第百六十の話 赤い過去
今回、多分グロい表現あるかもです。読む前にご注意を。
〜龍二視点〜
暗い。
暗い。
暗すぎる。
何も見えない。
辺り一面漆黒の闇だ。
上も下もわからない。
進もうにも体が動かない。
地に足を付けてる感触もなければ、浮いてる感じでもない。
ただそこにいるだけ……真っ暗闇の中、そこにいるだけ。
あれ? そういや前にもこんなんあったような気がするな。
いつだっけ?
いつ……………。
ふと、前を見てみた。
あ、目の前の黒が徐々に消えていく。
しばらくすると、一つの光景が見えて…………
見えて………。
…………。
あれ?
何でだ?
何で今頃?
どうして今頃になって?
何故今頃になってコンナ真っ赤な光景が浮かンでくるんダ?
……やめロ。
見たクない。
俺ハ知らナい。
何モ知ラなイ。
知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知ラない知ラナい知ラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイシラナイ
シラナイシラナイ
『チガウ
『オマエガ、ゼンブ
ウバッタ。』
「違う!!!!」
『!?』
………………………って、あれ?
『り、リュウジどうした? 大丈夫か?』
「…………。」
周りを見回すと、電気が消えて真っ暗になった自分の部屋がおぼろげながら見えてきた。音という音はせず、唯一聞こえるのは時計の針の音。
そんでもって、自分のパジャマを見てみれば汗で全身びっしょりで気持ち悪ぃ。
「…………スマン、何でもない。」
机に立てかけてあるエルの気遣いに軽く答える。時計を見てみれば夜中の12時21分だった。なんちゅう中途半端な時間に起きたんだ俺ぁ。
『そ、そうか……しかし、随分うなされていたぞ? 貴様にしては珍しく。』
「っせぇな。俺だってうなされる時ぐらいあるっちゅーねん。」
『いや全く想像つかないぞ。』
ムカっとしたが、今は着替えなおすのが吉。とゆーわけで、ベッドから出てタンスから新しいパジャマを取り出す。
「わり、着替えてくるわ。」
『あ、ああ……。』
若干気落ちしたように返事するエルを置いて、部屋を出た。
「…………。」
ドアを閉めて、何となく力が抜けた俺はドアにもたれてズルズルと滑り落ちていった。
「………………。」
ドアの前で座り込んだまま、電気が点いていない廊下の天井を仰ぎ見る。
「……………夢か…………。」
ただ、何となく……無意識のうちに口から出た。
「……もう、見なくなったと思って何年振りだな…………見たかなかったけど。」
誰に言うでもなく、ただただ一人ごちる。
ホント、夢に出なくなったと思って安心してたら……急に出てくんだもんな、あの夢。そらうなされるわ。
「…………フゥ。」
汗でだんだん体が冷たくなってきた頃、ため息ついたまま立ち上がった。
「ま、忘れんなってことだな。そういうことだろ。」
自己完結して、着替えるべく一階へと降りることにした。
それでも嫌な気分は拭いきれなかったけど。
―――――――――――
同時刻、夜の公園。
「や、やめて……。」
人気がまったくと言っていいほどない、公園に設置されてあるトイレの裏側……そこから、女性の涙声が聞こえてくる。
同時に、下卑た笑い声も聞こえてきた。
「おぉおぉ、嫌がっちゃってさぁ?」
「そそるねぇ? ……ヘヘッ。」
女子高生と思われる制服を着た女性が、三人ほどのカジュアルな服装を着込んだ男達に壁に押さえつけられていた。逃れようともがくが、男達は揃って大柄であるゆえに、か細い女性がかなうはずもなかった。
「大体、こぉんな時間にこぉんな人気のないとこ通ろうとしたお前が悪いんじゃねぇのかぁ? なぁ?」
「ま、そういうこった。怨むんなら自分を怨めよな?」
そう言った一人の男が、ビデオカメラを取り出す。
「さ、楽しむとしようか?」
「おー、待ってました。」
「ひっ…!」
ニヤニヤと笑いながら撮影の準備を始める男と、一人はポケットに忍ばせていたナイフを取り出して女性の制服をゆっくりと切り裂き始めた。
「い…んんううう!!」
「テメェ叫ぶんじゃねぇぞ? ちょっとでもうるさくしたら……わかる?」
女性が叫ぼうとすると、ニヤつきながら取り押さえていた男が口を強引に抑える。女性の顔には恐怖で歪み、目からは涙がボロボロと零れ落ちる。
「はーい、それじゃご開帳〜♪」
「んんんんん!!!」
ナイフを手にした男が、女性の制服を下から引き裂こうと力を入れた。
「ちょいと待ちーなお兄さん方。」
「「「!?」」」
が、突然声がして男達は飛び上がり、振り返った。
そこにいたのは、カジュアルな服装に身を包んだ、病的なまでに真っ白な髪を無造作にボサボサにした青年だった。その幼さが残る顔はニヤついてはいるが、男たちのいやらしい笑みとは違ってまるで子供が楽しみを待っているかのような笑みだった。
「何だテメェは?」
「何だテメェはってか!? そうです、私が、変な男です!!」
「…………。」
某ベテラン芸人の真似事をしておちょくる青年に、男たちは呆気に取られた。
「……おいテメェ、ざけてんのか?」
「いやいや〜、俺はいっつも大真面目やで? それより、そこの女の子放してやったらどうでっか? 嫌がってますやん。」
「は? テメェには関係ねぇだろ? 俺らはこれから楽しむんだからよぉ?」
明らか目の前の青年に楽しみを邪魔されたと言わんばかりに鬱陶しげな顔を隠そうともせず、男たちは睨みつける。
「ほほぉ、奇遇ですな。俺のこれからお楽しみのとこなんですよ。」
「あ、そう。じゃあ……。」
睨みも気にせずケタケタ笑う青年に、ナイフを持った男がその刃先を突きつける。
「悪いんだけどさ、これサツにちくられるとまずいんだよね? だからさぁ、運が悪いと思って…………なぁ?」
ツツっとナイフを首筋に当てて、ニヤリと笑う男に青年は硬直
「あぁ、心配せんでもダイジョブでっせ?」
「あ?」
もせずに、相変わらず笑い続けた。男は笑顔から一転させて眉をしかめる。
「俺、今からここで楽しむんですわ。」
「はぁ?」
わけのわからないことを口走る青年に、男はイライラしながら声を上げた。
「おい、いい加減そんな奴やっちまえよ。」
さっさと楽しみたいビデオカメラを持った男は、うんざりしたように振り返った。
【ズシュ!】
「………………あ?」
が、その顔は一瞬にして凍りついた。
「今から俺も楽しむんですわ…………
殺戮を♪」
男の背中からは青年の血に塗れた腕が突き出されており、男の腕からナイフがこぼれ落ちていった。
〜龍二視点〜
「ふぁぁぁぁあ……。」
「あれ、リュウジさんおはようございます……遅かったですね?」
「ああ、おはよう。ちょいとな。」
朝、といっても11時ジャスト。着替えてから一階に降りてみればすでに起床していたアルスらがテレビの前でのんべんだらりとくつろいでいた。しばくぞ。
「珍しいわね、アンタが私らよりも遅く起きるなんて。」
「俺だってたまにゃあ昼近くまで寝るっつーの。」
……夜中に起きてから再びあの夢を見ることは無くなったが……今でも嫌な感じは残ってやがるな。クソ。
「リュウくん、昨日疲れてたの?」
「うむ、さすがに幼稚園児達とヨサコイ踊り続けていたから疲れた。」
「ヨサコイ?」
適当に誤魔化した。
「ま、とりあえずお前らメシまだだろ? 朝昼兼用になっちまうが、それでもいいか?」
「いいよー!」
「あ、ボクもそれでいいです。」
「ま、しゃーないわね。」
フィフィのほっぺを軽くつねった。
「うにゃぁぁぁぁぁ!! にゃにするにゃぁぁぁぁぁ!!!」
「いや、態度がムカついたから。」
パチン! と放したら「あぅ!?」と叫んでヒラヒラ落ちていった。
「さぁて、何作るかなっと。」
台所へ入ろうと背を向けた。
『えー、引き続きニュースをお伝えします。今日未明、渋谷区にある公園で、男性三人の惨殺死体が発見されました。』
ふとテレビからアナウンサーの声が聞こえた。
「惨殺死体? ふぇぇ、いやだなぁぁ。」
「それ、魔王が言うセリフですか? かくいうボクもいやですけど……。」
「アンタらねぇ。」
フィフィ、いつの間にか復活。
『現場には遺体のそばで女子高生と見られる女性が意識不明の状態で発見されましたが、外傷はなく、命にも別状はない、とのことです。今後警察は女性の意識が戻りしだい』
クルルとアルスのげんなりする声と、フィフィの呆れた声。そしてアナウンサーの声が聞こえる中、俺はいつものことと楽観しつつまな板を出した。
別に、殺人事件なんてそう珍しい世の中じゃない。だからといって犯人を許せるほど俺は腐っちゃいねぇが、俺から犯人を探し当てようとする気はなかった。少なくともそういう気になる奴は正義感に満ち溢れてる奴ぐらいだ。つーかそんな奴なんて全国探しても一握りしかいないだろう。いるとも限らない。
『え? ……はい、わかりました。
失礼します。先ほど新たに情報が入りました。被害者の一人が持っていたとされるビデオカメラの中に、犯人と思われる映像が写されていたということがわかりました。』
「ほぇ? 犯人写っちゃってるの?」
「何だ、じゃあ事件解決じゃないの。呆気ないわね。」
「そう簡単にいくんでしょうか…?」
………犯人ねぇ………。
『では、映像をどうぞ。』
【ま………くれ………】
「? あんまりよく聞こえないね。」
「カメラが壊れてたんだろ?」
おまけに画像もジャリジャリが多くてほとんど見えないときた。こら証拠にもならんわ。
【な………ゆる…………も…………ないからさ………てくれよぉ!】
命乞いか……ものすごい涙声だな。
【…………………?】
って、犯人らしき奴が何か喋ってるみたいだけど全然聞こえねえじゃん
【許………? 大………………るん? おか……………か?】
……か……………………。
【ま………しても……………たけどなぁ?】
…………………………………。
【ほ…………地獄…】
【ギャ…………!!!!!!!!】
…………………………………………。
『………大変映像が乱れておりますが、警察はこれらの映像を元に』
「……………全然わかんなかったね?」
「とゆーより、顔なんて写ってないに等しいじゃないの。」
…………………………………………………。
「でも、声だけは聞こえましたよね? それなら何とかなるんじゃ」
【ダン!!!】
「!? り、リュウジさん!?」
気付いたら、俺はテレビを壊さんとばかりに掴みかかっていた。
「………………。」
背後でアルスらが何か言ってるが、そんなこと、どうでもいい。
「………嘘だ………。」
あれは………あの声は………。
「嘘だろ…………オイ………。」
何であいつが。
「なぁ………。」
何であいつの声が。
「嘘だって……………誰か、言ってくれよ。」
今回の話のメインキャラは…………わかりますよね? 大体?