第百四十二の話 龍の牙4
〜龍二視点〜
俺はアランの野郎に対して左手にエルを、そして右手には例のアレ、『龍刃』を持つ。
『龍刃』……代々荒木家に伝わる、いわゆる家宝。大昔、どっかのえらい強い奴が所持していたらしいが、何故か知らんが何やかんやで荒木家に渡り、そのまま伝わってったそうだ。
詳細はわからんが、とんでもない強度と切れ味、そしてこの妙に手に馴染む感覚……伝承だと、その刃にとまった蝶でさえ真っ二つになったとされるほど。
まぁそんな刀なんだけどさぁ、親父から譲り受けた時、別に使うこともないかぁってなノリと、しまう場所に困ったからこの誰にも知られていない寺に隠して念のために封印を施しておいたんだが……こんな形で、握る羽目になるたぁな。
ま、ちょうどいいか。こいつにはアルスの分と俺のムカつき度の分、倍返しにしてやらにゃあならんし。
「…僕にとって……足りない物…だと?」
左腕もとい剣から禍々しい氣を立ち上らせ、右手には黄金の鳥を模した派手な装飾がついた鍔の剣の切っ先を地面に向けるアラン……かくいう俺も、構えらしい構えは取らず、両手の剣(エルと龍刃)の切っ先を下に向けながら仁王立ちする。
別に油断してるわけじゃねえ、むしろこっちの方が逆に隙がねぇんだ。対し、あちらさんも隙がねぇように見えるが………ありゃ油断してるな。相手を侮ってやがる。
つかむしろ怒ってる。キャーこわーい(棒読み)。
「……この僕に……
足りない物なんて、ない!!!」
【ドォン!】
おぉっとい、アランの背後からどえらい炎が噴出してきやがった。
「お前を……殺す!!」
そう言うなり、フっと姿を消すアラン。いや、正確には一瞬にして移動した…か。
「ヒハハハハハハハ!!人間如きが、この動きについてこれるはずがない!!」
消えたまま、高笑いしてバカにするアラン。
つーか……
「ほれ後ろ。」
「な…!?」
遅いっての。
「むん!」
【バキィ!】
「ぐはっ!」
アランの背後に回りこみ、直蹴りを喰らわせる。背中からモロに喰らったアランは、言い感じに海老反りになって木々を破壊しながら吹っ飛んだ。
ま、これで十分、
「グアアアアアアアアア!!!!!」
…なわきゃねえか。
【ギィン!!】
吹っ飛んだ木々の間から土煙を上げながら猛スピードで突進してきたアランの右手からの斬撃を、エルで防御。鍔迫り合いへと持ち込んだ。
「は!」
「おっと。」
すかさず、左腕の剣で切りつけてきて若干体を逸らすことで回避。そこから立て続けに両手からの怒涛の連斬を回避または剣で防御していった。
「おらぁ!!」
「よいしょ。」
【ドォン!!】
最後に、大上段からの両手振り下ろしを、エルと龍刃を交差させることで防御した。
さて……と。
「はっ!」
【シュイン】
「うぁ!?」
ちょっと身を翻すことで、体重を乗せていたアランの体勢を崩す。いわゆる捌きだ。
「むん!」
「チィ!」
そこから龍刃を振り上げるが、アランは間一髪で回避した……が、脇腹を掠り、浅く切れた。
当然、逃がすつもりはない。
「ほっ!せいや!」
龍刃、エルを交互に振り、アランと切り結ぶ。甲高い金属音が山に響き渡り、火花を散らす。体を回転させつつ剣を振り、時には蹴りを交えて踊り狂うかの如く連撃を繰り出す。
「くっ!ちぃ!」
うまいこと剣で防御し続けるが、時々腕やら足やらを浅く切り、ところどころから血が出る。さらに時々出る蹴りの回避、防御まで反応できず、もろに腹やら顔やらに喰らう。
致命的ではないが、明らかダメージは受けているなこりゃ。
「こ、の、クソがあああ!!」
「よっと。」
一歩後ろへ大きく下がってそこから突進力を利用した薙ぎ払いをアランは放つが、俺はその場でジャンプし、横向きで縦回転しながら後ろへ下がる。
「『龍閃斬・二重三日月』。」
着地と同時に交差させた腕を横へと振り払い、二重の衝撃波を飛ばす。
「ちぃ!……なめるなあああああ!!!」
舌打ちしつつ、右手の剣で衝撃波を弾き飛ばそうとしたアラン。
【バキィン】
「!?な、何!?」
が、弾き飛ばしたのはいいが、同時に剣も真っ二つに折れてしまい、折れた刃はアランの背後の地面に突き刺さった。あ〜あ、高そうな剣だったのに……もったいな。
「さて、これでオメェさんの武器は一本減ったな。」
「…………。」
いやいや、そんな恨みがましい目で見られましても?武器を無効化するってのは戦略の一つだし?第一どんな思い入れがあったか知らんけど、しゃーないじゃん?正当防衛(?)なんだし。
「……お前、何者だ?」
「?は?わからんか?人間。」
「ウソつけ!!人間が、普通の人間がそんな力出せるわけがないだろう!?何者なんだお前!?」
……………んむ。
「…まぁ、確かにそうだわな。周り曰く、普通の人間には出来ないこと俺やってるし。」
「…なら、お前は一体…。」
「んなの一つしか答えねぇじゃん?
俺は、普通じゃない人間。」
だってそゆことだし。普通の人間が出来ないんなら、俺は普通じゃない。そーゆーことじゃん?じゃんじゃんじゃん?
「………お、お前ぇぇぇ……!」
「さて、御託はもういいだろ?
さっさと始めようや……アラン。」
龍刃を上段に、エルを中段構えの位置にもっていき切っ先をアランに向ける。二刀流でよく見られる構えだ。
「…………殺す…………
殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、
殺してやらああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「んな物騒な言葉を吐き続けるもんじゃありません。」
左腕の剣だけで俺に切りかかってき、エルで防御する。
「『黒炎』!!」
っと、防御した瞬間魔法っぽいの唱えやがった。
ならこっちも…
「『ライトニングアロー』。」
エルで。
【ドオオオオオン!!】
頭上から黒い炎が降ってきて、それを雷の矢で爆発させる。
「よっと。」
【ドン!】
「ぐほ!」
アランを蹴り飛ばし、距離を取る。
「か……この……。」
若干遠いとこで腹押さえてうずくまってるアラン。そりゃどんな奴でも急所入れられたら…ねぇ?
「そんじゃ、一発かますか。」
『承知。』
龍刃とエルの刃を重ねるようにし、直立不動で構える。
「閃雷、全てを分かち」
『轟雷、全てを砕く』
俺とエルの声が響くと同時に、二本に送り続けている氣によって龍刃とエルが白く輝く。
「二つの雷ここに集い」
『全てを飲み込む光とならん』
白い光は、淡い……が、その刃に込められた力は、想像を絶する量にまで溜まっていた。
ここで……放つ!
「『奥義!』」
俺とエルの声がハモると共に二本の切っ先を地面に向けて振り上げ、
「『龍王天雷剣』!!!!」
同時に一気に突き刺す。
「……『双牙』。」
【ドオオオオオオオオオオ!!!】
最後の言葉と同時に、アラン目掛けて純白の光が地面を走る。
「!う、うおおおおおおおおおおお!!??」
白い光は絶叫するアランを飲み込み、爆発するかのように白く発光した。
エルの魔力と、俺の氣の合成技……んでもって龍刃の力が合わさり、威力は超手加減してもあの威力。ホントは範囲攻撃なんだが、さっきみたいに一点に集中させることもできるわけで。
……で、まぁおそらく……。
「ぐ、がぁ……あが……。」
こいつは死にはしねぇだろうな。
発光が止み、残ったのは真っ黒で大きな焦げ跡。そして体が痺れたらしく、うずくまるように倒れたアラン。
「クソ、が……。」
「どっちがだ。」
小さく呻いたのを聞き、俺何気に返答。イェイ、言ってやった。
「………クソ、クソ、クソ、クソ、クソ、クソおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「うっさい。」
体から焦げた臭いを発しながら、絶叫するアラン。そして俺の一言。
「僕が、僕が負けるわけがない!お前なんかに……お前なんかにいいいいい!!!」
凄まじく歪ませた顔のまま、両腕をバッと広げるアラン。
「『集え、七つの罪』!」
開いた両の掌から、どす黒い球体が現れた。
「『傲慢、嫉妬、暴食、色欲、怠情、強欲、憤怒!!かの者を滅ぼし、全てを滅せよ!!
セブン・クライム』!!!!!」
両手から発せられた球体が破裂する。
破裂した無数の破片は俺の周囲をドーム状で囲んだまま巨大化し、漆黒の槍となった。その数は、頭上の空を黒く染めるほど。つまり数え切れん。
「…随分とまぁぎょうさん揃えましたなぁ。」
『どこの方言だ。』
京都。
ま、そんな余裕かましてる場合じゃあ……
「死ねぇええええええええええええ!!!!」
ねぇんだよな。
「いくぞ。」
『ああ。』
槍が俺目掛けて一斉に高速で飛んできたんで、
「オララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
エルを、龍刃を高速回転させながら振り回して弾いて弾いて弾きまくる!!
【ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!】
弾くごとに槍は砕け、ガラスのように細かい破片へと戻って消えていく。数本取り逃がすが、それらは蹴り飛ばしてぶっ壊す。
それが数分続いて……
「シャラアアアア!!」
【バキィン!!】
最後の一本を全力を込めた龍刃で叩き割ってフィニッシュ。
「んむ、大したことね『リュウジ!』んあ?」
エルの焦った声で顔上げた……あれ?アランどこ行った?
「ひゃは!死ねえええええええええええええ!!!」
「あ、上か。」
『呑気に言っとる場合かああああああ!!!!」
何か空からでっかい槍ぶん投げようとしてるアランがいるんですけど。何か飛んでるんですけど。
………ふむ。
【ドオオオオオオオオオオン!!!】
巨大な槍が上空から放たれ……着弾と同時に大爆発を起こした。
爆発は小規模ながら、爆風は強烈で周囲の木々を薙ぎ倒しまくった。
「………ひ、ひひひひ………。」
トンっとアランが地面に降り立ち、未だに煙が立ち込める中、着弾によってできたクレーターを眺めて狂った笑い声を上げる。
「ひひ……ひはははは……勝った……僕の、勝ちだ!!!」
空を仰ぎ、口を歪ませながら自らの勝ちを宣言した。
現にクレーターには跡形もなく……欠片さえもない。
「ヒャハハハハッハハハハハハハ!!!愚かな人間風情が!この僕に!勝てるわけがないだろうが!!思い知ったかバアアアアアアカ!!!キヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
「バカはオメェだオメェ。」
「………へ?」
つーかさっきまで俺、ナレーションしてたし、死んでたらすでに〜○○視点〜っていう風に変わってるっつーの。あ、これタブー?気ニシナーイ。
「ど、どこにいる!?」
「あれ?わかんね?上ー。」
「!?」
あの爆発の瞬間、俺は高く跳躍し……爆風に乗って空高く舞い上がったわけ。まぁ無茶あるなぁっとは思ったが、人間やろうと思ったら出来たんよこれが。
軽く赤い雲を突き抜け、淡い月光を浴び……赤い雲海という奇妙な光景が広がる上空で前方中返りし、体を真っ直ぐに伸ばして再び地上へと落ちる瞬間はヒモ無しバンジーしてるみたいで爽快感抜群だ。
で、当然ただで降りてくるはずもなく。
「どーーーーーーーん!!!!」
【ズゴオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!】
「ぐああああああああああ!!!」
真っ逆さまになりながらエルと龍刃をクレーターのど真ん中に叩きつけて、さらにでかいクレーターを作った。衝撃波で、周囲の石ごとアランを吹っ飛ばす。
「あ、よっこいしょっと。」
【トン】
逆立ち状態から飛び上がり、そして両足で着地。
そして、
「ただいまー。」
軽く右手を挙げて呑気に言った。
「な……なん、で……。」
衝撃波に吹き飛ばされて尻餅つきながら、絶句するアラン。
「…あのな、この程度で俺を倒せると思うなよ?」
人差し指をアランに向けて言い放つ……これじゃどっちが悪役なんだか。
「こ、この!!……まだまだあああああああ!!!」
すぐに立ち上がって、また両手に球体……しかも左右二つずつ、計四個同時に作りやがった。はぁ、もうメンドイ。
「…『龍糸貫・乱』。」
指先から龍糸貫を一本飛ばす。それはアランには向かわず、右側の球体を貫く。
「ははは!!そんな攻撃でこの球体は【バリィ!】…………え?」
アランがチラリと横見て唖然とした。
龍糸貫が球体貫くと球体割れるかのように消えて、さらに後ろの木を貫かずに反射してもう一個破壊、さらに反射してもう一個破壊。最後も同じように破壊。
そ、これが龍糸貫・乱。壁とかに反射してランダムに飛ぶから相手の不意をつけるわけ。どっかの誰かさんの技を龍糸貫に利用した。
「な………んだと。」
「さぁって、と。」
球体を破壊されて茫然自失したアランに、龍刃の切っ先を向けた。
「まだまだ続くぜ?………アルスの気持ちを踏みにじった、クソ野郎。」
「………………う……うぅ………
うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
〜アルス視点〜
「………う……うぅん…。」
「!アルス!」
「大丈夫!?」
……あれ?……何でボク……。
「……?カ、リンさん?フィフィ?」
「ええ、ちゃんとわかってるみたいね…よかった。」
「もぉ、心配かけさせないでよぉ…!」
目の前にいるカリンさんはホっとため息をついて、ボクの顔の横でフィフィはすすり泣いた。
………後頭部から柔らかい感触が伝わってくる……ボクがカリンさんを見上げる形になってるからして、膝枕をされてるようだった。
ふと、左頬を触ってみた……血が出てない。フィフィが回復魔法かけてくれたみたい。
「まったく、無茶するでない。」
「…血だらけになってるのを見て、もうダメかと思ったんだぞ?」
「でも、無事でよかった…ホントに。」
「…ヒグラシさん……マサさんにスティルも……。」
横を向けば、膝まづいているヒグラシさんとマサさんとスティルがいた……。
「クルルちゃん、起きて!ホラ!」
「う……………!?アルスううううううう!!!」
「魔王様ストップ!一応アルスけが人ですから抑えて!」
「今回はケルマに同意してやる。」
……柱にもたれて眠っていた魔王が飛び起きて、ボクに抱きつこうとしたところをケルマとカルマに押さえつけられてた……いろんな意味で危ないとこでした…。
「アルス〜〜〜〜〜〜!!死んじゃったかと思ったよ〜〜〜〜〜〜!!」
「……ゴメン……。」
「謝って済むならタナカさんいらないよ〜〜〜〜〜!!うええええええええ!!」
………誰ですかタナカさんて?
「……あのねクルル。こんなしんみりしたムードの時にボケかましてる場合じゃ…」
「しんみりでも無さそうじゃがな?」
?…………!!
「リュウジさんは!?」
「…あそこじゃ。」
起き上がってヒグラシさんが指差す方を見た。
「このおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ほーれほれ。」
……え。
「…あいつ、アランを完全に弄んでるのよ。」
「…………。」
ボクと戦ってる時と違って、忌々しげにリュウジさんに切りかかっていくアラン…右手の剣は失われている。
対し、左手にエルを、右手に不思議な造形をした片刃の長い剣を持って、アランを子供のようにあしらうリュウジさん。
……今さら、だと思うけど……すごい。
「クソおおおおおお!!!何で、何で当たらないんだああああああああ!!!!」
「下手糞だから。」
「ぐげががああああああああああああああああああ!!!!」
……何で。
「ほれほれーこっちこっちー。」
「ふざ、けるなあああああああああああああああああ!!!!」
……何であなたは、そんなに強いんですか。
「あそぉれ足払い。」
「がっ!?」
どうして……戦えるんですか。
「キーック!」
「ぐがぁ!!」
何のために……戦えるんですか。
どうして…………。
「うがああああああああああああ!!!!何故だぁああ!!最強の、最強の悪魔であるこの僕が!!お前みたいな奴なんかにいいいいいいいいい!!!!」
「……なぁ、アラン。」
【ガキィンッ!】
「ぐあああああああああ!!!!」
「………一つ、言わせてもらう。
お前は弱い。」
…………。
「!!な……んだとおおおおおおおお!!!!」
「お前は最強でも悪魔でも何でもねえ。最弱だ。それも史上最低のな。」
「だ……黙れええええええええええええええ!!!!」
「おっと。」
…………。
「……言い方が間違ってるな。訂正しよう。
お前は、昔より弱くなったと思うぞ。」
……え……。
「何…?」
「……フィフィから話は全部聞かせてもらった。」
…フィフィ、から?
「お前は昔、アルスと一緒に暮らしていた頃はケンカ強かったらしいじゃねぇか。」
「だからどうした!!」
「……聞くけどさ、
その力は誰のために振るった?」
…………。
「そ…そんなの決まっている!自分のためだ!!」
「違うね。お前はアルスが苛められていたら割り込んでそいつにケンカ吹っかけてたらしいじゃねえか。」
「な……そ、それは!!」
「お前は、姉であるアルスを守るためにケンカ吹っかけた……違うか?」
…………。
「昔のお前は、守るべき人間がいた。そいつのために力を振るい、それ以外には力は使わなかった……そうだろが。」
「ち、違う!!」
「そうか?少なくとも俺はそう思うんだがな?」
…………。
「それがさ、今じゃ姉であるアルスが憎いっつーことで憂さ晴らしに無差別殺人か?そりゃお前あれだよな。随分自分が強くなったつもりだったろうな?」
「……ああそうだ!!僕は強い!強いから、その力を示した!これの何が悪いん、だ!!!」
「ん。【ガィン!】……それ自体が間違ってんだよお前。」
「何、だとおおおお!!??」
「…お前はアルスが憎くてつっけんどんな態度とったのか?」
「当然だ!本来なら力のないアリスが勇者に選ばれて、何で僕が村に留まらなければいけなかったんだと思うと憎くて憎くてしょうがなかったんだ!!」
「……それ、違うんじゃね?
お前実は寂しかっただけじゃねぇの?」
…………。
「何ぃ!?」
「アルスは勇者として皆から褒め称えられ、そしてお前は蚊帳の外。今のようなお前だったら、間違いなくアルスを殺しにかかっていたんじゃねえのかっと!」
「【ガァン!】ぐあああ!!ち、チクショウ!!」
「そんで構ってもらいたくて、アルスに素っ気ない態度を取り続けた……結局、アルスは村から旅立ってしまってどうにもならなかったけどな。」
「うがああああああああああああああああああああああ!!!!」
「やかましい。」
…………。
……アラン……。
「で、最終的にはプッツンきて村全員皆殺しってか?そりゃお前、自分が弱いからだ。」
「ち、違う!!違う違う違あああああああう!!!!」
【ドオオオオン!!】
「まったく……素直じゃねぇなお前。」
「黙れ、黙れええええええええええええ!!!」
「……ま、結局何が言いたいのかと言うとな。
憎しみだけで戦ってたってどうにもならん。守るべきもんがあるからこそ人は強くなる。昔のお前にはあって、今のお前にはねぇもんはそれだ。」
!!
「それがわかんねぇ奴には………っと!」
「!?な!?」
……リュウジさんは、右手の剣を宙に放り投げ、アランの注意を逸らした。
そして……
「とう。」
【トットットッ】
胸の辺りの三箇所を指でついた。
「な………!?グゥ!」
【ドサ】
いきなりアランが苦しんで、前のめりに倒れる。
「ぐ、ぁぁぁぁ………な、何を…した……ぁぁ。」
「ん、なぁに。秘孔をついて体内の氣の流れを変えただけ。」
「ヒ……コウ……?」
「説明メンドイから省くぞ?
さて……そんじゃ。」
【パシ】
放り投げた剣が戻ってきて、それをリュウジさんはそれを受け止めた。
「言い残すこと、ないか?」
「!?ぐ、があああああああああああ!!」
…………。
――――――――
―――――
―――
――
『ウッ……ヒック……。』
『姉ちゃん、泣くなよ。』
『だ、だって……ヒッ……だってぇ……。』
『だからさぁ、あれはあいつらが勝手に言ってるだけだって。』
『ヒッ……ヒック……うぇ…。』
『もう……母さん、言ってたろ?ホントの姉ちゃんは、スッゲェ強くて優しいんだって。』
『……ヒック……。』
『あぁ…それにさ、僕がケンカに負けた時だって、姉ちゃん今の僕のように慰めてくれるじゃないか。』
『……。』
『僕が知ってる姉ちゃんは、役立たずの姉ちゃんなんかじゃないよ?いっつも僕の傍にいてくれて、慰めてくれる、優しい姉ちゃんなんだ。』
『……ホント……?』
『そうだよ!だからさ、元気出して!母さん言ってたろ?私は元気なアリスが大好きだって。』
『……うん……。』
『じゃ、そろそろ丘降りようか。』
『アラン…大丈夫?』
『う……い、痛くなんか……ない…。』
『…涙目だよ?』
『!ち、違う!これは欠伸!』
『あ、頬から血が出てる。』
『え?うそ!?い、いやだああああ!!血いやだ!!』
『…プッ!嘘だよ、嘘♪』
『!?だ、だましたなあああああ!!』
『あはははは!やっぱり泣いてるぅ♪』
『だああああああああ!!い、今の見なかったことにしてよ!お願いだから!』
『え〜?どうしよっかな?』
『ね、姉ちゃんの意地悪!』
『私、意地悪じゃないもーん♪ただ楽しんでるだけだもーん♪』
『それが意地悪っていうの!うぅぅぅ、昨日までは僕が姉ちゃんあやしてたのに……。』
『え、何?何か言った?』
『いたああああ!?ちょ、頬引っ張るの無し!反則!暴力はんたーい!!』
『ケンカでできたケガで泣いてたクセに暴力反対なんて言葉使わない!』
『ご、ごめんなさあああああいででででで!?』
――
―――
――――
――――――
アラン…………。
「それじゃ……バイビ♪」
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「やめて!!!!」
ボクは………ありったけの力を込めて、叫んだ。
次回、長編最終回。