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時の狭間の魔ほぉ〜石シリーズ

異世界でも、この日にはコレでしょ!

作者: 立花 黒

 1月1日。

 新年であるこの日、バレヘル連合のロビーに布袋を肩にかけ歩くドリルの姿があった。彼女は行き交う人々に目もくれず進むと、カウンターに座る受付嬢に声をかける。声をかけられた受付嬢もドリルに気がつくと笑顔で要件を尋ね、それに答えたドリルに対して気さくに説明を始める。


「お二人方ですね。今の時間帯ならココとココのどちらかにいると思いますよ」


 そう言いながら受付嬢は、取り出していたバレヘル連合の敷地図に、鉛筆で丸を付けていく。


「あっ、ありがとうございます」


 ドリルは頭を深々と下げてお礼を言うと、両手で地図を開きそれを見ながら歩き出した。


「あっ、ドリル、どうしたの? 」


 中庭の通路を進んでいると、蜘蛛と一緒になって本や箱を運ぶトロがドリルを見つけ声を掛けた。

 そこでドリルは、ドトール王国で少し前から密かなブレイクをしているという遊びを皆でするために来た事を伝える。


「へぇー、新年だけにやるゲームなんだ」

「はいっ、ドトール領の遺跡で発掘された文献に載っていた遊びらしいのですが、結構面白いですよ」


 そう言うとドリルは、布袋から長方形で持ち手がある薄い板を取り出し蜘蛛とトロに手渡す。


「その板は、羽子板と言います」

「はご……いた 」


 ドリルの説明に蜘蛛が興味を示す中、トロはその板の表と裏をクルクルと回転させてみせる。そしてその板の片面に、何やら細かい絵柄が描き込まれているのを見つけと、蜘蛛の方へと向き直る。


「お姉さま、ペッタンコには勿体無いぐらい、綺麗な絵が書かれていますよ」


 トロの言葉の暴力を受けながらも、ドリルはへこたれずに説明を続ける。


「この板を、今からの遊びに使うんですよ」

「これ……遊び道具、なの?」

「はい」

「遊び……楽しい」

「やってみますか? 」


 そう言うとドリルは、袋の中から自身の羽子板と黒い小さな球状の物体を取り出した。その球状の物体には、小さな羽根飾りが施されている。


「簡単ですから」


 ドリルは小さな球体を目の前で手放すと、持っていた羽子板でその球体を軽く叩いた。



「お……」


 綺麗な放物線を描き、球体がドリルから蜘蛛へと移動する。

 その様を見た蜘蛛は、次に己の成すべき使命を悟った。コンッと音と共に、球体が綺麗な放物線を描き蜘蛛からドリルへと移動する。


「それ」

「む‥‥」

「はい」

「そこ‥‥」


 小さな球体が二人の間を行き来する。トロはと言うと、その様を黙って見ている。


「これ‥‥ちょっと、楽しい‥‥かも‥‥」


 そしてトロの苛立ちが、徐々に蓄積していく。


「そうそう、球を落としたら負けですからね」

「負け……どうなる? 」


 小さな球体が二人の間を何往復もする。


「基本的には、顔への落書きですね」


 その言葉にトロの苛立ちが限界点を突破し、怒りが爆発した。


「イチャイチャしているだけでもどうかと思ったけど、もう我慢出来ないっ! 」


 トロはステップを踏むと高く飛び上がり、空中で球体を素手で捕まえると、羽子板を構えた。


「お姉様の綺麗な顔に落書き!? ふざけないでっ!!」

「えっ、あの、それは例えばの話で」

「トロ……遊び……」


 トロは前傾姿勢になると、羽子板を身体に密着させるまで引いた左腕でしっかりと持ち、右手で軽く摘んだ球体を目線にまで持ち上げた。


「勝負よペッタンコ! 負けた方が潔くお姉様から手を引くの」

「急にそんな事を言われても、僕はただ……」

「問答無用、いくわよ! 」


 トロはそこから球体を頭上高く上げると、今までの鬱憤を全て乗せ、上から下へと羽子板を力強く振った。

 球体はそこから一直線に、あり得ない速度でドリルの心臓との距離を詰めていく。


『チュッン、ドン! 』


 ドリルに当たるはずだった球体は、光の矢に当たり軌道が外れ、地面にめり込む。

 光の矢、それは蜘蛛が咄嗟に出した物であった。


「トロ、遊びは……皆でわいわい」

「あっ、お姉さま、……ごめんなさい」


 俯き反省をするトロに、球体を拾った蜘蛛が歩み寄り覗き込む。


「遊び……続き」

「お姉さま! 」


 それから一時の間、二人のラリーが続き和やかな時間が流れる。

 しかしーー。


『ブチッ』


 打つ瞬間、蜘蛛の瞳が輝いたかと思うと、黒い球体から羽が千切れてしまった。

 その球体をトロが打ち返そうとするが、明後日の方向に飛んでいってしまう。


「あれ、手元が狂っちゃった? 」


 そして微かに微笑む蜘蛛が、トロに忍び寄る。


「遊び……罰ゲーム、落書き……仕方無し」


 箱から取り出した筆を持った蜘蛛が、動く。悲鳴を出す間も与えず、トロの眉毛が太く繋がる。

 その顔を見て思わず吹き出してしまうドリル。


「あ、僕としたことが人様を笑ってしまうなんて、……でもププッ』


 トロはガラスに写る自身の顔を見て、一気に血の気が引いていく。


「うぅ、……よくもペッタンコ〜、こうなったのも全て昔の風習を持ち込んだペッタンコが悪いんだからね! ……うっうっ』


 そう言うと、トロは目に涙を浮かべ宿舎の方へと走り去った。


「あぁ、蜘蛛様、どうしましょう!? 」

「楽しい……皆んなも、ゲーム」


 その蜘蛛の呟きに、ドリルが狼狽える。


「あぁ、これはもしかして大変な事に。……これ以上被害者を出すわけには! ここはなんとしてでも僕が食い止める、……ってもう見失ってしまった!? 」


 その後、バレヘル連合のメンバー達に、蜘蛛のアートが炸裂する事となる。

 因みに彼女は多くを語らないので定かではないが、羽子板で打つ瞬間にモーションとは別方向の強力な回転をかける技を使い、勝利をもぎ取ったらしい。


 それから数週間後。

 遊びに来たドリルに果たし状を渡すトロ。そして決戦の舞台に選んだ泉に到着した二人は、羽子板を構える。

 そんな二人の傍らでは蜘蛛が墨をすりだした。


 数時間後ーー。


「はぁ、はぁ……」

「どうしたペッタンコ、もう息があがったのか! さぁお姉様、罰をお願いします」


 蜘蛛が楽しそうに筆を構える


「あのぉ……もうやめませんか? もう書くところも無いですし……」


 綺麗な顔のままのドリルに対して、トロの顔は真っ黒になっている。


「ふん、まだまだこれからだ! あっ……、まぁペッタンコが負けを認めるなら考えてあげてもいいけどな! お姉様……そこは……」

「えぇー、僕はノーミスなのに」

「なにを勘違いしている? お姉様が調べた文献によると、『羽子板』はどちらかが戦闘不能になるまで続けられるデスマッチなんだぞ」

「いや、羽子板は子供の遊びで……」

「あ、そこは……お姉様~」

「なんだか楽しいですね」


 そして持ってきていたオニギリを食べた三人は、レギザイールへと帰っていった。

このお話は連載中のファンタジーとリンクしております。

まぁまぁだけど面白かったよ〜、と思われた方、もしかしたら連載中の本編の方もお口に合うやもしれません!

良ければそちらにも足を運んで頂ければ、作者のバックで満開のお花さん達が咲き乱れちゃいますので、ヨロヨロウーガでありますデス♪


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― 新着の感想 ―
[一言]  何か、ほのぼのとしてていいですよね……立花さんの持ち味が、いい感じで出ていたように感じました。私は、このような癒し系の話を書けないのです。しかし、この世界にはおにぎりがあるのですね(笑)。…
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