第百五十の話 おコタ(コタツ)の魔力はキャラをも変える
久しぶりの本編更新。今回はまったりのんびり冬の出来事。
〜龍二視点〜
ある日の夜のことである。その日は、冷たい風が吹き、枯れ葉がクルクルと舞っていた。その舞いがどことなく阿波踊りに見えた。うっそーん。
つーわけで、世間一般的に最近寒くなってきたっつーことでおコタ(我が家の呼び名でコタツのこと)を出すべく物置を漁る。いざ出す時を考えて、去年は取り易い位置にしまっておいたから、出すのに時間はかからなんだ。
「あ、よいせっと。」
ドン、と和室の真ん中に。和室にはすでにフカフカのマットを敷いているため、ヌクヌク感倍増である。
「これで……うし。」
で、コンセントを差して、スイッチを入れて……オマケに、ミカンがたっぷり入った籠を真ん中に置けば。
よし、おコタの完成。
「ふむ、いつ見ても凛々しい姿だな、おコタよ。」
腰に手を当て、満足気に頷く俺。もうね、おコタは最高だね。その姿のみならず性能までも抜群。
「……おーい、お前らー。おコタ出したぞー。」
おコタも出したわけだし、リビングで寒さで震えている三人娘を呼ぶと、
【ドドドドドドドド!】
「お・コ・タ・スライディィィィィィング!!!!」
はい勢いよくおコタに足から滑り込んできたのはバカクルル。変な技名。
「にゃはー! あったきゃ〜い♪」
おコタに全身を入れ、満面の笑みを浮かべながらヌクヌクとおコタを満喫するクルル。見てて何かほんわかするね。
「やぁっとおコタ出てきたわね。」
で、遅れながらもスィ〜っとおコタんとこまで飛んできましたのはフィフィ。
「……あれ? リュウジサクランボは?」
「ねぇべ。」
「ええ!? おコタにはサクランボでしょう!?」
「ミカンっしょ。」
「ちぇー。この世界の人間の感覚ってわかんない。」
「文句あるんだったら外で水浴びしてこい。」
「いや〜やっぱおコタにはミカンっしょ!」
テーブルの上に座ってテンション上げ上げ状態になりながらフィフィはミカンの皮を一生懸命むき始めた。むきにくそう。でも助けてやんない。
「あれ? そういやアルスはどこ行った? あいつ寒がりだからこういうのには一番反応するはずなのに。」
「え、さっきまでいたんだけど?」
じゃトイレかね? …………まぁいいか。
「さ、て。じゃ俺も。」
そそくさと、自身の足をおコタに
「むぎゅ。」
…………………………。
何か踏んだぞっつーか声したぞ。
「…………。」
おコタから出て、布団をめくってみた。
「…………お前何しとん。」
「みゅ。」
おコタん中に緑色いました。背中にクルルの足乗っとる。
「オメェいつの間に入ってたよ?」
「さっき。」
布団からピョコンと頭を出したアルスはそう一言で答えた。顔フニャフニャんなっとるぞ。
つかさっきねぇ…………そういや、クルルが走り寄ってくる前に一瞬足元を何かが通ったような気がしたな。あれかい。
「オメェこういうのは速いな。」
「むゅ。」
あーあかんわコレ。何か普段と全然キャラちゃうぞ。
「……まぁいいか。」
つーわけで、アルスが入ってる場所から移動してクルルの正面の方へ。
「どっこいせ……ふはぁぁぁぁぁ。」
おコタに潜り込めば……あーたまらん。ヌックヌク。
「ふゃ〜……。」
「みゃ〜……。」
「んぐんぐ。」
アルスもクルルもおコタを満喫中。フィフィはミカン抱えて苦戦中。
これさ、上から見たら顔が三つ違った箇所から飛び出してっから滑稽だな。
「ふ〜む、ヌックヌク。」
ん〜……にしてもやっぱおコタはサイッコーやね。世間じゃ床暖房ってのがあるが、あれよりこっちだろ日本人はやっぱ。
【プルルルル……プルルルル】
「……リュウくん、お電話ー。」
「パス。」
「いやダメでしょ!?」
「居留守だ居留守。居留守使ったれ。」
「いるすー。」
もうおコタにはまると、出られません。現にアルスなんて性格がガラリだ。
とゆーわけで、電話なんて無視。むっしピエール。
【プルルルル……プルルルルル】
……。
【プルルルル……プルルルルル】
……。
【プルルルル……プルルルルルプリン】
……。
【プルルルルプリン……プルルルルルプリン】
……。
【プリンプリンプリーン♪ プリンプリンプリ〜〜〜ン♪】
「って何でプリンなってんのよ!?」
「いや、おもしれーかなって。」
「やっぱアンタかい!?」
フィフィのツッコミ無視して、受話器へ。鬱陶しいからもうチャッチャと用件だけ聞いておコタに戻ることにする。ったく、今度からコードレスにしよっかね?
「あいもしもしー?」
『よ。』
…………。
「………………………………あ、リリアンか。」
『イエス。』
“よ”だけじゃわからんことがある。声で判断したけど。
「よう。元気してる?」
『してるしてる。』
「そりゃよかった。」
『コクリ。』
頷くのに擬音をわざわざ言うそんなお前はステキ。
「んでぇ? 用件は何だ? 手短に頼むぞ、今忙しいから。」
おコタ満喫中で。
『……アルス……お願い。』
「? アルス? ああ、わかった。」
一旦受話器置いた。
「おーいアルスー。リリアンから電話ー。」
「やー。」
おコタで寝そべっているであろうアルスを呼んだらそんな返答が返ってきたってオーイ。
「何が“やー”だ。早く出ろ。」
「やー。」
「リリアンがお前に用事なんだぞー?」
「やー。」
「いいから出てやれって。」
「やー。」
「おーい。」
「やー。」
「……。」
「……。」
「お」
「にゃー。」
「それ猫やん。」
ああ、無限ループ。
「……。」
で、軽く頭にきたんで和室へGO。
「おいアルス。」
「んー。」
近くまで行ったら潜り込みやがったよこの野郎。
「しょーがねぇ……。」
こうなったら強行手段じゃ!
「コラ、出ろっつーの。」
「やー。」
おコタに手を突っ込んでアルスの腕掴んで引っ張る……が、おコタの足を掴んでいるため、がんとして動かない。いや本気出したらすぐ出せんだけどね? おコタが危ないのよおコタが。下手に力入れすぎたらおコタの足壊れるしアルスの肩外れるし。いやアルスはどうでもいいんだけどね。
「おい、アルス。」
「やー。やー。」
嫌がりながら首振るアルス。こいつ性格変わりすぎだべ。
「…………はぁ…………。」
……まったく。
「……クルル。フィフィ。」
「はーい♪」
「しゃーないわね…。」
呼べば元気に返事するクルルとやれやれといった感じで羽パタつかせて浮かぶフィフィ。そしておコタから出て、リビングへ。
「…どっこいせ。」
俺はというとクルルが座っていたところへ。アルスは再び潜り込んだ。
で、
「…………それ。」
やったった。
「…………
!!!!!!!! ひゃわあああああああああああああ!!!!!?????」
おコタの中で飛び上がってゴンという鈍い音をたてたアルス。そしておコタから飛び出して畳の上で転がりだしたアルス。さらに近くにあった鏡台の角っこに小指ぶつけて地味な痛さからさらに悶え始めたのもアルス。
「いつつつ………わ、わき腹がぁぁぁぁ……。」
「お、覚醒覚醒。」
ようやく元のキャラに戻ったアルスは涙目になりながらわき腹と頭を寝ながら抑えた。うん、大体何したかわかるだろ?
おコタん中でわき腹足でつねったんよ。俺のつねりは聞くぜ〜?
「ほら、リリアンから電話d」
「寒いです!!」
ビュバ! という擬音が出るくらい華麗なヘッドスライディングで素早くおコタへ潜り込もうとしたアルスを蹴り飛ばした。
「はよ出れ。」
「……あい。」
顔蹴ったから痛そうに頬を擦りながらリビングへ。クルルとフィフィはいつの間にかおコタに舞い戻ってきた。んじゃ俺ももう一度おコタへゴー。
「もしもし? 代わったよ?」
おコタのテーブルに俺とクルルが顎を乗せてまったりしていると、アルスの声がリビングから聞こえてきた。
「…………え、そうなの? …………うん…………ホント!? うん、今度そっち行くね。………いいよそんな、こっちがもらいに行くんだから。じゃあ、楽しんできてね。バイバイ。」
【ガチャン】
受話器を置く音がし、
「しゃむいです!!」
リビングから素晴らしい勢いで足からスライディングしてきたんでタンスで押し潰した。
「ぎゅううううう……にゃ、にゃにするんですかぁぁぁ……。」
「いや何となく。で? リリアン何て?」
タンスに潰されて目ぇ回してるアルスに、俺はまったりのんびりミカン剥きながら聞いた。
「うぅぅ……今クミさん達と温泉旅行してて……そのホテルの近くにある有名なお店のココアの粉末が手に入ったからお土産に欲しいかって……。」
…………そういやあいつ、草津温泉行くっつってたよな。つか何でそんなとこでココア?
……まぁいいや。久美は今度会ったらしばき倒すとして。いや何かムカつくし。
「とりあえずお前もおコタ入ったら?」
「……じゃあこの重いタンスどけてくだs」
「断る。」
そして再びミカンをむきむき。
「……アンタってホント容赦ないよね。」
「とゆーよりあんな重いタンスよく片手で……まぁリュウくんだから簡単だよね。」
横でクルルとフィフィがミカン剥きつつ苦笑を浮かべ、俺はミカンをポイと口の中に。傍ではアルスがタンスの下で呻いていた。
「うぅぅ……うぅぅ……。」
「……………。」
でもちょっと可哀想だったからどかしてあげた。
「ちゃむいです!!!」
そしてすかさずおコタに潜り込んで昔流行ってたタレパ○ダみたくとろける顔になったんでせっかくだから足置きにした。
あー、ミカンうめぇ。も一個ムキムキ。
おコタ素晴らしいですね、おコタ。因みに我が家の呼び名です。
余談ですが、我が家の愛犬は寒い夜におコタに潜り込むのが大好き。犬が庭駆け回らないでどうすんだ。