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愛すべき不思議な家族&その後の愛すべき不思議な家族  作者: 桐条京介
その後の愛すべき不思議な家族3
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 秋が通り過ぎれば、今年も寒くて厳しい冬が訪れる。雪が降るのを見て、今年も終わるんだなと実感する。

 何かと忙しい師走が終われば、子供たちにとっては嬉しいイベントとなるお正月がやってくる。

 普段なら冬休みに入った頃から二人の娘はにこにこなのだが、今年は少し事情が違った。

 大晦日になると、春道の実家へ皆で向かった。母親のお墓参りも兼ねている。

 男ひとりになった実家はさぞかし散らかってると思いきや、意外と綺麗に掃除されていた。

 汚かったら、和葉さんや葉月に怒られるだろと父親は笑った。

 仏壇に手を合わせてから、荷物を置いて皆でゆっくりする。

 夜になれば、和葉が手料理を作ってくれる。葉月もお菓子を作り、母親の写真が飾られている棚に食べてくださいと置く。

 母親が亡くなったばかりなので祝い事はできないものの、実家でまったりするくらいなら罰も当たらない。

 今回の帰省は、春道よりも先に妻の和葉が提案してくれた。娘二人も賛成してくれたので、久しぶりに実家で大晦日を過ごす。

 祖母となる春道の母親が亡くなって以降、どことなく元気のなかった菜月もほとんど回復した。

 秋にお邪魔した戸高家で、そこの息子の宏和君を言葉でいじめてから徐々に本来の菜月へ戻ったように思う。

 母親に似てサディスチックな一面があるのだろうかと、幼少時の今から娘の将来が少しだけ不安になる。

 秋以降も何度か戸高宏和と会ったみたいだが、そのたびに懲りずに悪戯を仕掛けてくる相手を冷徹な態度で返り討ちにしたらしい。いつだったか、和葉が春道に教えてくれた。

「今年の大晦日は賑やかだから、きっと母さんも喜んでいるな」父親が目を細めた。

「それは間違いないだろうけど、親父はきちんと食べてるんだろうな。男ひとりだと、どうしてもコンビニ飯とかに頼ってしまいがちだからさ」

「お前に心配されるとは驚きだな。ま、問題はない。こう見えて、意外に自炊もできるんだ」

 話を一緒に聞いていた葉月が「お祖父ちゃん、凄い」と褒める。

 顔をでれっとさせて、父親が得意げになる。亡くなった母親に負けず劣らず、孫娘を溺愛している証拠だった。

 貯金もわりとあるので、金銭面での心配はないらしかった。若い頃に一生懸命働いた恩恵を、今になってようやく得られたなという父親の言葉が印象的だった。

「その分、お前には寂しい思いをさせたな。小さい頃は、ずっとひとりぼっちにさせてしまった」

 懺悔するかのような父親の発言に、春道は気にしてないと返す。

「昔の話だし、その分、今は孫娘たちに優しくしてもらってるからな」

「そう言ってもらえると助かる。フフ、久しぶりに家族と話すのもホッとするもんだな」

 夕食の鍋を囲みながら、わいわいと会話を弾ませる。

 年老いてきた父親を気遣って、鶏肉が使われている。他には豆腐やネギなどが入っている。シンプルな味つけが、逆に美味しさを際立たせる。

 他には、父親が事前に注文しておいてくれた刺身の盛り合わせが食卓に乗っている。葉月お手製の茶碗蒸しなどもあって、なかなか豪華だ。

「やっぱり、和葉さんの手料理は美味しいな。春道は本当に、いいお嫁さんを貰った」

 父親に褒められた和葉が「ありがとうございます」と頭を下げる。嫌がったりせず、丁寧かつ穏やかに接してくれるのでありがたいかぎりだった。

 会話が一段落したところで、唐突に葉月が手を上げた。

「どうかしたのか?」春道が聞いた。

「大晦日だから、今年の報告をお祖父ちゃんにしようと思って」

 葉月が言うと、隣に座っている菜月が意味ありげに笑った。

「秋の大会で、お姉ちゃんのソフトボール部が惨敗した報告?」

「ああ、ピッチャーに指名された葉月が四球連発で自滅して、ボコボコにされた試合か」

「うぐっ……! 菜月だけじゃなくて、パパまで……じ、事実だから仕方ないけどさ。でもっ! 春にはしっかりリベンジするんだから!」

 椅子から立ち上がり、拳を握りしめる葉月を、春道の父親が微笑ましそうに見つめる。

「リベンジか。葉月も英語を使うようになってきたんだな。もう中学生だから、当然か」

「そうだよ。来年は三年生なんだから」

 胸を張る葉月に、母親の和葉が辛辣な指摘をする。

「そのわりには、英語の成績が芳しくなかったわよ」

「うぐっ……!」

 先ほどと同じ呻き声を発して、立ち上がったばかりの葉月が弱々しく着席する。

「だって、苦手なんだもん……」

「そういや、最近はあまりテストの点数を見てないな。前は答案用紙が返ってくれば、すぐ自慢げに披露してくれたものだが」

 春道が言うと、愛娘の葉月はばつの悪そうな顔をした。

 娘の代わりに、和葉が理由を説明してくれる。

「お披露目できるほど、点数が良くないからよ。部活を頑張ってるし、ある程度は仕方ないのだけど、さすがにそろそろ春道さんに叱ってもらおうかと考えてたところなの」

「そんなに悪いのか?」

「他の科目は許容範囲だけど、英語だけは平均点以下ね。赤点と呼べるほどではないにしろ、集中的な勉強が必要だわ。例えば……塾とか」

 部活動に情熱を注ぐ葉月には恐怖の通告だったのか、ひいっと悲鳴を上げた。

 姉の窮地に妹は助け舟を出すどころか、クスクスと笑っている。ここまでくると、ただのドSだ。

「どうして菜月が笑うのよ。お姉ちゃんをいじめると、お仕置きするからね」

「だって私は、幼稚園の課題は全部満点だもん。お姉ちゃんとは違うわ」

 フッとニヒルに笑う四歳児に、十四歳になったばかりの中学生が本気で反論する。

「幼稚園と中学校は違うの。私だって、幼稚園の頃は成績優秀だったんだから。そうよね、ママ!」

「このお刺身、とても美味しいです。お箸が止まらなくなりますね」

「ちょっと、ママ!?」

 慌てふためく葉月に、和葉が「冗談よ」と笑う。

 春道と出会う前の和葉が熱心に教育していたのだから、幼少時の葉月が出来の悪い子になるはずがなかった。

「晩御飯は落ち着いて食べようよ。まったく。お姉ちゃんが私に勝ってるのは、年齢だけね」

「パパー、助けて。菜月がいじめる」

「パパに泣きつくって……行動がどこかの五歳児と一緒ね」

 そういうお前は四歳児だろと、ツッコミを入れたくなる。昔から母親の口真似をしたりするマセた子供だったが、成長中の現在もあまり変わってないようだ。

 どこかの五歳児――恐らくは戸高宏和と同レベル扱いされた葉月は、お姉さんらしさを放棄して「ムキー」などと言ってたりする。

「宏和君がよくお姉ちゃんの話をするけど、納得だわ。精神年齢が、とても近そうだもの」

「うふふ。菜月ってば、ちょっと言いすぎよ。お姉ちゃん、本気で怒ろうかな」

 姉の口調が変わったのを受けて、それまで優勢だった菜月の顔色が一変する。

 以前にも本気で怒られた経験があるのか、慌てた様子で両手を前に突き出す。

「お、お姉ちゃん、おとなげないよ。マ、ママーっ」

「あれあれ? どこかの五歳児がどうのと言ってなかったけ?」

 悪意全開の笑みを浮かべた葉月が、菜月の背後に回り込む。何をするのかと思って見ていたら、いきなり妹の脇腹をくすぐりだした。

「アハハ! やめてってば!」

「駄目。許してあげない」

 食事もほとんど終わっているので、母親の和葉は呆れ半分で姉妹のじゃれ合いを見ている。

 普段はこういう光景が見られないからか、春道の父親だけはとても楽しそうだ。

「葉月も菜月も、元気で何よりだ。仲も良さそうだしな」

 菜月へのくすぐり攻撃を一段落させた葉月が、えへへと笑う。ふざけあってはいても、実際に姉妹の関係は良好だった。

 葉月は率先して妹を可愛がるし、生意気な発言をしても菜月は姉を尊敬している……はずだ。

「妹としては、お姉ちゃんがもっと大人になってくれるのを望むわ」

「あら。まだ言うの?」

「じょ、冗談だってば。四歳児に本気にならないでよー」

 追い詰められると、普段はマセている菜月も年相応の表情や反応を見せる。

「葉月も菜月も、いい加減にしなさい。ご飯をひっくり返しでもしたら、二人まとめてお仕置きするわよ」

 ふざけあっていた姉妹が、揃って顔を青ざめさせる。

「高木家で一番怖いのは、やっぱり和葉か……」

「そうみたいだな。お前も尻に敷かれてるのか?」

「親父の子だからな……」

 春道と義理の父親の会話に、和葉がこめかみをヒクつかせる。

「春道さんもお義父様も、ご冗談が過ぎますよ」

 にっこり微笑む愛妻のあまりの迫力に、春道は反射的に謝る。いざとなれば話も変わるが、こういうケースで逆らっても得はない。これまでの結婚生活で、よくわかっていた。

「何にしても、賑やかなのはいいことだ。こういうのが……母さんは大好きだったからな」

 春道の父親が、しんみりとした感じで呟いた。それを合図に、全員が亡くなった母親の写真を見た。

「お祖母ちゃん、笑ってるね」葉月が言った。

「ああ。一年の最後に、葉月たちと遊べて喜んでるんだろう。新年も一緒だしな」

 お祝いはできないが、一緒に年を越すことはできる。写真に向かって、心の中でよかったなと言ってやる。

「明日はお墓参りに行くんだよね」

「ああ。夜遅くまではしゃいで、寝坊しないようにしろよ」

 春道の注意に、葉月が唇を尖らせる。「そんなに子供じゃないよ」

 続けて菜月じゃないんだからと言ったところで、愛する妹にジト目を向けられる。

「四歳児と張り合ってどうするのよ。だからお姉ちゃんは――あっ、くすぐるのはやめてっ」

 キャハハと菜月が笑う。またしても始まったじゃれ合いに、和葉がため息をつく。

 最近では、自宅でも常にこんな感じだった。姉に辛辣な態度ばかりとる菜月も、夜遅くまで葉月が部活で帰ってこないと寂しそうにする。

 そうした姿を見ているだけに、辛辣な指摘なども愛情の裏返しなのだと理解できる。

 普段は四歳児に思えない行動も多いが、葉月と遊んでる菜月は小さな子供そのものだ。

「いつまでも遊んでないで、早めに風呂へ入れよ」

 日中に掃除を終えてあるので、沸かせばすぐにでも風呂へ入れる。

 春道の言葉に同意した和葉が、席から立ってお風呂の準備をしようとする。

「そうだ。せっかくだから、ママも一緒に入ろうよ」

 葉月の提案に、困ったような顔を和葉がする。

「三人で入れるかしら。時間の短縮にはなるでしょうけど……」

「たまにはいいよ。何なら、パパもどう?」

 とんでもない提案に、飲んでいた食後のお茶を吹き出しそうになる。

「それは羨ましいな。ハッハッハ」

 愉快そうに笑う春道の父親にも、葉月の魔の手が伸びる。

「じゃあ、お祖父ちゃんも一緒に――むがっ」

 お喋りな葉月の口を塞いだのは、和葉の両手だった。

「わかったわ。ママが一緒に入ってあげるから、見境なく誘わないの」

 葉月を引きずるように居間から出て行こうとする和葉が、途中で思い出したように春道へ声をかけてくる。

「お風呂から出たあとで洗い物をするので、食器を台所へ下げておいてください」

「わかった。ゆっくり入ってこい」

 風呂を沸かしながら入るらしく、和葉たちは揃って浴室へと向かったみたいだった。

「やれやれ。騒がしいことだな」呟くように春道は言った。

「結構じゃないか。賑やかなのは楽しいぞ。家族を……大切にしろ」

「もちろんだ。それと……親父も、俺の大事な家族だぞ」

「……フフ。お前も言うようになったじゃないか」

 お酒ではなく、緑茶が入った湯呑を軽く合わせる。カチャンという音を聞きながら、父との二人だけの時間に、春道は照れ笑いを浮かべた。

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