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愛すべき不思議な家族&その後の愛すべき不思議な家族  作者: 桐条京介
その後の愛すべき不思議な家族2
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 葉月の誕生日での騒動が終わる少し前のことだった。

 本格化しつつある冬が、徐々に勢力を増しつつあった。コートがなければ出歩けないくらいの寒風が吹き、自分も部屋の中へ入れてくれとばかりに窓を叩く。そんな音を聞くたびに、今年も冬がやってきたなと実感する。大人になれば憂鬱になりがちでも、子供にとっては楽しいイベント満載の期間になる。そのうちのひとつが、今日のクリスマスだ。

 日中は友人たちと一緒に、室戸柚の家でクリスマス会をするらしい。一時期は実家で経営してる会社が大変な事態に陥ってしまったが、最近ではかなり持ち直してるようだ。不穏な噂も聞かなくなり、以前と変わらない暮らしぶりができるまでに回復しているみたいだった。

 お呼ばれした葉月が帰宅してから、今度は家族でクリスマスを祝うことになる。宗教上の目的はなく、単純に子供が家族でパーティーをしたがってるので応じるだけの話だ。こうしたイベントが数多くあるだけに、日本人は意外とお祭り好きなのかもしれない。

「今回の料理はどうしますか?」

 夕方になってリビングのソファでゆっくりしていた春道に、妻の和葉が声をかけてきた。先日の愛娘の誕生日では腕によりをかけて、悪趣味な手料理を披露した。あとになって自分の作ったプリンバーグを試食させてもらったが、極端な甘さと塩味のきいた肉の絶妙なハーモニーが、尋常じゃないくらいに仲違いをしていた。誰に聞いても、感想は不味いのひと言だった。

 母親の優しさなのか、和葉の作ったパフェは野菜系で作られていながらも、ほんのりと甘くて美味しかった。味見をした今井好美が、これこそ創作料理だと唸ったほどだ。おかげで葉月もわずかながら目を覚まし、これかはら母親の和葉を目指すと言ってくれた。結局のところ、美味しい創作料理をご馳走して、色んな人に和葉が褒められるシーンを見せるのが一番効果的だった。

 毎日創作料理を作られるという事態も無事に防げている現状で、下手に春道が腕を振るえば逆効果になりかねない。それに、誕生日みたいに今井好美を家へ連れてこられれば、またしても暗黒魔導士呼ばわりされてしまう。不名誉な呼称を返上するためにも、今回はおとなしくしてるつもりだった。

「普通でいいだろ。動くのが辛いなら、作り方を教えてもらえば俺が頑張るぞ」

 妻の和葉が妊娠して以降、積極的に家事を手伝うようになった。元から手伝っていた葉月の協力もあって、和葉とは比べものにならなくとも、それなりに家事をこなせている。

「心配してくださって、ありがとうございます。体調なら、もう大丈夫ですよ」

 戸高祐子のお見舞いに行った時も含めて、しばらくは胃のもたれやむかつきが酷かったらしい。そのせいで食欲もなく、だるそうだった。だからといって動けないほどではなかったので、本人は最近までつわりではなく体調不良だと思い込んでいたみたいだった。通ってる産婦人科で相談したら、つわりだと指摘されたのだと教えてくれた。

「じゃあ、一緒に準備するか。クリスマスケーキは注文してあるんだっけ?」

 誕生日などは和葉がケーキを手作りしてくれるのだが、たまにはお店のを食べてみようということで、今回は事前に予約をしていた。

「なら、とりあえず受け取りに行ってくるかな」

 春道がそう言うと、和葉が一緒に行くと言い出した。

「さほど距離は多くないですけど、これもデートです。フフっ。クリスマスだから、いいですよね」

「え……お、おう」

 返事をした春道は、自分の顔が熱くなっていくのを感じながら、愛する妻に手を差し出した。微笑む和葉がしっかりと握り、2人仲良く手を繋いだままで家を出発する。


 都会と違って、街中が煌びやかに彩られたりはしない。それでも、どことなくクリスマスという日に街全体が浮かれてる気がする。車道側を春道が歩き、妻を守るようにケーキ店への道を進む。若いカップルみたいに、手はしっかりと握られたままだ。手を繋いで歩くのは恥ずかしい気もするが、やはり嬉しさもある。そう考えるあたり、春道も浮かれてるのだろう。

 予約していたケーキ店で引換券を渡し、目当てのものを受け取る。帰宅する際の会話の内容は、ほぼすべてが愛娘の葉月のことだった。

「そういえば、最後まで葉月は何が欲しいか言わなかったんだっけ?」

 購入したばかりのケーキを片手に持って歩きながら、春道は隣にいる和葉に尋ねる。

「ええ、そうなのです。それとなく、何回か聞いてみたのですが、秘密というばかりで……」

 誕生日のプレゼントは和葉と一緒になって悩んだ末に、パンダのぬいぐるみを購入した。昨年は失態を演じ、パンダとは呼べないぬいぐるみをプレゼントしてしまったので、罪滅ぼしの意味も込めてきちんとしたのを贈ったのだ。幸い凄く喜んでくれて、昨年のぬいぐるみと一緒に並べて兄弟という設定にしてるみたいだった。

 そんな感じで誕生日はこちらが勝手にプレゼントを決めた形なので、クリスマスは葉月が欲しがるものをあげようという話になった。和葉が聞けばすぐに教えてくれると思ったが、愛娘は頑なだった。サンタさん以外に教えてはいけないという注意を守り、現在も秘密のままだ。

 とりあえずのプレゼントとして、以前に葉月が興味を持っていた女児向けのテレビアニメキャラクターのグッズを、和葉と一緒に買い物へ出かけた際に購入した。枕元に靴下を置いて寝るらしいので、中身を確認してからそれを置くかどうかを決める予定になっていた。

「葉月はサンタさんに、何をおねだりするつもりなのかな。かなり興味があるぞ」

「フフ。それは私もです。天体望遠鏡とかでしたら、どうします?」

「とりあえず無理だと書置きをして、双眼鏡あたりで勘弁してもらおう」

「もう、春道さんったら」

 フフっと笑いながら、和葉が繋いでない方の手で小突いてくる。たまにはこうして、街中をじゃれあって歩くのもいいな、なんて思いながら春道は楽しい気分で帰宅する。


 ドアには鍵がかかっており、ただいまと声をかけても反応はない。ケーキ屋に行って帰ってきただけなので、当たり前といえば当たり前だった。

「手を洗ったら食事の準備をしましょうか」玄関で靴を脱ぎながら、和葉が言う。

「そうだな。準備してる間に、葉月も帰ってくるだろ」

 春道の予想は大的中で、それから1時間程度してから葉月が帰宅した。冬で日が短くなってるのもあり、外はすでに真っ暗だ。友達とのプレゼント交換で得たものをリビングで広げて、見せびらかすようにひとつずつどんなものなのかを説明してくれる。

 全員が小学生なので、当然ながら値の張るようなプレゼントはない。最近の小さい子は大人びていると聞くが、葉月の周囲ではまだブランドものや化粧などに興味を持ってる友達はいないみたいだった。

 主に春道が相手をしてるうちに、和葉が夕食の準備を整えてくれた。購入してきたケーキをテーブルの真ん中に置き、周りに定番のチキンなどを並べる。どれも美味しそうで、早くも葉月はにぱっとしながら口元から涎を垂らしかけている。

「ご馳走もケーキも逃げないから、そんなに慌てるな」春道が苦笑する。

「逃げちゃうよー。早くしないと、皆、パパのお腹に吸い込まれちゃうもん」

「お、おいおい……俺はそんなに欲張りじゃないぞ」

「えへへ。冗談だよー」

「ああ、知ってる」

 父娘間でのやりとりを眺めつつ、飲み物なども用意してくれている妻が笑う。和やかな雰囲気の中で全員がダイニングテーブルの席に着き、クリスマスのディナーを存分に楽しんだ。


 その日の深夜、日付も変わろうかという頃に、春道と和葉は夫婦揃って愛娘の部屋の前に立っていた。

 すでに葉月は眠ってるはずだが、万が一の事態を想定して、春道は上下ともにサンタの衣装に身を包んでいる。ひげもきちんと装着し、誰が見ても……とまではいかないが、なんとかサンタクロースっぽい感じを演出できていた。

「春道さん、準備はいいですか?」隣にいる和葉が、小さな声で聞いてくる。

「任せておけ」

 荷物を小脇に抱えながら、春道は右手の親指を立てる。

 頷いた和葉が、ドアノブに手を伸ばす。ゆっくりと、物音を立てないようにして、娘の部屋への侵入を開始する。

 綺麗に片づけられている部屋の窓際に、葉月のベッドがあった。布団派の春道と違って、母娘はそれぞれベッドを利用している。和葉はこの家に住み始めた頃に、葉月には自分の部屋を与えた時に購入したらしかった。

 抜き足、差し足、忍び足。隠密活動中の忍者みたいな足取りで、心地よさそうな寝息を立てている愛娘にそっと近づく。後ろからは、やはり慎重に和葉もついてくる。部屋の外で待ってるとは言ったものの、気になって仕方ないのだろう。春道の背中に隠れつつも、葉月の可愛らしい寝顔を覗き込んでは微笑んでいる。

 枕元には、小さな靴下があった。注意深く手に取って、中身を確認する。1枚のメモ帳が視界に映る。指先を入れて、音を立てないように取り出す。

「……何て書いてあるのですか?」和葉が聞いてくる。

「まあ、待てって。ええと……ない?」

「……は? あの、春道さん。ふざけてる場合でないのは、承知なさってますよね」

「ふ、ふざけてないって。靴下の中に入ってたメモ帳に、そう書かれてるんだよ」

 若干の怒りを含んだ顔つきになっていた妻に、持っていたメモ帳を手渡す。それを見て、和葉もようやく納得してくれた。

「小さなメモ紙に、大きく書かれてありますね。ただひと言、ないです、と」

「だから言っただろ……って、裏にも何か書かれてるな」

 その言葉に反応した和葉が、持っていたメモ紙を裏返す。春道も素早く妻の背後へ移動し、覗き込むようにして一緒に書かれている文字を見る。

 ――プレゼントの代わりに、パパとママとずっと一緒にいられるようにしてください。

 読み終えた瞬間に号泣しそうになった和葉の口元を手で押さえ、耳元で静かにするように注意を促す。コクコクと小さく頷いてくれたので、安心して手を離す。

「……ママは、どこにもいかないわ。葉月と……ずっと一緒よ」

 ベッドに近づいた和葉が囁くように告げると、かすかに葉月が笑ったように見えた。まさか起きてるのかとドキドキしたが、どうやら単なる偶然だったらしい。これ以上騒いで起こしてしまわないうちに、プレゼントを置いて部屋を出ようと提案する。

 同意してくれた和葉が、持っていたメモ紙を靴下の中へ戻すのを眺めながら、もう片方の枕元へ持ってきたプレゼントを置く。喜んでくれるように祈りつつ、春道は葉月の側を離れる。タイミングよく和葉もドア付近へ戻ってきたので、一緒に部屋から退出する。

 廊下からリビングへ戻る途中で、和葉は涙ぐんだ声で言った。「優しい子に育ってくれてよかった」

「テストの点数が悪いと、どこかの母親に怒られてたけどな」

「も、もう……っ! 春道さんは意地悪です」

 怒る妻をなだめながらリビングへ戻り、少しだけ話をしたあとで、春道も自室へ戻って睡眠をとることになった。

 神経を使って疲れていたせいか、いつもよりもさらに短時間で眠りに入れた。


「パパーっ!」

 翌朝、どーんに似た感じの声が聞こえたと思った直後、春道の腹部に鈍い痛みが発生した。重さも同時に感じるので、愛娘がダイブしてきたのだと瞬時に理解する。

「ふああ。おはよう、葉月。どうしたんだ?」

 布団で横になったまま目を開くと、春道の上には予想どおりに愛娘が乗っかっていた。瞳をキラキラさせながら、右手に持ってるアイテムを見せびらかすように突き出してくる。

「ほら、これね。サンタさんが、葉月にプレゼントしてくれたんだよっ!」

「そうか、よかったな」

「うんっ! あれっ、でも、プレゼントくれたってことは……あのお願いは駄目だったのかな……」

「あのお願い? 一体何のことだ?」

 何かはわかってるが、すっとぼけて尋ねてみた。素直に教えてくれるかと思いきや、葉月は持っていたアイテムを口元に当てて「秘密ー」と笑った。

「あ、もう朝ご飯できてるよ。早く食べよっ」

「わかった。すぐ行くから、とりあえず……そこ退いてくれ」

 元気に頷いた葉月が、元気に飛び跳ねながらドアへ移動していく。その様子を眺めながら、少しでも長く今の幸せが続くように、春道も心の中でサンタクロースにお願いをしてみた。クリスマスは過ぎてしまってるけど、きっと聞いてもらえるだろう。なんだか、そんな気がした。

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