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【ボンクラはゲス頭に進化します】

6/7話 更新です。

予約後に書き足していたら、なんだかキーワードに『ゲス』登場。

前の話よりうんと長いwww

 建国二百年を祝う夜会は、各国の王族要人も招いての盛大なものになっていた。

 それは旦那様の出席が知らされていたから。

 直前でのキャンセルになったので、やや落胆の雰囲気が広がるものの、旦那様直筆での「妻を使者として遣わす」との手紙が読み上げられると、会場の興奮は一気に高まった。

 そんな中、一人不機嫌に笑顔を見せないのがボンクラ皇太子。

 どうやら旦那様出席のこの場で婚約を盛大に発表し、あわよくば祝福してもらおうと思っていたらしい。

 旦那様はわたくしのことがなくても、多分祝福することはないわ。あの人のことだから「ふーん」と、冷めた目で最高の酒を飲み続けているだけだと思う。

 世の中、そんなに都合のいいことばかりではなくってよ、ボンクラ皇太子サマ。

 逆に鼻で笑われたらどうするのかしら。ふふふ。――あら、わたくしの出番ね。


 見目のいい護衛を引き連れ、オーマに手を引かれて壇上の王族と同じ場所からゆっくりと姿を現す。


 パテト国の貴族の皆様、こんにちは。目を見開き、ポカンと口をあけたり小さな悲鳴をあげたり、皆様ずいぶん忙しそうですね。

 ああ、ボンクラ皇太子も顎が外れていますよ?

 あら、壇上近くの高位貴族席に交じって、本来なら場違いな場所に通されているアネットもずいぶん驚いておりますわね。

 今日は一段と濃い化粧と重そうな宝飾品を身に着けていますけど、誰が似合うと言ってくれたんですか? 周囲の取り巻きですか? さすが、お目が低いこと。今は老けこんだ成金夫人にしか見えませんけど。

 まあ、国王陛下。先ほどご挨拶に訪れました時から、ずいぶん顔色が悪いままですわ。王妃様も。側室の方は驚いておりますが、年の離れた異母王子は素直に目を輝かせておりますね。十才王子様、初夜会だそうです。

 あ、お父様方見つけました。

 とってもいい笑顔です。親戚一同ドヤ顔っていうのでしょうね。

 パテト国以外の方は普通に、敬い半分嫉妬半分という複雑な顔をしながら拍手で迎えてくれています。その中には、わたくしが皇太子の元婚約者という素性を知っている人もいるようです。囁く言葉はあっという間に広がっているようで、――恐るべし、貴族の伝達能力。


 旦那様からお預かりした口上(主にオーマが「百年前のでいいでしょう」と手直ししてくれたもの)を述べ、微笑んで優雅に壇上の席に座って終了。

 その後、気を取り直すかのように国王陛下が旦那様への感謝を述べていたが、やはりわたくしの登場でざわつく会場をどうにかしたかったらしい。

 ちょっと考えれば先はわかっていただろうに、ボンクラ皇太子とアネットの婚約を声を上ずらせて宣言した。


 シン、と静まり返る会場。

 そんな中、ボンクラ皇太子笑顔でアネットを迎えに行き、頬を染めて恥らう(成金姿の)彼女の手を取り父王の前に並ぶ。

 国王陛下と王妃が無理やりな笑顔で祝いの言葉を述べる。

 引きつる側室と、呆れ顔の異母弟王子。

 そして、困惑のまま静まりかえる会場。一部嘲笑。


 ボンクラ皇太子が片膝をつき、芝居がかった愛の告白。

 アネット感涙。化粧、やや崩れる。

 まだまだ静まったままの会場。

 拍手を待つボンクラ皇太子。慣れない恰好なのか、片膝が小刻みに揺れている。


 それでも静まったままの会場。

 その視線の多くは、壇上で二人の茶番劇を見せられ無表情なわたくしへとそそがれている。


 やめて、見ないで!! ――笑いを堪えすぎて、腹筋が限界を超えそうよ。


 そんな状態を打破してくれたのは――やはり空気読めない病同類であるアネットの父ブランシェ。

 この冷たい目線の嵐でシンと静まりかえる会場の中で、彼は壇上の二人に大きく拍手をした。

 だが、つられて沸き起こるはずの拍手が続かない。

 わたくしは腹筋が筋肉痛になることを恐れ、とりあえずおざなりに三度手を叩いた。ええ、拍手じゃないわ。

 だけど、そんなわたくしを見て会場の皆さんは気がついたらしい。

 とりあえず拍手をして終わらせないといけない! と。

 あっという間に鳴りやんだ拍手の後、国王陛下はさっさと夜会の始まりを宣言した。


 ボンクラ皇太子とアネットが踊る中、わたくしは行動にうつる。

 とりあえず両親に会いに行き、お友達とお話をしよう。弟がお世話になっているトール国の王族は来ているかしら。まさかアネットの父だけ、ではないでしょうね。

 ここぞとばかりに火種を巻いておこうと思ったのだけど、すべての始まりの元凶ともいえるブランシェが、遠慮なしにわたくしの手を取って距離を詰めてきた。

 空気読めない病も末期ですわね。

 ――確かに実年齢より若く見え、微笑めば渋みが出た大人の男性の色気が見える。

 だが、旦那様の目もくらむような美しさに見慣れ、普段はあの金色のつやつや鱗とふわふわの(たてがみ)に包まれているわたくしが、今さら人間の男にときめくはずがない。

 神の妻、となったわたくしへ礼儀もわきまえず言い寄る姿に、周囲は眉を潜めている。

 ブランシェのお目付けらしき人物が狼狽しているが、わたくしの後ろに付くオーマに睨まれ動くことができない。

 オーマ、もう少し我慢してね。もうちょっと火種を大きくしたいの。

 そんなオーマすら無視し、ブランシェはわたくしへの賛辞をやめず、トールへの自分を頼りにぜひ来て欲しい、と猛烈にアピールしてくる。

 じっと黙っているわたくしの態度に、ブランシェはついにダンスフロアへ連れ出そうと腕をつかみ歩き出す。


 もういいわね。


「な、なんだ……寒い?」

 今、ブランシェにはわたくしのブレスレットから、雪国の極寒の冷気が流れ込んでいる。

 狼狽した顔は急に老けて見え、わたくしは心の中で笑う。

 このまま凍らせるのはマズイので、この手を振りほどいてやろうかと思った時。

「お父様、お友達(・・・)のミリアさんとお話がしたいのです。そろそろよろしいですか?」

 弾むような声色で無邪気に声をかけてきたのは――アネット。

「あ、あぁ……」

 困惑したように娘を見るブランシェに「では」と、言ってわたくしの手を取ってアネットは歩き出す。

 社交界を賑わせ神の名代として現れた皇太子の旧婚約者と、トール国の王族の血を引く新婚約者の二人が通れば、おのずと人々の視線は集まり道ができる。

 何でもないように、アネットはわたくしの手を引いて歩くが、これってどう見ても眉を潜める姿。ほら、もうそこかしこで口元を扇で隠し、避難の目を向けヒソヒソとささやかれている。

 そんなことなどおかまいなし、と、誰もが注目する中、重いカーテンをくぐってテラスまで連れ出された。

 初夏とはいえ、会場の熱気にさらされていた肌にひんやりとした風が心地よくあたる。

「お連れしましたわ」

 パッとアネットがわたくしを掴んでいた手を離し、誰かに――いえ、このテラスで待っていたボンクラ皇太子の元へと駆け寄る。

「さすがだよ、アネット」

「お父様とお話し中だったから、お声掛けで来たのですわ。他の方だったら、わたしはまた睨まれて怖い思いをしたかもしれません」

「ああ、かわいそうなアネット。だが、もう誤解は解けるだろう。それより、君の父上は本当に手が早いな」

「ふふふ。お母様が寝込んでしまっているので、少しさびしいのですわ。それに、お母様の病気も、ミリアさんに頼めば治るかもしれないと言われておりましたもの」

「さすがはアネットの父上だ」

 皇太子はアネットを抱き寄せ、その額に軽いキスを落とす。

 それから、アネットが手を離したその場で立ったままのわたくしへと視線を上げる。

「神の花嫁に、本当になっていたとは驚きだ。てっきり罪を認めて行方をくらませたようにみせかけ、実家に隠れ住んでいるのだと思っていのだが」

 わたくしを見下しあざ笑う顔を見て、まだ自分が偉いと思っているらしい、と呆気にとられる。


 すごいボンクラ。最強のボンクラ皇太子。うちの旦那様の仇名のつけ方は間違いではなかったわ。さすがうちの旦那様!

 

 と、心で笑いながら、

「ごきげんよう、殿下。そのためにメーデルト家をお見張りになさっていたのですか。そんなことをする暇があれば、そちらの婚約者様のお見張りをなさった方がよろしいかと」

「なに?」

 不快、とばかりにすぐに顔にだした皇太子に、わたくしは淡々と真実を述べる。

「ご婚約者様は殿下から贈られたものだけでなく、いろいろな方から贈り物をいただいているようですが、ろくに吟味せず頂くのはいかがなものかと」

「誠意ある贈り物に優越なんてつけられないわ。みんなわたしへと贈ってくださっているのだもの。感謝していただくわ。相手に失礼よ」

 皇太子との会話に堂々と割り込んでくるアネットを一瞥して黙らせると、ビクッと大げさに震えて皇太子の背中へと隠れる。

「恐ろしい方。あなたが神様の花嫁なんて信じられませんわ!」

 

 わたくしは、怯えながらも火に油を注ぐあなたの態度が信じられません。


 とりあえずアネットは無視し、話を進める。

「慰問についても疑問が残ります。聞いた話ですと、訪問先に偏りがあるようですね。訪問時の衣装についても、もう少し考慮いただかないと反感を招く事態となります」

「みすぼらしい服など、わたしの隣にいるアネットに着させるわけにはいかないな」

「殿下の衣装もです」

「何を言う。王族の威厳というものは目に見える形で示さねばならぬ」

「遊興費として資金を落とすだけがそうとは限りません。自立できる継続的な支援こそが大事なのです」

「り、リオンは日々重圧に耐えて職務を全うしているのよ。慰問先で少し遊びを楽しんで何が悪いの!? リオンも気が晴れるし、店もたすかるじゃないの!」

 アネットが皇太子の背中から出てきて、一歩前に進み出る(お願い、黙っていてちょうだいな。あなたの相手はあとからします)。

「あなたのせいでわたしだって苦労しているし、リオンはもっと苦労しているわ! わたし達を応援してくれているお友達だって、理解してくれない親を持って苦労して、でも次代の王であるリオンとわたしのために頑張っているの!! 娯楽のない神殿で壊れそうだったあなたを憐れみ、騙されて花嫁にしてしまった神様もなんてかわいそうなのかしら!!」

 目に涙を浮かべて訴えるアネット。

 すごいわ、その涙。どんなことを考えたらそこまで出るのかしら。

 今の言葉からすると、わたくしは旦那様を騙して妻になった、と思われているらしい。


 どこまで上から目線なの? 


「ご心配なく。わたくしはきちんと旦那様に愛されております。どんな手、とおっしゃられても、求婚なさったのは旦那様です。皆様には公にしておりませんが、これは旦那様がお決めになったことです。そのかわり、他の神々様からはお祝いのお言葉と贈り物をいただいております。こちらのブレスレットもその一つです」

 ブレスレットを指先でなで、散らすようにそっと手を振る。

 サァッと現れたのは、白い雪の結晶。ふんわりと流れるように漂って、サラサラと消えていく。

 驚いて息を呑んだアネットは小さく震える声で「本物?」と何度かつぶやく。

 わたくしはわざと聞き流さず、うなずいて微笑む。

「ええ、雪国を守護する神様のお力です」

「他にも?」

「わたくしは人間ですもの。非力なままでこちらに来ると思いまして?」

 アネットはサッとわたくしの全身に目を走らせ、恐れるように距離を置く。


 パチパチ……と、一つの場違いな拍手が起こった。


 蒼白な顔をしたアネットも、不思議な顔をして横に立つボンクラ皇太子を見上げる。

 皇太子は喜色を浮かべて、まっすぐにわたくしを見ていた。

 婚約者時代にも見たことがないくらい、子どもが素直に喜びを表しているかのように微笑んで。

「……」

 気味が悪い、とわたくしは黙っている。

「り、リオン?」

「すばらしい! すばらしいよ、ミリア!!」

 不安げに袖を引くアネットには目もくれず、皇太子は興奮した様子で両手を広げた。

「これでトールよりもエアールよりも、我が国が何より優先されるということじゃないか! 神の後ろ盾を得た今こそ、もっと大胆に他国との交渉を勝ち取っていける!」


 え? なんですか、ソレ。


「まずは、そうだな。お前のそのドレスの珍しい生地を卸してもらおう。奴らは言葉より目で見える形での証拠を欲しがる。その生地は十分な価値がある。その上でお前の住む屋敷へ案内してもらおう。神への目通りが叶ったとならば、わたしの評判はこれ以上ないものになるはずだ。もちろん、お前のことも許そう(・・・)

「……」


 ――目が点になる、とはこのことらしい。


 誰が誰を許すのか。それすらわたくしの考えとまるで正反対。

 わたくしが許してもらうことなど、何もない。


 怒りより先に驚きで固まっているわたくしの前で、皇太子の演説は続く。

 それにより、当初はポカンとしていたアネットが、ようやく皇太子の言っていることを理解したらしく(できたの!? )、腕にすがりつくようにしてしなだれかかる

「すごいわ、リオン。わたしの夫は神様に認められたすばらしい人なのね!」


 ――いいえ、旦那様には嫉妬の「し」の字もないほど感情を向けられておりません。


 皇太子はアネットの肩に手を置き、困ったようにため息をついて顔を上げる。

「ミリア、お前がアネットにした行為を最悪なものとなる前に止めてやったというのに、古株の頭の固い者どもはいまだにお前にこだわっていた。どうにも理解しがたかったが、お前が神の花嫁になっていたのなら話は通る(通りません)」

「え!? それはどういぅ……」

 とたんに泣きそうな顔になるアネット。

「大丈夫だ、アネット。君への愛は変わらない」

「ああ、リオン!」

 感極まって皇太子に抱きつき、せっかく結われた頭をこすりつけるように振る。

 

 ああ、髪結いメイドと化粧係の仕事が台無しですわ。皇太子の衣装にも手直しが必要かもしれませんわね。

 あ、別にそれはどうでもいいんですけど――とりあえず、この人何を言っているのかしら??


 まだ茫然としているわたくしの前で皇太子は胸を張り、アネットの腰を抱きながら、失礼極まりないことにわたくしへ指をビシッと突きつける。

「頭の固い者達の命令を聞くわけではないが、王妃の座はお前にやろう、ミリア」

「えぇっ!?」

 アネットが目を見開いて驚く。

「ど、どういうことよ、リオン! 愛しているって言ったじゃない!」

「もちろんだ、アネット。君を愛しているが、立場上、神の花嫁となったミリアを側室や愛人にはできない。名ばかりの王妃としてわたしの横に立ってもらうしかないのだ。君には第二妃として王妃と変わらぬ待遇を約束するよ。国母になるのも君だ」

「でも……」

「王妃がそんなに大事かい? わたしの愛があればいいじゃないか。もちろん、愛する君を名ばかりとはいえ二番手に置くのは忍びないが、これも国のためだ。君は賢い。きっと賢妃として名が知れ渡り、将来パテト国の代表的な妃となるだろう」

「ああ、かわいそうなリオン。愛のない結婚を強いられて! わたしは王妃になりたいんじゃないわ、あなたの愛さえあればいいの! 神様に認められてどんなに忙しくなっても、わたしはあなたをずっと支えて愛し続けるわ!!」

「アネット、ありがとう」


 そして固く抱きしめあう二人――。


「……」


 うわぁ……、ナニコレ気色悪っ!!



 読んでいただきありがとうございます。

 次回最終話――え? 終わるのこれ。大丈夫? と予約投稿後に書き足しておじけずこうとしてます。

 が、柱は7つ。とにかく文字数関係なく書き続けます。

 次回3/30投稿。

 おまけを3/31に投稿し、終了いたします!!


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