第百五十三の話 今年一年、ありがとう
ギリギリ更新できました!
十二月三十一日……そう、年末である。
町は買い物客で賑わい、正月用にいろいろ買い揃えようとしている。
しかし、何と言っても一番ベタなイベントが待ち構えていた。
そう、それは年末の大掃除。
立つ鳥後を濁さず、というが如く、家中隅々まできれいにして新年を気持ちよく迎えようというめんどくさい教えが世の中にはある。メンドくさいので、作者は二十八日に全て終わらせました。まぁ作者の事情はゴミ箱にポイしよう。
そしてここ、龍二邸でも、今まさに騒動が始まろうとしていた……。
〜龍二視点〜
「おーしお前ら整れーつ!!」
「「「ふぁ〜い…。」」」
「シャキっとせんかーい!!」
「「「ふぁ〜い…。」」」
「ばんごー!!」
「い〜ち。」
「に〜い。」
「さ〜ん。」
「……。」
「「「おはよーございます!!!」」」
朝の八時。昨夜何かアルスとクルルが喧嘩してたらしく、おかげで寝不足の三人は寝ぼけ眼のまま整列、テンション高い俺はそんな三人に向けて三本指を立てて氣を集中、龍糸貫を放とうとした瞬間目が冴えたのか元気よく挨拶。
何故にこんなテンション高いのかと言うと、ズバリ、年末の大掃除だ。
いつもは一人で全てやるんだが、せっかく人数増えたんだ。有効活用しねぇとな。
「さて、ではこれより昨日言ってた年末の大掃除を始めたいと思います!!」
そして今の俺らの格好は、頭に白い頭巾を巻いていかにも掃除ムードである。
「で、まずはそれぞれ役割分担していくぞ。」
「「「はーい。」」」
返事はよし。
「じゃアルス。お前は風呂掃除と便所掃除。」
「は、はい!」
手渡したのは、柄付タワシ。本来なら手掴みなんだが、うちにはこれしかないからご愛嬌。
「次、クルルは窓拭きと和室の掃除。」
「はーい!」
クルルにはバケツと雑巾を渡す。
「フィフィはアルスかクルルのアシスタント。」
「任せなさい!」
体が小さい分、こういう役割に回すしかない。
「で、俺は台所とリビングを。」
最後、俺はスポンジを握る。
「終わったら俺に報告。また、何かあったら呼ぶように。わかったか?」
「「「イエッサー!!」」」
意外な返事に俺ビックリ。
「じゃ、解散!」
いざ、それぞれの役割の場所へ!
まぁそんなかっこいいこと言い終わって、さてさっさと掃除掃除。台所なんて軽く五分もかからんだろうから、早く終わらせてあいつらの様子を見に行くとしよう。
「フッフフ〜ン♪」
まずはシンクの汚れを洗剤の付いたスポンジで力強く擦り、汚れを落としていく。若干汚れで白くなっていたシンクは、見る見る綺麗となっていく。
「リュウジ〜?」
「? どうしたフィフィ?」
シンクを洗ってたら、フィフィがスイ〜っと飛んできた。
「ちょっとアルスがわかんないとこあるって。」
「アルスが? ……わかった。」
あいつ風呂掃除結構やってるからわからないことって早々ないと思うんだがな?
まぁそんなことは胸に秘めて風呂場へ。そこでアルスは、こっちに背を向けながら腕組んで頭傾けていた。
「おいアルスどした?」
「あ、リュウジさん……実はここの洗い方がわからなくって。」
「どこ?」
指差されたのは、排水溝……何で?
「普通にこれ、蓋取って髪の毛取って洗えばいいじゃねえの。」
「え、取れるんですかこの網?」
「考えつけよこれくらい。」
「す、すいません…。」
申し訳なさそうに顔を赤くして謝る。ま、しゃーねぇなこんなとこ、滅多に洗わねえし。
「またわかんなくなったら呼べよ?」
「あ、はい。ありがとうございます。」
「ごめんねー。」
とりあえず風呂場は再びアルスとフィフィに任せ、リビングに戻ろう……としたが。
「……そういやクルルの奴はどうしてんだろーな?」
『窓拭きしてると思うが。』
言い忘れてたが、エル俺の腰。
「…どれ。」
様子を見るため、ドアをちょっと開けてクルルの様子を見てみた。
「え〜っと、これを窓の吹きつけて磨けばいいんだよね?」
手にしたスプレー缶を顔の前に寄せて確認する。
【プシュー】
「ぶっ!?」
あ、うっかりトリガー押して自分の顔に吹きつけやがった。
「びえええええん!! リュウくーーーん!!!」
『………助けないのか?』
「自業自得だから無視する。」
目には入っていないようだしな。
「うぅぅ……負けないもん。」
何にだ。というツッコミは飲み込んでおいた。
とりあえず、気を取り直してスプレー缶を窓に向け、さっきみたいにトリガーを引いてシュッシュと吹きつけていく。洗剤はメレンゲのように泡立ちながら、窓からゆっくりとすべり落ちていく。
「…………。」
それをじっと眺めていたクルルは、おもむろに舌を出して泡を
「チェストー。」
「ぴやぁ!?」
舐めようとした瞬間、俺のスライディングキックが華麗に決まって阻止できた。
「何しとんねん。」
「だ、だって……おいしそうだったから。」
「食ったら腹壊すぞ。そんでまずいぞ。」
『食ったのか貴様。』
うん。でも腹壊してない。普通の奴が食ったら多分腹壊す。
「とにかくもう変なことすんなよ?」
「はーい…。」
拗ねた顔のまま洗剤の上をゴシゴシと擦っていき、窓を磨いていくクルル。
「んじゃ俺も仕事に入るか。」
『ああ。』
俺はエルと一緒に台所に入って掃除に続きを始めた。
〜数分後〜
「……お水替えてこようっと。」
床磨きをしていたクルルが、汚れた水を交換しようと重いバケツを持って立ち上がった。
「んしょ、んしょ……。」
一生懸命バケツを持って洗面所へ向かうクルル。
…………。
何か不安。
「わひゃああああ!?」
【バシャーーン!!】
…………………。
『……コケたな。』
「コケたな。」
不安的中。
…わかりきってるが、一旦ガスコンロの周りを拭くのを中断してクルルがいるであろう廊下を覗き込んでみた。
「えぅぅぅ……どうしよぉぉぉ……。」
水が廊下に広がって見事な水浸しとなっている中、クルルが半泣きのまま座り込んでいた。
ん〜、助けてやってもいいが、この状況をクルルがどういう行動を取るのか……見ててやってもいいだろう。
「………………。」
とりあえず泣くのをやめて、ゆっくりと立ち上がって洗面所へ歩いていく。しばらくすると、緑色の雑巾を手に戻ってきた。
なるほど、まずは拭くわけだ。当然だよな。
「……よいしょ。」
膝をついて雑巾で水をかき集めていき、手前へ寄せていく。そしてクルル自身も少しづつ後ろへ下がっていき、水の被害を拡大させつつやがて洗面所のところまで行き、アルスは今トイレを掃除しているため誰もいない風呂場へ水を持っていき、丁寧に水を風呂場のタイルの上に流していった。
「よし!!」
やり遂げた顔で汗を拭うクルルの顔は、まさに爽やかだった。
「あ、そうだバケツの水…………ん〜、持ち上げて入れるのめんどくさい……。」
少し考えた後、洗面所から顔を出して周囲を見回す。俺は咄嗟にリビングに戻り、隠れた。
「……リュウくん、今掃除中のはずだから聞こえてないよね。」
いえ、丸聞こえです。
「よーし……。」
そしてバケツを玄関に持っていき、玄関前に置いてあるお中元でもらったダンボールの蓋を開けた。
「そーれ、キレイなお水ー♪」
中から取り出したのは、ミネラルウォーターの一リットルペットボトル。その蓋を開けて逆さまにして、バケツに一気に注ぎ込んでいく。
「フフ〜ン♪ らっくち〜ん♪」
…………。
「ク〜ルル〜?」
「ッッッッッ!?」
気配を消して俗に言う猫なで声という奴でクルルの名前を呼んで背後に立つと、漫画で言うギックゥ! という擬音が出るくらい飛び上がった。
もう遅い。俺の溜めに溜めまくった怒り、爆発前。
「何しとんじゃああああああああああああ!!!!!!」
「ミッギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
「ちょ、リュウジさんどうしたんですか…って!? 魔王それボクのタオル!?」
「あ〜あ、見事に汚れちゃったわねアンタのタオル。」
クルルが水浸しの範囲をいい感じに広げたおかげで、今年の掃除は午前中だけで終わることはなかった。
〜夜〜
「まったく……お前は余計な問題無駄に増やしやがって。」
「うぅ…ごめんなさ〜い…。」
大掃除も昼過ぎに無事に終わり、その後はおせち作ったり(クルルつまみ食いしようとしたのでチョップかました)して今は夜。今年残されたわずかな時間をまったり過ごそうと、俺らはおコタに入って年越しカウントダウンテレビを見ていた。
そして目の前には、年越しには欠かせない年越しラーメンが置かれてある。何? 蕎麦ちゃうんかと? んだよ好きなもん食って年越すの何が悪い。
「…まぁいいか。今年も無事に年越せそうだし。」
『そういう時に限って何かが起こるんじゃないのか?』
「うんダマレ?」
『スマン…。』
ラーメンを啜りながら横目でジロリとエルを睨んで黙らせた。たまには何も起こらないでいいじゃん。
「……あの、リュウジさん。」
「? 何だ?」
ふと正面にいるアルスが話しかけてきた。因みにおコタに入っていながら正気を保っていられるのは目の前にあるラーメン食うのに夢中だから。食い物あったら平気てアァタ。
「今年が終わるっていうのは、一年過ぎるっていうことですよね?」
「ん? …まぁそうだな。」
それは間違いないが、だから何だ?
「……今思ったんですけど……
ボクらが出会ってから、一年過ぎようとしてるんですよね?」
…………あそうか。
「そういやお前ら来たのって結構前だったよな?」
「はい……何だか、この家でお世話になって一年過ぎるって思うと妙に切なくて……。」
「そうだね〜……。」
「…そうね…思えば、一年いろいろあったわよね。」
「…………。」
一年……そういや、今年一年は今までと何かが違う。
去年の今だと、一人で学校行って一人でメシ食って寝て、クリスマスとか年末とかではたまに雅達と集まったり、そうじゃない時は一人で大掃除して一人で年越して……一人ばっかだったな。
だがまぁ、別に寂しいとかそんなん思ったことはない。そん時はそん時で、自分なりに楽しもうといろいろしたからな。
……だが、こうやって我が家で、それも雅達以外で、クリスマスや年末を過ごす、ということはなかった。
つか考えてみりゃ、こいつらがこの世界に来てからおもしろくない日、なんて物自体が存在しなかったなぁ。
………………。
「……アルス。」
「はい?」
「クルル。」
「ふにゃ?」
「フィフィ。」
「へ?」
「エル。」
『何だ。』
今までと違う毎日を送れるようになったのは、他でもないこいつらのおかげ……なら、今年が終わる前に、今の気持ちを口に出して言おう。
「今年一年、あんがとな。」
感謝、という言葉で。
「「「『…………………………。』」」」
「……? あ? どしたん?」
何か全員硬直した。
「……あの、リュウジさん?」
「大丈夫? 風邪じゃないよね?」
「病院行く?」
『ついにイカれたか?』
「そうかそうかそんなにお前らは死にたいというのかならばご要望にお応えして」
「「「『マジすんません!!!』」」」
この野郎ども、せっかく人が感謝してんだから素直に受け取っとけ。
「……ま、いいか。」
それより……。
<さぁ今年一年も後残り三十秒をきりました!!>
「……あの、リュウジさん。」
「リュウくん。」
「リュウジ。」
『リュウジ。』
「ん?」
テレビの中でカウントダウンが始まると、何かアルスらが言いにくそうにもじもじし始めた。
「えっと、ボクらから伝えたいことが……。」
「ん、何だ?」
「…ボク、この一年でリュウジさんに出会えてよかったです。」
「私も、この世界来てよかった。リュウくんに会えたもん。」
「まぁ、いろいろあったけど悪くないわね。アンタとの生活。」
『私は……拾ってくれたのは感謝してやろう。だ、だが別に会えてよかったってわけではないんだからな!!』
………………
フッ。
「お前ら。」
<五秒前!!>
テレビの中の女性レポーターが興奮した様子でカウントのボリュームを上げた。
<四! 三! 二! 一!!>
「今年もよろしくな。」
寒い夜、新たな一年が始まる。
そんな中、俺らの家はいつものように暖かかった。
今年も、よい一年をすごせますように。
またこいつらと、楽しく暮らせますように。
考えてみれば、この小説ができて長いですね……それが、こんな長いこと続いてるなんて、何だか信じられません。
これもひとえに、皆さんの応援のおかげでここまでこれました!
また来年も、勇者以上魔王以上をよろしくお願いします!!
では、皆さん! よいお年を!!