第百七十一の話 血に沈む
長らく更新しなかったせいか、文章が変化しています。ご了承ください。
~ライター視点~
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」
叫び、両手の剣を振りかざしながら虎次に切りかかる龍二。虎次はそれを迎え撃つため、大剣を右へ大きく振りかぶる。
「どりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
龍二が自らの得物の射程内に入ったのを見計らい、虎次は振りかぶった大剣を豪快に振るう。だが、龍二は大剣の刃が体に触れる寸前に飛び上がり、自分が立っていた場所を通り過ぎた大剣の刃を軽く踏んでさらに跳躍し、虎次の背後へ飛ぶ。
「ぬぅん!」
「っと!」
虎次の頭上を通り過ぎる瞬間、体を回転させて虎次のがら空きになった背中に龍刃を叩き込もうとするも、虎次は大剣を振り上げ、大剣を背中に背負うようにしてその刃を弾く。攻撃に失敗した龍二は着地し、体を捻って二刀を振るう。
「はぁぁぁっ!!」
呼気と共に薙ぎ払われる二刀。それを払う虎次だったが、龍二の猛攻は止まらない。龍刃を薙ぎ、エルで突く。ありとあらゆる攻撃を繰り出し、虎次を攻める。それら全てを大剣で防ぐが、虎次は反撃することができない。
否、龍二自身が虎次の反撃を許さない。
二人の間で繰り広げられる剣戟。二人を中心に広がっていく破壊。互いの剣が振るわれるたび、アスファルトは抉られ、ビルは瓦礫へと変貌する。衝撃波がぶつかり、瓦礫がはるか彼方へと吹き飛ばされていく。
「うらぁっ!!!」
研ぎ澄まされた龍刃の刃が、虎次の頭部を叩き割らんと大上段から振り下ろされる。大剣を振り上げ、刃同士をぶつけることで虎次は防いだ。
ぶつかった刃から火花が飛び散ったその瞬間、爆音のような衝撃が空間を走り、渋谷中の建物の損傷を免れたガラスが割れ、砕け散った。
「こぉんのぉ………!」
衝撃によって一瞬だけ硬直した龍二を見逃さなかった虎次は、龍二の腹に蹴りを入れ、龍二を吹き飛ばして鍔迫り状態から抜け出た。
「お返しじゃあ!!!」
大剣を大きく振り上げ、柄から手を離す。柄頭に繋がれた鎖を揺らし、大剣は宙へと舞い上がっていく。
【ガギィッ】
やがて大剣が2mの高さまで飛び上がった頃、鎖の限界が訪れ、たゆんでいた鎖の連結部分が伸び、直線状に張った。
「おんどりゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「………!!」
そのまま振り下ろし、一本の棒となった鎖と重量のある大剣が風を切りつつ龍二へと迫る。直撃すれば確実に死に至らしめるであろう凶刃を龍二は受けようとはせず、横へ飛んで回避する。
【ズォォォォンッ!】
獲物を逃した大剣と鎖は、アスファルトを砕き、土煙を巻き上げてナイフのような鋭利な破片を周辺へ撒き散らす。直撃こそしなかったものの、砕け散ったアスファルトの欠片が龍二へと襲い掛かった。
「チィッ…!」
腕で顔を覆い、急所を庇う龍二。咄嗟に張った龍鉄風では完全には防ぎきれず、腕は切り刻まれ、服も破れるも、幸い大きなダメージにはならなかった。
「そぉらよっとぉい!!!!」
続けざまに、虎次は鎖で繋がれた腕を右へと振るう。張っていた鎖は腕の動きと連動し湾曲になり、煙の中に隠れていた大剣が再び龍二を追う。
「やろっ!」
【ガィンッ!】
エルを振るい、大剣を頭上へ弾き飛ばした龍二だったが、想像以上の衝撃によってエルを持った左手が痺れ、思わずエルを手放しそうになる。それをどうにか堪え、第三波の攻撃が来ないうちに再び虎次に迫る。
直後、背中に鋭い痛みが走った。
「っっっ!!!」
焼け付くかのような、しかし次の瞬間には想像を絶する冷たさが龍二の背中から全身へと回る。足がもつれ、前に倒れ込むものの、咄嗟に受身を取って転倒を防いだ。
膝を着いた龍二の頭上を、白い物体………虎次の得物である大剣が、風を切って鎖と共に持ち主の下へ戻っていく。鎖は、まるで意思があるかのように蛇のような変則的な動きをしつつ、虎次の腕に再び巻かれていった。
(クソッ、油断した…!)
虎次の持つ大剣に付けられた鎖によって、さながら鞭のように変幻自在に動き回る特性を垣間見た龍二は、背中の痛みを気合で和らげ、立ち上がる。
背中がどのような状態になっているかまでは確認できないが、龍鉄風のおかげで背中の傷は痕にはならないだろう。しかし、大きなダメージを受けたことには変わりなく、大幅に体力を削られてしまった。
「フッフフ、どやこの攻撃! 見切れんやろ!!」
得意げに笑う虎次。息を整え、龍二は構えた。
「…抜かせボケ虎次が。剣投げつけただけでいい気になってんじゃねぇ」
フン、と鼻で笑い、皮肉を投げつける。それでも笑顔を崩そうとしない虎次は、大剣を肩に担いだ。
「さすが龍二。背中ばっさりいかれても平気か」
「あったりめぇだ。俺を誰だと思ってんだ」
「…それもそうやな」
龍二の強気な言葉を受け、虎次は小さく頷いて納得した。が、言っている龍二本人は、先ほどの傷によるダメージが大きいせいで若干苦しそうに息を吐き、顔を顰める。
「でもやっぱキツイみたいやな」
「…やかましい」
見抜かれ、さっきとは違う意味で顔を歪める龍二。
身体が頑丈を通りこして無敵といっても過言ではない龍二の身体を、龍鉄風込みで傷つけた虎次の大剣。どうやって取り出したのかというのがわかっているだけに、ただの剣でないことは明らかではあるが、龍鉄風があまり意味がないとなると、もう少し慎重になるべきだろう。
「んじゃ、もっかい行かせてもらうと………」
肩に担ぎ上げた大剣を持ち上げた虎次は、
「しますかねぇっと!!!」
自らの体を右に回転させ、遠心力を乗せた大剣を投げつけた。
ブォン、と凶悪な音をたて、虎次の腕から伸びた鎖がしなり、その鎖に繋がれた凶悪な刃が猛スピードで龍二に迫る。
「ふっ!」
それを龍二は弾くということはせず、膝を曲げて身を低くしたことで避ける。だが、大剣は逃した獲物を逃がすまいと、今度は虎次の頭上から龍二の頭を狙う。
「ほっ!」
その叩きつけも、右へと転がることで回避し、アスファルトに叩き込まれた大剣の衝撃波も耐えることで凌いだ。
「まだまだぁ!!」
腕を引き、再び薙ぎ払わんと虎次は右腕の筋肉を膨らませる。
【ガヂッ】
「…あり?」
が、腕を引くと同時に鎖が伸びきり、そのまま動かなくなった。振るわれるはずだった大剣が接着剤で固定されてしまったかのように硬直してしまい、腕を引いても鎖はピンと張るばかり。
「…そう何度もなぁ…」
「げっ…!」
動かなくなった原因がわかった瞬間、虎次は焦って呻く。
虎次の腕に繋がれた鎖の先、アスファルトに埋もれた大剣の柄を、龍二が踏みつけてしっかりと固定していた。かなりの力を加えられているためか、大剣はさらに地面に埋っていき、何度引いてもビクともしない。
「同じ手が…」
大剣を踏んだまま、龍二は両手に持った剣を交差させ、頭上に掲げ、体も大きく逸らす。
「通じるか………よっ!!!」
【ゴゥッ!】
体を元に戻す勢いと豪腕による交差された斬撃が、大地を削りながら音速で虎次に迫る。恐ろしいスピードで襲い掛かるその攻撃に、虎次は逃れようとするも鎖は龍二が握っているような状態で動けない。
「しまっ…おごっ!!」
防御する間もなく、虎次の胴を龍二の斬撃がX字に切り裂き、血が飛び散る。
負傷した虎次に、龍二は追撃を与える。
「そのまま動くな…!」
エルの切っ先を持ち上げ、虎次に向ける。エルのコアに雷を溜めていくと、刃が放電を始めた。
「『レールガン』!!!」
龍二とエルの声が重なり、細身の刃から白光が溢れ、極太の光線となって放たれた。勢いが強すぎたためか、エルの刀身が大砲を撃った時のように跳ね上がる。
「だぁぁぁぁぁぁっ!!??」
放電する光線に飲み込まれた虎次の絶叫は、着弾による爆発の轟音によって掻き消された。
立ち上る黒煙と、降り注ぐ瓦礫やその破片、そして周囲の建築物が吹き飛ばされたおかげで先ほどよりも広くなった交差点。エルに込められたエネルギーの膨大さが伝わってくる光景であった。
『やったか…?』
「………」
爆風によって乱れた髪と服を整えることもなく、光線の着弾地点から立ち上る黒煙を注意深く見つめる龍二とエル。今の魔法は自らの魔力を一点に集中させたものであり、エルの中ではかなり高い威力を誇っており、大抵の敵は跡形も無く消えうせる程。
「………いんや」
だが、龍二は首を横に振る。
「まだみてぇだ」
「あいたたた…えげつない技使うなぁ」
黒煙が晴れ、爆発によってできたクレーター。その中央に、虎次は立っていた。
さすがに完全無傷とはいかず、服のところどころが焦げ、頭からは血が流れ出ている。しかし、しっかり足で立っているのを見る限り、致命傷ではない様子だった。
『なっ………バカな、直撃だったはず…!』
「…さっきからさんざん殺り合ってんだ。この程度でぶっ倒れるとは思えんな」
エルの姿が人であったならば、開いた口が塞がらないといった表情をしているであろう。驚愕に満ちた声を上げるエルに、龍二はいたって冷静に分析していた。
(………なら、もう一回ぶつけるだけだ…)
エルの切っ先を虎次に向け、再び『レールガン』を放つために充電させる。すぐさま刃が放電を始め、龍二の周りに風が巻き始めた。
「いやいや、さっすが龍二や。今のは危なかったでぇ。熱かったし痛かったし、マジで勘弁して欲しいわ」
「いっそそのままぶっ飛んでくれたらよかったんだがな………性格変わっても頑丈さは変わんねぇか」
相も変わらず笑う虎次に、龍二は皮肉を投げつける。その間でも、しっかりと足で大剣を押さえつけ、身動きをとれなくさせるのを忘れてはいない。
「まぁ頑丈なんが俺の取り得みたいなもんやからなぁ………それよりも」
笑顔のまま、虎次は鎖を手繰り寄せていく。その鎖の先にある大剣は龍二が踏みつけているせいで戻ってこず、先ほどと同じように弦のように張るだけ。
「俺の剣、ずーっと踏みつけといてええんかなぁ?」
「…なに?」
虎次が取ろうとしている行動が読めず、龍二は警戒する。確かに今、虎次の大剣を押さえつけているおかげで、繋がれている虎次は身動きが取れないでいる。だからこうして遠距離で仕留めんとしている。
が、一瞬嫌な予感を龍二は感じた。
『…っ! リュウジ、逃げろ!!』
エルも不吉な予感を感じ、叫ぶ。そして虎次は、鎖を握った手を大きく振り上げた。
「遅いわ…こんのぉ…」
「やべっ!」
咄嗟に大剣から足を離し、龍二はその場から飛び退いたと同時、虎次は渾身の力を込めて鎖を振り下ろす!
「まぬけぇ!!」
鎖を持った手で、アスファルトを殴りつける虎次。殴りつけたアスファルトは砕け、小さなクレーターができる。
【ギィン…ッ】
瞬間、龍二が立っていた地点、正確には虎次の大剣が埋もれた地点一帯が一瞬で白く変色する。アスファルト、瓦礫、車、電柱、そしてビル。全ての物体に霜が張り付き、気温が一気に下がった。
「ふん!!」
【ボゴンッ】
鎖を引くと、埋もれていた大剣がアスファルトから飛び出し、虎次の下へと帰っていく。鎖が腕に巻かれ、戻ってきた大剣の柄を受け止めた虎次は、大剣の刃をアスファルトに突き刺した。
「ふぅん、避けるとはなぁ…お見事」
腕を組み、先ほどとは違うニヤッとした笑みを浮かべる虎次。その視線の先には、氷結攻撃を避けるために、範囲外まで下がった龍二が膝を着いていた。
『危なかったな龍二』
「ああ………油断していた」
立ち上がり、危機から逃れたことでひとまず安堵のため息をつく龍二。
ふと、渋谷がこうなる直前に虎次が水を操る力を使って街を破壊していたのを思い出す。先ほどの攻撃は、恐らく地中にあった水分をあの大剣を媒介にして一瞬で凍らせたのだろうと思われる。
だが、やはり疑念は拭えない。
(何であんな攻撃をあいつが…?)
先ほどエルを通して感じた魔力。強大で、それでいて禍々しい力。恐らく、こうして虎次が目の前にいることと何か関係しているものだろうが。
『油断するなリュウジ。あいつは想像以上だ』
「…あぁ、わぁって」
る、と龍二が言いかけた。
「じゃそろそろ本気で行くでー?」
「…!」
背後から聞こえてきた馴染みのある声に、龍二は身を捻って龍刃を突き出した。
【ズドッ!!】
「ぐぁっ…!」
(速ぇ…!)
出鱈目に突き出した龍刃は迫っていた虎次の頬をかすっただけに留まり、結果として懐に潜り込んだ虎次の拳を脇腹に受ける羽目となった龍二は、無理矢理身を捻ってバランスの悪い姿勢で振り向いたために踏ん張ることができず、吹き飛ばされる。
野球選手の投げたボールのように飛ばされた龍二に、標識のように地面に突き刺さった虎次の大剣が迫る。大剣が当たる直前、またもや瞬間移動したかのように姿を現した虎次は、大剣の柄を握った。
「どっこいしょー!!」
【ガィンッ!!】
「………っ!!」
引き抜くと同時に音速を超える速度で振り上げられた大剣を、龍二は何とか龍刃とエルを交差させて防ぎ、今度は上空へと舞い上がっていく。
「トドメのぉ…!」
それを逃さず、虎次は大剣を龍二目掛けて投げつける。が、大剣本体は龍二に命中することはなく、大剣が龍二の周りを回り、柄に繋がれた鎖が龍二の体に巻き付いていく。
「投げ飛ばしじゃああああああっ!!」
【ズゥゥンッ!!】
「がはっ!」
縛られた状態で、凍りついたビルの二階の壁に背中から叩きつけられる龍二。凍り付いて飴細工のように脆くなった壁を突き破り、そのままビルの中へ土煙を巻き上げながら激突する。建物だけでなく、中までも凍り付いていたらしく、軽く触れただけでコンクリートの壁や仕事用のデスクといった備品が次々と破壊されていく。
ビルの壁にめり込んだ龍二から鎖が解け、大剣と一緒に外にいる虎次の下へと戻っていく。
『リュウジ、しっかりしろ! リュウジッ!!!』
「言われんでも、しっかりするっての………あんま耳元で叫ぶなエル」
壁から抜け出し、龍刃を床に刺して杖代わりにして立ち上がった龍二だが、脇腹を抑えて苦悶に顔を歪める。
(…龍鉄風を纏っていてこの様か…)
脇腹から走る激痛に、龍二は自嘲する。
正直、今の虎次の力を甘く見ていた。あの距離から自分の背後に移動するとは思わず、それでいて完全防備のはずの龍鉄風が全く意味を成していない。
つまり、“本気”を出さねば確実に死ぬ。
『…リュウジ、貴様まだ…』
「………少し黙っていろエル」
『しかし、このままでは…!』
龍二の気持ちを悟ったエルは、突っぱねる龍二に食い下がる。エルが言い終える前に、龍二はエルを振り上げた。
『リュウジ…?』
「…すまんな」
龍二はエルを割れた窓目掛け、投げ飛ばした。
【ドゴォォォッ!!】
『リュウジィィィィィィッ!!!』
エルがビルの窓から飛び出した直後、龍二の足元の床が割れ、そこから虎次が大剣を突き出したまま飛び上がってきた。
凶刃が自身の体を貫く寸前、龍刃で防御体勢を取り、刃同士がぶつかって火花が散った。
「ぐっ…!」
「まだ終わらんでぇ龍二! もっともっと楽しもうやないかぁぁぁ!!」
虎次の大剣は、龍刃ごと龍二を突き上げ、天井目掛けて飛ばす。六階建てであったビルの天井、床を次々と突き抜け、勢いが衰えることなく飛んでいく龍二。ついには、ビルの屋上さえも突破し、遥か上空にまで飛ばされた。
「ちぃっ…!」
舌打ちし、口から血の混じった唾を吐き捨てる。上昇が止まり、重力に従って渋谷全体が見渡せるまでの高度から落下し始める。だが、飛び上がってきたビルから粉塵が舞ったかと思うと、何かがそこから飛び出してきた。
その正体は、さながらロケットの如き勢いで迫りくる虎次。
「どらっしゃぁぁぁぁぁ!!!」
龍二の眼前まで来た虎次は、大剣を薙ぐ。その斬撃を弾くと、落下していた体が僅かばかり浮き上がった。
「舐めんなぁぁぁぁぁっ!!!」
仕返しにと、龍刃を袈裟懸けに振るい、虎次は逆袈裟で迎え撃つ。
宙に浮いているせいで、回避行動が取れずに防御を取るしかない攻防。ギリギリ当たる寸前を防ぎ、弾き、そして返す刀で切りつける。二人の持つ刃がぶつかる度に散る火花と、防ぎきれずに掠り、火花と同じように飛び散る血液。すでに二人の服はズタズタに切り裂かれ、そこから見えるのは肌色ではなく血による赤。銀色の剣閃が、相手の命を刈り取らんと何度も閃く。
「うおおおおおおおおおっ!!!」
「らあああああああああっ!!!」
獣のような雄叫びを上げる二人と、振るわれる刃の攻防によって途切れることのない金属音。その間にも落下は続いており、眼下の渋谷の街が徐々に近づいてくる。
そして、二人が飛び出したビルに落ちる寸前、龍二と虎次は同時に剣を突き出した。
【ズゥゥゥゥ…ン】
轟音。周囲を揺らがす程の強い衝撃。虎次の氷結によって脆くなっていたビルは、その衝撃が全体に走ったことで耐え切れずに、一部の壁がガラス細工のように砕け散っていく。ついには完全に倒壊していき、ビルは瓦礫となって煙の中へと消えていった。
二人がビルに落下し、数分が経過した。風が止まっているせいでいまだ煙は完全には晴れず、倒壊したビルから動く気配がない。音一つさえしなくなっていた。
が、次の瞬間には煙から影が飛び出し、戦いによってボロボロになったアスファルトの上に落ち、転がっていく。ようやく止まった時、それはうつ伏せのままピクリとも動かなくなった。
ボロボロになった衣服から流れ出てくる血と頭部からの血によって、少しずつ血溜まりが広がっていく中、ビルの瓦礫から崩れる音がし、ゆったりとした動作で立ち上がった影が煙から出てきた。
「なんや、もう終わりかいな? 案外呆気なかったなぁ」
服も体もボロボロの状態であるはずなのに、疲れた表情を見せない虎次。
拍子抜けしたかのような言葉の後、空から降ってきた日本刀が、倒れた龍二の脇の横に落ち、突き刺さった。
龍二、ズタボロ状態。先の読めない展開というのは、実は結構考えるの難しいんですね。今回でそれがよくわかりました。