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愛すべき不思議な家族&その後の愛すべき不思議な家族  作者: 桐条京介
その後の愛すべき不思議な家族2
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 色々とあった1月も終わり、カレンダーは早くも2月へと歩を進める。1年でもっとも寒い時期になるのだが、春道の愛娘の葉月は変わらぬ元気ぶりを発揮する。節分の今日も、朝から豆まきをしようと提案してきた。

「そうね。いいのではないかしら」

 答えたのは和葉だった。妊娠中ながらも、だいぶ状態は安定してるので、愛娘の希望を叶えてあげたいのだろう。妻が同意するのであれば、春道に異論はない。すぐに了承の返事をする。

「それなら、豆まきをするか。でも、葉月はこれから学校だから、帰ってきてからな」

「うんっ。じゃあ、いってきまーす」

 嬉しそうにそう言って、葉月が玄関から学校へ向かった。リビングに残された春道は、朝食の後片付け中の妻の後姿を眺めながら呟く。

「豆まきか……」

「嫌なのですか?」呟きに気づいた和葉が、振り向いて首を傾げる。

「嫌ではないさ。ただ、あまり豆まきをした経験がないんだよ」

「それは私も同じです。なので、少し楽しみでもあります」

 笑顔の和葉に、そうだなと返す。大人になって行う豆まきは、きっと子供時代とは受ける印象も違うだろう。せっかくだから、自分も少しは楽しもう。妻との会話を経て、春道はそう考えるようになった。

「葉月が返ってくる前に、豆まき用の豆を買ってこないとな。俺が家では落花生を使ってたんだが、それでいいのか?」

「そうですね。基本的に家の中だけでするのであれば、豆まきをしたあとに食べられますし、誰もアレルギーを持ってないですしね」

 ピーナッツ類は、アレルギー症状が特に酷く出るので有名だ。豆まきをしてる際に発生する殻の粉などでも影響が出る。そのため、行う際にはアレルギーの有無を聞くのが大前提になる。気合や根性でなんとかなるものではないし、甘えでもない。命に関わる危険性もあるので、その点だけは忘れないようにしたい。幸いにして、家では誰もピーナッツにアレルギーを持ってないので、葉月の希望どおりに豆まきはできそうだった。

「私の実家は雪が降る地方でしたので、落花生を使っていましたが、本来は大豆でするものなのです」

 後片付けを終えた和葉は、節分の説明をしながら、リビングのソファでゆっくりしている春道の隣に座る。

「まいた大豆も、鬼を払ったものなので食べないというところもありますし、地域地域で色々と異なる文化が根付いてるみたいですね」

「なるほど。豆をまかないところもあるくらいだし、当たり前といえば当たり前なのか。それにしても、何が正しいんだろうな」

「時代とともに、色々移り変わりますからね。柔軟に対応すると同時に、起源というか、どのような形でスタートしたものかを覚えておけばよいのではないでしょうか」

 言葉にしても、元は違った意味なのに、使い続けられるうちに辞書にまで載った単語もある。新しく生まれてきた世代にとっては、厳密にいえば間違った使い方が当たり前になる。それが正しいのかどうかは、和葉も言っていたとおり、個人が判断するのは難しい。とはいえ、やはり本来の意味も知っておいた方が何かといいようにも思える。そこらへんは教育機関である学校が色々と考慮してくれるはずだ。だからといって学校任せにするのではなく、子供に聞かれた場合への対処として色々な知識を身につけておきたい。責務というわけではないが、和葉みたいに物知りだと子供も親を頼りにしやすくなる。

「では、私が午前中に買い物へ行ってきます」

 仕事のある春道を、和葉が気遣ってくれる。普段なら好意に甘えるところだが、妊娠中の妻をひとりで出歩かせるのは不安でもあった。正直に伝えると、和葉はウフフと笑った。

「そんなに心配なさらくとも、大丈夫ですよ。妊娠は病気ではないのですから、適度な運動は健康に繋がるはずです。それに、外出時はマスクを着用しますし、帰宅したらきちんと手洗いとうがいもします」

 確かに家に閉じ込めておくのは、肉体的な面はともかく、精神的にはあまりよくないかもしれない。ストレスを溜めさせすぎても心身には影響が出る。その点を考慮すれば、外出は気分転換になる。けれど、心配なものは心配だ。そこで春道は妻に、自分も一緒に買い物へ行くと提案する。

「春道さんには、お仕事があるでしょう」

「少しなら大丈夫だ。俺が行きたいんだから、買い物デートするぞ」

「フフっ、強引ですね。でも、嬉しいです」

 こうして妻と一緒に外出した春道は、近所のスーパーで1時間ほどの買い物デートを楽しんだ。


 買い物から帰宅したあとは仕事部屋にこもり、昼食もとらずに今日の分の作業を終わらせた。帰宅した葉月と、ゆっくり豆まきを楽しむためだ。1年の無病息災を願う行事とはいえ、家族で行える一種のイベントには変わりない。子供時代より、新しい家族ができた今の方が楽しみに思えるのだから不思議だった。

 午後4時を過ぎて春道が1階へ行くと、すでに葉月は帰宅しているみたいだった。玄関には愛娘以外の小さな靴もあった。もしかしなくても、友人たちとも一緒に豆まきを楽しむつもりなのだろう。

「あ、パパだー」

 リビングへ続くドアを開けるなり、葉月が嬉しそうに言った。

 その声で春道が来たのに気づいた和葉が、キッチンからこちらへやってくる。

「お疲れ様です。お昼を食べてないですけど、お腹が空いてませんか?」

「大丈夫だ。これから豆も食べられるだろうしな」

 そう言って笑い、葉月に早速豆まきをするかと告げる。

 愛娘の側には、いつもの面々がいる。今井好美、佐々木実希子、室戸柚の3人だ。葉月を含めた4人全員が、小さなナイロン袋の中に、春道たちが午前中に購入してきた落花生を入れていた。

「なんだかシュールな光景だな」思わず、春道はそう呟いてしまう。

「本来は枡などを使うのですが、用意してる時間がなかったものですから……」

 和葉が申し訳なさそうにするも、葉月や佐々木実希子などはあまり気にしてそうな感じはなかった。室戸柚や今井好美も同様だ。

「正しい方法を言い出したらきりがないですよ。豆は家長がまくものとか、鬼は深夜に来るので夜にやるものとか、色々ありますから」

 今井好美の言葉に、佐々木実希子が頷く。

「そうだよな。外に向けて豆をまいたら、鬼が戻らないうちに窓やドアを閉めるとか、以外に大変だもんな」

「……どうしたの、実希子ちゃん。正しい説明をするなんて……」何故か今井好美が愕然とする。

「あのな……。別に、昔から豆まきをしてるから、勝手に覚えただけだよ。アタシにこだわりがあるわけじゃない」

 それでも、きちんとした豆まきのやり方を知らなかった春道に比べれば立派だ。この際だから、葉月にも昔から伝わる方法を覚えてもらうのがいいかもしれない。そんなことを思っていると、今井好美が歩み寄ってきて、何かを春道に手渡した。よく見ると、それは鬼の面だった。

「あれっ。ウチのやり方だと、鬼役なんて必要ないぞ」佐々木実希子が言う。

「昔からの方法を知るのも大切だけど、皆で楽しめるようにするのはもっと大事だわ。そこで暗黒魔導士――もとい、葉月ちゃんのお父さんには悪役じゃなくて、鬼役を務めてもらいますね」

 色々とツッコみどころがある台詞だったが、今井好美は反論は認めませんと強調するように語尾を強めた。

「まあ、こうなるような予感はしてたし、別にいいけどな」

 受け取った鬼の面を頭に乗せる。すると、待ってましたとばかりに今井好美が手に持った落花生を投げつけてきた。まくというより、ぶつけるという感じだ。

「鬼は外ォ! さあ、皆で退治しましょう!」


 何やら当初と目的が変わってるような気もするが、この手のノリが大好きな佐々木好美は楽しそうに今井好美に同調する。子供らしく、遠慮のない攻撃が春道の腹部や太腿に見舞われる。激痛というわけではないが、ぶつけられるのが落花生なだけに多少の痛みはある。とはいえ我慢できなくもないので、このまま鬼役を続行する。

「逃がしたら、駄目よ。葉月ちゃんも、豆をぶつけないと」

「え? え? ど、どうしてパパにぶつけるの? だってパパ、鬼なんかじゃないよ。怖くないもん」

「いくら家族でも同情は禁物よ。全力でやらなければ、無病息災は得られないわ!」

 今井好美の力説に佐々木実希子は頷くも、室戸柚は全面的にはついていけないとばかりに苦笑する。

 子供たちが楽しんでくれればそれでいいと思っていたが、葉月だけは豆を投げたりせずに、むーっと唇を尖らせた。

「だったら、葉月はパパを守るっ!」

 逃げるために背中を見せていた春道を守るように、葉月が今井好美との間に立ち塞がる。険悪な雰囲気というわけではなく、予想外の反応にひとりを除く全員が呆然としてしまう。

「……どうするんだよ、好美」冷静さを取り戻した佐々木実希子が、この事態を引き起こした張本人に視線を向ける。

「え、ええと……ごめんね。別に葉月ちゃんのパパをいじめるつもりはなかったのよ」

 今井好美が素直に謝る。愛娘の友人関係にヒビが入るのは、親として嬉しくない事態なので、春道も今井好美をフォローする。

「そうだぞ、葉月。好美ちゃんは、場を盛り上げようとしてくれただけだ。そうムキになるな」

「そ、そうなの……?」

 春道にまで注意された葉月は、戸惑い気味に周囲の面々を見つめる。気まずい空気を最初に解消してくれたのは、それまで黙って見ていた和葉だった。

「せっかくですから、春道さんには鬼のままで玄関へ移動してもらいましょう。そこで豆をまいて、無病息災を願えばいいのです」

 堅苦しく考えないで、お祭りみたいに皆で楽しみましょう。そう付け加えられると、葉月も笑顔に戻って頷いた。他の子供たちも同意し、玄関を開けて春道に優しく落花生をぶつけてくる。悪役らしく退散した春道は、外で面を外し、苦笑しながら玄関から家の中へ戻る。

「お疲れ様でした」玄関では、和葉が待っていてくれた。

「ああ。葉月たちは?」

「リビングで、皆で使わなかった落花生を食べてますよ。自分の年齢にひとつ足した数だけ」

「そうか……って、それは俺たちも食べるのか? この歳になると、年齢分はキツいぞ」

「ほどほどでいいと思いますよ。私も年齢分は食べるつもりありませんし」

 そうだよなと笑いながら、和葉と一緒にリビングへ向かう。まいた落花生はすでに皆で拾い、和葉が持っているビニール袋に入れられていた。殻に覆われてるとはいえ、一度でも床や外に落ちたのを妊婦に食べさせるわけにはいかないので、春道がひとりで処理することになりそうだ。

「やれやれ。疲れたけど、それなりに楽しかったな。葉月が俺を守ってくれようとしたし」

「ウフフ。葉月はやっぱり春道さん――パパが大好きなのですね。少し妬けてしまいました」

 妻の言葉を受けて得意げな春道がリビングへ入ると、その葉月が春道へ食べさせようと大量のピーナッツを準備して待ち構えていた。

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