⑩ 我が儘
こうして、わたしのパンツは国の最高のパンツとして選ばれてしまったんです。
あの後、わたしはエクセリア様に御自身の部屋に連れていかれました。
エクセリア様は審判の日の後始末をなされるために、部屋から出ていってしまいまして
只今エクセリア様が普段ご就寝なされていると思われるベッドに腰掛けています。
部屋につくまでの間に、分からなかったことを沢山質問してしまいましたが、
エクセリア様は嫌な顔をする処か、終始ご機嫌で説明をしてくれました。
ジャッジというのは、その日のパンツだけでなく歴代の最高の全てのパンツと比較して、
善しならば他のパンツの審判をせずとも、この日の最高のパンツになる判決方法。
普通ならば、善しとされても受け付けた者全ての判決が終わるまで結果はでません。
でも、ジャッジならば善しが貰えた時点で勝利が確定します。
ただリスクは大きく、判決で悪しだった時は口では説明できないくらいひどい目にあわされて、
審判の参加資格を永久的に剥奪されてしまいます。
だから、ジャッジで判決を受けようとする人はなかなかいなくて、
いても善しを貰えた人は今までいなかったそうです。
そのせいで国中が驚嘆の声をあげ、熱狂し噴水に飛び込む人たちも発生したとのこと。
オフェンスとディフェンスは、前を捲るか後ろを捲るかの違いでした。
パンツを見せるといってもただ見せるだけではなく、シチュエーションとかチラリズムなど、
様々な要素が重要なので選択できるようにしているとの話です。
個人的に驚いたのはパンツがトランクスとブリーフしか存在してなかったこと。
国の調査によると、男性はトランクス派が多く、女性にブリーフ派が多いらしいです。
人口的にはトランクス派が優勢で、審判を勝ち取ったのもトランクスが多く、
ブリーフ派は一時期、支持する男性が絶滅しそうになりました。
ですが、最近では二十代近い男性にもブリーフ派が増えてきていて拮抗しているのだとか。
……せっかくのお城で、お姫様の部屋にいるのに。パンツのことばかり考えてるなんて。
パンツのことはもう忘れたい、忘れよう。記憶の奥底に封印してしまいたい。
「頭の中がパンツでパンッパンッ……。わたしの頭、もう、駄目かも……」
エクセリア様の部屋は全体がきらびやかで、ピンク色が多い可愛らしいお部屋。
置かれているテーブルも複数人で食卓が囲めるほどの大きさで、
ベッドの上には沢山のヌイグルミが置かれています。
この中では一番大きなクマのヌイグルミが好きかな。つぶらな瞳がとってもキュート。
恐る恐る手を伸ばして触れてみると、柔らかな毛ざわりが伝わってきます。
クマと戯れているとドアがノックされ、エクセリア様がわたしの隣にちょんと座りました。
「朝香乃さん、お待たせしてしまいました」
「いえ、疲れていたので休むのに丁度良かったです」
わたしのお腹から不意に音がなり、咄嗟にお腹をおさえました。
ですが音は聞こえていたらしく、エクセリア様は口許に手をあてて笑っています。
「ふふふ、お腹が空いているのではと思いまして、料理長にお話をつけて参りました。
すぐに料理が届くと思いますよ」
「エクセリア様……ありがとうございます!」
エクセリア様は頬をぷくっと膨らませて、何だか不機嫌になりました。
「あの……エクセリア様、どうなさいました? 何か失礼なことをしてしまいましたか?」
心配になってエクセリア様のお顔を覗きこもうとした時には、もうベッドに押し倒されました。
エクセリア様は上に股がり、両手でわたしのほっぺたをつねります。
「それです、その様付けが嫌なんです!」
「……あ、あの……」
「わかってはいます。私は国王、だから朝香乃さんは私に様をつけている。仕方のないことです。
でも……私がお友達を欲していたのは、お友達というのは対等な立場で付き合える存在だと、
そうお母様から教えていただいたからなんです」
彼女の瞳は何かを恐れているように見えます。
何を恐れているのか、恐れられている相手は彼女の目の前にいる……。
「自分でも我が儘なのはわかっています。朝香乃さん、貴女は私の大事なお友達です。
貴女は私の召使いや、執事ではありません。だから……私を対等な存在として見てほしい……」
「……はい」
不安そうな表情、何を恐れているのでしょうか。
違う、わたしは答えを知っています。彼女は失ってしまうのを恐れている。
我が儘を言ったことで、友達を失ってしまうのではないかと考えている。
だから、こんなにも不安そうな顔をしている。
「ご、ごめんなさい。困りますよね……。国王たる私がこんなはしたないことをして……」
失ってしまうのが怖いのに、我が儘を言ったのは……きっと友達に偽りたくなかったから。
素直な自分の気持ちを伝えたかった。それだけなんです。
自分の本心を隠して付き合う関係になりたくない、それが彼女の願いなら。
彼女が振り絞った勇気を無駄にはしてはいけません。
今にも消えてしまいそうなこの小さな光を逃してしまったら、
二度と彼女は自分の素直な気持ちを伝えなくなってしまうかもしれないから。
「失礼します!」
「きゃあ!」
彼女に押し倒されていたわたしは、逆に彼女を押し倒して上に跨がり返しました。
そして、彼女をくすぐりました。
「あっ……朝香乃さん! 何を……ふぁっ! ……くすぐったいですっ……ま、待ってください!」
「いいえ、待ちません」
「あはっ……あはははは……!
……あっ……だめ! こ、これ以上は駄目っ……ですッ……! ……あ、ああんっ」
彼女から手を離して、笑顔になった彼女のほっぺたを突っつきながら言いました。
「エクセリア様! それは我が儘じゃありません。我が儘というのは自分が思うままに、
自分勝手にその思いを通すことです。エクセリア様が言葉にして頂いたことは、
わたしも思っていたこと。なので、我が儘等ではありません」
押し倒していたエクセリア様に手を差し出して、ベッドの上に二人で向き合うように座ります。
「わたしもエクセリア様と対等に嬉しいことや、悲しいこと、怖かったことや、
幸せを一緒に分かち合っていきたい。貴女の素直な気持ちを聞いていきたいです。
ですので……わたしのことをどうか文乃と呼んでください。
わたしは……エクレアと、呼ばせて頂きます」
チョコレートたっぷり、とろける生クリーム、まさにエクレア。
嘗めたら甘くて美味しそうな所が似ているのでそう決めました。
「はい、……はいっ! 私、とっても嬉しい! 文ちゃん! 宜しくお願いします!」
「わあ!」
抱きつかれて、またもや押し倒されました。国王様、見た目によらずアグレッシブです。
それとも、これが噂に聞くアメリカン式スキンシップなるもの何でしょうか。
ここはアメリカではないので、アメリカンではなくパブリトラーフ式ですが。
「こちらこそよろしくね、エクレア」
わたしたちは手をつないでベッドに横になりました。エクレアの体温が手から伝わってきます。
エクレアの方を見るとエクレアもわたしの方を見て微笑みました。
このまま見つめあっていたい、上手い言葉が見つからないけど幸せを感じれる。
エクレアの口が少し開きかけた時、ドアのノック音が聞こえてきます。
「エクセリア様、お食事をお持ちいたしました」
「は、はい!」
エクレアが身体を起こし、裏返った声で返事をしました。
「……こほんっ! 開いています、入ってください」
「失礼します」
ドアが開き、メイド服を来た女性が次々と入ってきてテーブルに料理を置いていきます。
料理を置き終えたメイドは直ぐに部屋から出ていき、
最後に入ってきた女の子というよりはお姉さんと呼ぶ方が良いと思われる女性が残りました。
女性は「何か他に欲しいものがありましたら、ベルを鳴らして御知らせください」と言い残して、
部屋から出ていきます。
「文ちゃん。お食事、冷めないうちに頂きましょうか」
「うん、ご馳走になります」
料理は果実を絞ったジュースと飲み物に合うオードブルが主で、
食べやすいように一口サイズ切ってある料理が多かったがために、
普段食べないくらい多い量をお腹の中へと入れてしまいました。
太らないかがとても心配です。
「ふふふっ、たくさん食べましたね」
「するするっと口に入ってきて止まらなかったよ……。美味しかったです。ご馳走さまでした!」
こんなに沢山の物を飲み食いしたことなんてなかったのに……。
流石、国王様にお出しする料理です。美味しすぎました。
「はい、料理長に伝えておきます。文ちゃんに誉められたら、跳び跳ねて喜ぶと思います」
「そ、そんなに?」
「文ちゃんは今やこの国の英雄と言っても差し支えない存在です。
料理長もあの場でジャッジを見ていて一目惚れをしたと言ってましたから」
「えいゆう……」
パンツを見られただけで、そんな大きな存在になっていたなんて。
「食後の運動もかねて、お庭でお話をしませんか?」
エクレアが窓の外に視線を向けました。
わたしも視線を追いかけるように外を見ます。窓から見えている庭は緑に溢れている庭園。
花園というよりは、緑の園といった感じの所。
「そうだね……。食べた分は運動して消費しないといけないよね」
「文ちゃんは太ってないと思います。だから、そんなに気にしないでください」
「そう?」
エクレアが言ってくれるのなら、自信が持てそう。
「はい! もう少しポチャッとしていた方が抱き心地も良いと思いますよ」
前言撤回、自信をもったらダメかもしれません。
「太らせようとしてない?」
「ききき、きのせいです」
目がこっちを向いてないよ。遥か遠くを見てるよ。
嘘をつくのが下手で本当に素直な人、それがこの国の国王様です。
わたしたちは部屋から出て庭園を歩きます。花はないけど、緑色が目に優しくて空気が美味しい。
森の中のような庭です。少々迷路みたいになっていて迷いそうですが。
「文ちゃん、私はこの国を変えようと思っています」
「国を……変える……」
エクレアの手が震えています。この国王様は素直な上に人一倍臆病。
わたしは震えている彼女の手を潰れてしまわないように優しく握りました。
「この国は審判の日が絶対で勝利した派閥が国の実権を握り支配します。
国王もはっきりといってしまえば、ただの置物に近くて……」
「うん……」
「特に子供だと言うことも大きいのかもしれません。
子供なんだから大人の言うことを聞かないといけない、それも理解はしています」
握っている彼女の手から熱を感じます。その温かさは燃え盛る炎のように勇ましい。
「でも……負けた方が虐げられるのは間違っていると思います。
子供の私でも間違いだってわかることなんです。
だから、私は国を変えたい。私が胸を張って誇れる国に変えたいの!」
アルさんが言っていました。負けた方はぼろ雑巾の様に扱われる……。
パンツの善し悪しで人生が変わってしまう国。
わたしは来たときから、そのことがおかしいと感じることができました。
でも、それはわたしにとってそれが当たり前ではなかったから、
簡単に気がつくことができたのかも。
例えるなら、
わたしたちの国の日本には選挙の時に街宣活動をするために選挙カーが走っています。
選挙の時に選挙カーが走るのは、日本人にとって当たり前のことです。
それに疑問を持たずにおかしいことだとは思いません。
ですが、他の選挙カーが走っていない国から見ればおかしく見えることでしょう。
頭が弱いので、あった方が良いのか、ない方が良いのかは分かりませんが。
それと同じ様にこの国の人たちにとってはパンツで決めることが当たり前だったんです。
なので、その事に誰も疑問をもちません。
負けた方が虐げられるのも産まれてから、ずっとそうであったなら普通のことで。
そんな中で、当たり前だったことをおかしいと思い、変えようとする彼女はきっと凄いのです。
彼女の瞳はキラキラしています。その瞳は……夢を見ている瞳。
手は震えていて表情も不安そうなのに、彼女の瞳は何よりも真っ直ぐに前を向いています。
その瞳の先にはどんな景色が見えているのでしょうか。
それは、まだ彼女しか知らない夢の話。まだ、夢物語なんです。
でも、自分の夢を語る彼女はとてつもなく眩しくて……。
その姿はとてつもなく格好良く見えるのです。
「文ちゃん、私は貴女に何度感謝しても足りないほどにお礼を言いたいのです」
「そんなに感謝されたら、嬉しいけど……困っちゃうかも」
「では、たくさん困っていただくことにしますね」
「エクレア……意外とSなんだね……」
エクレアは前に出て、くるりとわたしの方を向きました。
そして、満面の笑みを浮かべて手を大きく広げます。
「文ちゃんは私にとってそれほどの事をしてくれたんですよ」
彼女は手を胸において、思いだすかのように軽く目を瞑ります。
「私のお友達になってくれました。私の初めての大事な大事なお友達です。
その上、審判でトランクスでもブリーフでもない物を勝利させてくれました。
今まではどちらかが支配することになっていた国がどちらでもなくなったのです」
今までここにはパンティーは存在していなかった訳で、パンティー派がいません。
勝ったパンツの派閥が国を支配するのであれば、
派閥のないパンツが勝ってしまったらどうなるのでしょうか。
「どちらも支配できない、それってどうなるの?」
「どうなるかは……わかりません。ですが、国を変えるには絶好の機会となりました。
……文ちゃんは、私に一歩を踏み出す切っ掛けも与えてくれたのです」
どこか心の中で、この国の事情を他人事として考えていたのかもしれません。
自分の世界に帰るために国王様に会いに来ただけでした。
ですが、わたしがこの世界に来て、彼女に出会い審判を受けて勝利したことで、
エクレアの国を変えるという夢の一歩を手助けしていたのです。
わたしが来なくても、いずれ彼女は国を変えたのかもしれません。
でも、今エクレアがその決心をしたのはわたしがここに来たから。
全然他人事何かじゃないのです。わたしもきっかけを作った当事者なんだ。
「そうなんだね、そうだったんだ……」
エクレアはその場でしゃがむと、地面にとんっと手を置きます。
すると彼女の青緑の瞳が赤色の宝石の様な瞳へと変化して、
地面に赤色の紋章が浮かび上がりました。
「文ちゃん、この場所を良く覚えておいてください。
きっと……いつの日か貴女の役にたつはずです」
「うん、しっかりと覚えておきます」
赤色の紋章がわたしの足元まで拡がって、景色が暗転します。
「あれ、何も見えない?」
「直ぐに灯りをつけます。……えいっ!」
バチンと音がなって全体がぼやっと明るくなりました。
石壁にたくさんの本棚が並んでいますが、牢屋のような印象を受ける部屋。
「ここは……?」
「ここは王の魔法を研究していた所で、王族でなければ来られない場所なんです」
エクレアは木の机の上に置いてある不可思議な物体を漁っています。
「エクレア、実は……。わたしは……!」
次の言葉を口に出そうとした時、彼女の細い指がわたしの唇に触れました。
「……わかっています。文ちゃんはこの世界の人ではなくて、
私の元に来たのは、帰る手段を探して……ですよね」
「どうして、それを……」
エクレアは机の上の物体の中から腕時計の様なものを取り出して、玩びながら言いました。
「まずは着ている服装です。魔法学院のに近いですが、
魔糸ではない魔力を感じない不思議な材質で作られています。
それとこの世界にはないパンティーを履いていたことから、そうだと推測していました」
この世界は服に魔力がこめられているんだ。
わたしが汗だくだったのに、周りの人たちが汗だくになっていなかったのは、
慣れていたからじゃなくて、魔力がそういう働きをしていたからなのかも。
「……ここに来たのは、文ちゃんを元の世界に帰すためなんです」
彼女はこれから別れがあるということを知っていて、連れてきてくれていました。
「でも……わたしが帰ったら、エクレアを……」
「……私のことはいいんです。私も異世界に迷い混んでしまったら帰りたいと願います」
あの震えていた小さな手を、エクレアを守ってあげたい。
「エクレアのことが心配で……!」
「私はお友達の願いを叶えてあげたい。
帰れなくて困っている大事な人を助けてあげたい、駄目ですか?」
……元の世界に帰りたい。でも、エクレアを近くで支えたい。
どうしたら、いいのでしょうか。わたしは……わたしは……
「そんな顔をしないで……。これで、感謝しきれないほどの借りを返せるのです。
私に借りを返させて下さい。文ちゃんは悩まなくていいんです。
……これは私の、我が儘なんだから」
エクレアはそう言って、玩んでいた腕時計をわたしの腕に着けてくれます。
そして、目を見つめながら言いました。
「それは魔力巻時計と言われている物で、大気の魔力を吸い込んで針を進めます。
針が零時を指したときに時計の側面にある突起部分を押すことで、
使用者を在るべき所に帰すと言われている魔具です」
腕時計は中身の歯車が見えていて、武骨な感じを醸し出しています。
時計の針は、十一時五十五分。後五針で零時。
「その時計は針の進み方にムラがあるようで、なかなか零時を指さないのですが、
運が良かったです。もうすぐ零時を指しそうですね」
「そう、だね……」
もうすぐ、エクレアとの別れがやってきてしまいます。
だというのに、かける言葉がなにも見つかりません。
「文ちゃん、帰る前に私のお願いを聞いてくれませんか?」
エクレアのお願いを断るという選択肢はありません。
やれることであれば……たとえ、やれなそうなことでも聞いてあげたいです。
「――いいよ、なんでも言って!」
ハニカミながら彼女は言いました。
「その……文ちゃんのパンティーが欲しいんです……」
「えぇーっ!」
「優勝したパンツがないと、あの場にいなかった方に説明するのが困難で……。
個人的にも欲しいな、と思っていますが、これは私利私欲ではなく、く、国としてですね……」
エクレアの視線がこちらを向いていません。本当にわかりやすい。
トランクスでもブリーフでもないパンツと言われても、
実物を見なければわかりにくいというのは確かにそうだと思います。
見たことが無い物を説明して、信じられることは容易なことではありません。
彼女にその説明をさせるという手間も残してしまうことになって、後味が悪い感じもします。
何よりも、エクレアが困ってしまう可能性があることを残して帰ったら絶対に後悔する。
それがわたしにとって恥ずかしいことであったとしても、
本当に選択肢は「はい」か「イエス」の二つしかありません。
「……わかりました、今脱ぐから待ってて」
「は、はいっ……!」
そんなにじーっと見つめられると脱ぎにくいです。
履いていたパンティーを脱いでエクレアに渡しました。
「文ちゃん、大好き! 家宝にして大事に飾るね!」
「それは……すごく恥ずかしいよ……」
彼女はパンツを持って嬉しそうに跳び跳ねています。
潔い晴れ晴れとした喜びっぷりに、あげて良かったと思わされてしまいそう。
「――もう一つ、渡したいものがあります」
わたしのパンツをポケットにしまいこみ、照れ臭そうに彼女は口を開きました。
「何があっても決して動かないでください」
エクレアは左手を自分の胸に右手をわたしの胸に置いて、小さく息を吐き出します。
彼女の瞳が先程と同じ様に赤色に変わり、足元に赤い魔方陣が展開されました。
「王たる我が名の輝石に誓いて、彼の者我等の類と化せ。
我が命が潰えぬ限り、汝に王たる印を刻み、我らが星の瞳を汝に与えん」
彼女が言葉を発し終えたと同時に、その場で押し倒されて――。
「……んっ! ……ふぁ…んっ……!」
背筋がぞくぞくしてきて、唇に柔らかいものが触れたり離れたりしています。
お互いの温度を確かめているかのようで、美味しいフルーツを味わっているかのようで。
それは今まで感じたことのない甘ずっぱい、そうレモンの味。
「……文ちゃん、さようならです」
散りゆく桜の様な、か細い声が聞こえます。
その意味を理解する前にカチッと何かが押された音がしました。
音がした方を見ると時計の針が零時を指していて、時計の突起を小さな指が押していました。
「――えく」
彼女の名前を呼ぼうとしたのに、目の前の風景は変わっていてもう彼女の姿はありません。
目に映っているのは、満開の星空でした。
体を起こして見ると、前にあるのは贅沢山中学校の校舎をだったのです。
◇
次話は明日。
最近朝が寒すぎる。