001話:奴隷娘六人
「へへへ……どうでしょう? ウチは質の高い娘が揃ってまして……」
「アー、ウン、ソダネー。ところで、もう少し安いのは?」
奴隷商人ケビンは内心舌打ちする。
奇抜な格好、そう、真っ黒でカッチリとした上質そうな素材で作られた上着に、これまた真っ黒なズボンで身を包み、長い髪を一つにまとめポニーテールにしている真っ白な仮面をつけたこの 男、余りに特異すぎる存在なため、もしやと思ったのだがあては外れ存外金は持っていないようだった。
ケビンは目の前の男をただの頭がおかしい野郎だったのかと結論づける。ただ、頭がおかしかろうが求められれば勿論奴隷を売るのが商人だった。彼は引き続き嫌な顔もせずに受け答えする。
その仮面の中から発せられた声はまだ子供のような幼さを感じ取れるものの、男女については分からなかった。
線も細く、長い髪から女と言われても不思議ではないが、それでも女の奴隷を買い求めに来たのだ、十中八九男だろう。
「ハイハイ只今〜少々お待ちくださいね……」
ケビンは奥に引っ込む前にもう一度チラリとその仮面を見る。
真っ白でお椀のように顔の形にそって婉曲している以外なんらその表面に凹凸のない仮面。
鼻の部分はなく、ただ三日月のように目と口の部分にだけ穴が空いており、まるで笑っているような顔を作り出している。
その中に隠れている表情はやはり読み取ることが出来なかった。
幾ら金を持っているのか、こんな怪しい奴には探りを入れることも出来ないため仕方なしに最安値の売れ残りの女達を持ってくることにする。
そうしてケビンは屋敷の再奥にいた人間以外でしかも欠損がある者や不細工な顔立ちの者達を引き連れて、再び仮面の男の元へ戻ってきた……
◇◆◇◆◇
シン。
それが俺の名前。
日本の高校生で十七歳、男だ。
そんな俺がクラス全員の転移なんて事態に突然巻き込まれた。
色々と考えた末に、転位して直ぐに俺が奴隷商なんて怪しい所に居るのは勿論奴隷を買うためだ。
なんでもクラスの奴等全員がバラバラに転移しているらしいってことは分かっているのだけれど、この世界のことはさっぱり分かっていない。
だから奴隷を買って色々と聞こうと思ったのだけれど……
まず、値段が高い!!
俺の手持ちは神様に貰った百万ガルドとやらの金貨一枚、それに対して奴隷は一人辺り五百万ガルド!!
全っ然買えないっ!!
そして、顔が不細工!!
どこが可愛いのか分からない位に顔面崩壊していた。
こいつは参った。
折角だからと異世界で可愛い奴隷との生活をエンジョイと思ったのにそんな夢は儚くもぶっ壊された。
とりあえずそんな訳だから最初の娘さん達はチェンジさせて貰いました。
しばらく待つと、奥からゾロゾロと奴隷商人が六人の娘を……
「……お、おぉっ!!」
「あ、お客様、や、やはりお気に召しませんよね!? これはウチで一番安い商品でして、もう本当にお客様を馬鹿にしているわけではなくただの売れ残りなのでございます! 一応一番安いのでと思い持ってきただけなので直ぐに別の者に……」
「い、いやそう言う訳では……大丈夫そのままで」
ビックリする位可愛い。実際ビックリして声が出てしまった。
先程の奴隷女性達と打って変わって高レベルな女性達が現れたのだ。
しかも金髪で耳が長かったり、ケモミミだったり、角が生えてたり、正に異世界って感じな女性ばかりだった。
一気にそれまでの消沈した空気が吹っ飛び、ワクワク感が増す。やっぱり異世界はこうでないとね!
奴隷商人は俺の反応にビビって奥に下げようとしたが、こんな可愛い女の子を奥に下げるなんて勿体ない!
俺は舐めるようにジロジロと連れて来られた奴隷を眺めた。大丈夫、仮面の中から見てるからイヤラシイ感じはバレないはず。
「そうで御座いますか……ほら折角買ってもらえるかもしれないんだアピールしろよお前ら! では左の犬人族から……」
「あ、あのっ! 僕、頑張りますっ! お肉もあんまり食べないように頑張りますっ! それから、匂いを嗅ぐのが得意です! 魔法も少しなら使えますっ!」
……以上らしい。
犬耳は垂れ、フサフサ尻尾はピンと伸びている。緊張しているのだろうか?
俺よりも幾つか下、もしかしたら中学生くらいにさえ見える胸の大きさや背の低さの彼女はパッチリした顔立ちに茶髪のショートカットが良く似合う僕っ娘だった。
魔法が使えるんだー。それが凄いのかはまだよく分からないんだけど。
ただ、左耳が痛々しい程に欠けている……どうしたんだろう、ネズミに齧られたとかじゃないだろうな……
「次は小人族」
「……お願いします……」
……え?
なんだか全然元気がない。
俯いたまま長い金色の髪の中に表情を隠している。
彼女は小人族、小さいと言っても身長は一四〇センチ位と小柄な女性程度だ。
しかし、そんな彼女が俯いてしまうと身長一七〇センチの俺からは様子を伺えない。
どうしたのか奴隷商人に聞いてみれば、売れ残りにはご飯をあまり上げてないからかもと返ってくる。
よく見ればここに並ぶ六人は皆ガリガリだった……
なんだがこっちが辛いな……しかし、商人は気にせず次の奴隷を紹介する。
「次、兎人族」
「ご主人様、私の得意なことは夜のお相手。顔など気にならない程の殿方を満足させる妙技を心得ております。是非可愛がってください……」
ウサ耳でサラサラの白髪をボブカットしているこの少女はかなり妖艶だ。と言っても、この子も顔を隠そうと少し俯きがちなのだけれど。
そして先程の犬人族と違い俺と同い年くらいの顔や背の高さに見えるが、胸は凄い。ボインっボインって感じ。
奴隷は皆ボロボロの貫頭衣を身に付けているが網タイツとか着せたらリアルバニーガールだろうな。
きっと今俺は鼻の下が伸びているだろうが大丈夫。何故ならこの【真のマスク】を装備している、顔は見えていないはずだ。ふふふ……
「次、鬼人族」
「……」
「……コラ、何か喋れ!! っ! ……ふん、まぁいい。魔法で主人に危害を加えるようなことはしないのですがなかなか思い通りに動かずスミマセン、以前から失礼な奴でして……ただ、顔はこれですが力は強いので何かの役には立つかもしれません、ははは……」
睨まれて奴隷商人のほうが怯んでいた。
彼女は真っ赤な髪のかかる額から生える二本の小さな角以外は人間と変わらないみたいだ。
髪は少しボサボサしてるが後ろでお団子のように纏められていて耳が出ているのですっきりしているように見える。ハーフアップってやつだろうか? さらに前髪は目の上だが、もみ上げの所からは胸あたりまでキレイな赤髪が伸びていた。目も同様に赤く、顔がどうのと言っていたがキレイな顔だ。しかしキレイすぎて確かに睨まれたら結構怖い。Mに目覚めてしまいそうだ。
そして彼女には……右腕がなかった。
これじゃ力も出せないのでは無いだろうか……だから売れ残ってるのか……
「次、お前だ耳長族のガキ」
「……マ」
「ま?」
この子、最年少なのではないだろうか?
一番最初の犬耳娘よりも一回りか二回り小さい。
右手の人差し指を咥えている姿は小学生と思われても仕方ない位の幼さだが、相手は耳長族……つまりエルフではないか!
ファンタジーあるあるとしてエルフの年齢は外見では判断出来ないからなっ!!
そんな長い金髪で耳長な幼女が発した言葉「ま」。
俺はつい聞き返してしまった。
「……ママァ……」
横にいる大人だろうか? 大きなエルフの方をその場で立ち止まったまま見上げる子供エルフ。今にも泣きそうで、口を八の字にしてなんだか不安そうな顔をしていた。
ふむ、親子かな? そっちの大人エルフは子供エルフよりは大きいもののまだまだ十代にしか見えないエルフだ。
だが良く見れば長い金髪や長い耳以外にもたれ目がちな目やアヒルっぽい口元等が似ている。
ただ、胸だけは大きかった。良かったエルフ=貧乳スレンダーって訳じゃないのか、巨乳エルフいるんだなこの世界……
「ス、スイマセン!! この子は私の娘で……わ、私はこの子の分まで働くのでよ、宜しければ一緒に……」
視線だけズラして奴隷商人を見るとニヤニヤ笑っていた。
止めようともしないのは俺の情に訴えようとしてるのか? クソだな。
「それで一人幾らだ?」
「おお、お眼鏡に叶いましたか!! 一人二百万ガルド!! ……と、言いたいところですが一人百万と八十万ガルドまでお値引き致しましょう!! 是非とも今後も……」
え?
百八十万……?
結局足らんけど……
どうやらこの世界の奴隷の相場は低くて二百万~高くて五百万とからしい。
ここまで来たんだし、折角だから異世界ライフのお供になってほしいけど……
金がなかった……