第百五十二の話 メリクリ
かぁなり遅いクリスマスの話。
〜ライター視点〜
十二月二十五日……それは聖なる夜、クリスマスの日。
子供達はサンタクロースからのプレゼントをベッドの中で楽しみにしていたり、
カップルは互いにプレゼントを交換してさらに仲を深めたり、
そんな夜でも、バイトに精を出す若者がいたり。
そんな光景が町中で見られる日。そして、もちろん彼らも彼らなりのクリスマスの過ごし方でこの日を楽しんでいた。
「寒いねーリュウくん。」
「ああ、寒いな。」
「むゅ…寒いです…。」
「寒いわねー。」
『寒い……ことはないが。』
上からクルル、龍二、アルス、フィフィ、エルが順々にコタツに入りながらしみじみと言った(エルはさすがに入れないので龍二の横に立てかけてある)。この日の気温は、最近の地球温暖化にも関わらずにマイナスをいい感じに突破しており、寒がりさんにとってはまさに極寒地獄である。いや言いすぎか。
「ホント、こんな日はずっとおコタに入ってたいわね。」
「さんせー。」
「全く、おコタは冬の主役だな。」
「そういうリュウくんはこのくらいの寒さでもおコタ無くても大丈夫なんじゃないの?」
「そりゃ確かにそうだが、あれじゃん? せっかくの冬なんだから、おコタ満喫しないと人生大損じゃん?」
『そこまでか。』
「オゥイエ。」
「どうかんー。」
アルスもいい感じにキャラが崩壊しており、フニャっとした顔のままコタツにうつ伏せの状態で潜り込んだ。因みにフィフィはアルスの頭の上で同様な感じでくつろいでいる。
「ま、とりあえずのんびりしますか。」
「「「はーい。」」」
「………おい。」
「「「「『?』」」」」
「何で家のコタツでまったりしてんだお前ら。」
キョトンとした龍二達に、お玉を手にして白いエプロンを着けた雅が仁王立ちしながら的確なツッコミを入れた。
そう、ここは何を隠そう雅の家。そして龍二達はその家のリビングに置いてあるコタツの中でのんびりまったりちゃっかりくつろいでいた。
因みに雅が彼らを迎え入れたわけではなく、雅がキッチンから出てリビングに入ると龍二達が何故かいたという展開に。ぶっちゃけた話不法侵入だ。
「つーか、いつからいた。」
「あ〜……話すと六時間はかか」
「十秒以内でまとめろ。」
龍二を遮って素早く切り返した。さすが親友。
「んじゃ私が説明するわ。」
フィフィがコタツから這い出てテーブルの上に立って挙手した。
「えっとね、大体五分ちょっと前かな? さっき龍二が雅の家の壁を押して」
「わかったもうその時点で大体何したか理解したとりあえず警察行けそして壁直せ。」
フィフィの言葉も遮り、華麗に早口で彼らの罪を咎めた。
「壁直したらこの家の侵入通路無くなるだろ?」
「それが俺らにとって問題なんですがっつーかそんなもん作るな。」
今宵の雅はさらに冴え渡っていた。
「まぁいいじゃねぇか親友のよしみって奴で。」
「限度があるっつーの。」
雅は何か若干疲れた顔をしていた。
「あら、龍ちゃん来てたの?」
「おお涼子さん。邪魔してんぞ。」
「お邪魔してまーす♪」
リビングの扉が開き、にこやかな笑顔を浮かべた涼子がごく自然に会話に参加した。
「あれ、フィフィ……アルスは?」
「ああ、スティル。」
「みゅー。」
「…………あ、アルス?」
続いてスティルもリビングに入ってきて、コタツから体を出してフニャ顔のままテーブルの上に顎を乗せた普段とキャラが違うアルスを見て当たり前のように絶句した。
「……まともなのは俺とスティルだけかよ。」
「それが運命。」
「残酷な運命だな。」
龍二がサラリと言い、雅は皮肉を込めて言い返した。
「…んで? 今日は一体全体何の用なんだ?」
いろいろ諦めたように雅がため息吐いた。
「うむ、用というのは他でもない。」
そんな雅の様子は見なかったことにして、龍二達は懐をゴソゴソ漁った。
【スポ】
「パティるぞ。」
「………………は?」
取り出したのは、頭の上に白いフワフワのボールが付いた赤い帽子。いわゆるサンタの帽子。それを龍二達はほぼ同時に装着した(フィフィのは香苗の家にあったドールハウス〜クリスマスセット〜の人形が付ける奴)。
「……あんだって?」
「パティるぞ。」
聞きなれない単語を二回聞いて、目を点にさせる雅。
「ああ、いいわね。パティりましょう。」
「待てコラ姉さん。」
一人変に理解力のある姉が快く承諾。雅はすかさずツッコんだ。
「あの、パティるって……どういう意味なんですか?」
理解力の無い常識人、スティル。
「スティルわからずやー♪」
「常識ないわね。」
「意気地なしー。」
常識力のある変人、クルルとその一味。
「いやちょっとアルス!? 常識ないのと意気地がないのは関係ないでしょう!?」
「うゃー。」
コタツに入ってボケキャラへと進化を遂げたアルスに戸惑いと驚きとショックが入り混じった声でツッコミ入れた。
「…で、どうでもいいけどパティるって何だ。」
「あれだ。パーティするぞの略だ。」
「略すなんなもん。わかりにくいわ。」
龍二のわかりやすい説明に雅がバッサリ。
「つーかお前、家でやれよ。」
「お前の家がでかいからやりやすいんだよ。」
「だからって……。」
「あらいいじゃない。ちょうどパーティしようとしてたし、三人だけでするのは寂しいし。」
「…………わぁったよ。クソ。」
姉がゆったりと暴露して雅が髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
「ふむ、じゃちょうどいいじゃん。やろうぜ。」
「…………でもな、一つ問題があるぞ。」
雅が若干困り顔になった。
「飯なんだけど、俺と姉さん、スティルの三人分しか作ってねぇぞ。お前らが来るなんて知らなかったんだからな。」
「ここに手作り麺と特製スープの入ったポリタンクがあります。」
「テメ普段大雑把なクセにこういう時だけ用意周到だな。そんでこの期に及んでラーメンかよ。」
どっから出したのかデデンと麺入りタッパー十個、ドドンと赤いポリタンク五個を龍二はコタツの横に置いた。
「後ほれ、七面鳥。」
さらに懐からクリスマスの定番を出した。
籠ごと。
「ってこれ生きてるじゃねえか!? 普通焼いたの持ってこいよ!?」
「あえてウケを狙ってみた。」
「狙うな!!」
籠の中でバッサバッサと暴れる七面鳥を見て「かわいー♪」と和んでいる女性陣を尻目に雅が珍しく怒鳴った。
「とゆーわけで……メリークリスマース。」
『クリスマース!!』
カチン、とコップが軽くぶつかり合う音をたてる。
なんやかんやでコタツから出て、広いテーブルに移動した面々。テーブルの上には雅の手製ビーフシチューとポテトサラダ、さらに龍二手製のクリスマスラーメン(ニンジンなどの赤い野菜やレタスなどの緑色の野菜をトッピングした白いとんこつラーメン)が並んでいる。
そんでもって雰囲気を出すためか、全員サンタ帽子被っている(雅とスティルに関しては半ば無理矢理被せられた)。
「んぐんぐ……うん、相変わらずおいしいわね雅♪」
「マサ、これかなりいけますよ。」
「あ、ああ……。」
ビーフシチューを頬張る姉とスティルに褒められ、照れて顔を逸らす弟。まんざらでもないようだ。
「おいしいですよマサさん。」
「うん、おいしー!」
「やるじゃん。」
「……ありがとよ。」
ポテトサラダを食べた三人娘から賞賛されて、ますます顔を赤くした。
「味濃いな。」
「黙って食え。」
龍二の辛口な評価は冷たく返す。
「ん、ところでよ。他の連中とか呼ばなかったのか?」
雅がビーフシチューの肉を口に入れつつ尋ねる。
「おお、花鈴はバイト、久美は旅行、香苗は生徒会企画のクリスマスイベント、影薄はどうでもよかった。」
「あぁ、ならしょうがねぇな。」
「え、あの、影薄って…。」
「アルス、そこは黙ってよ?」
アルスはコタツから出たことによって人格が元通りになったため、ツッコミ役が三人に増えた。
そして影薄に関してはノーコメントという雅は案外大物かもしれない。
「ん、にしてもホントおいしいわね。あのマサ一人で作ったなんて思えないわ。」
「それどういうこったフィフィ。」
さり気なく毒吐いたフィフィをジロっと睨む雅。
「ん〜、ホントは私もお手伝いしたかったんだけどね?」
「「…………。」」
涼子がニコニコ顔のまま小首を傾げると、雅とスティルは顔上半分に影を落として沈黙した。
「? マサさん? スティル?」
「どしたのー?」
そんな二人を見て訝しげに思ったのか、アルスとクルルが二人の顔を覗き見る。クルル、口の周り拭きなさい。
「……姉さん、俺ら普段から姉さんに世話かけっぱなしだから今回は俺らに全部任せてくれ。」
「せめてもの恩返しというわけで…はい。」
「あらそうなの? でも悪いわ。」
「いや頼むからじっとしといてくれお願いだから。」
「お願いします。」
「ん〜、しょうがないなぁ♪」
何故か半泣きな二人に対して全く気付いていない涼子はクスクス笑った。
「リュウくん、ラーメンおいしい♪」
「あ、そう。まだ食うか?」
「うん!」
で、どこ吹く風という風に龍二はクルルの空っぽの丼にラーメンを追加した。だからクルル口の周り拭きなさい。
「えー……龍ちゃん、私ピーマン嫌いなんだけど……。」
「ダメ、食べなさい。」
「え〜?」
「食べなさい。」
「食べろ姉さん。ピーマンにはビタミンAとCが豊富なんだぞ?」
「……は〜い。」
お母さん肌な龍二と、意外と博学な雅に言われて渋々という風にラーメンの上に乗ってるピーマンを口に運び、ニャンニャン食べる涼子。行儀悪い。
「…リョウコさんって、精神年齢いくつなんですか?」
「お前と同じくらい。」
「えぅ!?」
「ま、つまりバカってことね。」
「………フィフィ?」
「フィフィちゃん?」
「え、ちょ、二人ともちょっと待ってそれ殺虫剤いやあああああああああああ!!!???」
「フィフィーーーー!!??」
スティルが叫ぶ中、静かに怒ったアルスと涼子の手によりフィフィはとんでもないことになりました。
「マサくん、おかわり♪」
「……あ、うん。」
全く気にせず、無邪気に笑いながらビーフシチューの空の器をクルルは差し出す。だから口の周り拭け。
「さて、メシも終わったところで。」
平和で楽しい食事も終わり、龍二はクルルの口周りを拭き、食後の余韻に浸りつつ切り出した。
「そんじゃそろそろパティーの目玉といこうか。」
「パーティな。それだと人の名前だろが。」
取り仕切る龍二に爽やかなツッコミを入れ、呆れる雅。
「よし、皆持ってきたもん出せー。」
「「「はーい。」」」
「? 何だ?」
元気よく返事する三人娘に、雅は疑問符を浮かべた。
「ほら。」
【コト】
「はい。」
【コン】
「よいしょ。」
【ポス】
「そらよ。」
【トン】
上からフィフィ、アルス、クルル、龍二、がそれぞれ色鮮やかな紙に包まれた物を取り出した。一つ一つの重さは音で知るべし。
「……これは……まさか。」
「そ。プレゼント。」
「ああ、プレゼント交換ね♪」
「ご名答。」
音楽の中、隣の人に持ってきた奴回して、もう一人隣から渡されて、それも回してまた渡されて、そして最後に音楽が止まったら持ってる物がその人のプレゼントというよくあるゲームである。
「…何でお前ら、俺らがしようとしてたイベント知ってたんだ?」
「気合と根性で。」
「答えになってねえ。」
そこは“勘”とでも言っておけばいいのに。
「まぁいいじゃんいいじゃん。お前らもさっさと出せよ。」
「……はいはい。」
もうどうにでもなれという感じに、雅は懐から掌サイズの紙包みを取り出した。
「プレゼントは五百円内だったよね?」
「……あの、それ金額内に入る大きさですか?」
細長い包みを取り出したスティルは、横で体ほどの大きさのある包みをドデンと出した涼子に静かに言った。
「よぉし、じゃ回すか。」
「で? 音楽何にするの?」
「あ、それか。」
フィフィに言われて思い出したように掌を叩いた。
「やっぱクリスマスっぽい曲でいいんじゃねえか?」
「うし、じゃこれだ。」
そう言って龍二が取り出したのは、一枚のCD。
「? 何の曲だ?」
「中島み○きの『うらみ・ます』。」
「とりあえず怨まれろ。」
雅はごく当たり前のように聞いてごく当たり前のように答えられてごく当たり前のようにツッコんだ。
「何でクリスマスにんなくっらい曲聞かにゃならねえんだよ。」
「じゃ他に何がある!?」
「そんな『マジで!?』的な顔で言われても俺はお前という人格を疑わざるをえない。」
痛いとこ突かれた。
「ん、まぁアメリカンジョークはこんくらいにしようか。」
「どの辺がアメリカンジョークなのか五百文字以内で答えろ。」
「とりあえず『赤鼻のトナカイ』やろうか。」
龍二は雅をごく自然に無視した。
「よーし、じゃミュージックスタートよ!」
「リョウコさん、何でそんなテンション高いんですか?」
「いつものことですよ、アルス…。」
意気揚々と涼子がどっから出したのかCDコンポのスイッチを入れるのを、半ば呆れたように見ているアルスとスティル。
そして鳴り出した音楽。音楽が鳴ると同時に回りだしたプレゼント。グルグル回るプレゼント。龍二は隣の雅から受け取ったプレゼントをアルスに投げつけた。
「いた!?」
さらに回ってきたプレゼント。そして龍二はさらに投げつけた。
「みぎゃ!?」
さらにさらに回ってきたプレゼント。龍二はそれをアルスの顔面に叩きつける。
「ぴぅ!?」
さらにさらにさらに回ってきたプレゼント。龍二は今度はアルスの後頭部をグーパンチ。
「ぎゅ!?」
さらにさらにさらにさらに回ってきたプレゼント。龍二は今度はふんがむんが。
「リュウジさああああああああああああああああああん!!!!!!」
「あ、怒った?」
「当たり前だボケ。」
結局、アルスがキレて怒鳴ったところで中断した。
気を取り直して再チャレンジ。アルスは今度は理不尽な攻撃を受けないよう涼子と位置を交換した結果、何事もなくプレゼント交換は終了。アルスは「何でボクだけ…。」とブツクサ言っていた。
「よぉし、じゃプレゼント開けてみましょー。」
いつの間にか涼子が取り仕切るようになっていたが、そんなことで渋る龍二じゃないのでイソイソと包みを破っていく。
「わーこれかわいー!」
「あ、私ね。」
「……リョウコさんらしい。」
クルルがもらったのは身の丈ほどあるでっかいテディベア。それを見て苦笑するスティル。その後、持ち上げてぺチャンとぬいぐるみに負けたクルル。
「え、これは…。」
「あ、私のー♪」
「……あの、龍二さん」
「交換せんぞ。」
そしてクルルからのプレゼントをもらったアルスは、手にした交通安全のお守りを龍二に差し出して断られた。何故お守りがプレゼントなのか。それは一重にクルルの優しさである(ホントは買う物に悩んでる所を偶然お守りが目に入ったんでそれにしただけ)。
「わ、何これ!?」
「ああ、私のですね。」
「……スティル、何でコレなんだ?」
「いや、心惹かれたというか…。」
「……。」
フィフィに渡ったのはスティルのプレゼント。その正体は先端に丸い鉤爪が付いた子供用のマジックハンド。雅はスティルの感性も疑い始めた。第一フィフィには大きすぎて持てません。
「お、これは何だ?」
「あ、ボクのです……ど、どうですか?」
「おもしろみも欠片もねぇが、これは純粋に嬉しいかもしれん。」
「…………最初の方は余計です……。」
アルスのプレゼントは、商店街にある服屋『Happy Happy』で購入した黒いキャップ。早速龍二は被ってみた。何気に喜んでいた。
「……これは?」
「あ、それ私の。どうよ?」
「いやどうよって……これどうしろと?」
フィフィからのプレゼント、ヒマワリの種が詰まった袋を貰ってどうしようか首を傾げるスティルなのであった。ハムスタースティル誕生。
「あら、これはまたシンプルで可愛いわね?」
「……俺のだ。」
「へぇ、ありがと雅♪」
「…………あ、ああ。」
照れて顔を赤くする雅に、涼子はもらった若葉色のハンカチを手にしながらニッコリ笑った。雅はますます赤くなった。シスコンである。
「……で、お前のなんだけど……なんだこれ。」
「お前の成長を願って。」
「これ俺に回ってくるよう仕向けたのかお前? つか俺は絶対成長せんぞコラ。」
そして雅がもらった物。それは龍二が吟味して買ってきた、上質な紙を使った高級ハリセン。ツッコミマスター目指して、いざ夢に突き進め。そういう意味合いが込められた代物である。
「んなわけあるかい。」
見事なツッコミである。
「じゃ最後にエル。お前にもプレゼントだ。」
『……何だこれは。』
「砥石。」
『お前はあれか? 私を某狩猟ゲームの武器として見てるのか?』
「ううん、包丁。」
『お前なんか呪われろ。』
とゆーわけで、エルのクリスマスプレゼントは砥石となりました。
「さて、では最後。」
「……これ終わったら帰れよ。」
プレゼント交換も終わり、パーティ最後のイベント。雅は何かちょっとげんなりしている。
「最後と言ったら……。」
「最後と言ったら?」
涼子がメチャクチャキラキラ目を輝かせ、アルスが期待に満ちた顔で聞く。
「最後っつったら……。」
ゴソゴソと龍二がコタツの中を漁る。
「クリスマスケーキだろ。」
「どっから出してんだ。」
ドドンとテーブルの上に置いたのは、ブッシュドノエルと言われている大きい丸太型のケーキ。ベースはチョコクリーム。上には砂糖菓子のサンタや雪だるまやら。
因みに雅のツッコミは総無視。
「わはー! おっきー!」
「え、これリュウジさん手作りですか!?」
「うんにゃ、買ってきた。」
ズコーっとこける龍二と涼子以外。
「だぁってめんどいもんよケーキ焼くの。」
「……つかこれどこの?」
「駅前のケーキ屋。」
「マジ!?」
さすがの雅も度肝を抜かれた。
そこのケーキ屋は人気雑誌のランキング一位に輝く、超有名店。当然、客足は絶えず、クリスマスの時期になると予約しない限り絶対買えないと言われている。おまけに値段が高い。
「お前、もしかして予約してたのか?」
「アホか。あんなケーキワンホールで千なんぼする奴なんか買ってられっか。」
「……じゃ何で。」
「店長脅した。」
「うん聞いた俺が間違っていた。」
あの龍二が見栄はって高級ケーキを買うような性質じゃないことは理解していたがまさか脅すとは思ってなかった雅であった。
「まぁいいや。とりあえず切り分けるから皿出せ皿。」
「「はーい♪」」
「は、はい。」
輝かんばかりに無邪気な笑顔をしながら皿を差し出すクルルと涼子、そしておずおずという風に差し出したのはアルス。
「サクランボ乗ってる奴にしてね。」
「私はどれでもいいです。」
「……俺も。」
図々しく注文するフィフィと、謙虚な雅とスティルであった。
パーティの醍醐味の一つであるケーキを、皆おいしくいただきました。
「「かりゃああああああい!!??」」
「誰だ、二人のケーキにカラシ入れた奴。」
「百パーセント間違いなく明らかに圧倒的にお前だ龍二。」
アルスとクルル以外。
〜夜中〜
「んにゃ……みゅ。」
「スー……。」
「クピー…。」
夜中、雅の家リビングにて。いろいろ騒いでさすがに疲れた三人娘は、そのままリビングでコロリと横になってすぐに寝息をたて始めた……ので、しょうがないからリビングに布団をしいてそこに寝かせてあげ、龍二達は一泊することとなった。
深夜だからか、リビングには三人それぞれの寝息のみしか音がせず、とても静かだった。
【カチャ】
「…………うしうし。寝とる寝とる。」
そんな中、リビングの扉を開けて様子を見てから小声で呟く影が一つ。
『リュウジ、起こすなよ?』
「当たり前だっつーの。」
ランプのわずかな明かりに照らされ、龍二の顔が明らかになった。後腰にはエル。
因みに、肩には白い袋が担がれている。
「え〜と〜……。」
アルスの枕元にしゃがみ込み、袋を漁る。
「……あったあった。ほれ。」
そして、寝てるアルスの顔の横に赤い紙に包まれた四角い箱を一つ置いた。
「そんでほれ。」
今度はクルルの横に、同色の紙だが細長い箱を置く。
「よいしょ。」
最後、フィフィの顔……じゃなくて体の横に、フィフィの体分ある箱を置いた。
「……うし。」
三人置いたのを確認し、満足気に頷く龍二。
三人のことだから、起きたら大騒ぎするだろう。何て言ったって一番欲しがってたのが箱の中に入っているのだから。
『…にしても、今さら思うのもなんだが貴様どうやって三人の欲しい物を?』
「ん、こないだ夜中に三人が欲しい物を語り合ってたのを偶然聞いた。」
『……何ともまぁ、タイミングがいいな。』
「まぁな。」
一人と一本はそんなことを話しながら、リビングを後にするべく扉を開いた。
「あ、そうそう。」
そして扉を閉める瞬間、ふと思い出したように言って顔だけリビングに出した。
「三人とも、メリクリ。」
略したら台無しな言葉を、聞こえていないであろう三人に向けて言ってから静かに扉を閉じた。
メリー・クリスマス。
どうも。何で今年ギリギリでこんな話載せたかったのかというと、
載せたかったんです。どうしても。
まぁそんなわけで!!