第六十四の話 勇者じゃなくても
今回で、やああああっと鉄槌をおおおおお!!!!
〜ライター視点〜
【バキズガアアアアン!!】
「!!?」
【ズゴン!】
「!?な、何だ!?」
いきなりのことで不良どもはうろたえた。
それもそのはず。今まさにアルス達にとどめをさそうと鉄棒を振り上げていた仲間が何の前触れもなく吹き飛ばされたのだから。
見れば、入り口が破壊され、重い鉄の扉が粉々に。
そして先ほど吹き飛ばされた不良がいた場所に、黒い服を着た青年が膝を地に着けながら座っていた。
「な、何だこいつ!?」
「知るか!とにかくやっちまえ!!」
戸惑いから一転、臨戦態勢へと入り、飛び掛ろうとする不良達。
『・・・。』
それに対し、青年は動かない。ずっと黙ったままだった。
『・・・龍波』
【ゴォォォォォォ・・・】
『紅蓮蹴』
【ズゴオオオオオオオオオオオオオ!!!】
『ギャあああああああああああああああ!!!!???』
突然、青年の右足が燃え上がったかと思うと、青年はその足で回し蹴りを周囲に放つ。
その衝撃はすさまじく、少年の近くにいた不良達を吹き飛ばしたのみならず、遠くにいた不良達の服も燃え上がった。
「ぎゃああああ!熱い、熱いいいいいいい!!」
「た、助けてくれ!助けて・・・!」
「水、水はどこだあああ!!」
「し、死にたくねえ!死にたくねえよおおおお!!!」
「ぎゃああああああああああ!!!」
先ほどの威勢はすでに無く、全員がパニック状態へと陥ってしまい、口々に叫びながら逃げ惑った。
そんな中、青年はただゆっくりと正面に向かって歩き出した。
【バキィ!】
「ぐぎゃあ!?」
【ズゴス!】
「あぎっ!」
【グシャ!】
「ぎゃあああ!?」
歩いている途中で近くまで来た不良達には、容赦なく殴り、蹴り、弾き飛ばした。
「な・・・何なんだよおい・・・。」
その様子を見て、リーダーの男は腰が引けた状態で少しずつ後ろへと下がっていった。
青年はそんなリーダーの男の状態なんてどうでもいいかのごとく、ゆっくりと接近していく。
「な・・・く、来るな!来るんじゃねえ!」
最後の抵抗のつもりか、ナイフを青年に向ける。それでもなお、青年は前進をやめない。
「来るなって!来るな!た、頼む来ないでくれ!」
脅しが通用しないと見たのか、ナイフを投げ捨てて降参の意を示す。
『・・・。』
「な、なぁ頼むよ!見逃してくれ!な?この通り!許してくれ!」
『許せだ?』
【ガッ!】
「ひぃ!?」
『・・・アルスを・・・』
【ズガッ!】
「ぐぇ!」
『フィフィを・・・』
【ゴスッ!】
「ぎっ!」
『心身ともども痛めつけた貴様らを・・・』
【ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスガスガスガスガス!!】
「ぐげげげぇ!!」
『許せだぁ?』
【バキィ!!ズドオオオオオン!!】
青年はリーダーを掴んだ後、殴って蹴って殴って蹴ってボコボコにした後、最後の一発を顔面に与えて吹き飛ばした。
『・・・・・・・・ハァァァァァァァアアアアアア・・・・・・・・。』
そして一息入れた後、体中に力を溜めるように体を曲げ、大きく息を吐き・・・
『龍爆陣・・・
砕け散れええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!』
一際大きな光を放った。
〜龍二視点〜
・・・・・・・・・・・・・。
「あっぶね〜・・・。」
ギリギリセーフ・・・危うく街吹き飛ばすとこだったぜ・・・。
「・・・ふぅ、どうにか理性は抑えられたか。」
ジジイの教えその五十二、例え激情が己を支配したとしても自我を失うことなかれってな。
矛盾してるようだけど、あの教えが役立つとはねぇ・・・意外や意外。
にしてもどうすっかな〜・・・ここら辺は人は住んじゃいねぇからいいが、まるで爆心地後みたいになっちまった・・・
・・・
ま、そんなことよりアルス達だ。
え〜っと・・・いたいた。
咄嗟に『龍鉄風』をあいつらにかけといてよかったぜ。
「アルス。」
「・・・・・ぅ・・・。」
・・・気絶してんのか・・・。
「?」
何か手の中が光ってねぇか?
「・・・・・・・・・お。」
・・・
な〜る、フィフィが光ってたのか。
こいつも傷がひどいが、寝てるだけだな。よかよか。
「・・・。」
でもさすがにこれはな・・・。
「・・・しゃあねぇ。」
氣を伸ばした両手に集中させてっと。
『龍水泉』
【ィィン・・・】
淡い光がアルス達を包み込む。すると二人の傷はみるみる回復していった。
気功術ってのはいいねぇ。まぁ、回復系の技は俺向きじゃないけど。
「よし、と。」
とりあえず傷がある程度癒えたところで、帰るとすっか。
「よいせ。」
今だ寝てるアルスを背負う。ん、ちょっと体重増えたか?
フィフィはまぁ・・・とりあえず俺のジャケットの胸ポケットに。
「さぁて・・・。」
・・・そういや・・・
周りをグルリと見てみる。
「・・・。」
さっきの爆発で、見事に真っ黒こげとなったボケナスどもがそこら辺に転がっていた。
まぁ死にはしないよう抑えたし、大丈夫だろ。
だがちょっとな〜・・・。
「・・・。」
【ニヤリ】
『龍幻殺』
【シュー・・・】
氣を媒介とした霧を発生させ、周りを包む。
すこーしだけ・・・いい夢でも見させてやっかなぁ♪
さて、さっさと帰るか。音がすごかったろうし、人が集まるのも時間の問題だしな。
〜アルス視点〜
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
(・・・。)
・・・・・・・・・・・・・?
(ア・・・。)
・・・・・・・・・う・・・。
「アルス。」
「・・・・・?」
目を開ければ・・・すっかり見慣れた天井・・・
そしてボクにとって特別な存在の人の顔がそこにあった。
「リュ・・・ジさん・・・?」
「起きたか。」
どうして・・・?
「・・・!フィフィ・・・!」
あ、つぅ・・・。
「無理すんな、傷は癒えたが、中身はまだ回復できちゃいねえ。」
「は、はい・・・すいません。」
布団から起き上がろうとしたら体に激痛が走った・・・ちょっと頭に触れてみたら、包帯が巻いてある・・・。
「あの・・・フィフィは・・・。」
「・・・ん。」
ゆっくりボクを寝かせてから、リュウジさんが顎でしゃくった。
「・・・はぁ・・・。」
そこには、枕の上でボクみたいに頭に小さな包帯を巻いたフィフィが寝息をたてていて、思わず安堵のため息をついた。
「治療しといたからな。もう大丈夫だ。」
「よかった・・・ところで・・・。」
「?何だ?」
「・・・何でボクは・・・ここに・・・。」
あの後、ボクはあそこで気絶したのをハッキリ覚えている。それにここからあそこまでかなり距離があるし、奥まった場所にあったから見つけるには困難なはず・・・。
「決まってる。俺がここまで運んだ。」
「リュウジさん・・・が?」
「そ。まったくあのゲスどもが、アルスのケガさえなけりゃあの場でもっと苦痛味合わせれたのに。」
そ、それはちょっと想像したくない、というかできない・・・。
「・・・リュウジさんが助けてくれたんですよね?」
「まぁな。お前気絶してたけど。」
「・・・ありがとうございました。」
「あぁ、礼なら後輩・・・・・・にも言ってやってくれ。」
「?」
後輩・・・?
「あいつがいろんなとこで情報集めて、お前があの街外れの倉庫街方面へ向かったって目撃情報入手したってことで、俺がそれ聞いて全速力で向かったわけよ。」
「そうなん・・・ですか・・・。」
「それと、明日お前らそいつ以外にもいろんな奴らに礼言わなきゃならねえぜ?」
え?
「お前らの帰りが遅いっつーわけで、皆して街中駆けずり回ってくれたんだぞ。」
あ・・・。
「で、そいつら今はリビングでグッタリしながら眠ってら。」
「・・・心配、かけちゃったみたいですね・・・。」
「そだな。」
「・・・。」
「・・・ちょっと起きれっか?」
「?えぇ・・・いつつ。」
うぅ・・・体中痛い・・・。
「しゃーねぇ奴だなオイ・・・よっと。」
結局、リュウジさんに手伝ってもらって、上半身だけ起こせた。
「ん、とりあえずこれ飲め。」
「?」
突然、リュウジさんがボクにカップを差し出してきた。ほのかに湯気がたってる。
「コンソメスープ生卵入り。うまいしあったまっぞ?」
「あ、ありがとうございます・・・。」
カップを受け取って、一口啜ってみた・・・
「・・・おいし。」
「お前家出てから何も食ってなかったからなぁ。何でも美味いだろ。」
・・・何て言ったらいいんだろ・・・優しい味がする・・・
卵もそのまま飲み込んで、あっという間に飲み干した。
「おかわり、いるか?」
「・・・いえ。」
「ん、そか。」
カップを返し、目線を組んだ手に向けた。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・今、何時ですか?」
「あ〜・・・もう一時だなぁ。おっそ〜。」
「・・・そうですか。」
「ん。」
「・・・。」
「・・・。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
沈黙が、この場を支配した。
「・・・リュウジさん・・・。」
「?」
最初に沈黙を破ったのはボクだった。
「ボク、勇者だって言いましたよね?」
「あぁそうだったな。とりあえず覚えてた。」
・・・。
「・・・ボク、ホントは役立たずなんです。」
「?」
「小さい頃から・・・住んでた村では失敗ばかりして、いっつも弱虫、役立たず、家の恥さらし・・・子供から大人、父までボクのことをそう呼んでました。」
「・・・。」
「でも・・・勇者だって教えられた途端、周りの人達が急にボクに対して礼儀正しくなって・・・村だけじゃなく、いろんな街でもそうでした。」
「・・・。」
「・・・勇者っていう立場は嫌じゃないんです。むしろ人を助けることができて誇りに思うんです・・・ただ・・・ただ、あんな目で見られるのが苦痛でした。」
「・・・。」
「誰もボク自身を見ようとしないんです・・・見てるのは、勇者としてのボクだけ・・・それが苦痛で仕方なかった。」
「・・・。」
「だから、周りに認められるように努力してきたけど、もうどうでもよくなってきたんです。それからというのも、人を救えることができる勇者っていう立場だけがボクの支えでした。」
「・・・。」
「・・・今日フィフィに言われて・・・正直ショックでした。勇者としての立場が無くなったら、ボクは一生役立たずのまま暮らしていかなきゃいけないのかって思うと・・・。」
「・・・。」
「それに・・・今日痛感しました。大切な仲間一人守れないで、勇者なんてできないって。」
「・・・。」
「フィフィを人質に取られた上に、傷つけ、悲しませて・・・守りきれなかった・・・大切な仲間を守りきれなかったんです。」
「・・・。」
「・・・結局ボクは、勇者っていう立場にいても役立たずなんですよ・・・。」
「・・・。」
「・・・・・・・すいません、突然こんな話をして。」
「ん、別に?」
・・・どうして話したんだろう・・・今頃になって後悔し始めた。
リュウジさんに言ったって、何にもならないのに・・・リュウジさんが困るだけなのに。
ただ・・・ずっと胸につかえていた物が、スッと取れたような感じはした。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・はぁ。」
「・・・?」
「・・・勇者ってさぁ、絶対必要なのか?」
「・・・???」
どういう意味・・・?
「お前さ、人助けんのに立場なんていると思うか?いらんだろ。」
「・・・。」
「大体なんださっきから。役立たずだの、守りきれなかっただの・・・言ってることとやったこと反対じゃんよ。」
「?」
「お前はな、守りきったんだっつの。フィフィを。」
「え・・・そんなこと・・・。」
「無いか?よーく思い出してみれ。」
「・・・・・・・。」
・・・・・・
あの時・・・フィフィが床に叩きつけられた時・・・
咄嗟に、ボクがフィフィを庇った。
・・・・・・・・。
「・・・。」
「で?どうよ?」
「・・・【コクリ】」
「だろうが。第一、お前さんがフィフィの場所を突き止めなかったら今頃どうなってたかわかったもんじゃねえんだ。」
・・・。
「そんな奴が役立たずって呼ばれるか?否、違うね。」
「・・・でも・・・ボクはただやられて・・・。」
「だーかーらー、それはフィフィを助けたいって思ってのことだろが。何も間違っちゃいねぇ。」
・・・。
「後な、人ってのはホントに守りたいもんは何でも守ろうとすんだよ。
子供にしろ、家庭にしろ、ダチにしろ、恋人にしろ。
地位にしろ、金にしろ、何にしろ。
いろんな方法で守ろうとすんだよ。」
・・・。
「まぁ金とかどうかと思うがな・・・だがな、さっき例を挙げた人達はみーんな勇者じゃねえ。ただの一般人とかお偉いさんとかだ。」
・・・。
「守りたい者は守りたい、全力で守りたい、・・・てのは皆共通してんだよ。お前は勇者って立場に囚われてるようだが、結局は人なんだよ勇者も。つまり勇者は単なる肩書き。肩書き無くても人は助けられっだろ?」
・・・。
「まぁ、勇者やめろとは言わないけどよ、
お前が勇者じゃなくったって、少なくとも俺達は絶対にお前を見捨てたりはしねぇぞ?俺達が一番よく知ってるのは勇者アルスじゃなくて、いっつも笑ってるアルスだからな。」
!
「ま、これはあくまで十八歳の戯言だ。適当に聞き流したっていいぜ?」
「リュウジ・・・さん・・・。」
「あぁ、後。」
「・・・?」
「仲間はただ単に守られるだけじゃねえぞ。お互い助け合って一緒にいて、辛いこととか楽しいこととか、簡単にブチまけるような奴が仲間。」
・・・
助け・・・合って・・・。
「で、結局何が言いたいかってーとな、
一人で何でもかんでも背負い込もうとすんじゃねえよ。誰かを傷つけたくない、守りたい、でも一人じゃどうにもって思うんなら仲間に頼れ。それが結局守るってのに繋がる。つまり仲間=俺達だ。」
「・・・。」
「・・・はぁ、こういう複雑で長い話嫌いなんだよなぁ俺・・・結局話しちまったけど。」
・・・。
「じゃそろそろ遅いし、寝るかな。」
・・・。
【ギュッ】
「?」
咄嗟に・・・ボクはリュウジさんの服を握り締めていた。
「・・・一つ、わがまま言ってもいいですか?」
「?」
ただ・・・
「今だけ・・・隣にいて欲しいんです・・・。」
ボクが村で生まれてから、一度だって言ったことがない・・・わがまま・・・
勇者になってからも、ずっと言ったことがない、わがまま。
「・・・しゃーねぇか。」
「・・・・・・・・・。」
それと・・・
「・・・ぅ・・・。」
「?」
小さい頃に・・・村の子供達にいじめられて以来
「・・・う・・・ぎゅ・・・。」
「・・・。」
全然出なかった物が
「・・・うぁ・・・うぅ・・・。」
「・・・はぁ。」
その時とは違った感情が・・・胸の中で湧き上がってきた。
「うぅ・・・ひっく・・・ひっく・・・。」
「・・・。」
【スッ】
「はいはい、気が済むまで泣きなさい。」
「・・・うぅ・・・うあああああああああああああああ!!」
リュウジさんの胸の中で・・・頭を撫でられながら・・・
ボクは・・・色々な物を洗い流すかのように
泣いた。
次で一応アルスの長編は終わりです。