第四十三の話 和解 その2
長編最終回です・・・。
〜龍二視点〜
ドアの向こうから話を聞いてみれば・・・スティルが切れるのもわかるな。
だが、一つ間違ってるとこがある。今のクルルじゃそれを説明できそうもないし、説明できたとしてもスティルは聞く耳持たないだろう。そこで俺登場だ。
「スティル、お前の家族と村の連中を殺したのは、多分クルルの手下のモンスター達で間違いはないだろうな・・・でもよ。」
「・・・?」
「そいつらはクルルの命令で襲ったんじゃねえ。」
「な・・・!」
「そいつらはな、クルルの配下であった魔族が解き放ったモンスターどもだ。つまり、犯人はそいつら。」
これは昨日クルルから聞いた話だ。嘘じゃないと思う・・・・・・理由は推して知れ。
「・・・。」
「まぁ結局そいつらはクルルの怒りを買って投獄されたらしいけどな。立派な反逆行為だったし。」
「・・・だ、だが!それは明らか魔王が自分の配下の行動を見落としたのが原因だろう!?原因は魔王にだって・・・!それにそのような行為をすること自体が魔王の望みなのではないのか!?」
「大間違い。」
「な!?」
確かに見落としたのは責任あるかもしんないが、一部大間違い通り越して超が付くくらい間違ってる。
「クルルはな、
表では魔王ぶってるが、裏では全種族の共存のための活動していたわけよ。」
「え・・・。」
これが昨日クルルから聞いた話だ。
「この話はな、一部の奴、ロウ兄弟とかその他の部下にしか知られてない、クルルにとっては超重要な話だったんだとよ。荒れ果てた大地を目立たないように密かに植林したり、戦争とかで難民になった種族とかに炊き出しとかしたり。自分から進んで参加して、少しずつでも共存のための道を歩んでいきたかったんだと。」
それを目指すには、自分が一番偉くならないとダメだ、つーことに気付いたクルルは、周りから強制させられていた魔王という地位に自分から飛びついた。それが昨日クルルが言っていた魔王という地位が必要だったっていう本当の意味だ。
だがまぁ、当然問題もあるわけで・・・。
「当然、そんなことを他の魔族の連中が許すはずもない。そのことが一部の連中にバレちまって、瞬く間に噂は広がっていき、挙句クルルに反発する奴らが後を絶たなかった。で、一部のクルルの配下の奴らが反乱を起こし、モンスターを使ってスティルの村とかを襲っていったってわけだ。クルルの思惑とは裏腹の行為をしていくことで、魔族以外の種族に反感を買わせるという意味で。」
「・・・。」
ついでに聞いたんだが、クルルの夢は『全種族が憎しみ合うような世界じゃなくて、皆が笑い合えるような、偏見も差別も戦争も無い世界を作っていきたい』とのこと。
今までの魔王とかは絶対に思いつかないだろう理想。
当然、ハードルは果てしなく高いだろうな。
「まぁ、これを聞いてお前さんが納得するとは思わねえ。嘘とも取れる。それに家族を失った気持ちはわからなくもない。俺の親戚にそういうのが一人いるからな。だから今回の話で俺はクルルをこれっきり庇うつもりはない。
でもな、クルルは、他人を辛い目に合わせるような事をするのが大嫌いな奴だってことだけは信じて欲しい。」
「・・・・・・・。」
「クルル。」
「ひぐ・・・グスッ・・・。」
背中を撫でながら、クルルの顔を上げる。涙で顔がひどい有様だったから、持っていたハンカチで拭いてやる。
「・・・後はお前の仕事だ・・・いいな?」
「グスッ・・・うん・・・。」
泣きじゃくる子供をあやすように言うと小さく返事した。そんなクルルの頭を撫でてやった。
「・・・じゃ俺は退却すっかな。」
すっと立ち上がってリビングを出る・・・。
「あ、そうそう。」
危うく言い忘れるとこだった。
「お前もあんま仮面を被るなよ?素が一番だ。」
「・・・・・・・・。」
スティルに言いたいことを言って、今度こそ俺は退出した。
〜リビングの外の廊下にて〜
「ただいま〜。」
「あ、龍二・・・どうだった?」
「まだ話し合い中。」
「そうか・・・。」
皆がいる場所まで戻ってくると、久美が声をかけたんで普通に返した。
にしても、皆も皆で空気が重い・・・全員さっきの話を聞いてたからな〜。
そりゃ空気も重くなるか・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』
うん、マジで重い。10トンある岩の上にデブ百人乗ったくらい重い。例えがわからん自分でも。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』
「・・・・・・・・・・重い。」
『?』
あ、声出ちまった。
「重いぞお前ら。少し軽くしろ。つーか痩せろ特に最近体重増えた香苗。」
「・・・!?な、何で知ってんの!?」
「俺の情報網をなめるな。」
何故俺がこんなしょーもないこと知ってるのかは神(作者)のみぞ知る。
「まぁそんなこたぁどうだっていい。」
(私的にはどうでもよくない・・・。)
「何か言ったか?」
「い、いいえ!」
香苗が小声で呟いた気がするが無視無視。
「リュウジさん・・・魔王大丈夫なんでしょうか?」
「・・・。」
こいつも心配症だな・・・全く。
【クシャ】
不安そうな顔をしたアルスの頭を軽く撫でてやる。
「心配ご無用。今のあいつなら大丈夫だろう。スティルだってわかってくれらぁ。」
根拠は無いが、あいつはそこまで堅物じゃないと俺は思うし。
「・・・・・・・・・。」
まぁ、さっきのは俺が軽く手助けしてやっただけだが、後の話は全部あいつが解決しなけりゃなんねえ。俺らが一々出てくりゃ意味が無いからな。
〜一時間後〜
【チク・タク・チク・タク・・・・・】
『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
・・・大分時間経ったな・・・さっきから時計の針の音が喧しくてしょうがねえ。
「・・・・・・・・・・・ねみぃ。」
うん、ぶっちゃけ眠い。時計の針やかましいとか思ったけど、それがだんだんと子守唄になっていき、しだいに俺の意識を異次元に飛ばそうと睡魔が意識を鷲づかみにしてそれに対抗しようと必死に踏ん張りつつ睡魔という悪魔に打ち勝つために聖剣“理性”を振りかざしそのまま切っ先を俺は何を考えてるんだしっかりしろ。
【ガチャ】
『!!』
おぉ、終わったらしい。
「「・・・・・・・・。」」
「クルル・・・どうだった?」
「スティル?」
「「魔王様・・・。」」
「・・・。」
アルス達が声をかけるが、二人は無表情のまま・・・。
「・・・。」
スティルが一瞬、クルルの顔をチラリと見た後に、廊下の向こうへと歩いていった。
「スティル・・・。」
雅が声をかけるが・・・止まらずそのまま階段へ。
「ダメ・・・だったの?」
「・・・。」
首を軽く横に振ったクルル。
「え、じゃあ・・・?」
「・・・。」
・・・。
「・・・あ〜、この話はまた落ち着いてからってことにしねえか?疲れたろ?」
今聞かなくてもまた聞けばいい。
「そうだな・・・今はそっとしといてやるべきだろう。」
「・・・今日はスティルがすまなかったな。」
「いや、スティルもクルルも悪くねえさ。」
悪いのはスティルの村を襲い、クルルを悪役に仕立て上げた苦痛を味合わせるべき連中だからな。もし会えたら生き地獄より残酷な目に合わしたる・・・あ、今は関係ねぇか。
「じゃあ、今日のところは。」
「ああ、また連絡するよ。」
「帰り道気をつけてね。」
「お邪魔しました。」
「スティルのことよろしく。」
「よろしく・・・。」
雅と涼子さんに見送られながら家を出る。
「・・・じゃあ、私達は。」
「ああ、とりあえずまた今度連絡する。」
「・・・それじゃまた明日。」
「バイバイ・・・。」
「「魔王様、お元気で。」」
「・・・・・・・・うん。」
別方向の道へと歩いていった香苗達に対し、俺らも自分達の家へと帰ることにした。すでに太陽も真っ赤に染まっている。
帰り道を歩いている間、ずっと沈黙が続いていた・・・。
〜深夜〜
「・・・。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・眠れん。」
クソ、あん時はうつらうつらしてたのに・・・目が冴えちまってる。おまけに微妙にさみぃ。
「・・・はぁ〜・・・。」
今回のこと、ちょっと俺出しゃばり過ぎたかな〜っと珍しく後悔中。
クルルも自分の気持ち、言えたかどうか・・・あ〜気になる・・・。
・・・。
「ま、知るのはクルルとスティルのみ、ってか・・・。」
何でもかんでも首を突っ込みたくなる癖、直さねぇとな・・・本人達のためにならん。
「・・・。」
とりあえず眠れんのには変わりないし、ホットミルクでも作って体あっためっかな。
つーわけで、一階のキッチンへとGO。
「・・・?」
ふと台所へ入る前、視界に影が移った。
?泥棒か?・・・まぁどうでもいいけどな。
チラッと台所から顔を出してみれば・・・
「・・・クルル?」
庭へと出る戸を開け放し、縁側にクルルがパジャマ姿で座っていた。微妙に寒いなぁと思ったのはこれか。
にしてもこんな時間に・・・。
とりあえず考えてもしょうがないっつーわけで、クルルに近づく俺。
「よう。」
「・・・あ、リュウくん・・・。」
隣に立った俺を見上げるクルル。
「眠れねえのか?」
「うん・・・リュウくんも?」
「おうよ。」
どっこらせっと・・・そんな言葉が出る感じに、隣に座る俺。
「・・・。」
「・・・。」
・・・・・・これ昨日の昼間と同じ展開じゃね?
あ〜今日は満月か〜・・・キレイだな〜・・・。
「・・・リュウくん。」
「ん?」
かる〜く意識飛ばしてた俺だが、クルルが声をかけてきて帰還。
「・・・あのね・・・私、今日スティルと色々話したんだけど。」
「うんうん。」
「・・・・・・・・・やっぱりまだ許せないって。」
「・・・・・・・そうか。」
「うん・・・。」
・・・何か後味ワリィな・・・。
「・・・あ、でもね。」
「?」
「まだ許せないけど・・・もしかしたら、いつか許せる日が来るかもしれないって・・・。」
「ほぉ。」
「・・・これって・・・私の気持ち、伝わったってことでいいのかな・・・?」
・・・。
「・・・お前の気持ちってどんなんだ?言ってみ。」
「うん・・・。」
少し一拍置いた。
「・・・謝ったって村の人達が戻ってこないのは自覚してる。そうなったのは私のせいだから・・・でも、少しでも許される可能性があるなら・・・私は、罪を一生かけて償ってでも、許されるその日まで耐え続けていく・・・・・・だから、今は憎んでくれていい。でも、いつか私のこと、許してくれますか・・・って。」
・・・。
「・・・我ながら自分勝手だよね・・・私が罪を償ったって死んだ人が帰ってくるはずないのにね・・・。」
「・・・。」
・・・まったく・・・。
【ポン】
「リュウくん・・・?」
俺はクルルの頭に手を置いた。
「お前、許して欲しかったんだろ?今すぐじゃないけど、許される日が来るかもしんねえなら、許さないって言われるより遥かにマシだ・・・それはそれでお前の気持ちが伝わったってことでいいじゃねえか。」
「・・・うん。」
「それに死んだ人間はどうやったって生き返らねえよ。もうそれは仕方ないことだ。これからは、スティルに伝えた気持ち通りに行動していけばいいさ。」
「・・・。」
「・・・それにお前はよく頑張った。えらかったぞ。」
頭に手を乗せたままワシワシと金髪を撫で回した。少しだが、照れくさそうに笑った。
「・・・それとね、リュウくん。」
「ん?」
「あの時・・・来てくれてありがとう。」
「?・・・・・・あぁ、あの時な。」
首突っ込んでしまったあれか。
「・・・あれな、本当はお前が言うべき言葉だったんだぜ?あのままだと結局お前とスティルはわだかまりが解けないまま終わってただろうしな。」
「・・・うん・・・。」
「まぁ今回はしゃあなしとして・・・次は頑張れよ?あ、後な。」
「?」
「お前一人で何でもかんでも抱えようとするなよ?悩みがあるなら俺らに相談しろ。」
ホントにこいつは・・・悩みがあれば自分の胸の中にしまって周囲に迷惑をかけまいとする・・・一人で全部解決しようとするタイプだな。
「・・・う、うん・・・。」
?月明かりでよく見えないが・・・微妙に顔赤くねえか?
「お前顔赤いぞ。熱っぽいのか?」
「ち、違うよ!」
「あ、そうかい。」
熱じゃないならいい。
「・・・鈍感。」←超小声
「あ?」
「・・・何でもない。」
わっけわかんねえ奴。
「・・・私、今回のことで思ったんだけど・・・。」
「?」
「・・・ホントに私、魔王でいいのかな・・・魔王じゃなくても、もっと他に別の道があったんじゃないかなって・・・。」
「・・・。」
「あ、ごめん・・・リュウくんに言ってもしょうがないよね・・・。」
「・・・まぁな。」
「・・・。」
「・・・でもなクルル。」
「え?」
「俺前にも言ったよな?お前は、お前が目指す魔王になればいいって。」
「・・・うん。」
「ならその通りやってみろ。周りの連中が作り出した腐った常識なんざお前がぶっ壊していけ。
それがお前が選んだ道なら信じてみろ。お前はお前だ。」
「・・・・・・・・・うん!」
クルルが話していた夢・・・
『全種族が憎しみ合うような世界じゃなくて、皆が笑い合えるような、偏見も差別も戦争も無い世界を作っていきたい』
・・・ホントにハードルは高い。魔王になったとしても、実現するには相当な努力がいるだろうな。
だが実現不可能じゃない、むしろ実現できると思う。
理想はどんだけでかくてもいい。実現するには、何事も理想は必要不可欠だからな・・・。
なら、俺はその理想実現の手伝いでもしてやっかな・・・あくまで手伝いだけど。
「・・・で?まだ眠くないのか?」
「・・・うん。」
「まぁかく言う俺もだけど。」
「・・・。」
【ギュ】
「?どした?」
「・・・リュウくん、あったかい。」
何か腕にもたれかかってきたが・・・ま、苦じゃねえし、いいか。
「今晩は冷えるな〜。」
「うん・・・えへへ♪」
いつものイタズラっ子の如く笑うクルルを見て、俺はどこかで安心していた・・・。
うん、月がマジできれいだ・・・こんな夜もたまにはいい。
長編、終わりました。
・・・納得できないと思われる方もいらっしゃると思います。それは謝ります、ごめんなさい。
ただ、和解まであと少しといった感じでしょう。その後のクルルに対するスティルの反応はまたオイオイ考えていきます。でも今回のような反応じゃないことは確かです。それだけでも大きな進歩といえます。
一つ言えるのは、クルルはきっと報われるということ・・・ですからどうか、彼女を暖かく見守ってやってください。
長編を読んでくださった皆様、ありがとうございました!これからも勇者以上魔王以上、よろしくお願いします!!