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第百七十三の話 リベンジ

~ライター視点~



「リュウジ…!」

「リュウジさん! よかった、目覚めたんですね!」

「うおおおおおおん魔王ざm」

「遅い目覚めでしたね、リュウジ」


リリアン、スティル、カルマが、起き上がった龍二を見て歓喜する。約一名は離れたところで戦っているクルルを見て叫んだ瞬間カルマの裏拳によって撃沈した。


「あぁ、わりぃわりぃ。心配かけた」

「全然悪びれてませんね………まぁ、いつも通りですけど」


頭を掻きながら上体を起こした龍二を見て、スティルは呆れたような、けれど嬉しそうに言う。リリアンは心底ホッとしたように、胸をなでおろしていた。


「…心配させないで…」

「わぁるかったっての。次は気ぃ付ける」


リリアンに言われつつ、龍二は腕を振って身体の調子を整えた。そして立ち上がり、顔をある方へと向ける。


そこでは、アルスとクルルが満身創痍の状態になりつつも、虎次に果敢に挑んでいた。辺りはすでに更地も同然。ビルは完全倒壊して瓦礫となり、アスファルトもそこら中クレーターだらけ。かつての渋谷の面影は完全に消えていた。


改めて龍二は思う。これ終わった後どうすんだろ、と。今はどうでもいいが。


「…カルマ、ちょいといいか」

「はい?」


視線はアルス達へ向けながら、龍二はカルマに問う。


「戦ってた時気になってたんだが、あいつのあの力…どう思うよ?」

「どう思うって………」


カルマは龍二の視線の先にいる、虎次を見つめる。アルスに重い斬撃を食らわせ、クルルに巨大な氷をぶつける虎次。それら一つ一つの攻撃を穴が空くほど睨みつけるカルマは、一つの確信を得た。


「…恐らく、リュウジが思っている通りです」

「やっぱか………そんな予感はしていたがな」


呆れからなのか、ショックからなのか、龍二はため息をつく。大方、予感はしていたのかもしれないが、いざわかるとなるとやはりきついものがあるのかもしれない。




「あの男も、禁術によって力を得ています」




水と氷を操る能力。人間離れした力。禍々しい魔力が漏れ出ている大剣。そこから感じる力は、以前のアルスの弟、アランから感じた力そのものだった。


「き、禁術!? 何故それがまた…!」

「そこまではわからない………ただ、以前とはまた違う点が二つある」


驚愕するスティルに、表情こそ変わらないもののビクリと身体を震わせた、禁術による被害を受けた経験があるリリアン。カルマは、苦々しげに呻きながら続ける。


「一つは、アランの時とは違って力が桁違いなところ。氷の力を操るその異常な力が、ここまでの破壊力を持っているんだ…」

「…もう一つは」


龍二が先を促す。


「もう一つは………禁術が施されている場所。




彼の場合、心に施されている」




「心…? 心臓のこと?」


リリアンが怪訝な顔をする。カルマは首を振り、リリアンの言葉を否定した。


「物理的な話じゃないんだ。ここでいう心は、内側…そう、彼の魂にある」

「つまりは。象徴的なもんか…なるほど、そら厄介なはずだ」


あまり大して驚かない龍二だったが、リリアンとスティルは違った。


「じゃあ、彼は…」

「…仮に倒したとしても、復活するだろうね…物理では魂までは消滅できないから」

「…不死身…」


絶望的なカルマの結論に、スティルとリリアンは呆然とする。不死身の人間を、いくら攻撃したところで無意味なのだから。



だが、龍二はうろたえない。寧ろ、



「なるほど、そりゃいい」



都合がいいと言わんばかりの態度だった。



『再び私の出番、というわけか』

「大活躍だな、エル…次も頼むぞ」

『承知』


エルを拾い上げ、ヒュッと一振るい。そして肩に担ぎ、龍二は不敵に笑う。


「え…策があるんですか!?」

「まぁな…聞くか?」


頷く三人。一人ケルマは気絶。龍二は三人に耳打ちし、自らの策を教えた。

それに先に反応したのは、カルマ。


「そんなことできるんですか!?」

『ああ。最も、私とリュウジだからこそできる芸当だ。それに、こうでもしなければ奴は倒せんだろう』


自身満々なエルだが、龍二は何も言わない。真正面を向き、虎次を見つめていた。


「…けど、仮に成功したとして………もし万が一のことがあったら…」


リリアンが不安を口にする。確かに龍二とエルの策以外に方法は見つからないし、龍二が一度決めたらそれを貫き通そうとするだろう。止めることはできない。しかし、それが失敗すれば龍二は………。


「ま、リスクは高いけどな。でも言わせてもらうわ」


振り返り、龍二はニヤリと笑う。そして余裕の表情で言い放った。




「自分から死のうとか考えねぇ限り、俺も不死身なんだよ」










「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「やああああああああああ!!!!」


アルスとクルルの体に巻きついたゴツイ鎖。鎖の一つ一つが、二人の柔肌に食い込み、縛り付ける。

骨がミシミシと音をたて、体中に激痛が走る。二人は思わず叫んだ。


「いやぁ全く、予想以上に苦戦したわぁ。お前ら見た目の割にめっちゃ強いな。最初のうちは思わず加減してもうたで」


二人を縛り上げる鎖の先で、虎次はヘラヘラ笑いながら腕を引く。そうすることで、鎖はさらにきつくなり、アルスとクルルの肉体にダメージを与えていく。

ふと、笑っていた虎次から表情が消えた。


「………けど、ここまでや。悪いけど二人仲良う、凍死してもらうで」


無感情に言うと、虎次の体が白く発光し始めると、虎次の体から冷気が白い蒸気となって溢れ始め、足元が凍り付いていく。冷気はピンと張られた鎖を辿り、アルス達へと迫っていった。


「く…この、この…!」

「んにぎぃぃぃぃぃぃぃぃっ…!」


迫り来る死に、二人は必死に鎖を解こうとするが、キツク縛られた鎖は一向に解ける気配がない。そうこうしてるうちに、冷気がすぐそこまで迫っていた。


(こんな、ところで…死ぬ、わけには…!)

(けど………解けないぃぃっ…!!)


冷気から逃れようともがくも、どうすることもできない。やがて冷気が、二人の体に触れる距離まできた。


(リュウジさん…!)

(リュウ、くん!)


触れた瞬間、二人の体は凍りつき、砕け散る。そんな予感に襲われ、二人はギュッと目を閉じた。




「久々のぉぉぉぉっ!! 龍閃弾んんんんん!!!」

【ボゴォッ!!!】




「ガァッ!!??」


突如響き渡る爆音のような打撃音。虎次は突然の横からの衝撃を頬に受け、耐え切れず吹っ飛ばされる。同時に二人を縛っていた鎖が緩み、冷気による侵攻も止まった。


突然鎖が解けたことで、何がなんだかわからず二人はしばし唖然とする。だが、目の前に立つ人物を見て、体の痛みが吹き飛んでいった。


「リュウジさん!」

「リュウくん!」


パンパンと手の埃を払うかのような仕草をしながら一息つく龍二に、二人は顔を輝かせる。


駆け寄りたい。駆け寄って抱きつきたい。けれどもボロボロの体が言うことを聞かず、それすら叶わない。


そんな二人の心境を把握したのかどうかわからないが、龍二の方から歩み寄っていく。そして、二人の頭にポンと手を乗せた。


「わりぃ、目覚ましかけとくの忘れてたわ」


呆気らかんと、悪びれた様子もなく軽口を叩く龍二。だが、二人にとって龍二という存在は、どのような事態であっても今のような余裕の態度を崩さない、そんな人間であることがわかっていた。



だから、嬉しかった。目覚めたこと、元の龍二に戻ったことが。



「り、リュウジ、さん…」

「ふぇ…」


言いたいことは色々ある。したいこともたくさんある。けれども、嬉しさと安堵があふれ出て、何を言えばいいのかわからなくなり、出てくるのは涙と嗚咽。


だが、龍二は微笑から一転し、引き締まった表情へと変えて振り返った。


「とりあえず聞きたいことやらたくさんあるだろうが、それは後にしようや」



【ドォンッ!!】



龍二の視線の先では、先ほど吹き飛ばした虎次が、瓦礫の山を吹き飛ばして立ち上がろうとしていた。


「った~、不意打ちとかマジ勘弁して欲しいんやけどなぁ」

「ほざけタコナスビが。さんざんボコボコにしやがったくせに、おあいこじゃ」

「なはは、仕返しってか? 今の一発、やけに重かったしなぁ」


殴られた頬を擦りながら、ケラケラ笑う虎次に、龍二はフンと鼻を鳴らす。そして、すぐ傍に突き刺さっている龍刃に手をかけ、引き抜いて構える。

龍刃とエル。二振りの剣を横へ振り払うと、夕日の光が刃によって反射され、煌いた。


「リターンマッチだ。今度こそテメェをぶっ飛ばす」

「…ようやっと元のお前に戻ったか…それでこそや、龍二」


ズン、と大剣を振り下ろし、アスファルトに刃を突き刺す虎次。そして、子どものような笑顔が徐々に変化していく。



狂ったような、異常な笑顔へと。



「それでこそ俺の親友やでぇ、龍二ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」



溢れ返ってくる魔力。異常なまでの力。虎次を中心に、刺すような冷たい突風が周囲を襲う。風に煽られ、髪と服、ヘッドフォンが揺れるも、龍二は真っ直ぐと虎次を見据える。アルスとクルルは、突然の冷風に体が震え、手で顔を覆った。


「…おい、お前ら聞け」

「「?」」


虎次に顔を向けつつ、龍二は背後にいる二人に声をかけた。


「ボロボロなお前らに頼んで悪いとは思ってる。だが、も少しだけ付き合ってくんねぇか?」


いつもと変わらない、龍二の口調。だが、そこから伝わってくる龍二の真剣さを、二人は感じ取った。


「はい!」

「うん!」

「………ありがとよ。恩に着る」


力を溜め続けている虎次の攻撃を警戒しつつ、龍二は二刀を構えた。


「今から俺があいつを引き付ける。その間、お前らはあいつを拘束する魔法か何かを使ってあいつの動きを封じてくれ………その後は俺がどうにかする」

「どうにかって…どうするんですか?」

「詳細は省く。色々とややこしいからな………できるか?」


ここで振り返り、龍二は二人を見る。が、返事を待たずに、再び前を向いた。


「…聞くまでもなかったか」


そう言う龍二の後ろで、二人はそれぞれの得物…アルスは聖剣、クルルは暗黒剣を構え、龍二と同様の不屈の念で、虎次を見据えていた。


「…こいつは、俺の問題だ………付き合わせたことに関しては、後で謝る。だから、今は………」




「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」




「ぶっ飛ばすぞ!!」

「はい!!」

「うん!!」

『行くぞ!!』


およそ人間とは思えない雄叫びを上げる虎次に向かって、龍二が真正面から突っ込んでいく。そしてアルスが右側へ、クルルが左側へと回り込むよう、走り出した。


「うおおおおっ!!」


音速を超える速さで、龍二はエルを突き出す。真っ直ぐ虎次の鳩尾を狙ったその一撃は、大剣の腹で受け流された。


「っらぁぁぁっ!!」


体勢を崩した龍二に、虎次は大剣を横薙ぎに振るう。龍二は身を捻り、龍刃でその斬撃をいなす。


「ほ、よっ!」


エルを持った手で地面を着き、それをバネにして再び跳ねて一回転。アクロバティックな動きで、虎次から距離を離した。


「いけっ!」


着地と同時に龍刃を振るい、巨大な斬撃を真空波として飛ばす。剣を持った龍二の基礎的な技、『龍閃斬』は、虎次にぶつかり、爆発を起こす。


「舐めんなやっ!!」


爆発によるダメージをものともせず、砂塵を吹き飛ばした虎次は大剣を投げつける。腕に巻かれた鎖によって繋がった大剣は真っ直ぐ、龍二を狙う。


「テメェこそっ!!」


その場で飛び上がり、体を横回転させる龍二。飛び上がった龍二の体の下を大剣が通り過ぎるが、虎次は腕を引いて大剣を引き戻して追撃を狙う。


が、鎖の隙間に差し込まれたエルの刃によって阻止された。


「何!?」


エルがストッパーとなり、大剣の動きが止まる。エルと鎖から火花が飛び、凄まじい衝撃が龍二の左手から伝わるが、そんなもの全く意に介さない。エルを支柱とし、片手で逆立ちをした龍二は、器用に手首を回して体を回転させる。


「しゃらぁっ!!」


回転と同時に繰り出される鋭い回し蹴り。先ほどの『龍閃斬』と同じような軌跡を描きながら、蹴りの衝撃波が虎次に命中した。


「ぐっ…!」


先ほどの『龍閃斬』と違うのは、爆発しなかったこと。そして、虎次自身は、大剣を固定されてしまったことによって、防御の術も回避する術も無かったこと。

蹴りの衝撃が虎次の顔面を遅い、歯が抜けて血が飛び散る。が、龍二は攻撃の手を緩めようとしない。


「フンっ!」


逆立ちをやめて地面に降りた龍二は、エルを抜いてから龍刃とエルを宙高く放り投げ、大剣の鎖を握って思い切り手前に引き寄せる。蹴りの衝撃によって力を入れられなかった虎次は、呆気なく龍二の力に負けてすっ飛んだ。


こちら目掛けて顔面から飛んできた虎次に、龍二は空いた右拳を思い切り振るう。


「どりゃぁっ!!」

【ズンッ!】

「ブッ…!」


回転を加えた『龍閃弾』が、虎次の顔面を捉える。鈍い音と共に鼻が潰れた感触がし、虎次の顔面が歪む。虎次が突っ込んでくる勢いと龍二の突き出された拳。慣性の法則によって、虎次は並々ならぬダメージを負う。

だが吹き飛ばされない。虎次の右腕に繋がる鎖を、龍二がしっかり握って固定しているためだ。吹き飛ばされそうになる虎次の体を再び引き寄せ、龍二はもう一度拳を見舞う。


「せぇいっ!!」

【ゴズッ】

「ガッ…!」


二度目の拳。だがまだまだ終わらない。今度は鎖を地面に落として足で踏んづけて固定し、虎次を跪かせて顔の位置を下げる。顔面によるダメージによって脳が揺さぶられ、反抗するのもままならない虎次に、龍二は両拳の骨を鳴らす。


「うおりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあああああああああああああああ!!!!!」


【ゴスバキゴシャドゴベキゴキグシャボギャ―――――!】


そして始まる、両手から繰り出される拳、拳、拳の嵐。それらは全て、虎次の顔面へと次々と叩き込まれていく。呻く間もない虎次は、成すすべなく拳の乱舞を甘んじて受け続けるしかなかった。


「トドメにぃぃぃぃっ…!」


拳の嵐を止め、蒼い氣を纏わせた両拳を重ね、頭上へ振り上げる。そしてフラフラになっている虎次の脳天にそれを、


「沈めオラァッッ!!!」


思い切り振り下ろす!



【ドォォォォンッ!!!!】



爆音。そう形容するに相応しい音が、空間に響き、地面を、空気を揺らす。頭から叩き込まれた虎次は顔面から地面に突っ込み、アスファルトを陥没させた。


「そんでもってぇぇぇぇぇっ!!」


だがまだ終わっていない。龍二は大剣の鎖を両手で引っつかみ、身を捻りながら腕の筋肉を膨らませた。


「飛べぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


【ズゥゥゥゥンッ!!】


ハンマー投げの要領で、地面から引っこ抜かれた虎次は鎖と大剣ごと宙へと投げ飛ばされる。体を円盤のように回転させながら、虎次は崩壊したビルの三階の窓へと突っ込んでいった。


直後に龍二は手を頭上で交差させると、宙へ舞い上がっていた龍刃とエルがまるでタイミングを見計らったかのように落ちてきて、それぞれの手で二本をキャッチした。


「空の旅はどうだったよ、エル?」

『…あまり気分がいいものではないな。出来ればもうしないでくれ』

「ま、考えとくべ」


二刀を下ろし、虎次が突っ込んでいった建物を見る龍二。常人なら、すでに肉塊になってもおかしくない程力を入れた乱舞攻撃であったが、相手は禁術持ち。あれでやられるとは思わない。


そして案の定、


「ぐ………いでぇ………こらホンマにいでぇ………」


ガララッと瓦礫を押しのけつつ、虎次がビルから姿を現す。体中、というよりも、顔面が血でえらいことになっているが、本人は大したダメージにはなっていない様子だった。


「…立てないくらいには力入れてたんだがなぁ。やっぱそうもいかねぇか」


わかりきっていた龍二は、肩を竦めた。

ビルから飛び降り、龍二から離れた位置に着地し、再び対峙する虎次。鎖はすでに戻しており、大剣も手に持っている。


「…マジで痛かったやんけ。歯ぁ飛んでってもうたわ」

「さっきの“お返し”だ」


さっきの、というのは、鎖に縛られてビルの中へと突っ込まされた時の話。それに比べると龍二の“お返し”はそれを超越するかのような物であったが。


「………お返し、な………そんなら………」


大剣を半回転させ、逆手に持ち替えた虎次は、体を前へ折り曲げた。


そして、




「こっちもお返しじゃああああああああ!!!」



勢いよく体を仰け反らせると同時に、魔力を爆発させたかのように解放した。禍々しい力が、周囲を圧倒する。


『リュウジ、でかいのが来るぞ!』

「わぁってる!!」


龍二は龍刃とエルを交差させ、攻撃に備える。

虎次は左手を持ち上げると、周囲から小さな水玉が浮き上がってくる。一つ、二つ、三つ………それらはやがて無数に増えていき、虎次の前へ集まっていく。虎次の体よりもはるかに巨大な、大型トラック並の大きさのある水玉へと成っていく。


水玉が十分な大きさとなると、一瞬で凍りつき、氷塊へと変化した。



「『氷虎』………!!」


左手を引き、勢いよく氷塊に左拳を叩きつけた。



「『華砲』!!!!!」



それは、まさに巨大な砲弾。再会を果たしたばかりの時に繰り出された氷塊が、高速で龍二へと迫る。


「今度は…!」


以前は受け止められず、吹き飛ばされた。が、今度は違う。


「止める…っ!!!」

【ガァンッ!!】


巨大な氷塊を、交差させた二刀で受け止める。凄まじい衝撃が体を突きぬけ、全身が悲鳴を上げる。普通の刀剣だと、受け止める暇もなく一瞬で真っ二つに折れるのを通り越して粉々に粉砕されるところだが、龍刃とエルは普通の武器ではない。氷の砲弾を見事に受け止め、耐えてみせた。


『グッ………キツイ、な…!』

「すまん、今は耐えてくれ…まだ来んぞ!!」


苦しそうなエルを気遣いつつも、龍二は第二波が来るのを予感して横へと飛ぶ。龍二の記憶が確かならば、次は…



「『砕』」



【ダァンッ!!】



「やっぱかっ!」


氷塊が一瞬で砕け散り、破片が散弾のように横へ回避した龍二を襲う。先に回避したことで大きなダメージにはならなかったが、鋭い破片が龍二の体を掠ったことで、血が各所から飛び散り、破片が命中した瓦礫や建物に無数の穴を開けた。


『リュウジ、無事か!?』

「無事無事、大丈夫。さすがに同じ目には合いたくねぇからな」


傷は痛むが、動けないほどではない。流れ出てくる血を拭うこともせず、龍二は体勢を整えた。



「甘いで龍二!!」

「ゲッ、しまっ…!」



突如、背後からの殺気を感じて慌てて振り返ろうとした。が、神速で背後に回った虎次の方が僅かに早かった。


「『虎砲拳』じゃぁぁぁ!!」

【バキィッ】

「ゴフッ!」


顔面に氣が込められた虎次の拳を受け、バウンドしながら吹っ飛ぶ龍二。三回バウンドしたところで、どうにか膝と手を着いて勢いを殺し、激突を免れる。

口の中が切れ、プッと血が混じった唾液を吐き出す龍二。口元を拭い、フラリと立ち上がった。


「…油断大敵、てか」

『今更だが、今回の貴様は珍しくボロボロだな』

「ホント今更だなお前」


体中が痛い。だが余裕は崩さない。龍二とエルは互いに軽口を叩き合いつつ、虎次の追撃を警戒して構えた。が、前方にいるはずの虎次の姿がない。


「『っと、横っ!!』」

【ガァンッ!】

「チィッ!」


が、左から殺気を感じてエルを振るい、大剣の攻撃を受け止める。虎次は舌打ちし、再び大剣を振るって龍二を攻めた。


「死ねぇぇぇぇぇっ!!」

「無理ぃぃぃぃぃっ!!」


攻める龍二。守る龍二。変幻自在の連続斬りを、龍二は左右の剣で捌く。何度目かの応酬の後、虎次は大振りの攻撃を繰り出し、それを龍二は龍刃で受け止めた。


甲高い金属音が鳴る。火花が飛び散る。龍二と虎次は、互いにせり合う。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「ふん…っ!」


全体重を乗せて、龍二を押しつぶさんとする虎次。それを龍二は、押し返さんとばかりに龍刃を握る手に力を入れる。


(まだか、まだか………二人とも………!)


龍二の脳裏に、予め待機させておいたアルスとクルルが浮かぶ。いつまでもこうして攻防を続けたとしてもジリ貧で埒があかない。



が、タイミングというのは案外都合よく訪れるものである。



「リュウジさん!」

「リュウくん!」

「っ…!」



二人の声が龍二の耳に届く。どうすればいいのかすぐさま理解し、せり合っていた虎次の腹に左足の直蹴りを吹き飛ばない程度に叩き込んだ。同時に、龍二は後ろへ大きく下がる。


「ぐっ、逃がさへん!!」


蹴りによって出来た隙は小さかった。虎次は大剣を振るい、すぐさま追いすがろうとする。


が、その隙で十分だった。



「『光の鎖、今ここに彼の者の四肢を封じ込める戒めとならん』…!」

「『ダークネェェェェェス』…!」



「『ホーリーバインド』!!!」

「『チェーン』!!!」



【ガギィッ】



「んなっ!?」


二人の声が重なり、黒と白の鎖が頭上から虎次へと伸び、何重にも巻き付いていく。複雑に絡み合った鎖は、虎次をきつく縛り上げていった。


倒壊したビルの上ではアルスが、そのアルスから離れた対極した位置に浮かぶクルルが、それぞれの鎖の下である光球、闇の渦を両手で突き出すかのように持っていた。


「はんっ! こんなしょぼい鎖なんざ…!」


力を入れ、黒と白の鎖を破壊しようとする虎次。


「そうは問屋が!」

「卸さないってね!」

「っ!?」


違う方向から、似たような声が二つ聞こえて顔だけ振り返る。


「「『ダブルスタン!!』」」


それより早く、黒い服を着た双子、カルマとケルマによる二重の不可視の縄が虎次をさらに縛り上げる。


それだけで終わらず、さらに声が響き渡る。


「…この斧は、ちょっと特別…」


ロウ兄弟の背後からリリアンが飛び上がり、右手に持った手斧を振るう。


「いけ…!」


野球のピッチャーの如きフォームから投げられた、片手で持てるサイズの手斧が回転しながら飛んでいく。それは虎次自身に直撃せず、虎次の足元に突き刺さった。


瞬間、斧が白く発光し、目に見える形で放電し始めた。電撃はすぐ側に立っている虎次を襲う。


「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! な、何じゃこいつはぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「…『雷の手斧』。いざという時に使おうと取っておいた魔法道具マジックアイテム


電流による拘束も合わさり、ますます身動きが取れなくなった虎次。


「『我が魔力よ、我の同胞の力となれ』!」


虎次から離れた位置で、スティルが呪文を唱える。すると、アルスとクルルの鎖にリリアンの手斧とは違う青色の電流が迸った。


「魔法強化の術…残された力でも、これくらいならば…!」


息も絶え絶えの状態のスティル。すでに魔力も枯渇状態に近いが、それでも虎次の動きを封じるのに十分過ぎる力だった。


「リュウジさん、今です!!」

「いっけーリュウくん!!」


アルスとクルルが叫び、龍二は軽く頷いた。


「このチャンス、ぜってぇ逃さねぇ…!」

『ああ、決めるぞリュウジ!!』


龍刃を鞘に収め、エルを腰溜めに構えた。切っ先はまっすぐ、虎次の心臓。


「グッ、くそ! 離せ! 離さんかい!!」

「「断る!!」」


もがく虎次の叫びに、その場にいた全員の声が重なる。それでも尚、虎次は拘束を外そうと暴れた。


龍二は、それを逃さない。足掻き続ける虎次を真っ直ぐ見据え、足に力を入れていく。


「ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」



【ドンッ!!】



地面を蹴り、龍二は駆け出す。

それはさながら、風。否、暴風。瓦礫を蹴散らし、障害物など存在しないかのように駆ける。



目指すは一直線、縛られ、暴れる虎次。徐々に距離が迫り、周りがスローモーションのように流れる。


龍二からしてみれば、その場にいた全員の一挙一動が遅く感じられる。実際はそうではないが、残された全力を一撃に注ぎ込んだために、脳がそう判断している。



やがて突き出されたエルの切っ先は、



「うおらああああああああああああああああああああ!!!!」

「うあああああああああああああああああああ!!!???」



【ズンッ!!】





龍二と虎次の叫びと共に、虎次の体に埋め込まれていった。





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