第百六十二の話 龍の躊躇い
更新遅くなりました。待っててくださった………………いてくださったらいいんですが………………ともかく、遅れてすいませんでした。
〜虎次視点〜
俺の虎砲拳、そして龍二の龍閃弾がぶつかり合い、とんでもねえ衝撃波が渋谷中に広がる
……ことはなく、俺が予め張っておいた結界のおかげでこの一帯だけを破壊するだけに留まった。無かったら渋谷なんて軽く吹っ飛んでいたやろうな。強靭な結界やったけど、さすが俺と龍二や。ヒビ入っとんで。
「…………。」
「…………。」
で、互いに拳が正面衝突したまま硬直する俺ら。
「……チィ!」
「ふん!」
大体三十秒くらいそのままでおったけど、二人同時に距離を離した。
「あ〜いて。加減知らんのかいお前は。」
「…………。」
右手がちょっと痛むけど、フーフーしたら治る程度。あいつも同じくらいの痛みを感じてはいるらしいが、そんな素振りを見せずにただ右手をダラリと下げてるだけ。タフやねぇ相変わらず。
………だが。
「……お前おかしいで? 普段のお前やったら俺なんて一捻りやろ?」
そう、こいつと俺とでは差があったはずや……あいつの方が、上のはず。
「…………。」
「………オイ、黙っとらんで何か言えや。」
「…………。」
じっと俺を睨みつけているだけで、口を開こうとしない。正直、イラつく。
「……チッ。シカトかい。」
ええ度胸やないか……俺にとってシカトがどれだけ嫌なもんか、十分わかっとるはずやねんけどねぇ?
「………まぁええわ。
もう加減せぇへんで?」
自らの氣を高め、大気中の水素をさながら磁石のように吸い寄せていく。龍二が『火』なら、俺は『水』。対極する属性で、明らかこっちが優位。
優位、やけど……相手が相手だけに、油断はでけへん。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………。」
濃縮した水素を周囲に集め、水を形成していく……さらに氣を高め、それらの水を
「おらぁ!!」
【キィン】
氷に変化させる。
「さ、て。発射準備完了。」
俺の体の周りに浮かぶ氷をフワフワ浮かせたまま、右人差し指をチョンと上へ向ける。
「ほな龍二。」
そして指をクルリと回して、
「悪いけど。」
ピッと対象に向けた。
「逝ってくれや。『氷虎華弾』。」
氷が一斉に弾丸を超える速度で、龍二目掛けて飛んでいく。
「!!」
腕をクロスさせた龍二はそれをガードしようと試みたらしい。が、無駄や。
【ザザザザザザザザザザザザ!!!】
「ぐぅぅぅぅぅぅ………!!」
氷弾は龍二の肌を掠めて切り、またはぶち当たって痣を作っていく。俺は次々と氷弾を作り出して顔をしかめる龍二に容赦なく撃っていった。
「ほれほれどうしたぁ? 避けなかったらいくらお前でも死んでまうでぇ?」
「…………!!!」
撃ちながら挑発。それでも龍二はずーっとガードしたまま動こうとしない。
…………………………。
「………まぁええわ。これで終わりや。」
いろいろ気になる点が多いが、そろそろ終わらしたろか。
「むんんんんんんんんん!!!!」
氷弾の嵐を一旦止め、全身の力を込めて持ち上げるかのように腕をゆっくりと上へ上げていく。
すると地面から水が浮き上がっていき、少しずつ集まっていき、やがて徐々に集まってくる数が増えていって、そして……
「いくで〜?」
俺の身長の倍くらいあるバカでっかい氷の砲弾の出来上がりや。
「『氷虎華砲』!!!!」
両手を突き出し、目の前にある氷砲弾をすでにボロボロの龍二に向けて射出する。
「!! がっっっ!!!」
大きさに似合わない猛スピードで飛んでくる氷砲弾を龍二は受け止めもせずにもろに顔面にぶち当たり、大きく仰け反りながら吹っ飛ばされた。
「ついでに。」
そして、俺は突き出した掌に力を入れ、
「『砕』。」
呟くと同時に拳を作った。
それを合図に、氷砲弾は一瞬で砕け散ってさながらショットガンの要領で無数の破片が吹っ飛んだ龍二に追い討ちをかける。
「―――――!!!」
もはや言葉にできないくらいのダメージを受けたらしい龍二はそのまま前方に聳え立つビルに突っ込んでビルを積み木のお城のように崩壊させ、さらにビルを破壊し……計六つものビルをさながら怪獣大戦争の如くぶっ壊していった。
「………呆気ないなぁ。」
土煙をあげる瓦礫と化したビルを見つめ、ポリポリと後頭部を掻く。さっきの警察と自衛隊の連中よりかはマシやけど、俺からしてみたらあいつはザコ同然やった。
ゆえに、全然楽しぃないわ。失望した。危機感なんてまるで感じんかったし。
「……………。」
何より……。
「お前らしくないやんけ。アホ。」
あいつにかかれば、あの氷虎華弾だって龍鉄風で防げたはずやし、何より全弾弾くか避けるかするやろ……砲弾やって簡単に砕けれたはずやのに。
何やねん……お情けのつもりかい。
「…………フン。」
……とにかく、とっととトドメさしたろかぁ……と。
つーわけで、元ビルだった瓦礫をドンドン蹴り飛ばして乗り越えて(つーかビルふっ飛ばしすぎてものっそ遠いがな)、大体五分くらいかけてようやく最後のビルがあった場所に辿りついた
………が………。
「……あいつどこ行ってん?」
龍二が倒れているであろう場所を確認してみたら、そこにはただ石ころが転がっとるだけで何にもなかった。
「…………。」
念のために周囲も調べてみたが……おらんわ。気配も感じへんし。
あの怪我で動けたか……やっぱさすが龍二やな。前言撤回。改めてあいつの凄さを見直したわ。
「そらそうでないとなぁ? おもろないもんな?」
クックッと静かに笑って、とりあえずその場を後にすべく背を向けた。
「…………にしても。」
空を仰げば、雲一つない、快晴の青空。建造物から立ち昇る黒煙は除いて、めっさ気持ちいい空や。
俺は、こういう空が大好きやったんや。
「……はぁ。」
昔はな。
「正味な話………こんな形で会いとうなかったわ。」
ポツリと漏れ出す俺の本音……その呟きは誰にも届くこともなく、消えていった。
〜アルス視点〜
「な……ぁ……。」
花鈴さん達のおかげで、どうにかシブヤの近くまでは来れた……けど、途中の駅で緊急事態につき通行禁止、となった時、焦った。
急がないといけないのに! ……けど、安全の守るためには、仕方ないことだと思う。けど今はそんなこと気にしてなんかいられない。
だから、咄嗟にスティルが通行止めしている人達を、睡眠魔法を使って昏倒させてくれたのは正直強引すぎる気もしたけど、この際しょうがなかった。
デンシャも使えず、必死になって走って、ようやく目的地であるシブヤに辿り着いて、
「なん……なのよ、これ。」
「うそ……。」
目の前にある荒れ果てた光景を見て……ただ立ち尽くすしかなかった。
以前、皆で買い物に来た時の面影なんて全くない。ビルに亀裂が走って、道路は割れ、車がひっくり返って炎を吹き出している。何よりもつらいのは、そこかしこに倒れている傷だらけの人達。
おそらく、もう生きてない。
「……うっ!」
「カナエさん!?」
隣のカナエさんが、死体やら何やらが混ざったツンとする臭いによって吐き気を催したらしく、膝をついてケルマの介抱を受けていた。
「……ひどい……。」
「ええ……これはいくら何でも、ひどすぎます。」
幾多の戦いを潜り抜けてきたリリアンとスティルも、この光景にただ圧倒されるばかりだった。
「…………リュウくん。」
「…………。」
でも、ボクは………
「リュウくーん!!」
「リュウジさーん!!」
リュウジさんのことで、頭が一杯だった。
「お、おいお前ら…。」
「龍二、どこだー!!」
「って久美まで!?」
「影薄、喋ってないでお前も探せ!!」
「わ、わぁったよ……ってこんな時ぐらい名前で呼んでくれませんかねぇ!?」
リュウジさんがテレビを見ている時の顔……あんな顔、普段のリュウジさんは絶対にしない。
「リュウくーーん!!!」
「リュウジさーーん!!!」
「二人とも、先走りすぎちゃダメよ!」
絶対、しないのに…………。
「リュウジさん!! リュウジさーーん!!!」
リュウジさん……!!
「みゅ!?」
「? クルル?」
突然、魔王が何かに気付いたかのようにある方向へ素早く顔を向けた。
「…………。」
「く、クルルちゃん? どうしたの?」
復活したカナエさんが口元をハンカチで拭いながら立ち上がった。
「………匂う。」
「………へ?」
は、はい?
「こっち!!」
「え!? ちょ、魔王待ってよ!?」
匂うって何!? って言う前に魔王が駆け出したから、ボクらは追う羽目になった。
「クルルちゃんちょっと速いって!?」
「魔王様プリーズウェイトー!!」
「黙れ。」
後ろからカナエさん達が追いかけてきてるけど、魔王は止まる気はさらさらないらしく、徐々に速度を上げていく。
「ま、魔王! 待ってよ!」
「こっちこっち!!」
呼び止めようにも、魔王は荒れ果てたアスファルトの道をタッタッと走って皆を引率していく。
「ん!」
「わっ!?」
「ぷひゃ!?」
いきなり急ブレーキをかけて停止した魔王の背中に止めれずに当たるボクとボクの背中に当たるフィフィ。
「いったた……魔王、一体何」
「しっ!」
「?」
文句を言おうとしたら、カルマがボクの口を封じた。
「クンクン……クンクン……。」
「……あの、あれ……。」
「魔王様は鼻が利くから、ああやって捜してるんだ。」
犬ですか。とゆーよりこんなところで新事実ですか。
「…………こっちー!!」
ひとしきり匂いを嗅いだ後、魔王はまた駆け出してボクらはその後を追う。
「……あいつは犬か。」
「マサさん、それボクも思いました。」
追いかけながら呟くマサさんとボク。
けれど、今回ばかりは魔王の……嗅覚? をアテにするしかない。
「フンフン……フンフン……。」
「……クルル、まだ着かないの?」
匂いを嗅ぎながら走る魔王に、フィフィがその後ろを飛びながら聞いて、
「!!」
「ぷぇ!?」
また急に魔王が立ち止まってフィフィが肩にぶつかった。
「リュウくん!!!」
「ちょ、急に立ち止まらないで……って、へ?」
鼻を抑えるフィフィを尻目に、魔王がある場所一点へと駆け出した。
その場所というのは……。
「? ここは………カフェ?」
大きな窓ガラスは砕け散り、中にあるテーブルやイスはひっくり返り、ガラスや石が床に散らばったせいで以前はおしゃれな雰囲気を醸し出していただろうと思われる店は無残にも荒れ果てていた。外壁にもヒビが入って、今にも崩れそう。
でも、ここからは何の気配も感じられないんだけど………………。
「ちょっとクルル! 待ちなさいよアンタ!」
フィフィが魔王を追って店の中へと入っていったのを見て、ボクらも慌てて追う。中に入ってみれば、外で見るよりも悲惨な状況で、床に割れたカップやコーヒーとかの液体が流れ出ていた。
でも、そんなのはどうでもよかった。
「………これ………は………。」
入り口から店の奥へと、大小さまざまな赤い点がポツポツと続いていた。踏むと、それはまだ湿っていて、靴を擦ると跡が線を引いた。
「これ……まさか、血?」
「…………。」
横でカリンさんが呆然と呟いたけど、ボクの耳のは入らなかった。
まさか、これは……そんな考えを、必死で振り払った。
そんなこと、あり得ないから。あり得るはずがないから。
けれど…………。
「魔王様、どこ行ったんですかー!?」
ケルマの声で思考を中断すると共に、ボクは魔王の後を追うべく店の奥へと走り出す。血も魔王が走っていった方角と同じ箇所に落ちている。
だから…………余計なことを考えてしまう。考えてはいけないことを考えてしまう。
そんなの…………ヤダ!
「魔王!」
奥の開いていた扉の中に飛び込むと、魔王とフィフィが背を向けて立っていた。
ただ、硬直したように動かないで立っていた。
「? 魔王、どうしたの?」
訝しげに思って、魔王の肩を叩こうと手を上げた。
「……リュウ、くん?」
手が、止まった。
「…え?」
魔王の肩越しから、その視線を辿る。
ダンボールや食器が乱雑に散らばる部屋にある、大きな棚。その棚にもたれかかるようにして、リュウジさんは座り込んでいた。
「ねぇ……ウソでしょ、リュウジ?」
体中を、真っ赤に染めながら。
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