ふと見るとコレットの様子がおかしい。

 ここ最近疲れていたようだったが、今日はもう疲労感のピークと言えるほどヘロヘロになっていた。




「えっと、今日もパンを持ってきたんだけど……大丈夫か、コレット?」


「は、はい……大丈夫、ですっ!」



 いつも俯いていた顔を少だけあげる。

 彼女の瞳を初めて見た気がした。

 その目は俺や他の日本人のような黒い瞳で、彼女の色素の薄い頭髪と比べると、とても力強い物だった。




「そ、そう。ならいいんだけど……じゃ、パンを配るね……はい、セラとミラの分」


「ありがとうございます」

「ありがとうシンさま! シンさま、シンさま、オニのおねえちゃんげんきになったの?」


「あぁ、元気だよ! なぁルー?」


「良かったねぇ!」


「……あぁ。フン! このくらい元気だ」




 突然空中に蹴りを繰り出すルビー。

 それは単に自分を心配してくれる子供に見せたただのパフォーマンスだったのかもしれない。しかし、俺は彼女の腕が動かないことも気にしないその様子に少し救われていた。



「それじゃバニー、それからコレット……」


「ありがとうございます!」

「あ、ありがとう、ございます、あの……これっ!!」



 パンを渡すと突然服の中から布のような物を渡された。

 恐らく前に渡した毛糸から作ってくれた物なのだろう。

 コレットの胸で温められたのか温か……って、イカンイカン。


 さて、ん! これは……!!


 ……


 ……ん?


 ……なんだ?




「さ、寒くなるから……マフラー、です! は、初めてで……失敗ばっかり、だけど……」


「い、いや、俺初めて手編みマフラーなんて貰ったよ!! ありがとう!」




 そうだよ! これはマフラーなんだ!

 しかも手編み! 俺は一気にテンションが上がる。例え(ほつ)れた布にしか見えなくてもこれは嬉しい。早速首に巻くとコレットは鼻血を出して倒れそうになる。

 【魅了のマスク】を着けていたのもあるが、連日徹夜で今日はかなり限界が来ていたらしい。とりあえず今日はもう休ませておいた。




「さて、最後にロアなんだけどさ……」


「は、はいっ!」


「い、いやそんなに緊張しなくていいよ……ちょっと聞きたいことがあって、ロアって匂いを嗅いで探し物とか出来たりするかな?」


「っ!! ……えっと……」




 顔を歪めるロア。こんな顔は初めて見た。とても辛そうな顔だ。

 何か聞いてはいけないことを聞いた気がする。

 『トゥートルフゥ』探索をお願いしようと思ったのだが、これは諦めるか……



「ごめん、なんか悪いこと聞いた……」

「ち、違います!! 僕、探します、きっと探し当ててみせます!! だ、だからっ……!!」


「そ、そうなのか? えっとそれじゃ少し頼みたいことが……」

「はいっ! ドーンと任せてください!」



 結局その日の内にレンタルすることになる。期日は明後日の夜明け前。明日一日かけて探し出し、その日の内に返せばいいのだ。

 二万は少し痛いが、食い気味なロアに押されて今更断れなかった。



 行きは二人だったのが、帰りは三人。

 食事はいつもハウスでとるため、どこにも寄り道せずに帰ることになった。


 クランハウスで待っていたのはソフィアとダイナだ。ユリアさんはいなかった。




「おぉシンお前も来たか。なんか今日はあの腐れ騎士がビックボアの肉を分けて……ウオッ、お前っ、またブス女増やしやがって!! ここを化物屋敷にするつもりかっ!!」




 肉という単語で尻尾をパタパタと揺らしたロアだったが、その後のダイナのブス女発言に元気をなくす。

 ルビーはダイナの発言に全く動じないが、普通は傷つくだろう。

 俺はロアの頭を撫でながらダイナに声をあげる。



「化物屋敷? 俺の中では楽園に近づいてるんだけどな?」


「うるせぇ転移者! お前の楽園はコッチからすると地獄なんだよ!」


「全く、料理は出来ているんだ。さっさと地獄のパーティを始めたいからシンもダイナも座れ。あの奴隷を見ろ、主人が座ってもいないのにもう席に着いているぞ? それに、シンのその新しい奴隷も紹介してもらわないとな」




 あっ。本当だ。

 見ればルビーは既にいつもの席、俺の左隣の席に着いていた。

 声は発していないものの、早く飯が食いたいからさっさと座れという雰囲気を醸し出している。

 本当は奴隷は主人より先に座っちゃいけないんだぞ!

 等と負け惜しみを言うと、

 だったら、そう命令すれば良い。

 なんて言われるだけだからやめておく。



 俺が席に着き、その右側にロアを座らせる。

 相変わらず元気はないが、目の前に出された皿に困惑しつつ、嬉しさを隠せないのか軽く尻尾が揺れていた。




「シ、シン様……ば、化物の僕が一緒に食卓についても……」


「ん? あぁ、大丈夫だよダイナのあれは冗談だから。ほらルーも気にしてない」


「あぁん? シン、俺は冗談じゃなくて……」

「あと、四人!」


「……は?」


「ここにいるのはロア。明日の依頼達成のため今日はレンタルってことで一日借りているだけの奴隷だが、俺はロアの他にもあと四人。ロアと合わせて五人奴隷を買うつもりだ。と言うか、もう商人と約束してある。お前も知ってるだろダイナ?」


「……ぐっ!」


「ここのクランのこともあるから特段他の所に売る気はないし、解放して自由にするつもりもない。だから別に構わないだろ?」




 せめて外に小屋でも作ってそっちに眠らせろだとか、一人二人可愛い女の子連れてこいだとかダイナが騒ぎ、ソフィアも少し慌てつつ女の子ばかり奴隷を増やしても仕方が無い、男の子の奴隷も増やそう等と騒いでいた。

 そんな中、隣から俺を見上げるロア。




「ほ、本当に買ってもらえるんですね……! 僕、シン様が来るまでもうずっとあの中かと……」


「あぁ、少し待っててくれ。今、皆を買うための金を貯めてるから……」


「ハイ!」



 耳が欠けた犬人族の少女は嬉しそうな顔で微笑んだ。

 食事が始まると、ダイナやソフィアの手前遠慮しているのか手を出さないロアの皿には俺が食べ物をよそってやる。

 ロアはそれをガツガツと食べていく。どうやらロアを奴隷にすると更に食費がかさみそうだ……


 それから一応、ルビーご飯を食べさせながらフォローしておいた。



「ってことだから、腕が使えなくても売る気はないからな。はい、アーン」


「アーン……モグモグ……知ってる」



 『知ってる』

 それはただ一言だったが、どうやら俺が無表情のルビーの思ってることを分かるくらいには、彼女も俺のことを分かっているようだった。

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