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第百六十九の話 奮戦(2)

投稿していきなり土下座します。マジでごめんなさい。

~ライター視点~



アルスが雅達がいる喫茶店を防衛しているその頃。


「でやぁぁぁぁぁ!!」

『グェッ!?』


喫茶店から僅かに離れた道路の上で、クルルが複数のアクアゲロッグ相手に剣を振るっていた。

アクアゲロッグの媒介が水であるために、アスファルトは水浸しになってクルルの周囲を黒く染め上げる。剣で切った瞬間、肉を裂く感触はすれでも、血が飛び散るといったショッキングな光景がないため、精神的にまだ幼いクルルは戦いに集中できていた。


だが、クルルの体の至るところに切り傷ができ、そこから僅かばかりに血が流れ出ている。クルルの服は切られた箇所から徐々に赤く染まっていき、傷の痛みによって戦い続けてきたせいで溜まっていた疲労がさらに上乗せされていく。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


愛用の暗黒剣を正眼に構え、息を整えながら強い意志を宿した目で前方でたむろするアクアゲロッグ達を見やる。敵もクルルの実力が確かな物だと判断すると、警戒して無闇に突っ込んでくるのをやめた。


一対多にも関わらず、クルルはすでに数え切れない程のアクアゲロッグを撃退している。だがその分、クルルはすでに疲れきっていた。


(早く…リュウくんのとこに行きたいのに…!)


クルルは構えを崩さず、焦る。アルス達がいるであろう喫茶店からそんなに距離はないとはいえ、今いる場所では喫茶店は見えない。喫茶店はクルルがいる場所から行って角を曲がった位置にある。つまり、建物によって喫茶店は死角になっている。ここからでは様子が見えないのだ。


ならば、前方にいるアクアゲロッグ達を薙ぎ倒して、喫茶店の所まで行けばいいというのならば簡単ではある。

だが、


(こんな時に…足が…)


心の中で呟いた瞬間、右足がズキリと痛んだ。


喫茶店にいた時、突然のアクアゲロッグ達の奇襲により、咄嗟の対応が遅れたクルルは足に攻撃が掠ってしまった。掠ったといっても、掠り傷としては深い。攻撃として放たれた氷の矢は大きく、その先端がクルルの右足の肉を大きく抉ったのだ。

それでも喫茶店から敵を離すため、痛む足に負担をかけすぎないよう浮遊魔法を使って一部のアクアゲロッグ達を誘導し、痛みによって集中力が切れてしまってそう離れてないこの位置に誘い込んだのだ。

右足の負傷により、素早い動きや回避は困難。クルルにとってはアクアゲロッグは雑魚中の雑魚。レベルが違いすぎるのに、行動が制限されて今のような状態に至っている。

それでも、多くのアクアゲロッグ相手に剣と魔力弾で応戦し、最初にいた半分以上の敵を水へと還したその実力は、幼いながらも強大な魔王としての実力を兼ね添えたクルルだからこそできること。


しかし、それもそろそろ限界だった。痛む足を引きずりながらの戦闘は、クルルの体力をさらに消耗させる。疲労困憊、満身創痍…ここまで耐えれたのもある意味奇跡である。


「私の……!」



それでも、



「邪魔しないでっ!!!」



クルルは、膝を着こうとはしない。



【ボゥッ!】


突き出した右の掌から、漆黒の弾丸が飛び出す。クルルの十八番、『ダークネスショット』は、寸分違わず狙いを定めたアクアゲロッグの腹部に命中した。


『ギィァァァァァァァ!!!!』


耳をつんざくような甲高い断末魔が空間に響き渡り、仰向けに倒れこむ。他のアクアゲロッグは仲間の死に目もくれず、各々の得物を手にクルルに迫ろうと構える。


ゆえに気付かない。倒れたアクアゲロッグの腹部から紫色の炎が噴出していることに。



【バァァンッ!!】



突如、アクアゲロッグが紫色の炎を撒き散らすように破裂し、周りに集まっていた仲間を巻き添えにした。

先ほど放ったダークネスショットは、命中したら炸裂するように仕組んだいわば応用技だ。


一つの技を応用し、いくつものバリエーションを編み出していく…身体能力が高くないクルルではあるが、そういった点では戦いに関してはプロであると言える。


「よし、もう一つ!」


破裂によって多くのアクアゲロッグが吹き飛び、さらに戦力を奪うことに成功したクルルは、もう一つ同じ技を繰り出そうと右の掌の中で暗黒弾を形成する。


『グァァァァァァッ!!』

「っ!」


と、背後から殺気と甲高い声が聞こえ、クルルは反射的に身を捻りつつ振り返り、同時に手にした暗黒弾を投げつける。

暗黒弾が飛んでいった先には、今まさにクルルに飛びかかろうとしていた一匹のアクアゲロッグ。そいつは、クルルの放った暗黒弾によって悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされた。力を溜め込む時間がなかったために破裂することはなかったが、殺傷力は十分だった。


「くっ…!」


無茶な体勢で魔法を使ったのでいらない力を浪費してしまったクルルは顔を顰め、体が傾きかけて持ち直そうとした。



『『ガァァァァァァッ!!!』』



「な…!?」


頭上からアクアゲロッグの声が聞こえ、クルルは顔を上げる。ビルに隠れていたであろうアクアゲロッグ二匹が、クルル目掛けて鉈を手に降ってくる。

咄嗟に横へ転がって回避しようとするが、痛む足が動かない。先ほどの動きで負担をかけすぎたようで、もはや歩くことすらできそうもなかった。


(やられる……!)


迫るアクアゲロッグの攻撃に備え、剣を持ち上げてクルルは防御の構えを取る。アクアゲロッグは怪力な上、今の体力で二匹同時攻撃を受けきれるか正直耐え切れるかどうかわからない。頭上に剣を掲げ、来るであろう衝撃にクルルは備えた。




【ズンッ!】

『『ギィィィッ!!??』』




だが、来るはずだった衝撃は来ず、代わりにアクアゲロッグ達が苦悶の声を上げながら体を上下泣き別れにし、空中で水へと分解される光景が目に入った。


「………へ?」


突然の展開に、クルルはアクアゲロッグだった水を頭からもろに被りながら素っ頓狂な声を上げた。


そして、ザリッと砂利を擦る音が背後から聞こえ、クルルは敵だと思って剣を構えながら振り返った。



「…油断、しすぎ。」

「え…リリアン!?」



だがそこにいたのは敵ではなく、いつもの私服を身に包んだリリアンが悠然と立っていた。クルルは驚くも、味方だと判断して剣の切っ先を下ろした。


『グガァァァァァ!!』

「っ! リリアン後ろ!!」


瞬間、こちらへ歩いてくるリリアンの背後からアクアゲロッグが掴みかかろうと両腕を広げているのが見えたクルルは叫ぶ。



【ズンッ!】



『ギッ…!?』


リリアンに触れる寸前、突然アクアゲロッグはその動きを止めた。



原因は、いきなり降ってきた巨大な戦斧の刃がその頭にめり込んだから。



「ん。」


後ろを見ないで、ちょうど顔の横に落ちてきた斧の柄を掴んで上へ軽く振り上げる。それだけで頭に突き刺さっていた斧の刃はアクアゲロッグから抜け、哀れにも頭蓋を真っ二つにされたアクアゲロッグはゆっくりと倒れていき、地面に落ちる寸前に水になり、アスファルトへと染み込んでいった。


「…後ろが…何?」

「…………何でもないよー?」


事も無げにアクアゲロッグを始末して身の丈ほどもある三枚刃の、中心に拳大程の蒼い宝玉が埋め込まれた戦斧を肩に担ぎ上げたリリアンに、唖然としていたクルルはなんか龍二に対するような恐怖を感じつつ引きつった笑顔で答えた。リリアンにもぐっしょりと水がかかって髪から水が滴り落ちて何気に色っぽく見えるが、これが血だったら凄まじい絵になっていただろう。実際元々はアクアゲロッグだった水であってある意味血だから、思わずクルルは想像してしまった。


「え、と……た、助けてくれてありがとうリリアン!」

「…気にしない。」


想像はさておき、救われたのは事実。クルルは礼を言い、リリアンはいつもの無感情な声で返す。

素っ気無いように見えるも、彼女にとってこれは地なのだから仕方なかった。


「あ! 皆は!?」


思考を切り替え、クルルは喫茶店で襲撃されて散り散りになった他の仲間の安否を問う。リリアンは、スッと己の背後へと振り返った。




「迸れ雷よ。我の魂に応えその身を刃と化せ。『サンダーエッジ』!!!」


リリアン達から少し離れた場所で、スティルが自身の得物である杖を薙いで魔法で雷の刃を作り出し、複数のアクアゲロッグを両断していた。


「魔王様に手出してんじゃねぇぞクォラアアアアアアアアア!!!!」

「…まぁ、今回はお前に同意してやる。くたばれ、下等モンスターが。」


そしてその隣でケルマがレイピア状の剣を振りかざして次々とアクアゲロッグを屠っていき、その後ろカルマが両手から作り出した鎖鎌のような武器でアクアゲロッグを縛り上げていく。身動き取れないアクアゲロッグのその無防備な状態をつき、ケルマが剣で突き刺していく。

普段はともかく、戦闘に関しては息がピッタリなロウ兄弟。双子ゆえの連携プレーを見せ付けていた。




「……皆に関しては、心配いらない……。」

「そ、そうだね。」


相変わらず無表情なリリアンに、クルルは三人の戦いっぷりを見て問題ないようなので安心しながら頷いた。


「喫茶店の方は……さっきアルスが全部片付けてた……ひとまずここを突破して合流する。」

「わかってる!」


斧を肩から下ろして斧の槍のように鋭利な先端を硬いアスファルトに突き刺して言うリリアンに、クルルは痛む足を抑えて立ち上がろうとする。


が、それはリリアンの左手が肩に乗せられたことで止められた。


「はぇ…?」

「座ってる。」


突然のリリアンの制止にクルルは疑問符を浮かべるも、リリアンは前を見据えたまま言う。


言うないなや、突然空から落ちてきた大きな水玉が六つ、二人の前方で水しぶきを上げる。そしてその水しぶきは周囲に飛び散らず、まるで花が時間を巻き戻しているかのように蕾へと戻っていくかのように内側へと収束していき、それは一つの水柱になると…



『ギシャァァァァァァァ!!!』



さながら水の卵というべきだろうか、水柱がはじけ飛ぶとそこからアクアゲロッグが現れ、咆哮を上げる。それは一体だけでなく、降ってきた水玉、合計六体が水柱から現れ、二人の前に立つ。


「ま、まだ出てくるの…!?」


先ほどまで散々戦ってきたのに、また数が増えたことで衝撃を受けるクルル。だが、リリアンは驚くこともせず、相変わらずの無表情のまま斧を手に前へ進む。


「あなたはそこで休憩を……あの程度なら私一人で十分。」

「で、でも!」


一人じゃ危険だよ! …そう言いかけるクルルに、リリアンは少しだけ振り返った。




「今の体力は……龍二のために取っとく。」




そう言うリリアンの顔は、先ほどと変わらない無表情…しかし、その瞳にはこの戦いに勝つ自信に満ち溢れていた。その姿は歴戦の戦士と呼ぶに相応しい凛々しさがある。


一瞬、呆けた顔になるクルル。しかし、リリアンの言っている言葉を理解したクルルは、怪我で戦えない己の不甲斐なさを嘆いて歯を食いしばりつつも、戦いの邪魔にならないよう足を引きずってリリアンから離れる。


そんなクルルを横目で見たリリアンは、スッと目を閉じ、思う。


(優しい子……以前までは恐ろしい敵だったはずなのに……。)


前の世界では、リリアンの一族は魔族こそが真の悪であるという認識が根強かった。当のリリアンは、ある出来事ゆえにその認識が間違いであることを知っていたが、それでも彼女が行ってきたとされる数々の悪行は許せる物ではなかった。


数々の人間の村や街を手下に襲わせ、未曾有の恐怖に陥れてきた存在であるはずの魔王。慈悲もなく、ただ自身が思うがままに力を振るい続けてきたとされる魔王。

そんな魔王が、人のために涙を流し、必死になっている。人間となんら変わらない、精神的にもまだ幼い少女が魔王などと、誰が信じれるだろうか。


その悪行が本当は彼女の本意ではないことを、リリアンはこの世界で知った。それだけで罪を許されるということはならないが、リリアンは今の彼女に少しも憎しみや怒りなどの感情を抱くことはなかった。



最も、ライバル意識はあるが。



(例え同じ屋根の下でなくても……この気持ちは負ける気はしない。)


仲間の勇者と宿敵であるはずの魔王に抱くこの敵対心。

無表情、無感情であったはずの自分がここまで一人の人間に執着するのは以前の自分では考えられなかっただろうが、今はその気持ちのおかげでこうして自身の心を奮い立たすことができる。



ゆえに今、



『ガァァァァァッ!!』

「邪魔。」



躊躇うことなく、前に進むことができる。



【ズシャァ…】


斧を無造作に振るうだけで、飛び掛ってきたアクアゲロッグを斜めに両断する。残り五匹となったアクアゲロッグはリリアンの力に戸惑い、たたらを踏む。


その間にリリアンは、斧を地面に突き刺してスカートの右のポケットを漁る。その中から出てきたのは、黒いゴムの髪留め。



「私に牙を向くなら、覚悟するがいい…。」



目を閉じたまま口に髪留めを咥え、両手で長い後ろ髪を一本に纏めていく。



「私を倒したいというなら、かかってくるがいい…。」



右手で髪留めを口から離し、纏めた髪に通す。ゴムを捻り、幾重にも巻いてしっかりと固定する。俗に言うポニーテールへと髪型を変えた。


そして、



「私の進む先を邪魔するというのならば……、」



カッと開いた目は、普段の半開きの落ち着いた目が一変、前の世界で御馴染みの刃のように鋭い目へと変貌……否、戻った。




「後悔するがいい。己の愚行を…!」




戦闘体勢を整えたリリアンは、斧を肩に担ぎ、アクアゲロッグ達を睨む。歴戦の戦士としての気迫に、本能的恐怖を覚えるアクアゲロッグ。

そして沸き起こる、自己防衛本能。アクアゲロッグのうち一匹が、リリアンの持つ斧より小さい斧、鉞を手に襲い掛かる。


リリアンは慌てることなく、斧の柄を両手で握る。


「行こう……“ガルファス”。」


リリアンが自身の武器にして相棒である斧、“ガルファス”に囁きかける。それに応えるかのように、ガルファスの蒼い宝玉が光った。


振り下ろされる鉞の刃。リリアンはそれを横へ最小限の動きで移動して避け、ガルファスを持つ腕に力を込める。


「やっ!」


下から左上へと振り上げ、無防備になったアクアゲロッグを切り裂く。続けざまに二匹リリアンに襲い掛かってきたが、一番手前に迫ってきたアクアゲロッグの腹に膝蹴りを叩き込んで怯ませた隙にその醜い顔を左手で掴む。

細腕からは想像できないほどの力で掴まれた顔は、ミシミシと音をたてる。呻くアクアゲロッグを、リリアンは何の造作もなく迫ってきていたもう一匹目掛けて投げつける。凄まじい衝撃を受けた二匹は地面に倒れこみ、慌てて起き上がろうとするも二匹が互いに邪魔をして動けない。


「ふん!」

【ドシャッ!】


そんな二匹にリリアンは慈悲もなくガルファスを振り下ろし、二匹を両断して絶命させる。


敵に対する情けはない。そんなものは一族に生まれた時点でとうに捨てている。


「残り二匹…!」


ガルファスを振るい、残された二匹を肉薄する。リリアンの戦闘能力に一匹は戸惑い、突撃するか迷っている。


だが、もう一匹は違う。大きな口をリリアンに向けて開けると、腹を大きく凹ませる。悪寒が走り、リリアンはガルファスを逆さにして掲げる。


【バシャン!】


アクアゲロッグの口から凄まじい勢いで発射される水鉄砲。その威力は鉛球を射出する拳銃と同等であり、ガルファスの刃の側面を盾にしたリリアンにもその衝撃は伝わってきた。


だがリリアンはこの程度どうということはない。もう一度発射しようとするアクアゲロッグに、リリアンはガルファスを振りかぶる。


「させない…!」

【ブゥン!】


振るわれたガルファスはリリアンの手から離れ、高速回転しつつアクアゲロッグへと迫る。


ここで一つ、この技はクルルを救出する時に使用した物と同じであることを補足しておく。


水鉄砲を発射しようとしたアクアゲロッグは中断して慌てて避けようとするも、それはもう遅い。回転する凶刃は、外すことなくアクアゲロッグの胴を薙ぎ、真っ二つにする。


ガルファスはアクアゲロッグを両断した後に上昇し、空中で弧を描きつつリリアンの下へ戻ろう再び下降を始めた。



『ウグゥアアアアアアアアア!!!』



だが、リリアンの背後にいつの間にか回っていたアクアゲロッグが大口を開けてその頭を噛み砕こうとする。


だがリリアンはそれも予測済みであるかのように身を翻し、右足をアクアゲロッグへ向けての膝を曲げる。


「ふっ!」


膝を曲げてバネのように勢いをつけてアクアゲロッグの腹に強烈な後ろ回し蹴りを叩き込み、怯ませてから今度は体をアクアゲロッグへ向けて両膝を曲げて体の体勢を低くした。

同時に、リリアンは自身の力を右膝に集中させ、右膝が赤く輝く。


「っしゃぁ!!」

【ズドヴッ!】


気合一発、飛び上がりつつの右膝蹴りがまるで爆発したかのような凄まじい音をたてながら、アクアゲロッグの顔面に炸裂した。


リリアンの格闘技、『アクセルボム』。リリアンの闘氣が込められたその膝蹴りはシンプルながら強力な技であり、いかなるものでも吹き飛ばすことができるが、その分隙が大きいためにカウンター用の技となっている。


そんな強力な技をもろに受けて無事でいられるはずがない。アクアゲロッグは顔面にもろに受けて脳震盪を起こし、宙をエビ反り状のまま回転して舞う。人間ならば首が折れて絶命するところだが、並の人間より頑丈な体のために死なずにすんだ。


だが、それを逃すほどリリアンは甘くない。先ほど投げたガルファスがブーメランのように持ち主の下へ飛んできたのを見計らい、リリアンは右手を頭上へ掲げてその柄を受け止めた。


「飛べ…。」


深く腰を落としたリリアンは、大きく右へ振りかぶったガルファスにありったけの力を溜めていき、その一見すると華奢にも見える腕を内に眠っていた鍛え抜かれた筋肉によって膨らます。


「『アトミック』…!」


アクアゲロッグがちょうどリリアンの頭の位置まで落ちてきた所で力を解放させ、



「『スラッシュ』ッ!!」

【ズォッ!】



風さえも刃と化す強力な薙ぎ払いを放ち、アクアゲロッグを両断するどころかバラバラにして吹き飛ばした。血ではなく水が舞い散り、空中で水へ分解されたアクアゲロッグはリリアンから20メートルほど離れた位置へ落ち、アスファルトへ吸い込まれて消えていった。


「……私は……、」


ブゥンと斧を振るい、その勢いのまま肩に柄を乗せたリリアンは呟く。



「あなた達程度では止められない。」



もはや返答することもない敵に、リリアンは感情を込めずに言い放った。






「……ほぇ~……。」


リリアンから離れた位置で、クルルは建物の壁に背をつけながら座り込んでリリアンの豪快な戦い方をポカーンと大口を開けて見ていた。斧の巨大さからすればその戦闘がどんなものかは想像できたが、ここまですごいとは思ってなかった。

この世界に来る前に一度戦ったが、あの時は接近を許さないように魔力弾で牽制しまくっていたからその戦い方を見ることはなかったが、今こうして初めて彼女の戦いっぷりを見た。まず接近されたら勝てる見込みがないかもしれない。

以前は敵として対峙していただけに、一瞬震えた。


そんなクルルの心境を知ってか知らずか、リリアンは斧を担いだままクルルへと走り寄ってきた。何故走っているのか。それはクルルが怪我をしているからだろう。


「……終わった……。」

「……あ、うん……お疲れ、リリアン。」


勝利報告をしにきたリリアンに、クルルは一応労いの言葉をかける。つっても全然疲れてる様子はないから意味ないけど。


だが何にせよ、目の前の問題は解決できた。これから喫茶店で雅達の無事を確認してから、龍二の下へ急がねばならない。時間の猶予はあまりないのだ。


「そうだ、早くリュウくんのとこに行かなきゃ…!」


壁に手をついて立ち上がろうとするクルル。足に痛みが走るが、今は痛みでどうこう言ってる暇はない。


「~~~~~っ!」


目に涙を浮かべて顔を顰め、意地と根性で立とうとするクルル。


「……手。」


そんなクルルを見てられなかったリリアンは、左手をクルルに差し伸べた。


「あ、ありがとう。」


クルルは素直にリリアンの左手を掴んで引っ張り上げてもらった。足に痛みが走るも、浮遊魔法を使って体を浮き上がらせることにより、地面から足を離して負担を減らす。

魔力の消費があるが、痛みを軽減するには今はこれしかない。


「ひとまず喫茶店へ……アルス達が心配。」

「そうだね。」


リリアンの提案に同意し、クルルは浮遊魔法で浮いたまま前進しようとする。だが、先ほどの戦闘の疲労のせいで、うまく制御できずに真っ直ぐ進むことができない。


「っとと、うわわ…!」

「…………。」


必死にコントロールしようとするクルルに、リリアンはフゥとため息をつく。


(龍二も大変……。)


毎日こんな感じだとすれば、龍二の気苦労、推して知るべしである。まぁ本人は割と楽しんでる節はあるが。


しかしリリアンはその危なっかしさに見てられず、また世話を焼くことになった。


「……私が引っ張るから……。」

「あぅ……何から何までありがと、リリアン。」

「【フルフル】」


首を横に振って気にしていないことを表明するリリアンの手に捕まり、大人しく率先されるクルル。これからまた一仕事があるというのに、先が思いやられる。


(龍二、本当に大変……だけど。)


クルルの手を引きながら、リリアンはガルファスを握る手に力を入れた。




(本当、あなたも世話をかける……。)




背後から、戦闘を終えたスティルとロウ兄弟の声が聞こえる中、一人で戦っているであろう龍二にリリアンはため息をつき、決意した。



たまには自分達からも注意してやろう、と。


こちらではお久しぶりです、コロコロです。皆さん、まずはじめに私から一つ言わせてください。


まえがきでも言いましたが遅れてしまってごめんなさい。


言い訳があるとすれば、大学のレポートや勉強など、色々忙しい中ちょこちょこ書いていって今の状態。文体大分変わったなぁっと自覚してます。


で、まぁ言い訳するなというのであればはっきりと言います。



書くパゥワーが切れてました。ネタ切れとかそんなんじゃなく。



で、今回書く意欲が久々にわいたんでレッツゴー! して今もちょっとやばい。せめて、せめて今回のシリアス長編終わらせてからガス欠になりたいと思うのですが……ともかく、これからも頑張ります。更新遅すぎて読むのやめた方もいらっしゃるでしょうけれど、何卒これからもよろしくお願いします。



…なんか堅いな……よし、脳味噌柔らかくするために、シリアス続きだしちょっと昔話でも載せるか。




俺式『おむすびころりん』  作:コロコロ


昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。


おじいさんが山で木こりをしていて、ちょうどお昼時なのでおばあさんのおむすびを食べようと丘の上で風呂敷を広げました。


おむすびを食べ、残り後一つというところで、風呂敷からおむすびが転がり落ちてしまいました。


おむすびコロコロ転がって。おじいさんあわてて追いかけます。


おむすびころりんすっとんとん ころころころりんすっとんとん


おむすびは小さな穴の中に落ちてしまいました。中には鼠達が落ちてきたおむすびを見て喜



「くれてたまるかこのヴォケエエエエエエエエエエエ!!!!」

【ズドォォォォン!!!】



ぶ間もなくおじいさんの拳(龍閃弾)によって穴は木っ端微塵になったついでにおむすびをおじいさんは取り戻すことができましたとさ。


めでたしめでたし。




そして私は何を書いているのでしょう?

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