【圧死しそうな毎日です】
スランプにはまって、リハビリに書き上げました。
流行ものは一つは書きたいな、と。
すでにかき上げており、2~3日置きに更新します。
「~~ぐっ、ぅううっ」
わたくしの朝は、いつも締め付けられる圧迫感とうめき声から始まる。
新婚三カ月。十九才。
ミルクティー色の見慣れない色の長い髪はひそかなわたくしの自慢だし、ちょっとつり目だけど大きな緑の目に、わりとかわいらしい容姿を持つ、元侯爵令嬢ミリア・メーデルト。あ、今は家名がないからただの『ミリア』ね。
さらっさらの絹のシーツの上で寝ていたはずなのに、朝になると旦那様に抱きつかれている。
……まあ、新婚ですし。
普通は恥じらい、頬を染めるのが新妻の特権。
恥らいつつ笑顔で「おはようございます」なんて言うのがセオリーでしょうけど――わたくしには無理。
苦しげに目を開けて、目の前にいるだろう旦那様を睨む。
「お、起きて、筋肉!」
「!」
本気で寝ていたらしい旦那様が、その鋭い目をパッチリ開ける。
「苦しいわ」
「!」
今日も無意識にわたくしを抱きしめていたらしい。
慌てて旦那様は体中の力を抜いて、わたくしを開放する。
「はぁっ」
わたくしは大きく息を吐きながら、ゆっくりと上半身を起こす。
「何度も言うけどあなたは全身筋肉なんだから、寝ている間に巻きつかれて絞殺されるなんて笑えませんわ。無駄にデカいんだからちょっとは考えてくださいませ」
ため息交じりに言えば、じろりとわたくしに睨まれ反省し――巨大なとぐろを巻く蛇がいた。
あ、蛇じゃない。龍でしたわ。
この辺りでは大きな胴体に鋭い爪と太いしっぽを持つドラゴンが主体だそうですが、わたくしの旦那様は珍しい『龍』と言われる存在だそうです。珍しいというより、神様です。
色は金色。体は蛇のようにしなやかですが、なぜか背中からしっぽの先まで金色の毛が生えており、短い手足が生えている。顔は馬のように細く、凛々しいが瞳孔が縦に入っている。全長は男性二人分以上はあり、首の部分はわたくしもどうにか抱きついて手が回るけど、胴体のほうはさらに大きくて手が回らない。
そんな夫に膝を滑らせるように這い寄り、顔と首の間にある鬣から生えた角をなでる。
「おはようございます、旦那様。今日は早くにお出かけの予定がありましたでしょう? お時間大丈夫ですの?」
夫はフルフルと二度左右に顔を振り、そっとわたくしを抱き込むように巻き付くと、いつものように器用にくねらせた首に乗せて移動を始める。
器用にしっぽの先でチリンとベルを鳴らして寝室を出ると、底にはやはり目の瞳孔が縦割れた侍女が三人と、赤い髪と目を持った冷たい印象の二十代後半に見える人型をとった執事のオーマが並んでいた。
「おはよう、オーマ」
「おはようございます、エキディシオン様。ミリア様」
丁寧に腰を折る四人の、本当の姿はドラゴン。
神位を持つわたくしの旦那様――エキディシオン様にお仕えしている。このお屋敷にいる家人は、みな旦那様に忠誠を誓っており、おかげで人間であるわたくしも本人が選んで連れて来たから、とすんなり受け入れてくれた。
ちなみに旦那様も、もちろん人型になれる。
でも、
『わたくし、自分より美しい旦那様なんて嫌です!!』
きっぱり拒絶してから、旦那様はずっとこの姿。
『そうか。それは良かった。足で歩くのは面倒だからな』
と、魂を抜かれそうな輝く笑顔で言われ、気がついたら目の前にとても大きな蛇――じゃない、龍がいた。
……ちょっとだけガッカリした感情があったのは秘密よ。
さらさらの鬣に、ひんやりしたうろこの固い感触も慣れたもので、わたくしはいつものように旦那様に乗ったまま朝食をとる部屋へと運ばれる。
旦那様は基本食べない。水やお酒は飲む。
食事はほとんどわたくしの為だけに用意されている。
酒を吟味していただけの料理人のドラゴンは、生来の好奇心を遺憾なく発揮し、今では交代で人間の料理を探求しに山を下りている。
そう、このお屋敷は雲海広がる山の頂上にあるのだ。
マルデトス山の三合目あたりに、この山に隣接する三国が旦那様を称え祭る神殿を作っている。
わたくしもその神殿の一つにいたけど、短い期間だったから知り合いも愛着もない。
パリッと外側が香ばしく焼かれたパンに、バターを塗って口にする。
「あら。今日のバターは塩味が強くておいしいわ」
素直な意見を言えば、オーマが満足そうに微笑んでうなずく。
「パテト国西側の海沿いの町からの献上品です」
ハッとわたくしが目を見開くと、オーマがもう一度うなずく。
「メーデルト家より献上されたものです。カルパッチョに使用しております魚もでございます」
オーマの説明が終わる前に、給仕の侍女がサッと取り分けてわたくしの前に置く。
玉ねぎの辛みを、レモンの香りと脂がのった魚がやわらかく包み込んでくれる。
そう、これは初夏にしか捕れない魚。塩漬けにして保存がきくけど、このまろやかな味は初夏だけにしか味わえない。
わたくしの食材は、基本神殿に供えられた献上品をいくつか選んで使っており、足りないものは探究心豊かな料理人のドラゴンが仕入れてくる。
つまり、献上品に生物はないから……。
カトラリーを置いて顔を上げた先の窓の下には、ふわっふわの大きなクッションをいくつも下に敷いて、日の光を浴びて日光浴中の旦那様が寝そべっている。
「旦那様」
なんだ、と言わんばかりにまどろんだ目を開ける。
「……わたくしの実家に何かまたありまして?」
『ない。案ずるな』
頭の中に響く、低く落ち着いた旦那様の声。旦那様は龍のお姿の時は、対象の相手に向かって念話で話してくれる。
『ただ、そなたの家族がそなたの好きなものだから、と領内の神殿に持ってきたのだ。それで取りに行かせた』
「まあ、ありがとうございます」
『好きか』
「はい。特に今しか食べられない生の切り身は、とてもおいしいですわ」
『そうか。次はわたしが捕ってこようか』
旦那様が?
海の上に浮かびながら、狙いを定めて魚を取る旦那様を想像し、わたくしは「ふふっ」と笑った。
旦那様の念話は神力の弱いわたくしに届けるため、いつも以上に力が強く、そのため神力が一定以上ある者にはかすかに聞き取れるらしい。
ほら、今もオーマが珍しく顔色を悪くしている。
きっとわたくしと同じことを想像したのね。
「ありがとうございます、旦那様。でもその時はぜひご一緒させてくださいな」
『うむ。いいだろう』
……あら。間違えたわ。ごめんなさい、オーマ。きっと『そなたを連れてはいかぬ』と言うのかと思ったのに。
オーマは難しい顔をして考えていたけど、旦那様はご機嫌にしっぽを少しだけ動かして目を閉じた。
読んでいただきありがとうございます。
たまっているものを書き出さないと前に進めず、また、書いている文章も納得がいかないものだったりします。
それを解消するために、今回一つかき上げてから投稿しました。
他の作品を待っていただき本当にすみません。
また20日に更新します。
どうぞよろしくお願いいたします。