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愛すべき不思議な家族&その後の愛すべき不思議な家族  作者: 桐条京介
その後の愛すべき不思議な家族13 春也の高校編
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28 突然の結婚報告!? 気合を入れた春也ですが、周囲の反応は予想と少し違いました

 春也は家族が勢ぞろいした夕食の席で、話があると言って立ち上がり、意を決して陽向と結婚すると告げた。


「そうか。お、今日も和葉の煮物は美味しいな」


「春道さんは最近また薄味が好きになったから、そのへんも考慮にいれてるの」


「いつもありがとう」


「どういたしまして」


 あれ? と春也は首を傾げる。若いから云々等々、あれこれ言われるかと思いきや祖父の反応は実に素っ気なかった。微笑んで頷いてはくれたものの、あとはいつも通り祖母とイチャイチャし始める。


 春也がポカンとしていると、母親と叔母が揃って噴き出した。


「パパとママは、パパとママだからね」


 意味不明極まりない感想も、叔母にはしっかり伝わるらしい。


「幾つになっても変わらないわね。そんな2人に育てられたから、私もはづ姉も春也の意思を尊重するわ」


「うん。優しく見守って、問題があるようなら手助けする。それが高木家の方針だからね」


「私はもう鈴木家だけれど、真はどうかしら」


 2号店の騒ぎもまだまだ収まらない中、穂月を連れてわざわざ帰宅してくれた叔母の夫が、先ほどの祖父同様に柔らかな表情で首を縦に振った。


「和也君は何かある?」


 母親から矛先を向けられた父親は、うーんと悩む素振りこそ見せたものの、最終的に何も思い浮かばなかったらしい。


「特にないな。陽向ちゃんの人となりは小さい頃から知ってるし、春也が真剣なのも交際中の様子を見ればわかるしな。籍を入れるのはお互いに卒業してからだと話し合ってるだろうし、プロ入り云々も悩んでないはずもないからな」


「結局、見守るしかないもんね」


 葉月が笑い、特に反論もなく、春也が勝手に一世一代の勝負だと意気込んでいた報告は終わった。


 ちなみにこのためだけに戻って来てもらった姉は、最初から最後まで「おー」と普段とあまり変わらない反応だけしていた。


   *


 後日、改めて陽向を交えて報告しても、両親の反応は変わらなかった。高校生の分際で結婚だの婚約だの言語道断だと、どこぞのドラマみたいに叱られるシーンを想像していただけに拍子抜けだった。


 だが女手一つで、一人娘を育ててきた陽向の母親は簡単にいかないだろう。何度も深呼吸をして、相手が休みの日に家へお邪魔させてもらった。


 まだスーツがなかったので高校の制服という、結婚をお願いするには滑稽極まりない恰好だったが。


「娘さんを僕にください」


「どうぞよろしくお願いします」


 意気込んで挨拶した春也に、さも当然とばかりに肯定が返された。


 ここでも春也は首を傾げるはめになり、クスクスと正面の椅子に座る陽向の母親に笑われた。


「春也君のことは昔から知ってるし、私もそうなってくれればいいなと思っていたし、何より2人を見てれば早いか遅いかの違いでしかないでしょうし」


 年齢を重ねて上品さを増した微笑みに、春也は思わず顔を赤くする。照れ隠しに隣を見れば、いつもよりおめかしをした陽向も似たような状況だった。


「それにずっと家族ぐるみの付き合いをしてきたから、今さらみたいな感じもするのよね」


「確かに……」


 お祝い事があれば皆で集まり、夏の海水浴なんかにも陽向の母親は予定が合えば参加してくれたりした。


「この子の就職先もムーンリーフさんだし、面倒臭い性格に文句も言わずに連れ添ってくれそうなのは春也君だけだもの」


「確かに」


「おい」


 隣から肘でつつかれ、大袈裟に痛がって見せる。それを眺めていた陽向の母親がまた笑う。


 籍を入れるのは卒業後で、結婚式は未定。春也も最初は寮に入るので、しばらくは離れ離れの生活になる。そうした説明も、陽向の母親はニコニコしながら最後まで聞いてくれた。


   *


 12月中旬――。


 無事に入団発表の日を迎えた春也は、真新しいユニフォーム姿で関西のホテルにいた。記者の質問が監督に飛び、その後、各選手ごとにインタビューされる。


「今後の抱負は何かありますか」


 記者から尋ねられた春也は、満面の笑みを浮かべる。


「卒業したら結婚するので、奥さんに笑顔でいてもらうためにも頑張ります!」


 時間が止まったような気がした。誰も何も言わず、隣に座る監督が苦笑する。


 そして春也は重要な事実に気付く。


「あ! まだ球団に報告してなかった!」


 とうとう耐え兼ねて監督が噴き出した。そしてテーブル上のマイクを右手で持つ。


「ご覧の通り、投手に必要な度胸は持ってますので、彼には大いに期待したいと思います」


 笑いが起き、今度は記者からどんな女性なのか質問される。


「見た目がヤンキーっぽいけど、中身は純情乙女です」


 真面目に答えたつもりが、またしても笑いが起きる。何かやらかしてしまったのかと少し心配になり、会場の隅で見守っている両親に視線を向ける。父親は恐縮しきりだが、母親はこの場にいる誰よりも楽しそうに笑っていた。


「こんなに若いうちから結婚を決めて大丈夫ですか?」


「若いからこそ決めました。その分だけ長く一緒に過ごせますし」


 質疑応答はいつしか春也の結婚会見みたいになり、陽向の存在は1日にしてネット界隈を中心に大きく広まった。


   *


「いやー、こっぴどく怒られたぜ」


 入団会見をしても、まだ学校は残っている。3学期からほとんど通わずに済むので、向こうで練習に参加する予定だが、卒業まではきちんと通う必要があった。


 南高校は進学校だけあって大学進学率が高いので、冬休み前は各自が受験勉強に励んでシンとしているのだが、春也が登校した今日ばかりは騒がしい。


「僕もテレビで見てて、心臓が止まるかと思ったよ。陽向お姉さんと結婚する予定なのは知ってたけど、まさか入団発表の席で公表するなんて……。


 同期の人たちは気分を悪くしてなかった?」


「社会人から来た人も新婚だったらしくて、それを話題にしようと思ったら先越されたって悔しがってた」


 それ以外にも激怒した人間はおらず、逆にお前は大物だと褒められた。そのまま告げると、晋悟は実に微妙そうな顔で、


「いや……呆れられたの間違いじゃないかな……」


「くだらんな」


 いつもは真っ先に、春也を阿呆と罵る男が今回ばかりは味方に回る。


「愛情を素直に表現して叱られるなど愚の骨頂。春也の行動は褒められこそすれ、自由を侵害されるなどありえん」


「ま、そういう発表がある時は先に球団に言えってだけなんだけどな。問い合わせとかお叱りの電話とか来た時に、きちんと対応できないからって」


 会見場には両親もいたので、即座に取材を受けていたが、実に愛想よく応じた挙句、ちゃっかりとパンの宣伝もしていた。ようやく夏の甲子園後の喧騒も収まりつつあるので、好美からの業務命令を受けたらしかった。


「とにかく、これで俺とまーねえちゃんは球団も公認だ。結婚するってわかれば、他の女から声をかけられることもなくなるだろうしな」


「それはどうだろう」


 さらりと元マネージャーが否定的な意見をぶつけてきた。


「世の中には、人の物ほど欲しくなる人間が男女問わずにいるからね」


「怖いこと言うなよ……」


   *


 クリスマスになり、年明けからは春也が入寮の準備で忙しくなるため、落ち着いて祝えるのは最後かもしれないと大勢が高木家に集まった。


 乾杯の音頭を取らされたのは春也だ。ドラフト1位で指名された時もお祝いしてもらったからと、今回は主役の座を辞退しようとしたが、陽向との婚約祝いも兼ねていると言われれば頷くしかなかった。


 その陽向も春也の隣に立たされ、若干居心地悪そうにしながらも、嬉しそうに笑っていた。


「えーと……じゃあ、俺とまーねえちゃんの未来に乾杯!」


 乾杯と皆がグラスを掲げた後で、クリスマスの挨拶じゃないと色々な人間に指摘された。今夜のパーティーには陽向の母親も参加しており、何度も話しただろうに、また葉月に娘をお願いしますと頭を下げていた。


 春也と陽向はとりあえず婚約として、1年目のシーズンが終わってから正式に籍を入れることになった。バタバタと忙しい間に、とりあえず的な感覚で終わらせるのも味気ないと身内の意見が一致したからだ。


 そして2年目のシーズン終了後、春也が二十歳を過ぎてから結婚式という流れになりそうだった。


「皆、ちゅうもーく!」


 穂月が大きな声を上げたので、その通りに視線が作られた小さなスペースに集まる。


「これから劇団ムーンリーフの発表会です!」


「劇団ムーンリーフ?」


 春也だけでなく、大半の家族も顔にハテナマークを浮かべる。


「今は勝手に名乗ってるだけだけど、いつか作れたらいいなーって思ってるんだよ。プロじゃなくても、皆でずっと遊びたいしね」


 どうやら本人が勝手に決めたのではなく、お目付け役の沙耶らにもきちんと話が通っているみたいだった。


「智希も参加するのか?」


 意外にも友人が前に出たので、春也は反射的に確認していた。


「穂月さんも姉さんもいるのであれば、俺も演じないわけにはいくまい」


 元々、姉が一緒であればどんな遊びにも興じるのが智希という人間だ。考えてみれば驚きはさほどなかった。


「家族だけでもいいから、いつか大きな体育館とかを借りて劇とかしたいんだよ」


「……その時はアタシがほっちゃんのために脚本を書く」


 意外なところで姉とその親友の目標を聞き、春也は皆それぞれ自分の道を歩んでいるんだなと、なんだかとても嬉しくなった。

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