第百七十六の話 ゲームしようぜ! お前コントローラーな!
みなさんお久しぶりです、コロコロです。長らく更新せず申し訳ございません。弁明はあとがきでしま………っ!!!!!!!
~龍二視点~
「いやぁ久しぶりな気分だ」
「へ? 何がですか?」
「あぁいや、気ニシナーイだ」
やぁみんな、元気にしてたかな? 元気だったら今すぐ鼻からカビ生えろ。
まぁ、あれだ。なんか気分的にすっげぇ長らく放置されてた感がするんだわ。だから第一声が久しぶりな気分ってわけ。こんな気分にさせた野郎は、今頃学校の裏山で土に還ってるんじゃないかな。はっはっは。
「さて、今日も元気に一日を過ごすずぉーっと」
「賛成ー!」
「…何故だろう、ろくなことが起きる気しかしない…」
「今さらなーに言ってんの。大人しく流れに身を任せなさいよ」
家のリビングで体を伸ばして全身の筋肉をほぐす俺の隣で、俺の真似をするクルルと不安そうにぶつくさ文句たれとるアルス、そしてそんなアルスに諭すフィフィ。後でその理由を問い詰めてやる。拳で。
「それではせっかくの休日なので、みんなでゲームをするぞ」
「やったーゲームゲーム!」
一番乗り気なクルルははしゃいだ。とゆーかなんかいつもよりテンション高い気がする。あれか。最近全然はっちゃけてなかったからか。そうなんか。
「ゲームって何するんですか? ボードゲーム?」
「うんにゃ、テレビゲーム。もっとも多人数プレイできるソフト持ってねぇから、交代制でやっていこうと思う」
「なんで買わないのよ?」
「特に理由はねぇ」
欲しいゲームがたまたま一人プレイしかできないのばっかだったから。それ以上はない。
「じゃゲーム出すからテレビの前片づけといてくれ。特に馬鹿。菓子の袋とか片づけろ」
「私の名前でルビ振らないで~!」
クルル達にゲームができる環境にするよう片づけを命じて、俺はテレビの裏に置いてあるゲーム機の入った箱を取り出す。
このゲーム機は最新型のPS3。正式名称Potato Station3(ポテトステーション3)、略してポテステ3。鮮明なグラフィックにクリアな音、さらにゲームだけでなくネットの動画や写真も見ることができる上、なんとゲーム機本体からほんのりジャガイモ臭がするという、何ともハイテクノロジーなゲーム機なのだ。
「いやジャガイモの臭いがするゲーム機ってなんですか!? おかしいでしょこれ!?」
「そーゆー機能なんだよ。因みに設定でフライドポテトの香り、じゃがバターの香り、肉じゃがの香り、ジャーマンポテトの香り他、いろんな香りが楽しめるらしいぞ」
「これみよがしにジャガイモ押し!?」
どうも開発した人物は実家が農家らしく、特にジャガイモが大好物だったらしい。んでそれをゲームに活かせれないかどうか考えた結果がこのゲーム機。という情報。
いらんとこに全力を尽くすとは、まさに愛すべき馬鹿である。逆に尊敬するわ。
「よしっと。準備完了」
数分して、ゲームのセッティングが完了した俺は後ろへ下がる。ゲーム環境が整ったテレビ周辺の前には、いくつかのアダプタケーブルによってテレビと接続された黒く光るPS3が鎮座している。あとついでにそこはかとなくジャガイモの香りがした。
俺を挟んで右隣にアルス、左隣にクルルという形でテレビの前に座り、スタンバイOKな状態である。
「じゃ、電源押すぞー」
ポチっとPS3の電源ボタンを押す。するとゲーム機から起動音が聞こえ始めた。
「…本当にジャガイモの臭いがします…」
ついでに排熱フィンからはジャガイモ特有の土臭い香り。一瞬でリビングはジャガイモの香りに包まれた。
別に苦じゃない臭いではあるが………う~ん、この臭いじゃ華がないな。臭いだけに。
自分で言ってなんだが、全然うまくねぇ。なんだよ華って。鼻か。鼻とかけてんのか。わかりにくいわこのバカタレが。
さて、気を取り直して。
「んじゃ何する? 1P専用しかないから交代制でいくしかないが」
俺の横には、部屋から持ってきた大量のPS3専用ゲームソフトがパッケージに入った状態で山積みされている。どれもこれも俺が選別したから間違いは………あるな。うん。クソゲーがいくつか。興味本位で買って後悔したもんが。ちくせう。
「じゃあねー、これがいい!」
「あ、ちょっと魔王! 先決めないでよ!」
アルスがゲームの山から探そうとした時にはすでにクルルは興味を持ったゲームソフトを手に取っていた。迂闊だったなアルス。言ってなかったが早い者勝ちだ。
「どれ」
クルルが高々と掲げたゲームソフトを手に取って見てみる。そこにはタイトルがポップ調で書かれてあった。
『スタコナポンチョの大冒険 ~人は何故支配をしようとするのか~』
あぁこれか。サブタイがなんか哲学っぽい奴。内容は勇者ヨシノブが魔王ヒロユキをしばき倒すために冒険を繰り広げるっつーありふれたRPGもんだっけか。
そんな内容を軽く説明すると、アルスがなんか渋い顔をした。
「…なんか、勇者としてすごく複雑です」
「気ニシナーイだヨシノブ」
「ボクはアルスです!!」
まぁアルスは放っておいて。
「これ、やってもいいけど確かラスボス一歩手前だったはずだぞ?」
「え、そうなの?」
「おう。まぁ正直このゲームくっそムズいんだわ」
そう、このゲームは鬼難しい。何が難しいって、戦闘コマンドのシステムが。
なんとこれ、戦闘で行動するのが全部ルーレット式なのだ。
たとえば、ふつうのRPGだと『たたかう』『まほう』『どうぐ』『にげる』が主流だ。このゲームもそれとほぼ同じで、『たたかう』『わざ』『アイテム』『逃走』っていうのが基本。
が、その基本的なコマンドを選択したければランダムで現れるコマンドの中から選んでいかなければならない。ウィンドゥの中をめまぐるしく変わっていくコマンドを、タイミングを見計らってボタンを押して初めてその行動が可能になる。
これだけならまだいい。問題はその内容。
コマンドを誤ると、重要な敵、あるいは逃げられないボス敵の時に『たたかう』を選ぶつもりが『逃走』になるのはまだいい…けど、中にはなんか『寝る』『おならをする』『飯を食う』『体操をする』『宿題をする』『宿題忘れた』『ごめん今日は無理』『メンチをきる』『トイレへ駆け込む』『田中テメェええええ!!』等々、戦闘と全く無関係な奴や意味不明なコマンドが出てくるんだよなこれ。特に『トイレ間に合わず』っていうのが出るともう悲惨。すぐ全滅する。これはきついねいろんな意味で。
まぁそんなわけだから、行動が思うようにいかない、最初の段階で詰む(先へ進めなくなること)、わけがわからない、といった評価が多いせいで、あんま売れなかったそうだ。遊び心が過ぎたね開発陣。まぁ中にはおもしろいと思える人も結構いるけどさ。
「…ってまぁそんなわけだ。俺の場合はほぼ勘でここまで来れたけどな」
「さすがリュウくん…勘で生きてる男」
「すごいんですけど、納得できない…」
うるせーテメェら洗濯バサミぶつけんぞ。
「で? どうする? いきなりラスボスやるか? それとも最初っからやってみっか?」
初心者だし、最初からやるとは思うがな。
「ううん、ラスボスからいくよー!」
「おお、マジかよ」
さすが魔王、あえてでかい壁に挑むか
「アルスが!」
「ってボクぅ!?」
と思ったけど別にそんなことはなかったぜ。
「なんで!? なんでボク!?」
「勇者だから!!」
「その一言で納得してしまう俺がいる。やれアルス。世界のために」
「がんばれーアルスー」
「え、孤立無援ですかこれ!?」
というかフィフィお前ものっそい棒読みやないかい。やる気ねぇだろ。
「い、嫌ですよ! そもそもボクゲームそんなに得意じゃないし!」
「えーいいじゃんかー。やってみようよーアルスー」
「女は度胸。なんでもやってみるのさ。きっと楽しいぜ?」
「いーやーでーす! というかこれ負けたら絶対みんなしてバカにするに決まってます!」
お前ネガティブすぎんだろアルス。
「………ったく、しゃぁねぇな。じゃあ俺がやるよ」
俺はそう言ってしぶしぶ手を挙げる。
「リュウくんがやるなら私やるー!」
対抗するかのようにクルルが挙手をする。そしてそこから始まる譲り合い。その間に挟まれるアルス。
「いやいいって。俺がやるよ」
「ダメ、私がやるの!」
「俺がやるって」
「私がやるの!」
「俺がやる」
「私がやる!」
「俺」
「私!」
「じ、じゃあボクが」
「「どうぞどうぞ」」
「ちょっとー!!」
とうとう耐え切れなくなったアルスがおずおずと手を挙げるて俺とクルルは手を差し出して譲った。アルスはその手を払った。見事なまでのトリオ漫才だった。ダ〇ョウ倶楽部万歳。
「うぅぅ………わかりましたよ、やってみます」
「その意気その意気。がんばんな。アドバイスもちゃんとしてやる」
仕方なしにやることになったアルスは、本当に渋々といった感じにコントローラーを握った。けどさすがに初心者にこのクソ難ゲーのラスボスはきついだろうからな。アドバイスくらいはしてやらんと投げ出しかねん。
「じゃあソフト入れるぞ」
「は、はい」
ゲーム機からトレイを伸ばし、その上にソフトを置いてから再びトレイをゲーム機の中に戻す。やがてゲーム機からディスクが回転する音がし、画面が切り替わる。
青い空に白い雲、中世ヨーロッパに出てくるような城を背景にタイトルロゴ『スタコナポンチョの冒険』が映し出された。
「…ところでこのスタコナポンチョってなんですか?」
「なんか主人公が飼ってるイグアナの名前らしい」
「じゃ主人公イグアナになりませんこれだと!? だいたい名前のセンスひどすぎますし!!」
「気ニシナーイ」
「気にしますよ!!」
俺だって知らんわ。ラスボス直前まで来たけどその理由一切触れてねぇもん。ここらへんも批評の一部なんか、それともラストで語られんのか。
「まぁいいから始めれ。『こんてぬ~』ってところから『セーブデータ1』のとこを押せばいけるから」
「………もうツッコみませんよボクは」
そーそー、流れに身を任せるのも大事よ。
さて、ロード画面から一転、和やかな雰囲気だったタイトルとは違って、場所はおどろおどろしい魔王城の内部。リアルな3Dグラフィックだから、その印象がよくわかる。
暗い部屋に、髑髏をあしらった照明。赤い絨毯。その先には無数の棘が縁に並べられたどでかい門。そしてその前に立つ主人公ヨシノブ。名前はあれだが見た目はツンツンした黒髪に鎧にマントという、ちゃんとした勇者の服装である。3Dによってその何者にも屈しない引き締まった顔がよく見える。
「け、結構それっぽいですね…」
「だろ?」
「でもなーんかあんま緊張しないわね」
「うん、そうだねー」
そらオメェら、初心者がいきなりラスボスだぞ? 実感もクソもねぇだろ。
「まぁとりあえず入ってみ。入るといきなりラスボスだから」
「は、はい!!」
なんでお前緊張しとんねん。まぁ人それぞれだとは思うけどよ。
ともかく、扉の前で決定ボタンを押して扉を開けさせる。すると画面は切り替わって、先ほどの部屋よりもさらに禍々しい雰囲気が漂う玉座の間へと移った。
奥まった部屋のさらに奥、獣の骨をくみ上げたかのような巨大な玉座の上に、黒いマントを羽織った、威圧感を放つ巨大な男が、主人公を見定めるかのように睨みつけていた。
【よく来たな勇者ヨシノブよ…待っていたぞ】
テレビ画面から聞こえる、野太い声。全編通してフルボイスなため、こうした演出もリアルに表現されている。
【魔王………ヒロユキ!!!】
魔王の圧倒的なオーラにも屈せず、主人公は魔王の名を呼んだ。
【ヨシノブよ…お前は我が手足でもある四天王、ヤマモト、タナカ、スズキ、そしてサトウをことごとく倒していった………その腕、実に見事だ…だが!】
ゆっくりとした動作で、魔王は立ち上がり、勇者をギロリとその赤く光る眼で睨みつけた。
【貴様といえど、この闇の力『アクダマコレステロール』を宿した我を倒すことは叶わぬ!! ここを貴様の墓場とした後、世界を全て『メタボリックシンドロームの悪夢』で包み込んでくれるわ!!!】
そこから発せられる黒いオーラ。主人公は手にした剣の切っ先を、魔王に向ける。
【させない!! 俺の中に宿る『ゼンダマコレステロール』の光、そしてこの聖剣『カロリー・オフ』が、お前の野望を全て断ち切る!! そして俺は、皆のもとへ帰るんだ!!】
「………なんでしょうか、この、妙な脱力感は…」
「言うな。現実にはこういうので結構苦しんでる人間が多いんだから」
「いやあの、そーゆー問題ではなくてですね…」
「ほら、戦闘だぞ戦闘。構えろ」
「あ、はい…」
テンション下がりながらもアルスは画面に向き直った。会話は終わり、戦闘画面に移る。主人公視点で、こっちを不敵な笑みで睨みつけながら威厳溢れる姿で立つ魔王が目の前にいる。そしてコマンドは画面の下に現れる。
「さて、戦闘はさっき言った通りだ。ランダムに出てくるコマンドを選んでいくんだ」
「は、はい!」
そしてコマンドが変わっていく………めっさ早く。
「ちょちょ、早い! 早すぎますよこれ!?」
「うん早いな。それがこのゲーム。つか序盤からこれ」
「序盤から!?」
瞬きすら許さない速度で変わるコマンド。それを見極めなければならないからつらい。
「う~………」
画面をじっと見つめ、最良のコマンドを探す。このゲームはターン制だから、じっくり見極めることができるのは救いだ。
見つけるのは『たたかう』か『わざ』、最悪『アイテム』。絶対に他のコマンドや『逃走』を選ぶことはできない。他のコマンドは役立たずばかりだからだ。
「………これだぁ!!」
ピッ! とアルスが決定ボタンを押した!!
『じゃんけん、ポン!』
「誰がじゃんけんなんてしますか!!」
「ゲームにまでツッコんでんじゃねえよ」
当然のごとく、失敗。主人公のターンが終わり、魔王のターンとなり、魔王の攻撃で主人公のHPが減った。さすがにラスボスなだけあって、通常攻撃でも大きく減る。
「こ、今度こそ当てます!」
「おう、がんばれ」
俺は横で応援。あくまでプレイヤーはアルス。俺は極力手は貸さない。アドバイスくらいはしてやるがな。
「よぉし…」
今度こそ失敗はしまいと、先ほどより画面をじっと見る。目まぐるしく変わるコマンド。一瞬だけ見える『たたかう』『わざ』の文字。さぁ、どこで止める?
「………ここぉ!!!」
再びアルスは決定ボタンを押す!!
『ジョニー! 会いたかったわ!』
『ボクもだよ、ハンナ!』
「違うところで再会してください!!」
「できればあの世でな」
「あんたが一番悪役じゃないの」
横からフィフィのツッコみも受けつつ、再び失敗。魔王の攻撃でさらにHPが減った。
「うぁぁぁぁぁ………いきなりピンチ」
「よくあることだ、このゲームだとな」
何にもできずにただ殴られ続ける、ていう展開が十分あり得る。それがこのゲームだ。
「く………もう一回、もう一回攻撃できれば!」
「ダメだと思うがなぁ…」
後二回くらいでやられるな、これだと。
「………………」
さっきよりもさらにじっと見つめる。その集中力は今までの比じゃない。ていうか他に回せよその集中力。
「………っ! そこだぁぁぁぁぁっ!!!」
「やかましいわ」
気合十分に決定ボタンを押した。
『トイレはどこですか?』
「三丁目の公園でしてきてくださぁぁぁぁぁぁい!!!!」
「律儀に答えんのな」
「アルスらしいよね」
で、結局魔王のターン。しかも魔王の『闇の輪廻』とかいう技が発動、主人公のHPが大幅に削られた。
「わ、わ、わ、わ、わ、死んじゃう、死んじゃいますよ!!」
「ああ、死ぬな」
「死んじゃうね」
「確実にね」
その場にいる全員がそう思った。なんつったって、もう主人公のHP1しかねぇし。対し、魔王無傷。回復魔法使わない限り、形成逆転は正直無理だろう。
「で、どうする? 諦めるか?」
「………」
コントローラー握りしめながら、俯くアルス。正直、こういう特殊なシステムのゲームを初心者がラスボスに挑むなんてのは無理があったんだな。才能あるならまだしも。
「…です」
「ん?」
アルスがなんか小さな声で言ったが、聞こえなかった。
「諦めるなんて………いやです!!」
が、今度ははっきりと諦めるのを拒否した。
「ボクは勇者です! これまでだって、絶対諦めなかった!! それなのに、ここまで来て諦めるなんて………そんなの、そんなの絶対にいやです!!!」
再び、ルーレットを回す。相も変わらず高速で変わる、コマンドの数々…数多もあるコマンドの中から、戦闘用のコマンドを当てるのは至難の業でしかない。
が、アルスのその目は、諦めてなかった。失敗の連続に、悔しさに、絶対に屈していない証に、その目はまだ光を失ってはいなかった。
その姿は、まさに勇者という存在を体現していた。
「………ここだ!!」
ピッという電子音が、テレビから聞こえる。そして止まったコマンドは…
『わざ』
「や、やった…!」
「おお」
思わず俺も感嘆の声が出た。『わざ』を当てるとは、まさに奇跡に近い。このコマンドは、時としてコマンドルーレットの中に含まれてないこともあるからだ。
「でも、このHPだとまずいんじゃ…」
クルルが不安げに言う。だが、実はそうでもないんだよなこれが。
アルスが奇跡的に選んだ『わざ』のコマンドを開き、そのメニューを見つめる。レベルアップやアイテムを使って得てきた数々の技。どれをとっても強力な物ばかりだ。
「…! これは…」
その中からアルスが目につけたもの…『Eブラスター』。
技の説明には、『エナジーブラスター。自身が受けたダメージを倍にして返す上、HPを全快にする』という、まさに最強のカウンター技だ。
MPも十分ある。使用しない手はないだろう。
「アルス…これを使え」
「は、はい!!」
力強くアルスは頷き、『Eブラスター』にカーソルを合わせる。
この技を選ぶことができたのは、アルスの力あってのこと。もちろん、運による部分も大きかっただろう。
だが何よりも、アルスの諦めないという心が、このコマンドを引き寄せた…そう、俺は思った。
「これで…終わりです」
そしてアルスは、決定ボタンに指を置き、
「ボクの…勇者の力だぁぁぁっ!!!」
押した!
【ミス。ダメージは与えられなかった】
【魔王の攻撃。341のダメージ。ヨシノブはたおれた…】
「『ボクの…勇者の力だぁぁぁっ!!!』だっておwwwwwww」
「『これで…終わりです』って終わってんのアルスじゃないの」
「アルスかっこわるーい」
「やぁぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇてぇぇぇぇぇぇぇっ!!! たった今作られたボクの黒歴史ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロとリビングを頭抱えたまま転がりまわるアルスに、俺達はプップーと笑う。
そういやそーだったわ。この技、確かものっそい命中率低かったんだったっけか。命中率も低いとか、どんだけ賭けが強ぇんだこのゲーム。
まぁ何はともあれ、結局GAMEOVERで終わったアルスのプレイは、現実でも見るも無残な姿になっちまった。ドンマイとしか言いようがない。
「いやぁしかしながら諦めない結果これだと悲惨ですねぇ。はっきり言ってあそこで諦めた方がリアルでのダメージは少なかったのにとは思いますがねぇ。どう思います解説のフィフィさん?」
「そうですねぇ、見ての通りあれはないですねー。まぁ負けん気が強すぎるというのもあれだということを切に教えてくれているとでも思えば彼女も救われるんじゃないですかねぇ? どうでしょうかゲストのクルルさん?」
「そーですねー、はっきり言ってアルスかっこ悪い」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ消してぇぇぇぇぇぇぇぇいっそ殺してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇボクのこの記憶を今すぐ殺してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
いまだ転がり続けるアルスに、俺ら三人は見事なまでのチームワークを発揮。もはやアルスの精神は王蟲の群れが通った後の如くズタボロだ。
「…さて、んじゃアルスも諦めない精神の結果があれだったし、別のするか」
「そうね、そうしましょ」
「さんせー」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
で、アルスの絶叫をBGMに、俺らは某人気マスコットキャラクター育成ゲーム『アカミといっしょ』PS3版をプレイした。終わった後、やけに静かだなぁと振り返ってみるとアルスは部屋の隅でうずくまって白くなっていた。さすがにかわいそうだったんでフォローしてやった。
教訓:ゲームでこっ恥ずかしいセリフを叫ぶのはやめましょう。死にます(精神的に)
『みなさん、お久しぶりです。コロコロです。このたび、私の小説の最新話に目を通していただき、ありがとうございます。
更新が遅れた理由は色々ありますが、一番の理由は…申し訳ありません、私の怠惰な性格が出ました。就活や仕事、盲腸(現在回復中)というのもありますが、それらを言い訳にはしたくないので。
今回書けたのは、気力です。熱中するとそのまままっすぐ、です。
返信も怠ってしまって、本当に申し訳ありませんでした。これからみなさんに返信を返していきます。できれば、もっと早く返していくようにしていきます。
では挨拶もそこそこに。私の書いた小説を読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。これからも少しずつででも書いていくようにはしますので、どうかよろしくお願いします。ではこれにて』
裏山で倒れている死体の指先で書かれた文章より
~オマケ エルの出番がなかった理由~
『…あいつ、私を忘れてるな…』
死体のケツに突き刺さったままポツリ。