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愛すべき不思議な家族&その後の愛すべき不思議な家族  作者: 桐条京介
その後の愛すべき不思議な家族11 孫たちの学生時代編
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意外と自分の人気は気付きません!? ブレない弟たちは修学旅行先でも元気です

「1泊2日なんてすぐ終わりそうだよなー」


 乗ったばかりのバスで、背もたれに体重をかけながら春也は両隣に座る友人に話しかけた。真っ先に後部座席を確保できたのもあって、広いスペースを得られたのは幸運だった。


「穂月お姉さんたちは3泊4日だったんだよね」


「そうそう、しかも行き先は北海道でさ、帰ってきてからも自慢みたいにたくさん話してたぜ」


 そのたびに春也は自分にも修学旅行があると対抗していたが、とてもじゃないが日数でも目的地でも太刀打ちはできなかった。


「隣の県だぜ? 頑張れば自転車でも行けるだろ」


「不可能ではないだろうけど、想像の10倍くらいは大変だと思うよ。少なくても気軽に行けはしないよね」


「気合の問題じゃなくてか?」


「確かに気合があれば辿り着けるだろうけど、簡単ではないよ」


「そうなのか」


 以前なら晋悟が弱いだけだと言っただろうが、春也だけで勝手に突っ走ると去年に野球部を少しギスギスさせたみたいになるかもしれない。


 素直に忠告を聞くと、晋悟も安心というか嬉しそうにした。


「理解してくれたみたいで良かったよ。迂闊に自転車でも大丈夫なんて言ったら、飽きたから先に帰ろうなんて言われかねないし」


「晋悟は俺を何だと思ってんだ。さすがにそこまでは言わねえよ、それに俺だって成長するんだ」


 野球部生活で鍛えられた胸筋を張りつつ、智希にも目を向けてみる。すると個性的すぎる性格の友人は、驚いたように双眸を開いていた。


「その手があったか! 途中で自転車を借りて戻れば、姉さんと2日も離れずに済む!」


「晋悟、智希の奴、本気みたいだぞ」


「僕に押し付けないで、春也君も一緒に止めてくれないかな!?」


 大慌ての晋悟が、希の大会中もそれなりに顔を見れなかっただの何だのと思いつく限りの理由を並べて宥める。


 他の連中は智希のいつもの冗談だと思っているかもしれないが、そのつもりで話を合わせていくと本当に実行しかねない危険性を持っているのである。


「ボストンバッグに隠れて、のぞねーちゃんの修学旅行にもついて行こうとした奴だからな」


「……念のために実希子お母さんが希お姉さんの荷物を確認したら、呼吸困難で白目を剥きかけてたんだってね」


「無茶しやがって」


「その1言で済ませていい問題じゃないよね!?」


「まったくだ。次までには長時間耐えられる仕組みを考案しなければならん」


「はっはっは、全然懲りてねえな」


「だから笑いごとじゃないよね!? おかげで今朝だって智希君がこっそり希お姉さんを確保しようとしてないか確認させられて、危うく遅刻しそうになったんだからね!?」


 春也と智希に一生懸命注意する晋悟を、同じクラスの男子連中が不憫そうな目で眺める。このやりとりが定着しているせいか、一部からは悲劇のツッコミ役なんて呼ばれているらしい。そのためかは不明だが、晋悟だけは女性から好意的な視線を向けられても嫉妬の対象から外れているのだという。


「せめて姉ちゃんたちと同じ新幹線での移動が良かったよな」


 バスが嫌いというのではなく、なんとなく姉に差をつけられたような気がして嫌なだけなのだが。


   *


「ねえ、春也君、これ食べる?」


「くれんのか? 悪いな」


 持参してきたらしいチョコレート菓子を分けてくれた女子に軽く頭を下げ、サクッと頬張る。我ながら単純だと思うが、広がる程よい甘みに幸せな気分になる。


 見れば晋悟も分けてもらってお礼を言っていた。もう1人の友人には意を決したように別の女子が話しかける。陽向ほどではないが、可愛いとクラスでも人気がある。


「あ、あの、智希君は何か欲しいものとかある?」


「欲しいものか……今ならぬいぐるみだな」


「え? あ、お菓子じゃなくて……えっと、その、ぬいぐるみが好きなんて意外だね。野球部で頑張ってたから、体を鍛えるものとかスポーツのグッズとかが好きなのかと思ってた」


「そういうのにあまり興味はないな」


 弾んでいるかどうかは春也に判別不能だが、珍しいことに会話はそれなりに成立しているみたいだった。女子も普段とは違う手応えを感じたのか、ここぞとばかりにグイグイ攻め込んでいく。


「でもぬいぐるみ好きな男の子も可愛くていいよね、私はいいと思うな。智希君はどんなキャラクターが好きなの?」


「キャラクターというより姉さんだな」


「え?」


「姉さんのぬいぐるみを作っておけば、こうした事態に陥っても幾らかは気を紛らわすことはできそうだしな。その場合はやはり細部にまでこだわらねばなるまい」


 真顔で告げる智希に、ドン引きする恋する乙女。


「凄えな、まだ諦めてねえぞ。イケメンって得だな」


「希お姉さんも美人だしね。中学校でも入学する前から可愛い子が来るって有名だったみたいだよ。前にお姉さんが教えてくれたんだ」


「あーねえちゃんも綺麗だけどな。ま、全員まとめてまーねえちゃんには負けるけど」


「まーねえちゃん?」


 チョコレート菓子をくれた女子が首を傾げたので、春也はお礼代わりに陽向のことを教えてあげた。話すたびに何故か表情を曇らせていくのが気になり、途中で晋悟に目で問うと苦笑を返された。


「春也君も自分のこととなると鈍いよね……」


   *


 初日は移動で大半が潰れ、途中途中での牧場見学などで終わった。これは事前にクラスで作ったしおりにも書いてあった通りだ。


 本番は2日目となる今日である。両親からも姉からも、遊園地で自由時間があると言っていた。それだけを楽しみに、昨夜は姉さんの元に帰ると駄々をこねる友人を宥めたのである。


 もっとも大半は晋悟に任せており、その当人はまだ疲れが残っているらしく若干グッタリしているが。ちなみに元凶は元気そのものだったりする。


「智希はもう落ち着いたのか」


「今日の夜には姉さんに会えるからな。そのためのお土産を物色せねばならん。他に気を回している余裕などあると思うか」


「おう、それでこそ智希だ。ほんの少しだけ晋悟に同情したわ」


「ほんの少しじゃなくて、たくさんして欲しいかな。そして確実に次もあるから、その時は手伝って欲しいかな」


「……考えとく」


「その間は何かな!? 絶対面倒だから嫌だとか思ったよね!?」


「そんなに辛いなら、放っておけばいいだろ」


「性格的に放っておけないんだよ! それに智希君だけでなく春也君も目を離すと何をするかわからないしね」


「お前、大変だな」


「……とりあえず、ありがとうって言っておくよ」


 なんてやりとりをしている間に、バスがほぼ全生徒が楽しみしている遊園地に到着した。地元では見られない規模に、春也も思わず興奮する。


「最初はもちろん絶叫系だよな! んで次も絶叫系で、最後も絶叫系だよな!」


 目を輝かせた春也の宣言に、自由時間を通告されるなり声をかけようとしてきた女子の面々が固まった。絶叫系が好きでなければ躊躇う内容だったのだろう。


 姉さん姉さん言わなければそれなりに付き合いの良い智希と、保護者的立場がすっかり板についている晋悟を引き連れていわゆるジェットコースターのアトラクションに並ぶ。


「お、あっちにはお化け屋敷があるみたいだな。恋人には定番のスポットだとか言ってたわりに、ゆーねえちゃんがしつこくうちのねえちゃんを誘ってたな」


「ああ、うん……お姉さんたちはお姉さんたちで色々と大変そうだね」


「コーヒーカップみたいな乗り物もあるのか。惜しいな、あれがベッドであれば姉さんの興味を惹けたかもしれないものを。いや、待て。どこかで回転するベッドの話を聞いたことがあるような……」


「それは思い出さないでもらっていいかな!? っていうか思い出したとしても、間違っても希お姉さんを誘ったりしちゃ駄目だからね!?」


 何故か1人でハッスルする友人を不思議に思いながら、春也は順番が来たジェットコースターを笑顔で楽しんだ。


   *


 ある程度乗り物系を堪能すると体育会系の性か、無性に身体を動かしたくなってくる。そこで春也は友人2人を誘って敷地内にあるテニスコートを借りた。用具もセットなのですぐにプレーできる。


「野球場があればもっと良かったんだけどなっと」


 お喋りをしながら、ラリーを楽しむ。ちなみに春也対智希と晋悟の構図になっている。


「見て、凄い。春也君1人で、2人を相手にテニスしてるよ」


「やっぱり恰好いいよね」


「智希君も素敵。

 ……性格はちょっと、ううん、かなりアレだけど」


「私は晋悟君派かな」


 いつの間にやらコート周りに人が集まり出していた。特に女子が多く、それを見た他の男子も空いている部分を借りて良いところを見せようと奮闘する。


「なんか人数増えてきたし、試合でもやらね?」


 春也が提案すると、ここぞとばかりにテニス経験者らしい他クラスの生徒が名乗りを上げた。1度も同じクラスになってないので、名前もよく知らない男子だ。


「僕に勝てなくても気にしなくていいよ。テニスは経験がものを言うからね」


 本気で学んでいるわけでもなさそうなのに知ったかぶり全開だが、現在の春也よりは確かに技術があった。


「なるほど、そうやって打てばいいのか」


「見ただけで簡単にできるほどテニスは甘く――あれ?」


「おー、できたできた。んじゃ、次いくか」


「くっ、たまたま上手くできたくらいで……!」


 ムキになって挑んでくるが、スピードに慣れてきたのもあり、序盤ほど相手のスマッシュは決まらなくなる。


「よっしゃ、これで俺の勝ちだな」


 軽く左手を握って笑うと、見物していた女子からキャーと甲高い声が飛んできて、思わずビクっとしてしまう。


「あんなに元気あんなら、一緒にやればいいのにな」


 交代するために晋悟にラケットを渡そうとすると、何故かこの修学旅行中で何度も経験した生暖かい視線をまた向けられた。

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