【わたくし悪者にされました】
2/7話 をお届けします。
ミリアの過去です。
「いってらっしゃいませ、旦那様。お気をつけて」
『うむ。神々の集まりでさえなければ、そなたを下へやることもなかったのだが。まあ、家族と会えるかもしれぬし、よしとしよう』
そう言って何度も渋る旦那様がようやく神々の集まり、というやらに、たくさんの家人を引き連れ水晶でできた天蓋付きの神輿に乗り出かけていく。担ぐのは屈強な姿となったドラゴンの男達。
旦那様ご一行がすぅっと霞のように消えてしまうと、わたくしはため息をつきながらお屋敷のほうへと歩き出す。
わたくしのすぐ後ろをオーマがついてくる。
「準備を始めなくてはね」
「はい」
今夜、パテト国王城で夜会が開催される。
パテト国建国二百周年とかで、何年も前から旦那様の出席が決まっていた重要なものだったが、気まぐれな神々の集まりとやらの開催日が重なった。
神々の集まりは不参加できるものではなく、こういった場合は副神となる龍が名代で人の行事に参加する。
だが、旦那様は副神を持たず、数十年前の名代にはオーマが出向いたらしい。
今回も旦那様はオーマを名代にたてるつもりだったのだが、わたくしを妻としたことで、その名代を務める役はできないと言った。
それはそうでしょうけど。わたくし人間だし。しかもパテト国の侯爵令嬢ですよ。元、ですけど。しかも愛国心はゼロ。むしろ次代の国王なんて大っ嫌いだし。
「さあ、ミリア様ご準備いたしましょう!」
指をわきわきさせ、目を輝かせた侍女達が「まっていました!」とばかりに並ぶ部屋に入ると、わたくしも覚悟を決める。
「ええ、お願いね。あのボンクラ共に一泡吹かせてやるわ」
あら。わたくしちょっと言葉が下品になったかしら。でもいいわよね、言ったって。だって旦那様が言っていたのだもの。
そうよ、ボンクラ王子にボンクラ姫。お似合いだわぁ。
ボンクラ王子は皇太子で、侯爵令嬢だった私の婚約者だった。
ええ、『だった』のよ。
婚約者候補になった幼少期から厳しいレッスンにも耐え、どうにか抜きんでて婚約者――つまり未来の王妃に選ばれたの。
切磋琢磨した他の令嬢達とも、正直悔しさはあったと思うけど、何事も競って磨き合ってきたものだから、妙な親近感のようなものを築き上げていた。だから、わたくしが婚約者として決定した時も、ともに国を支える気持ちは同じだからと祝福してくれた。
そう、わたくしは国の代表として彼女達から認められたのだ。
皇太子は甘いマスクの大変人気のある方で(今なら旦那様のほうが上も上。もう、比べたくない)、わたくしという婚約者を大事にしながらも、他の方々とも積極的に人脈を作り一生懸命な方だった。
――あの子が現れるまでは。
☆☆☆
十五才から十八才までの三年間。よほどのことがない限り、人脈作りや知己を広める目的で、貴族階級や富裕層の子息子女が『学園』といわれる学校に入る。
そこでは各国の留学生も学びに来ており、我が国からも他の国の『学園』へと留学ができる。
二年の春。『学園』に彼女はやってきた。
ふんわりしたかわいらしい雰囲気を漂わせつつも、喜怒哀楽ははっきりと顔にだし、どんな場でも自分色に染めていく不思議な少女。
「自分は元庶民ですから!」と、駆け落ちした母の実家である子爵家に引き取られたアネット・オルゴー。
最初は皇太子も「なんだあれは」とあきれ顔だったのに、いつの間にか微笑んでアネットを見るようになり、一年生を三年生が指導するのは当たり前だと隣にいることを許した。
必要以上を話すことを美しいとしない、と教えられたわたくしの横で、皇太子とアネットはずっと楽しそうに昨日も聞いたような話しをしながら歩く。
ええ、三人並んで歩いていましたの。
楽しそうな二人と黙っているわたくし。なんておかしな光景かしら。
皇太子の取り巻きとわたくしの取り巻きは、最初こそアネットに敵意を向けていましたが、先に皇太子の取り巻きがアネットの「さしいれです!」という手作り料理に毒気を抜かれ、わたくしの取り巻きの一部もアネットの友人となってしまった。
そうやってだんだんわたくしの場所は皇太子とアネットの後ろになり、皇太子の取り巻きを挟むようになった頃、わたくしへの声掛けがなくなった。
そんなわたくしに残ったのは、婚約者という目に見えない立場と、切磋琢磨を共にした両家の子女達。
彼女達の婚約者も、聞けばアネットのことばかりを気にしているという。
学年末が近づけば、三年生の皇太子は卒業となる。
卒業生のための夜会は婚約者お披露目の場と言う暗黙の了解があるにもかかわらず、皇太子はアネットを連れて会場に姿を現した。
そして皇太子が迎えに来てくれると信じていたわたくしが、その知らせ聞いてあわてて会場に駆けつけると――。
「遅かったな、ミリア。ファーストダンスが始まってしまったので、アネットに代わってもらったのだ。わたしが恥をかくところだったのだぞ」
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頬を染めたアネットの肩を抱く皇太子からの叱責がとんだ。
そこから全てが転がり落ちるように、悪い方向へと繋がる。
『学園』を卒業した皇太子と取り巻き達(一部大臣、宰相の息子達)が、特別視察と称して頻繁に『学園』へと顔を出すようになった。
婚約者というのに、わたくしはその予定も会うことできず、いつも聞くのは噂となってからのこと。
三年生となり、皇太子の婚約者としての地位からか生活指導の役目を担っていたわたくしは、紳士淑女のマナーとして異端なアネット、他数人を必然的に数多く指導するようになっていた。
それはマナーとしての指導。決して水をかけたり、掃除を言いつけたり、窃盗や暴力を振るうものではなかった。
ただ、アネットが疎ましいと思っていなかったわけじゃない。
でも、わたくしは未来の王妃。皇太子の唯一の妃となるのはわたくし、とギリギリに平常心を保っていたの。
なのに、それは前期終了会の式典中に起こった。
式典終了間際に、壇上に皇太子以下騎士団長の息子、侯爵家の息子、その他数人の役人がズカズカと上がりわたくしを厳しい声で呼び出した。
そして大声でわたくし糾弾したのだ。
わたくしが指導と称してさまざまな悪行をしていた、と。その筆頭はアネットであり、それによりアネットはとうとう耐え切れずに自分と、療養中の母に助けを求めたのだ、と。
その結果、アネットの母が駆け落ちした相手と言うのが、隣国トールの王族の一人だったらしく、問題は大きく膨らんで国同士の問題となっているとのこと。
「お前のような淑女の皮を被った悪鬼が婚約者などもってのほかだ!」
「お待ちください! わたくしは全て口頭で注意しただけです。それもこの学園の規律にそっておこなったものです!!」
「黙れ! お前が行った行為に加担した者の証言もとれている。この場で宣言するだけにとどまるのが口惜しいが、お前との婚約など全力で破棄してやるから覚悟しておくがいい!!」
「!?」
――目の前が真っ暗になった。
読んでいただきありがとうございます。
19日に、日間3位!をいただきました!
ありがとうございます!!
次は22日に更新予約しています。
評価もありがとうございます。
流行ものですので、目新しいものはないかもしれませんが、それでも読んでいただけると本当に嬉しいです。