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第百四十三の話 朝日照らすは、悲しみの絆

今回で長編は最終回です。



しかと見よ!二人の結末を!

〜龍二視点〜



……アルスが思いっきり叫んだと同時に、俺は龍刃をアランの脳天一ミリのところで止めた。ナイス。


「……アルス。」

「……リュウジ…さん。」


チラリ、とアルスを見てみる……ふむ。


「ちょ、アルス!?何で止めるのよ!?」

「そうですよ!後少しで……。」


フィフィとスティルが焦る。そりゃまぁ、確かに後ちょいでこいつ倒せたんだけどな。


「…………。」

「…何だよ……僕に…情けでもかける、つもりか?…アリス。」


忌々しそうにアルスを見てるが、秘孔ついてっから苦しそうだ。


「……リュウジさん。」

「何だ?」

「…………。」


【チャキ】


アルスは横に置いてあった剣を取って、俺のとこまで歩んできた。


「…あの、お願いがあります。」

「ん?」





「彼を、動けるようにしてください。」

「アルス!?アンタ何言ってんの!?」





…フィフィが叫ぶが、アルスは気ニシナーイ様子。


「…お願いします…。」

「…………。」



……ふぅ。



【トン】


アランの背中の一点を人差し指で押して、サっと俺は離れた。


「………何だよ、アリス………やっぱり僕に情けをかけるのか?」

「…………。」


立ち上がって、血走った目でアルスを睨む。対して、アルスはアランを見つめたまま。


「……アラン。」

「……。」




「ボクと、もう一度勝負しろ。」

「……は?」




…予想通りだった。


ふぅ…まぁこうなるだろうと思ったから、最初ハナっからアランにトドメさすつもりなんてなかったしな。まぁアルス止めなかったら切ってたけど。問答無用で。


「……何、言ってんの?」

「言った通りだ……早く構えろ。」


アルスは正眼の構えを取り、アランを見据えた。


「………ホント、君って人は……



相変わらず、お人好しだよねぇ…。」


ニタリと笑って、左腕の剣をアルスに向ける。未だに禍々しい氣を立ち上らせてやがんの。


「ちょ、龍二!止めなくていいの!?」

「そうだよリュウくん!アルス、ケガしてるんだよ!?」

「今のまんまだとアルスが!」



「お前ら黙ってろ。」

「「「!!」」」



今回はおふざけ無しで殺気を込めた目で花鈴とクルルとフィフィを睨みつけて黙らした。



大体、これはあいつの戦いだ……俺達は手出し無用。



「…………。」

「…………。」


アルスとアランは、互いに睨み合って動かない……ただそこに存在するのは、殺気と闘気。


二つの見えない気が渦巻き、俺を除いた全員が固まった。


「…………。」

「…………。」





【ガァン!!】


一瞬消えたかと思うと、二人は一気に接近して剣で競り合った。


「く!」

「うおお………!」


【バッ!】


しばらく鍔迫り合いが続いていたが、二人同時に一歩離れてまた接近し、剣を振るう。その太刀筋は、まるで流れるかのようで、見事だった。


ただ、それはアルスの太刀筋であり……


「う、ぐおおお!!」

「はぁああ!!」



当のアランは、俺との戦いで疲れきっていた。



現に、今のアランは息も絶え絶え……このままだと、アルスの勝利だろう。



………だが。



「はぁ…はぁ…はぁ………クソ!!」

「…アラン…それで、終わりなの?」


距離を取り、膝をつくアランに剣を向け、挑発するアルス。


「……立て……それでボクを抜いたつもりか!!」


………この時、俺はアルスの瞳を見た。



あの時…リリアンが呪いにかかって、窓の外をボンヤリ眺めていた時のアルスの瞳には光が無く、暗く淀んだ、何かに取り憑かれたかのような目だった。



それが、今は光っている。澄み切った目ぇしてる。



「…………ぅぅぅぅぅぅぅ



おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」



アランの体から、再び禍々しい氣が立ち上る。挑発に乗って、気合が入ったようだ。


「ちょ……アルスの奴、何やってのよ…。」

「あれでは、相手をパワーアップさせただけじゃぞ?」

「まぁいいから見とけっつーの。」


ああじゃないと、アルスにとって意味が無いからだろうな……後ついでにお前ら黙ってなさいっての。


「うらあああああああああ!!」

「くっ!」


…で、力を取り戻したアランは怒涛の連続攻撃でどんどんアルスを追い詰めていく。あいつの攻撃は力任せの攻撃に見えるが、隙がないのが特徴。おかげでアルスは反撃する暇が見つからず、ただ攻撃を防ぐしかない。


「この!この!!このおおおおお!!!」

【ガアアン!!】

「うぁ!」


最後の強烈な振り下ろしを防御しきれず、アルスは地面に叩きつけられた。


「あ、アルス!!」

「…うぅ。」


結構強かに背中を打ちつけたみたいで、苦しそうに呻く。



……思わず駆け出しちまいそうになったが……何とか踏み止まった。



「……。」


【スッ】


アランが無言のまま左腕の剣でアルスの頬を浅く切ると、アルスの頬から血がスっと流れる。


「……アリス。」

「……。」


アランが呼びかけても、アルスは目を閉じたまま動かない……気絶してるわけじゃねえ。ただ無言なだけ。


「……僕はアンタが憎い。」

「…………何度も…聞いた。」


無言から一転、アルスは口を開く…が、まだ目は閉じたまま。


「……何で憎いのか、わかる?」

「…………。」

「僕はね……村人達から苛められてた時、どんな気持ちだったと思う?



僕は、アンタを……心の中で何度もアンタを呼んだ。



そう、何度も、何度も何度も何度も…。」

「…………。」

「なのに、アンタは来てくれなかった………それでも、僕は耐え続けた。いつか、アンタが来てくれると、信じていた………なのに………




(姉ちゃ)………アンタは……!」



ん?



「アンタは……僕のことを忘れてたんだああああああああああ!!!!」

「あ、アルス!!!」

「避けろーーーーー!!!」



アランの絶叫に近い叫び、フィフィ達の悲鳴………俺は、その光景がスローモーションに見えた。




アランが剣を振りかぶり……アルスは横たわって動かず、目を閉じたまま。




やがて、剣は振り下ろされる……ゆっくり、しかし確実にアルスを死に至らしめる一撃。




そして、剣がアルスの顔まで近づいた……








「はぁぁあああ!!」

【ギィン!!】

「!!」



っとと、間一髪でアルスが眼前に剣を差し出して防御した。


「はっ!」

【ドッ!】

「グッ!」


そして一瞬の隙をついてアランを蹴り飛ばし…


「やああああああああああああああああああ!!!!」

「!うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



すぐに立ち上がり、剣を振りかぶって走るアルス…そしてそれを迎え撃つために剣を大きく横に振って構えるアラン。



やがて二人の距離が縮まっていき……





【キィン!!】





互いに……振りぬいた。





「…………。」

「…………。」


…………。


「…な、何?」

「どっちが…?」


花鈴と雅がうろたえる中、今この空間は静かに停止していた……。








「……。」



【…ズッ】



「う…。」



【ズズズ…】



「ぅ……ぁ、あぁ………。」




【ドサ】




「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」




……勝負、あったな。




「……。」

【ヒュ】


無言で剣を振り………アルスは鞘に収めた。



アランは激痛に悶えていた……あの左腕があった肩の辺りから血が噴出している。


左腕はアランの肩からずり落ち、傍らの血溜まりの中に落ちていた。…にも関わらず、まぁだドクドク脈打ってやがる。


「……え……。」

「…これ…って…。」


クルルとフィフィとその他もろもろ、未だに状況把握できず。


「……勝った?」

「………そのよう、ですね……。」


花鈴の問いに、スティルが答える。


……まぁ、何はともあれ……。








『ぃやったあああああああああああああああ!!!!!』






はい全員の歓喜の大合唱。


「やった!やったねアルス!」

「すごいすごーい!!」

「魔王様、カルマ、やりました!!」

「お前何もしてないだろケルマ。」

「ま、まぁまぁ…。」


…………。


「いやぁ、一時はどうなるかと思ったわ…。」

「全くだ……ったく。」

「まぁ、ワシら大して活躍しとらんけど。」

「それ、言っちゃダメよ日暮さん。」


…………。


「…?リュウくんどったの?」

「まだだ。」

「……へ?」




……まだ、終わってねぇ。







「う……ぁぁ…。」

「……………アラン…。」




アルスの………決着は。




「……ぁ、く……。」

「…………。」


苦しそうに呻くアランの傍で、そっとアルスは膝まづいて抱き上げる。


「!アルス、あぶな」

「フィフィ、ちょいと黙ってろ。」

「で、でもリュウジ!」

「……大丈夫だ。」



もう……今のアランからは……。



「……ア…リス……。」

「…………。」


…………。


「……とどめ……。」

「…え……。」


…小さい…ホントに小さい、耳を澄ませばかろうじて聞こえる声で、アランは言う。


「はやく……とどめ、を……さして……。」

「…アラン…。」

「くっ!……憎い、んだろ?……僕の、こと…。」

「……………



確かに……さっきまでは、憎かった。」


…………。


「無意味に人を殺し……あまつさえ、禁術にまで手を染めたアランが、憎かった……この手で、止めなければって、思った…………でも………。」


…………。


「……ホントは……ホントは、心のどこかで、アランと仲直りしたかった…。」

「……。」

「村を発ったあの日……アランが、最後まで声をかけてこなかったあの時……しばらく歩いてから、泣いて、泣き喚いた……何でもっと一緒にいてあげなかったのかなって。忘れたことなんか、一度だって……無かった。」


…………。


「ホントは……ボクは………



は、勇者になんかなりたくなかった……もっと、もっとアランと一緒にいたかった!!あんな村でも、ずっと一緒に暮らしていきたかった!!!」


…………。


「なのに……なのに、周りの人達…父さんまでもが、皆してアランのことを役立たず呼ばわりして………いっつも一緒にいたのに、前に出るのが恐かった……!」

「…アリ…ス…。」

「……アランを……殺人鬼に変えたのは…他でもない、この私……




私の………せい……なの………………ごめんなさい………。」



…うなだれ、アルスは涙声で…謝罪した。


ホントに、小さな声で…。



「……………。」


対し、アランはアルスの顔を見ながら…





そっと傍に刺さっている折れたアランの剣を引き抜く。





「!!!アルス!!」

「!?」


スティルが叫ぶが、すでにアランは剣を振り上げていた。


「死ね!!!」

【ドッ!】






アランの剣は、寸分違わずアルスの顔……








『ギギ・・・ギィィィィ!』




にいた物体に突き刺さった。



「……もう……騙されない…!」


叫ぶと同時にアランはビュっと剣を引き抜く。




地面に落ちたそれというのは、アルスによって切り落とされたアランの紫色の左腕……だったもの。


今では手の甲にギョロリと目玉が付き、悪意ムンムンの別の生き物になっていた。リアルにエグ。




『リュウジ!』

「わぁってる!」


アランの攻撃で大ダメージは与えられたが……そのまま芋虫のように這って逃げようとしている。


「『龍糸貫』!」


右手の指先からレーザーが飛び出し、



『ギャギイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィ!!』



見事、目ん玉貫いた。


【ジュウウウウゥゥゥゥゥ…】


レーザーに貫かれ、パタリと動かなくなった腕、もといキモ生物は、同色の液体へと溶けていき、煙となって消え去った。



「はぁ……はぁ……。」

「アラン…!」


…キモ生物を突き刺すだけでもしんどいのか、右手をパタリと地面に力なく垂らし、剣を落とした。掴んだ掌がズタズタになって血が流れ出ている。


「………あれが、禁術の……正体…。」

「え……。」

「……僕は…家の、地下室で魔道書を開いた瞬間…あいつに、脳の中から囁かれたんだ……『憎いなら、手を貸してやろう』って……思えば、あの時から僕は……もう後戻りできなくなったのかも、しれない……。」


なるほど……やっぱ操られてたのか。



見れば、アランの目には光がやどり、さっきみたいに濁ってなかった。



「はぁ……………だから……この、赤い空も、後数分で消えて…雨も、止む………仲間のリリアンにかかった呪いも、同時に消える……。」


………そりゃ吉報だな。


「アラン…。」

「…………。」


…………。




「……ねぇ。」

「……何?」

「……この景色……懐かしいよね……。」


この景色……というのは、ここから見える麓にある俺達の町のことだろう。


「……昔、村の近くにあった丘……あそこと、似てるよね…。」

「…うん。ツライこととかあったらそこで慰め合ってたし…あそこが私達にとっての唯一の遊び場だったよね。」

「…麓の、村を見下ろしたり…周囲の、草木を眺めたり……一緒にパン食べたり……したっけ?」

「……うん……。」


…………。


「……あのね、ホントは妬ましかったんじゃないんだ……アリスが勇者になったこと。」

「?」

「ホントは……僕は、寂しかったんだ……さっき、そこの黒髪の人に言われた通り…。」


……あ、俺か……。


「僕にとって、勇者とか、そんなのいらなかった………ただ…一人になるのが……嫌だった…。」

「……。」

「だから……子供なりに、考えた結論だと……素っ気無い態度を取り続けてれば、構ってもらえるかも……って……ハハ、明らか逆効果……だったけどね…。」


…………。


「…それで…寂しくて、だんだん八つ当たりしたくなっていって……そんな時に、家の地下室に隠してあった、禁術に触れて……その後、父さんの一言に頭が真っ白になった感覚に襲われて………気が付いたら、皆殺してたんだ……



そして悟ったんだ……僕、もう取り返しのつかないこと……したんだって。」

「……アラン……。」

「もう……許されること、じゃないよね……僕は、もう生きてたって……しょうがないんだよ………



どうにも……ならないんだよ………!」

「…………。」


……確かに、許されることじゃない。死んだ奴は、後悔したって蘇らない。



だが…。



「…違う…。」

「……え?」

「……生きてても……いいんだよアラン。自分の罪を認めて、反省して、償っていけばいいんだよ……生きちゃいけない人間なんて、いないんだよ……。」


…………。


「…ねぇアラン、この世界でもう一度暮らそう?昔みたいに、一緒に助け合って、慰め合って…私も、アランが罪を償っていくの応援してあげる………だから……!」



…………アルス…………。



「………やっぱりね…。」

「え?」

「……アリスは、昔と全く変わらない……いつだって優しくて、強くて……僕は……そんなアリスが、大好きだったんだよ?」

「…アラン…。」


…………。


「僕も……もう一度、一緒に暮らしたい……また一緒に歩んで行きたい。」

「じゃあ…!」







「でも、もうダメなんだ。」


【ビシ】


「……え。」





……アランの腕に、金色に光る亀裂が入る………空を見上げると、赤い雲が切れていっている。それと同時に、アランの中を巡る氣が急速に失われていくのがわかった。



……タイムリミット、か……。



「アラン!?」

「……禁術は、使用者の命を吸収してこそ発揮できる魔法……使用してしばらく置いておけば、自然と力は回復していく。


けれど、禁術の魔力が宿った左腕が無い今、もう体を維持することはできない……ましてや、さっきの戦いであれだけの力を使ったんだから……こうなることは目に見えていた……。」


話してる間にも、雲は少しずつ切れていき、光が差し込むたびにアランの体にはヒビが入っていく。もう顔の横にまで亀裂が迫っていた。


「アラン!諦めないで、お願い!!」

「ホントに……ごめんね……僕が、バカなばっかりに、一杯傷つけて…。」

「そんなのもういいから!お願いだから逝かないで!!」


アルスが必死に叫ぶのも虚しく……亀裂は、とうとう顔全体まで覆っていた。


「もう……時間……みたいだね……。」


もう亀裂が入りきらないくらいまで広がり……表情でさえも、わかりにくくなった。


「アラン、ダメ!待って!!」

『………あり、がとう………』




最後……ヒビでわかりにくいが、確かにアランは優しく微笑んだ。







『お姉ちゃん。』








「アラ………ン……!」


【サァァァ……】




最後の言葉と共にアランは………アルスの腕の中で、静かな音をたててきらめく砂となった。



無情にも、そよ風が……砂を空へと運んでいった。




「……ぁ…ぁぁ……ぁ……







いやあああああああああああああああああああ!!!!」






アルスの、天に向けられた悲しみに満ちた叫びは山に響き……町にまで響いた。









アランが散った直後、赤い雲が消え、皮肉なくらい美しい朝日が昇り……



宙を舞うアランだった砂と、アルスの瞳から溢れる涙をその光で照らし、輝かせた。












〜数分後〜



「リリアン!」

「リリアーン!」

「……皆、お帰り。」

「皆無事だったんだな!」

「はぁ……ヒヤヒヤしたぜ。」


すっかり雨も上がり、赤い雲ならず真っ青な空が俺達の上空に広がり、町を闊歩していた化け物どもも砂へと帰って体育館へ避難していた住民も皆家へと帰り、騒動も治まった。


そして、帰宅した俺達を出迎えてくれたのはずっと留守を任せておいた久美と恭田、んですっかり元気になったリリアンだった。


「リリアン、元気んなったみてぇだな。」

「……おかげさまで。」

「龍二――――――――!!!!」

「そぉらよっとい。」

【ドゴン!】


さっそく飛びついてきた久美に自慢の巴投げをかまし、電柱に情熱的な抱擁をさせてやる。


「龍二〜〜〜〜!!ホントよく帰ってきてくれたな〜〜〜!!」

「あ〜もう引っ付くなクソ鬱陶しい。後お前回復力跳ね上がってんじゃんよ。」


頭から血ぃボタボタ垂らしながら抱きつかれたらたまったもんじゃねぇな。


「……俺、結局フラグ無し?」

「?何の話だ?」

「……なんでもないです……グス。」


何か恭田と雅が話してるが、気ニシナーイ。


「リュウくん、引っ付きすぎ!」

「久美ちゃん、離れな、さいっての!!」

「抜け駆け禁止!!」

「…………久美、反則。」

「こ、今回だけはいいだろう!?」


で、何かめっさ騒々しい女性陣。黙らせてえ。


「……お主も大変じゃがな。」

「そう思うんならこいつら蹴り飛ばせ。」

「それはお主の役目じゃろう?」


チッ、役に立たねえ陰陽師。


「とーりーあーえーずー……」


久美を強引に引っぺがし…




「離れろっつてんだろこがこのボケええええええ!!!」

【ドカーーーーン!!】




ドロップキック炸裂、女性陣(一部除く)は皆仲良く我が家の中に突っ込んでった。中からガチャーンやらバリーンやら騒々しい音が聞こえるが、あいつらに弁償させるからまぁ気ニシナーイ。


あ、因みにリリアンだけは吹っ飛ばしてない。一応病みあがり(?)だからな。


『……相変わらず容赦ないな貴様。』

「褒め言葉として受け取ろう。」


腰からエルが呟く。あ、ついでにエルの上には寺から持って帰ってきた龍刃が差さっている。こいつも何かと世話になったし、家に置いてやっかな。エルと違って意思ないけど。


「……でも……皆無事でよかった…。」

「お前もな。」

「……私は……信じてたから……………………あなたのこと//////////」


はい先生。何でそこで顔赤くするんですか?それと最後の言葉小さくてよく聞き取れなかったんですけど?つか自分で言っててなんだが先生って誰だ。


「………けど……。」

「?何だ?」




「……アルスは……?」



…………。



「……ん、あぁ……。」







『……先に行っててください……一人になりたいので……。』




…って、さっきアルスが言ってたから山降りてきたが………ふむ。





「……わりぃ、急用思い出した。」

「……そう。」


身を翻し、元来た道を引き返そうとした。




「…龍二。」

「んあ?」


後ろからリリアンに呼び止められ、首だけ後ろを向いた。


「………アルスに……伝えて……。



あなたなら、大丈夫だって。」



…………。



「……はいはい、わぁってるっての。」


フっと笑って、皆がいる家から俺は離れてった。







〜裏山・中腹〜



「ホ!ホ!ホ!ホ!ホ!ホ!とぉ!」

【スタッ】


石段を駆け上り、無事鳥居へ辿りついた。ったく、無駄に長ぇんだよこの石段。


っとと、それより……。



「いたいた。」


すでに寺は吹き飛び、石で出来た土台だけが残っていて、その上に寺の残骸の木材が散乱していた。敷地も、木々が吹っ飛び以前の面影はない。


で、その土台のちょうど真ん中の縁に………いましたいました、アルスがチョコンと座っています。



………俯いてて全っ然元気の欠片もねぇがな。



「………ふぅ。」


しゃーねぇなぁ……と思いつつ、テクテクと歩み寄ってった。


「よ。アルス。」

「………リュウジ、さん。」


土台はちょっと高めで、座ってるアルスを若干見上げる形になるんだが……目は涙で腫れぼったくなっており、まだ涙は乾いていない。顔にも憂いがあった。


…………。


「……あ、よいしょ。」


とりあえず、ちょっとジャンプしてアルスの隣に座ることにした。


あ〜、やっぱここから見る俺達の町はなかなかいい景色……こういうのがアルスらの村にあったってか。


………んにしても……まぁ、見事に破壊されちまったなぁ、寺。これで俺の昼寝スポットが一つ減ったわけだ。チェ。


「……。」

「……。」


……んむ、無言だな。


「……。」

「……リリアン、元気になったぞ。」

「……そう…ですか……。」

「……礼、言ってたぞ。」

「………はぁ……。」

「……町の人間も被害が無かったそうだ。」

「……よかったです……。」

「…………。」

「…………。」




うーわーヤベェ軽くどうしよう。




「……。」

「……アルス。」

「……?」

「……あんよ、何か思い悩むことがあんなら言ってみ?……大方、アランのことだろうが。」

「…………。」


こいつがアランの死について悲しんでるのはわかる……んだが……



何か、他のことについても悩んでる気がする。当然アラン関連。



「…………



……ボクは……」



あ、一人称“ボク”に戻ってる。


「……ボクは……ホントは、勇者じゃなくてアランの姉でいたかった……。」

「それ、聞いたぞ。」

「……………なのに…………ボクは、結局弱虫で…臆病で……アランを苛めてる大人達から……逃げてました。」


…んむ…。


「それから、アランの心は荒んでいって……禁術にまで手を出し、力のない人達にまで手をかけ、殺人を楽しむ狂人になってしまって………



ボクが、彼を殺したようなものなんです………。」


…………。


「…それなのに、ボクはアランのことを憎んで、何度も殺意を抱いて……本来なら、憎まれるべきなのは、ボクの方です……それを……ボクは……。」


………ふむ。


「ボクは………姉、失格ですね……ホント、に…………………。」


あぁあぁ、また泣き出す……まったく。


「ほれ。」

「…………すいま、せん…。」


ハンカチを取り出し、差し出す。それをアルスはおずおずと受け取った。



……ん…。



「……アルス。」

「……?」




「……いいんじゃねえの?憎んだって。」


「…え?」

「人ってのはな、完全に善じゃねえ。かならずどっかに悪がある。」

「………悪……?」

「そ。ネガティブ思考のこと。」


ネガティブ思考=マイナス思考って感じで。


「誰だって……どんなに優しい奴にだって、感情ってのがある。ただ優しいばっかの奴なんて、この世にゃいねぇ。


かならず心に闇を抱えて生きてるもんなんだよ、人間は。」

「………闇。」

「お前の場合、アランのことが憎いってのが闇な?」


たとえ、どんな人間だろうが感情持ってる限り、ず〜っとニッコニコの奴なんていねぇよ。表面上は出来ても、中身は偽れねえ。


「お前は、憎んでるのが嫌っつったよな?……まぁ、あながち間違っちゃいねぇけど。」

「……。」

「…でもな?アルス。俺だって憎い奴は憎いぞ?許せない行動してる奴がいれば、そりゃ誰だって憎くもなるし、ひどい時は殺したくもなる。



憎しみを持つのは、悪くない。大切なのは、その憎しみを乗り越えることだ。」


ジジイから教えてもらった言葉……



『ムカつくのがいたら、憎め。憎んで憎んで憎みまくって、そして許せ』



……かぁなり矛盾してるし、何のこっちゃ小さい頃はわからんかったが……最近になって、わかった。


「…超える?」

「そ。人は、闇を乗り越えてこそ本当の意味で強くなる。お前は、最後はアランのことを許した………それでいいじゃねぇか?



お前は、憎しみという闇を乗り越えて、強くなった。心も、体も。」

「…………。」


…闇を乗り越える、というのはそんな簡単なことじゃねえ。そりゃもう、山よりも高い壁乗り越えるようなもんだ。楽にはいかないだろう。


第一、闇は一生付きまとう物……下手すりゃ、闇に飲まれて人の道を外す危険もある。



だが、それを乗り越えてこそ、人は生きる意味がある。本当の意味で、人は強くなれる。



「…お前は闇を乗り越えられるほどの力がある……信じろ、自分を。」

「……リュウジさん……。」

「あ、それと。」

「?」


もう一つ、俺が思ったこと話しておくか。


「アランが最後に何を思ってたのか、俺は知らない。大体、人の心なんてもんは誰にもわかんねぇんだよ。例え、血の繋がった姉弟でも。」

「…………。」



……でも。



「……でも。」

「?」





「あん時のお前は、俺らから見ても姉ちゃんらしかったぜ?」

「!!」



アルスのあん時の気持ちに、憎しみは一切感じられなかった。弟に向ける、純粋な眼差し……



そしてアランが最後に見せた微笑み……ありゃ悪意も何にもない、同じく純粋に姉に向けた最後の贈りモン……




だと、俺は思うね。うん、贈りモンとか我ながらくっさいセリフ。



「……さってと。」

【トン】


土台から飛び降り、アルスの方を向く。


「そろそろ帰っぞ。メシ作らないといけねぇし。」

「……。」


無言…だが、アルスは静かに土台から降りた。


「そんじゃ行くぞ。」

「……リュウジさん。」


?んあ?


「何だ?」

「……あの……



……ありがとう………ございました……。」


…………



はにゃ?



「何に対して?」

「……い、いえ、何でもないで、す……/////」


なぁに顔赤らめてっか………



あ。そうだ。



「…そういやさぁ…。」

「?はい?」

「……アルスの、一人称が“私”になった瞬間……



変なのーって思ったな。」

「ぶっ!?」


何を吹いた。


「ちょ、ど、どういう意味ですかそれ!?」

「そのまんまの意味だが?違和感ありまくり。」

「ですから、その違和感って何なんですか!?もしかして似合わないってことですか!?」

「ご名答。」

「うわぁい正解です!?じゃなくて失礼です!!」

「気ニシナーイ。」

「いえあなたが気にしなくてもボクが気にするんですって!?」



………うん、元のアルスに戻った。



「さぁってと、帰るかぁ。」

「リュウジさん!まだ話終わってないですよ!」

「じゃもう終わり終わり。」

「終わってないですってばあああああ!!」

「じゃかあしいぞ。」

「す、すいましぇん……。」

「ほらさっさと歩けや。」

「痛っ!?お、お尻蹴るのはやめてくださいよ!?」

「ほほぉ、そんなんでやめるとでも?ほれほれ。」

「痛っ!?いったぁ!?ちょ、ホント痛いですって!?」

「はっはっは、ざまーみい。」

「あ、悪魔あああああああああ!!!!」








そんな風に石段を降りる俺達と土台の脇にある木の根元に刺さったアランの折れた剣に、優しい朝日の光が降り注ぐ。




うん………いつもの日常に、戻った。


長編はこれで終わり……また日常へ戻ります。


……また忙しい一週間が始まる……はぁ。


ともかく、長編を読んでくださった皆様方、ありがとうございました!それと聖なる写真さん、キャラ提供ありがとうございました!!


では、これからも頑張りまーす!!

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