8月生まれの受難
ここは某国。
人口が爆発的に増えて、食料不足に陥り、このままでは国の運営が危うくなると踏んだ政府が出した緊急政策が、今夜発表された。
神妙な面持ちの首相が、檀上に立ち、宣言する。
「この国家の危機に対して、政府としては苦渋の決断をせざるを得ませんでした。
国家による人口調整を行うこととし、8月生まれの方には全員死んでいただくことになりました。」
騒然となる国民。
なぜ8月生まれだけなのかと怒り狂う8月生まれの国民。
自分は関係ないと傍観する8月以外の国民。
この政府の暴挙を今許せば、次は8月以外の国民が対象にあがるだろうと懸念する国民。
政府は続ける。
「とくに、8月に意味はありません。くじで決めたのです。
8月生まれの人に特別枠等設けることはしません。たとえ、どんなに優秀だろうとある一定の地位についていようと関係なく、8月に生まれた者すべてが対象となります。生存権をお金で買うこともできません。国外退去も8月生まれに限り認めないこととします。
かくゆう、首相の私自身も王族の一部も8月生まれです。特別扱いはいたしません。
苦しまずに死ねるよう、安楽死できるよう薬剤投与による死を与える予定です」
突然、降ってわいた不幸に絶望する8月生まれ。
8月生まれの父親を亡くす者、母親を亡くす者、子をなくす者、恋人をなくす者・・・。
この不条理な法律により、8月生まれを単純に死亡させることの影響は多大なものであった。
「色々な反対意見があると思います。
我々政府も考えました。間引きするならば誰がよいだろうかと。
人間の価値を図って、判断しようかとも思いましたが、人間に価値はつけられませんでした。
それこそ差別です。
よって、試行錯誤してきめたのが、単純に誕生月という判断にいたったのです」
人間の間引きなんて、国が民を殺すなどとあってはならないと声高に叫ぶ人。
他に方法がないのか、ちゃんと検討したのか、この制定の見直しを叫ぶ人。
国が大混乱した。
「この国は、貧しいにも関わらず、一人が7~8人の子供を産み、またその子や家族自身が貧困にあえぐという負の連鎖にあえいでいます。子供を産まないようにすればいいと思いますが、それもなかなか人口バランスを考えると難しいのです。人口ピラミッドは正常な状態で、若い者が多く、年老いたものが死んでいくというピラミッド構造を維持できるのが自然です。そこに8月生まれの方全員に死んでいただいても、ピラミッドにはなんの影響もありません」
首相も顔面蒼白になりながら、必死で訴える。
「このまま、手をこまねいていたら、国家が破綻します。
お金のある一部の人間だけが国外へ退去し、残るのは無法地帯となった荒廃した国家です。
それこそ、悪がはびこり、正義は地におち、サバイバル国家となるでしょう。
そうならないためにも、8月の方には大変申し訳ないのですが、国の未来のために死んでいただくしかないのです」
首相が涙を流しながら、嗚咽する。
「他国へ侵略して、植民地にすることなど今の時代許されません。
国内外で戦争をしたくないのです。いまのままでは自滅の道を歩むだけです。
一番平和的な解決が、8月生まれの方が進んで死を受け入れていただくことなんです」
「今すぐ、死んでくださいというわけではありません。
家族や恋人との別れの時間や身の回りの整理、残された家族への支援等の手続きそういったことをする時間はもうけます。残された者が露頭に迷わないように政府としても支援をいたします。
この世に思い残すことなく、旅立てるようにしっかりとした支援は行いますので、どうか8月生まれのみなさん、安らかにお眠りください。天寿を全うできなかったことが心残りですが、精一杯私も生きてきました。
次の首相に席を譲ります。皆さま本当にありがとうございました」
そういって、8月生まれの首相は檀上を去った。
人類調整計画 8月誕生者安楽死法は、制定となった。