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【壊れて笑っていたら、拉致されました】

3/7話 投稿です。

ミリアの過去後編です。

 次に目の前の光景に色がついたのは、いつの間にか皇太子にしがみつくようにして立っているアネットの、耳障りな懇願の声でした。

「リオン、いえ、皇太子様。どうかミリア様をお許しください。わたしも少々ことが大きくなって怖くなりました」


 許す? 誰が?


 皇太子が優しくアネットを抱き寄せて、何かをささやいている。

 その瞬間、わたくしの平常心が決壊した。

「……汚らわしい」

 小さくつぶやき、わたくしはキッと怒りを込めて皇太子を睨みつける。

「なんだその目は!」

「私利私欲に走った王族など価値がありませんわ。それに、そうさせた悪女が誰かなど、一目瞭然ではないですか」

 自分のこと、とアネットは大きく肩を震わせ両手で顔を覆って泣き出す。

 とっさに皇太子はアネットに優しく声をかけたが、怒りが勝ったのだろう。

「失せるがいい! 謹慎を申し付ける」

 そう言って、その場に用意されていた音声拡大魔法がかかったマイクを、力任せに投げつけた。

 それはわたくしの左の額に勢いよく当たり、わたくしは流血しながら兵に連行されるようにその場を後にした。

 

 その後、すぐにわたくしは実家に戻された。

 両親に、隣国の留学生としてトールへ渡っていた弟が帰国。アネットの父のことを調べて来ていた。

 アネットの父は王族とはいっても末端で、自堕落に生きている人だった。だからこそ、アネットの母を置いて行方をくらませていたのだ。

 娘がかわいらしく成長した頃また姿を現し、アネットの母の実家へと挨拶に行ったらしい。そして自分の身分を明かし、アネットをこの『学園』へと入れて良家の子息を捕まえようとしたのだろう。

 ところがアネットが捕まえてきたのは皇太子。

 アネットの父はさぞ喜んだに違いない。

 自国のトールへと戻っていろいろ根回しを始めたそうだ。アネットの父は口が上手く、王侯貴族から完全に眩まれていない存在だったのが、今回の騒動へ発展した原因の一つともいえる。

 つまり、わたくしはトール王族(末端ですけど)の父を持つ子爵令嬢アネットを危険にさらした人物、というわけ。


 わたくしは笑った。

 両親も弟もびっくりして動かないくらいの高笑いを上げ、淑女にあるまじき口を大きく開けて両手を動かし、笑いながら部屋の中をゆっくり歩きまわった。

「ああ、おかしいわ! 一生懸命生きてきたというのに、足元をすくわれてしまった!! どうせ釈明しても認めてもらえないなら行動で示すわ」

「ミリア。わたし達は家族だ」

 父がしっかりとうなずくと、母もその手を取ってうなずく。

「メーデルト家の誇りをみせてやろう」

 

 そうして王家からの婚約破棄の知らせよりも先に、父は大臣職を辞して領地へと引きこもることにした。

 弟はトールの『学園』へと戻ることにした。姉のわたくしの件で一度は籍を置いているパテト国の『学園』より留学を破棄されそうになったが、優秀な弟を認めてくれる直系王族がいるらしく、トール王家よりの嘆願という形で留学続行となった。

「俺の人脈を侮っちゃいけないなぁ」

 問題となっているトール王家からの留学続行の許可証である手紙を前に苦笑する父に、弟は飄々とした態度で微笑む。

「俺にも人脈ってものがあるんだよ。アネットの父親のことを教えてくれたのもその人なんだ。その人からは、俺、逆に謝られているんだよねぇ~」

 笑いながら弟は旅立ち、それ以後パテト国とトール国の『学園』のどちらにも籍置かれた特別処置をとられている。

 うちの皇太子は弟の除籍を訴えていたようだが、トール王家から嘆願されるような優秀な人材を失うわけにはいかない、と国王陛下が却下した。

 これには父も皇太子を応援したくなったらしい。除籍処分となったら弟はトールの要人として保護され、メーデルト家はパテト国にありながらトール国の後ろ盾ができるのだから。

 話としてはおもしろくなりそうだけど、皇太子もその可能性に気がついて手を引いたらしい。

「チッ。親子そろって優柔不断のくせに、不利益なことだけはすぐ気がつくな」

 微笑む母の前で、父は忌々しげに舌打ちした。

「あなた。娘の前で舌打ちはよくありませんわ」

「家族の前で気どるのはもうやめたのだ」

 ずいぶん楽しそうに過ごす両親を見て、わたくしも少しだけ微笑んだ。


 で、わたくし。


 自分をいかせる『学園』からは除籍、追放処分となってしまっている。これは社交界にとって最大の不名誉なこと。

 そんなわたくしができる、精一杯の抗議。それはマルデトス山の神殿への祈願入殿。

 つまり、神様のご神託によって身の潔白を晴らしていただく、というもの。

 祈ればすべて聞き入れてくれるわけではないし、何日、年ヶ月、何年かかるかもわからない。あるいはまったく聞き入れて下さらないかもしれない。

 それでも、わたくしは両親に願いを聞き入れられて、できる限りのお布施を持参して身一つで祈りを始めた。もちろん、自分のことは自分で全部しなくてはならないし、ある程度の仕事の割り振りもあるため、一日中祈ってこもることはできない。

 そんな慣れない生活を半年以上続け、言葉もだいぶ砕けた言い方ができるようになった頃、下界の噂からほど遠いこの神殿にも皇太子とアネットの婚約間近だと言う話が舞い込んできた。

 でも、わたくしは焦らなかった。

 ただ――、


 今に見てなさい、思い知らせてやるわ!! おーっほっほっほっほ!!


 今思うと、完全に壊れていたのだと思う。

 身の潔白を晴らすため、という純粋な想いは、いつの間にか周囲の人々の支えのおかげでずいぶん図太い願いへと成長していた。

 ようするに、身の潔白をはらしたわたくしへ悔しそうに後悔する皇太子と、世間から白い目で見られる皇太子妃アネット、という図が見たい!! というものになっていた。

 そうなれば、わたくしが生きている限り、あの二人は肩身の狭い思いと世間の冷たい目にさらされるはずだし。わたくしは侯爵家令嬢に戻り、トール国の熱望する弟の姉ということでどうにかこうにか縁談がくるのではないかしら。

 清廉潔白に生きて一度絶望に落とされると、人って這いあがるときにはこうも強くなるのねぇ~、なんて思っていたある日。


 まあ、その……沐浴中に旦那様が本当に突然に現れたの。


 しかも大笑いしながら。

 なんでもわたくしの祈りが面白くって、毎日聞いているうちに気になってこっそり見に来ていたらしい。

「そなたが気になってしょうがないのだ。我が妻になってみないか? もちろん、わたしに慣れてもらってからでかまわない」

 裸のわたくしの両手を握りしめ、長い金の髪をたなびかせた背の高い神々しい美しさを持つ彼が、じぃっと縦に割れた瞳孔の金の目で見つめてきた。

「……わたくし、自分より美しい旦那様なんて嫌です!!」

「で、では、これではどうか!?」

 そう言って、彼は巨大な金色の『龍』へと変化した。

 この辺りで知性の高い神聖な種族とされているドラゴンより、さらに希少で様々な力を持つと言う龍の姿。金色に輝く長大な胴をくねらせて、じっとわたくしを見つめている。

 その時、わたくしの周りでは何人か一緒に沐浴していた巫女が大騒ぎしていた。

その巫女の騒ぎ声で、他の巫女もやってきて驚愕に目を見開いて硬直している。

『どうだろう?』

「まあっ、きれいな鱗!! すべすべで、ふわふわの鬣もあるのね!」

 わたくしはこの神殿に来てから神様である龍にずっとすがって祈っていた。その思いは皇太子とアネットへの憎悪が強くなるほど比例して強くなり、いつしか愛しい存在として恋焦がれるまで変化していた。

「ああっ、気持ちがいい!」

 自分が裸であることなんてきれいに忘れ、わたくし無我夢中で龍をなでまわし、頬ずりをし、抱きついて全身でその感触を堪能していた。


「~~!!」


「え?」

 突然龍が体をくねらせわたくしを抱き込むように包むと、そのままものすごい勢いで上空へと飛び上がってしまった。

「!?」


 わたくしは悲鳴も出ないまま、そのままお屋敷へと運ばれて――お嫁さんになりました。

 

あ、ちなみに初夜は人型になってくださいました。

 確かに愛してくださっているんだわ、とは思えまし、優しかったのですが――いかんせんしつこいのです。

 そして、人間は食事と睡眠が必要だと言うことを、本気で忘れていらっしゃるようでした。


「食は忘れたが、睡眠はとらせたぞ」

「気絶というのです、エキディシオン様」

 

オーマが寝室のドアを破壊して、数十年ぶりだと言うお説教を旦那様にしている横で、わたくしは侍女達に介抱されつつ流動食のようなものを食べさせられました。

 そんなわたくしの足首に、未練ったらしく旦那様がしっぽの先で巻きついているのを見て、オーマの怒りがさらに増したのは笑い話です。


読んでいただきありがとうございます。


次回24日に更新です。

時間軸は2話の前半部分に戻ります。




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