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⑧ パブリトラーフの住人




「ぐむっ」


 身体が熱い。熱した鉄板の上で、日差しに晒されているステーキのように、

ジリジリと肌が焼かれている気がします。

身体中が汗をかき、汗が身体から滴り落ちてくる。

あまりの暑さに眠気が吹き飛び、身体を起こして目を開きました。


「ここ、どこ……?」


 目を開くと、そこはサンサンと太陽が砂場を照りつける海辺で、

その砂浜の上で大の字になって眠っていたのです。


「う、海だあぁああー!」


 身体に目を落とし、自分の格好を確認すると眠った時のままの格好で、制服にサンダル。

これで眠ったままの格好で飛ばされるのは確定だと思われます。


 立ち上がり、背中やスカートについた砂を払って辺りを見渡しました。人一人いません。

もうすぐ夏休み、日本も夏という季節、夏真っ盛りって感じではありますが、

深緑色の海に見たことのない赤黒い砂浜。

ここもきっとどこかの異世界のはず、少なくても贅沢山町ではありません。


 前に跳んだ世界、隠世は常夜の世界。

常に夜しかない世界だとリドは言っていました。


 ――ということは、ここは異世界であっても隠世ではないということです。

隠世であれば、リドに頼んで元の世界に帰してもらうことができたのに。

別な世界となると、どうやって元の世界に戻ればいいのでしょうか。

 

 とりあえず、町を目指そう。たくさん人がいるのなら、たくさんの情報があるはず。

海に沿って歩いていけば、どこかに《港町》があるかもしれません。

 

 わたしは港町に向けて、海沿いに歩き始めました。歩くこと、おそらく十分くらい。

パキンと小枝の折れる音が聞こえて、聞き覚えのある男の声が頭の中に響いてきます。


「また君か」

「わあ、アウルさん。見てください、この常夏の海を! そして照りつける太陽! 

 まさに絶好の迷子日和ですよ」


 太陽を右手で隠しながら、適当に挨拶をしました。

熱すぎて、熱すぎて、熱射病になっちゃいそうな位の日の強さです。


「すまないが、こっちは君の戯言に付き合ってやる暇がないんだ」

「あ、ごめんなさい」


 響く声の主、アウルの声には疲れの色が見えます。

まるで、校庭を二十週走った直後に話しているような疲れ具合。


「……いいや、かまわないさ」

「前はナビゲートしてくれて、ありがとう」

「気にするな、それが仕事だ」


 疲れすぎてるのか、さすがのドSな人も毒気が消えています。

話しやすいので、もうこのまま疲れたままでいてほしい気もしますが。

彼がどうしてそんなに疲れているのか気になります。


「アウル、何かあったの?」

「現世から、多数の異世界転移者が出てきているんだ。おかげさまで全然休めやしない」


 異世界なんとかって所、人手が少ないのかな。どのくらいの数かはわからないけど、

本当に多数転移していたら集団失踪事件とかで明日の朝にニュースで流れてしまいそうです。


 憶測ではありますが、そうさせないために、

失踪を誰かに気がつかれないよう迅速に元いる世界に帰してあげるというのが、

彼ら異世界なんとか管理局が息を切らしてしている仕事と言う事でしょうか。


「アウルも大変なんだね」

「君のおかげで仕事がまた一つ増えたけどな」


 そうですよね。

うすうすと、このようにご迷惑をかけるのではと気がついておりました。


「申し訳ないとは思っていますが、不可抗力みたいな感じでして」

「わかっている。ただ、君は一度、異世界から生還したことのある経験者だ。

 だから俺は君にアドバイスだけ送って、他の迷える転移者達をナビゲートする仕事に戻る」

「え、えーと……。心細いので、手厚くナビゲートされたいなあ、なんて。思っておりますが」


 アドバイスだけでも有難い事には有難いのです。

ですが、話せる人がいるのといないのとでは心の余裕に差が生じるのです。


「……管理局はなかなか厳しいところだ。

 もしもコンタクトを取った転移者を元の世界に帰さずに死なせてしまった場合、

 直ぐに首を切られる。……何が言いたいのかというとだな。

 俺は自分の首を(はかり)にかけていいほど、

 君が元の世界に無事帰れる、そう心から信用しているというわけだ」


 何を思ってアウルがわたしのことを、そこまで信用することになったのかはわかりません。

でも彼がそこまで信用してくれているというのは、悪い気分がしないです。


「わかったよ、自分のことは自分でなんとかしてみる。

 アウルは他の転移者さんをちゃんと家に帰してあげて」

「……助かる」


 彼の信用にきちんと答えたい。信用してくれたことのお礼はきちんと結果で返すんだ。


「お礼なんていわないで。

 こっちが助けてもらっている方だから、文句言うのがおかしいワケで」

「そうはいっても、こっちは助けるのが仕事だからな。まあ、一つ借りておく」

「そっか……。それじゃあ、貸しておく!」


 自分が迷子になったのに、貸しを作ってしまうなんて。

アウルはドSに見えて、几帳面というか真面目な人だったようです。


「そのまま海沿いを進むと、パブリトラーフという王国があるようだ。

 その国の国王に会え、その国王ならば君を元の世界に帰す方法をしっているはずだ」


 アウルはそうアドバイスを言い残して、テレパシー通信を切断しました。

切断するときになるプツンという音がなれなくて体がびくってなります。

あの音、別な効果音に変えてほしいのです。着信音とか設定できないのでしょうか。


 わたしは言われたとおりにパブリトラーフ王国へ向かいテクテクと歩を進めました。

ですが、道のりは険しくは簡単ではなかったのです。


 暑さのせいで体力が奪われ、身体から出る汗で水分が身体からどんどんと逃げていき、

足が棒になりもう一歩も歩けないという状況になったときに、やっと城門が見えてきたのでした。


「やあっ……と、見えてきたよ。とおかった……」


 城門は大きく、ビルのような高さです。

門は閉じられていて、その前に棒を持ったいかにも兵士という恰好の女性が立っていました。

このままでは、町に入れません。門を開けて貰うべく、兵士に話しかけてみました。


「すみませーん」

「お、なんだ。外から人が来るなんて珍しい。君は旅人か?」

「ええ、国王様にお会いしたくて、海沿いを歩いてきたんです」

「歩いて? それはすごい。隣の国からは果てしなく遠い道のりだったことでしょう」


 兵士は驚嘆の表情を浮かべている。

隣の国から歩いてきたと思っているからでしょうか。

隣国から歩いてくるということは、今歩いてきた道のりよりもさらに長いってことだから。

……驚かれるのも無理はないかもしれません。


「もうヘトヘトで。町に入れてもらえませんか?」

「門を開くということですか、わかりました。

 この町の門を開くためには審査を受けなければなりません。よろしいですか?」

「はい、お願いします?」


 審査ですか、すんなりは入れそうにない雰囲気だとは思っていました。

簡単に入れるのなら門を開けっ放しにしてますよね。審査、何を調べるのかな。

持ち物に爆弾とか刃物とか危険なものが混じっていないかを調べたりするのでしょうか?


「では、そこで両手を上に上げ良しというまで動かないで下さい」

「わかりました」


 兵士はその手に持っている棒の先を下に構えると、

棒の先で乙女の純白を守っている神秘の布であるスカートを勢い良く捲りあげました。

わたしの顔はさっき見た兵士さんの顔より吃驚とした表情になっていることでしょう。


「ナイスパンツッ! 良しです! 失礼しました、通ってどうぞ!」


 後から遅れて、された行為を理解し見られてしまった恥ずかしさがこみ上げてきて、

顔が熱くなっていきます。なんなの、なんなの。何が起こったの。

穴があったら入りたい。


 門がどんどん開いていきますが、閉じた口が開きません。

門が完全に開き終わった後、ようやく意識を取り戻しました。


 先ほどの兵士さんが何故かキラキラした羨望の眼差しで見てきます。

この町は一体どうなっているのでしょうか。

でも、その疑問は直ぐに解決することになりました。

何故かと言うと、門をくぐった先の光景に求める答えがあったのです。


「ブリーフ! ブリーフ! ブリーフ!」

「トランクス! トランクス! トランクス!」


 門の先には噴水があり、大きな広場になっていました。

そして、その場には広場を二分するかのように頭にブリーフを被り、

長い棒の先についたブリーフをぐるぐるとそよ風になびかせるように振り回しながら叫ぶ軍団と、

同じようにトランクスを頭に被って手に持ったトランクスを、

空に舞うように振り回しながら叫んでいる軍団がいたのです。


 何ですか、この人たち。これが変態ってやつでしょうか。その行動の全てが理解しかねます。


「あら、お嬢さんは旅人さんかい? この町ははじめてかね?」


 立ち尽くしていたわたしに、頭にトランクスを被ったお姉さんが話しかけてきます。

なんで頭に被っているのか、突っ込みたいけど突っ込んだら負けな気がする。


「はい、これは何をしているので?」

「トランクスとブリーフどちらのほうがパンツとして良いのもなのかを競っているんさ。

 今日は特に審判の日と呼ばれている日でね。王が自ら最高のパンツを決める日なもんで、

 みんな躍起になっちょるのよ」

「そ、そうなんですか」


 日本にも不思議なお祭りは多々あります。

悪態を言い合いお供え物を奪い合うお祭りや、無音で踊る盆踊り。

はてまた、全身泥まみれの奇妙な格好をした三匹の神様が人や車、

家に泥を塗りつけて回るなんていう伝統行事もあるのだそうで。


 異世界で文化や思想や環境が違えば、

こういった変態的なお祭りだってあって不思議ではないのかもしれません。

目の前の現実を受け止めるんだ。頑張って、わたし。


「あひゃひゃ! 初めてこの町に来る人はみんなそんな顔をするね!」

「ごめんなさい、現実を受け入れることができなくて」


 こうして話している間にも、

目の前で繰り広げられている争いはどんどんヒートアップしていきます。

パンツ同士で鍔迫り合いのようなことをしだして、

挙句の果てにはお互いのパンツの奪い合いが始まりました。


「お嬢さんは何をしにこの町へ来たんだい? 見た感じじゃ、観光目的じゃないんだろ?」

「えぇと、国王様にお会いしたくて来たんです」


 あまりの出来事に目的を忘れかけていました。

いけないいけない、元の世界に帰るんだ。

そのためにこの国の王様に会う、忘れてはいけない大事なこと。


「ほお~~、国王様への謁見希望かね。あんた、運がいいね」

「それは、どうしてです?」

「普段は国王様にゃあ、忙しくてなかなかあえんが、

 今日は審判の日だから最高のパンツを見せに行くと言う名目であれば、会えるってことさ!」


 最高のパンツを見せに来たと言えば国王様のところまでフリーパスでいけてしまうみたいです。

そんな凄そうなパンツなんて持ってないから見せることは出来ないけれど……。

騙すことにはなってしまいますが、国王様に会うためです。仕方がありません。


 庶民なわたしが偉い国王様に会えるのかが心配でしたが、なんとかなりそうでホッとしてます。

お姉さんが全ての疑問を解決してくれました。


「お姉さん、ありがとうございます」


 お礼を言って、深くお辞儀をします。


「あひゃ! 礼はよしてちょうだいな、まっ! どうしてもって言うのなら仕方ないわね。

 ちょいと、こっちにきてちょうだいな!」

「わっ、あっ!」


 強引に手を引っ張られて、お姉さんに連れて行かれることになりました。

広場を抜けて薄暗い路地に入ると、

路地の隅には《トランクス防衛隊本部》なる看板が立っています。

その看板のとなりにある地下へと続く階段を下っていくと、お洒落な飲食店につきました。


 お店全体の雰囲気は、開放感のある感じの素敵なお店なんですが、

壁には豹柄や迷彩柄といった色々な柄のトランクスが貼られています。

貼られたトランクスの横には、名札がついていて、

察するにそのトランクスの持ち主かデザインした人の名前だと思われます。


 ぽけーっと考えているうちに、お姉さんは入り口にいる男になにやら話をしていたみたいで、

男はわたしが見ていることに気がつくと、

そそくさとお店の奥へと引っ込んでいってしまいました。


「どうだい、お嬢さん? なかなか良い店だとはおもわないかい?」


 お店のことについてはあまり深く突っ込みたくないので、適当に返事を返します。


「涼しくて……生き返ります」

「あひゃひゃ、今日も外は暑かったからね! ゆっくりと涼むと良いよ」


 彼女はそういいながら、水の入ったグラスを渡してくれました。

喉がカラカラだったので、これはありがたい。

一気に水を飲み干すと、

彼女は笑ってお代わりの水が入っているポットを持ってきてくれました。


「あの……」

「わかってるさ、ここにつれてこられた理由をしりたいんだろ? まずは自己紹介といこうかね」


 お姉さんは自分の分のグラスにも水を注ぎ一口飲んでから、

わたしの目を真っ直ぐ見て言いました。


「私の名前はアルベルダ・トリーマって言うのさ。

 若い頃は玲瓏れいろうのアルベルダって呼ばれていてねえ。

 そりゃあ、毎日の様に男達が何人も何人も迫ってきて……っと、悪い癖がでちまったね」


 今でも十分若く見えますが、若い頃って言うくらいには年をとっているみたい。

見た感じでは二十代前半といった感じのお姉さんな見た目。

いえ、女性相手に年齢を考えてしまってはダメなんです。年なんて飾りなのかも。


「それで、あんたは名前なんちゅうの?」

「朝香乃文乃って言います」

「ふーん、変な名前だね。じゃあ、かのみのちゃんって呼ぶよ。

 私のことは気軽にアルベダってよんどくれ」

「はい、アルベダさん」


 アルベダさんの名前からして、洋風なお名前が主流そうな国です。

そういったところであれば、日本の名前は変に思われても仕方がないのかも。


 ――って、そうでした。

向こうに合わせるのなら、朝香乃文乃ではなくてフミノ・アサカノで名乗らなければ。

すっかりと、忘れていました。


 普通に通じてるみたいなので、直す必要もないかもしれませんが。


「それでね、かのみのちゃんをつれてきた理由って言うのは、私達に力を貸してほしいからなのさ」

「何か、お困りなんですか?」


 わたしなんかで貸せる力があるのなら、いくつでも貸してあげたいです。

ドンッとこいですよ。


「ああ、今日は審判の日。国王が決めたパンツがこの国の新たなシンボルとなり、

 絶対的な力になる日なのさ。他のパンツを履いている者は蔑まれ、

 ぼろ雑巾のように扱われる生活をしなくてはいけなくなるんだ」


「そんな、ひどい……」


 パンツでそんなことが決まってしまっていいのでしょうか。でも、それって――


「あの、それなら、決められたパンツを履いたらいいんじゃあ?」


 アルベダさんはドンッと机を叩いて、勢い良く立ち上がるとわたしの胸倉を掴んで言いました。


「馬鹿にしないでおくれよっ!」

「ひえっ……」


 あまりの剣幕に悲鳴が漏れてしまいました。


「……ごめんよ。つい感情的になっちまった。

 他の国から来たあんたにはわからないのも、無理はないのにね。

 だけど、あたしたちはトランクスに命を懸けてるんだ。

 負けたからと言って他のパンツを履く様な下賎な誇りはもちあわせちゃいないんだよっ!

 ……それだけはわかっておくれ」


「はい、ごめんなさい……」


 この人たちは本気で自分のパンツ、トランクスを愛しています。

それなのに、その誇りをないがしろにしてしまうことをいってしまった。

怒られてしまって当然です。

この人たちはパンツに人生をかけている、遊びじゃないのです。


 何かに真剣に打ち込む人は格好良いです。輝いて見えます。

変態チックに見えることでもそれを突き通すと尊敬でき……ないかも。


 いえ、まだ早い領域に足を踏み入れたのかもしれません。

深く考えたら負け。考えるな、感じるんだ。フィーリングで捉えるのです。


「あー、もう。わかってくれたならいいのさ。

 そんな顔しないでおくれよ、ほらアメちゃんあげるからね」

「わあ!」


 アルベダさんはポケットから苺柄のアメを取り出して、

わたしの手のひらに優しく置いてくれました。

この世界に来てから何も食べてなかったので、たとえアメでもオアシスの水に匹敵します。


 そのアメを口の中に放り込みます。アメの味はイチゴミルク。

ミルクの甘さにイチゴのすっぱさが相まって甘酢っぱい。なかなかの美味である。


「それで、その……一体何をすればいいのでしょうか?」


 アメの味を舌でしっかりと味わいながら、アルベダさんに聞きました。


「あひゃひゃ! 審判には、一人一つのパンツしか持ち込めないんだ。

 どうしても候補を絞りきれなくてね、一つ持っていく人がたりなかったのさ。

 だから、他所の国から来る旅人を狙ってたんだ。そしたら、かのみのちゃんがいてね。

 すごく無防備だったからさ、ついつい声をかけてしまったということさね」


「そ、そうですか」


 都会にはじめてきた田舎者をカモるっていうアレでしょうか。

そんなに田舎娘感が出てたなんて……。

もっと堂々としてたほうがいいのかもしれません。

 

「いいかい、戦争は数だよ。数うちゃ当たるともいうね。

 たくさんの種類のトランクスを見せれば、国王様の趣味にあう良いトランクスがあるだろうさ」


 彼女は自信ありげに胸を張っていいました。たしかに、一理あります。

種類が多ければ多いほど、その中に自分の好きな柄とかが見つかりやすくはなりますよね。


「かのみのちゃんは国王様に会いに来たんだろ? 

 だけど、パンツをもっていかないと会うことはできない。

 だから、あたしたちがトランクスを提供して、そのトランクスで国王様に会うのさ」

「見せるパンツがなくてどうしようかと思っていたので、助かります」

「そうだろ? なら、あたしたちに協力してくれるかい?」


 王様に会えば元の世界に帰れるかもしれないし、その上で人助けも出来るなら一石二鳥。

断る理由はありません。その申し出を受けることにしました。


「わかりました、協力させていただきます」

「よし、来た! 野郎共、話は決まった。早速、城にかちこみだ! 準備はいいかい?」


 アルベダさんの声にお店の奥から、たくさんの人がでてきました。

男女大人子供様々で数は数え切れませんが、三十人は超えていると思われます。

全員が下半身にトランクスを履いていて、もはやパンツというよりは短パンです。

 

 みんなが各々のトランクスを掲げて叫びました。


「トランクス! トランクス! トランクス! トランクス!」


 アルベダさんが手を上に掲げるとコールが止まります。

先ほどとは打って変って緊張感の漂う重苦しい空気です。


「右手には愛する我らがトランクスを!

 左手には仲間を守る思いやりを持って審判を乗り越えるぞ!

 同志たちよ、高き誇りを胸に! 我らがトランクスを見せつけてやれ! さあ、開戦だ!」


 お店の人たちはそれに答えるかのように、次々とトランクスを旗の様に上に掲げて、

雄たけびをあげながらお店の外に突っ走っていきます。とても異様な光景。


「あたしたちもいくよ! ついておいで!」


 一際大きいトランクスを手にしたアルベダさんはお城に向かって走り出しました。

わたしも見失わないように走って彼女を追いかけていきます。

町中から「ヒュワ!」「フォーッ」「ウシャシャシャシャ!」といった奇声が飛び交っています。


「かのみのちゃん、あたしたちも負けずに声だしていくよ! ブルァアアアアッ! ――はいっ!」


 今まで傍観に徹していたわたしに、容赦ないフリが襲いかかってきました。

出来れば他人事ですませたかったのですが、協力すると言った手前、断ることが出来ません。

乗ってしまった電車から降りるには、次の駅に着くのを待つしかない。

少ない勇気を振り絞って、震えた声でそれに続きます。


「ぶるぁあー!」


 一刻も早く帰りたい、そう心から強く思いながら、熱気で蒸し風呂と化した道を駆けるのでした。





次話は明日です。


お祭りのことに触れていますが、

日本で一番の奇祭はK奈川県K崎市で行われている、あのお祭りだと思います。

けっこう有名なので、耳にしたことがある人も多いかも。


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