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第百四十一の話 龍の牙3

龍二の新たな○○。

〜久美視点〜



「…………。」

「…………。」


龍二達が出て行って、かなり時間が経っている。時計を見てみれば、もう夜中の三時半………夜明けまでもうすぐ。


「はぁ……はぁ……。」


…夜が明けたら、リリアンは死ぬ……その前に何とかしないと……


でも…。


「リリアン…。」


今あたしにできるのは、苦しんでるリリアンを見守りつつ汗を拭うこと、



そして龍二達の帰りを待っているだけ。



「……雨、ひどくなってきたな。」


一緒に待っている恭田が、窓の外を眺めながらポツリと呟く。


「……そうだな。」


…その呟きはただの独り言なのか、それともあたしに向けられたのかわからない……でも、ただ重苦しい空間に身を置くのはいやだった。


今は少しでも会話が欲しい……でないと、不安で押しつぶされそうになる。


「……龍二達、遅いな。」

「……そう、だな……。」


…………。


「……大丈夫……なんだろうか……?」

「は?」


つい、呟く。


「…皆……無事に…帰ってくる…のか?」


もし、誰かに危険が迫っていたら…


もし、龍二達が失敗なんかしたら…


もし、夜明けまで間に合わなかったら…




……恐い……。




「……大丈夫だろう。あいつらなら。」

「何でそう言い切れる!?下手な同情なんかいらない!」

「同情なんかじゃねぇよ!!」


思わず、あたしは立ち上がった。



重い空気が辺りを支配し、沈黙が漂う……聞こえるのは窓を打ち付ける雨の音と、リリアンの息遣いのみ。



「……。」

「……。」

「…すまない、気が立ってたみたいだ。」

「いや……。」


…再び、あたしはリリアンの隣に座り込む。


……気まずい……。






「…あんさ。」

「?」


そんな中、恭田が話しかけてきた。


「俺、昔結構荒れててさ…よく仲間とつるんではタバコとかは当たり前だったし、無免許でバイク乗ったりしてたんだ。しまいにゃ親父狩りもして警察に補導されたりもした。」


……初耳だ。


「そん時一緒にいた奴ら、皆俺についてきてたんだ…俺、そこら辺じゃ結構強い方だったからさ。先輩にも負けなかった。そんで、そいつらと一緒に、バカやって、金せびって、気にいらない奴とかリンチにしてやった。」


あぁ、あたしが中学二年の頃に起こった中学生による暴力事件か……あれ、恭田が主犯だったのか。


まぁその頃はまだあたしと恭田は出会ってなかったから面識なかったけど。第一その事件自体には興味がなかった。


…………。


「……なんでいきなりそんな話を?」

「まぁ最後まで聞けって……でよ、そん時信じられるのは、自分自身と俺の後ろをついてくる連中だけでさ…大人はもちろん、他の同年代の奴らなんか、まったく信じちゃいなかったんだ。」


……意外だ……いつもナンパばかりしている、この恭田が昔はそんな奴だったなんて……。


「毎日毎日、ケンカに明け暮れて…それだけで満足だったんだ………あの時までは。」

「あの時?」

「………中学二年の終わり頃、いつも俺の後をついてきてた奴らが、俺をハメやがって……隣町の連中と一緒に俺をリンチにかけたんだ。」


え………。


「殴られて蹴られて……痛かったけど、それより仲間に裏切られたのがショックだったんだ。その時悟ったね。俺もう誰も信じられねえって。」


…………。


「……でも、そんな時、あいつが…龍二が駆けつけてきて…俺助けるために連中に一人で立ち向かってったんだ。」


…………。


「俺、あいつに無理だっつって止めたんだよ。相手は数十人、勝ち目なんかねぇって。


でもあいつ…俺に向かってこう言いやがったんだ。



『とりあえず俺のこと信じてみ。』



………その一言の後、一瞬で連中を建物の壁ごと吹っ飛ばした。」


……すご……。


「でさ、それからあいつらとつるむようになってから、俺わかったんだよ。本当に、心の底から信用できる友達のことを、信じてみろってさ。


だから俺、あいつのこと信じてここでジっとしてんだ。」


…恭田…。


「…だ、だからさぁ…あぁ、つまりだな、お前もあんま不安がってないであいつを信じてみろよ……な?」


………………。


「……ありがと、恭田。」

「惚れた?」

「調子に乗るな影薄。」

「…………。」


ようやく、いつもの雰囲気に戻った。



…そうだな、不安になったところでしょうがない……第一、あの龍二のことだ。どんな困難だって乗り越えられるだろう……いつだって、そうだった。



だから、信じよう………龍二を。あたしにとって、大切な人のことを。




「…皆が戦ってるのに、自分だけ弱気になってる場合じゃないな……リリアン。」


そして、今必死に戦ってるリリアンの頬をそっと撫でた。





「龍、二………アル…ス………。」








〜龍二視点〜



…………………………


正直に言うと、これは夢かと思う。そうそう、ここ最近頑張りすぎて疲れてるんだろな俺。やっぱ自分の体のことは自分が一番わかってる、つもりだったんだがな。


相当疲れてるんだろう?な、俺の体………おい、そう言え。




そうだと……言え……!!




「あ……アル……ス。」

『バカな…。』


後ろにいるクルルと、腰のエルの絶句した声……。




鳥居を潜り抜けた俺達の目の前には、馬鹿でかい気色の悪い腕でアルスを掴んで持ち上げている真っ赤な髪をした野郎。





そして腕に両腕を拘束され、剣が腹に突き刺さっているまま力なく吊るされたアルスがいた。





「アルス……そんな…………ぁ。」

『!?クルル!』

「!」


エルが叫んで、咄嗟に前のめりに倒れこもうとしていたクルルの体を反射的に支える。


「クルル。」

「……………。」


……ダメだ、あまりのショックで気ぃ失ってる。


…………。


「…エル。」

『…わかっている。』


クルルを鳥居の根元にもたれかけるように座らせると、俺はエルを引き抜いてアルスを掴んで、剣を突き刺したまま動かない野郎……多分、アラン……を見据えた。




こいつは……絶対許さねえ……何が、何でも……。






「……チッ!やっぱり神々の加護を受けただけはあるね……。」


?何か呟いてるが……何のことだ?




「…………。」




!!!


『リュウジ、アルスは……!』

「わかっている!!」


俺の空耳・・じゃないことを祈りつつ、一瞬にして駆け出す!



「『金色乃嵐ゴールデンストーム』!!!!」

「!?なっ!?」


俺とエルの声が重なり、突き出した切っ先から無数の金色の雷が暴れ狂うかのように飛び出す。



【ドオオオオオオン!】

「ぐあぁ!?」



見事、雷撃はアランの腕と体に命中。



「とお!!」

【ガッ!】



で、俺は吹っ飛ばされたアランの一瞬の隙をついて腕から開放されたアルスを空中でキャッチ、救出っと。



「アルス!」


地面に着地し、その場でアルスを下ろして抱き起こす形にする。当の本人は、体中傷だらけで血まみれな上に汚れまくり……頭もグッタリと垂れていた。


「アルス、起きろ!」


小さく揺さぶるが、全く起きる気配がない……。



………だ〜もぉ、まどろっこしい!



「起きろっつってんだろーが…この…



バカアルス!!!!」

【バヂィ!!】

『って貴様強引すぎ!?』



エルの力を(勝手に)借りて電気SHOCK!!!



「…………。」


…………。






「…はぁ!……はぁ、はぁ……。」


……ホッ。無事覚醒……。


「起きたか、アルス。」

「………リ……ュウジ………さん……?」


息も絶え絶えなおかげで、声も超小さい。


それでも、今の俺にとってはそれでも十分安心できるくらいだった。


「………ボ………ク……は……。」

「ああ、大丈夫大丈夫お前死んでないから。鎧に感謝しな。」



そ。こいつが生きている理由……それはひとえに、こいつが着ている鎧のおかげ。


フィフィから聞いたが、こいつが着ている鎧とクルルの鎧は神々から授かった最強の武具として、かなり強力な魔法結界が薄く張られている。つまり、ちっとやそっとの攻撃なんざでは破壊できねぇってわけだ。


おかげで、アランの心臓を狙った一突きは結界を破りこそはしたものの、心臓までは届かずに若干胸に傷を付けた程度だったってことだな。“貫かれた”んじゃなくて“突き刺さった”ってのに注目すべきだったな。まぁ突き刺さってた時にホントに小さい声で呻いたのを聞いたから生きてるって確信持てたんだけど。


まぁ、とりあえず一安心。よかったよかった♪




「おのれ……よくも……。」



……って、そういやアラン忘れてた。



『忘れてなかっただろう。しっかり覚えていたくせに。』

「やかましいよお前?」

『サーセン…。』


心読むなやこのクソ剣。


…まぁいいか。ともかく。


「よっこらせっと。」


アルスを、俗に言うお姫様抱っこして持ち上げる。


「さて、ボロボロになった奴は一先ず退場だな。」



「………リュウ……ジさん……。」

「あ?」


抱き上げてるから、どんな小声も聞き逃さない。


「………し……」

「??何だ?」




「し……んぱ、い……かけさ……せて…………ごめ………ん……なさい……」




「…………。」



……ったく。



「謝るのは、これ終わってからだ。」

「…………はぃ……。」



……まぁあえて今言わないが、謝った後に頭ぶん殴る。



「……よいせっと。」


クルルの隣に座らせ、同じように柱にもたれる形をとった。


うし、これでオーケーだ。



「…エル。」

『わかっている。』

【ヒュン】


エルを手で一回転させながら、前へと進み出る。アランは、でかい左腕を小さくさせていき、普通の人間サイズの大きさに戻した……まぁそれでも気色わりぃけどな。紫色だし。



……やっぱ、アレを使うことになりそうだな、うん。



「…君、誰?」


…案の定、聞いてきた。


「まずは自分から名乗るってのが流儀じゃね?」

「……。」


前に進みながら、俺は挑発のつもりで言った。あらま、何か乗っちゃったらしくて顔歪んじゃった。


「……君、僕が誰だかわかってんの?」

「すいませんねぇ、初対面なものでお前のことなんざ全っ然わかりゃせなんだわ。つーか無理あるっしょ初対面の人わかってる奴って。矛盾しすぎ。」


うはぁ、おもしれぇこいつ。ますます歪んでるよ顔。


「………たかが脆弱な人間風情が………。」

「何か言ったか?」

「………いいよ、名乗ってあげる。君のような生意気ですぐに死にそうな奴に教えるなんて意味ない気がs」

「いいからはよ名乗れやボケ。」


う〜ん、案外逆上しやすいねこいつ。


「う、ぐぅ!!…………僕は、アラン・フィート……。」


お、見事に抑えたな。偉い偉い。


…そんでやっぱ苗字アルスと同じか……半信半疑だったが、マジだったか。


「さぁ、次は君が名乗る番だよ?」

「あ、俺名乗るのメンドイから好きなように呼んでもいいぞ?」

「…………。」

『貴様、それはいくらなんでもひどすぎるぞ…。』


何がひどいよ?適当にイジらせといて最後は結局名乗らない、というオチって何かいいだろ?笑えねえ?


「………ふざけてるの?君?」

「全然?至ってマジメ。」


と、互いに距離を取りつつ円を描くように歩いてたら、元々寺があったはずの…つーかもう見る影なくて土台だけじゃん…の前まで来ていた。


まあ、ここが俺の目的地なんだがね。


「へぇ、そう……たかが人間如きが、この僕にそんな口聞くんだぁ?」

「ん?いけないか?」

「いや、別にいいよ?



ただ……死に急ぐことになるけどね。」

【ゴォ!】


アランの背後が燃え出すと、紫色の左腕は不気味に変化していき、これまた紫色の剣が生えた。気色わる。


「さぁ…って。じゃ君のような奴は八つ裂きよりもむごい目に合ってもらおうかな?」


ニヤリ、と笑いながら、右手の剣の切っ先を俺に向ける。



………つーかよぉ。



「そういうお前こそさぁ、俺に向かってそんな口聞いてもいいのか?」

「……何?」


アランの顔から笑みが消え、代わりに無表情となる。怒っているのは確かだ。


「確かに、お前の力はすごいな。どんな魔力も属さない、最強の力持ってるし。」


俺はヒョイと、エルを左手に持ち替える。


「ただな、俺が気になる点を上げてみれば……。」


背後の石造りの土台にもたれ、アランを見据える。




「そういうお前だって人間じゃん。普通の。」

「……はぁ?」




目が点になっているアラン。何でやねん。事実やないかい。




「僕が…人間?…………


クク、クキケケケケケケケ………。」


世にも奇妙な笑い声を上げるアラン。あぁ何だかムカつくわぁこの笑い方。


「わかってないねぇ、君……僕はねぇ、この力を手に入れてから、人間なんてやめたんだよ。



今の僕は、勇者よりも…そして魔王よりも最強の力を手に入れた世界で最も強い悪魔、アランだ!!」


両手を広げ、大袈裟に言うアラン。



つーか………恥ずくね?大声でんなこと叫んでさ。まぁ俺にとっちゃどうだっていいけんな。



「……はぁ……ま、お前が人間じゃないって言うんなら悪魔だろうが神だろうが何だって名乗ってもいいけどさぁ。」


大体覚悟はしていた。こういう奴ほど、物分りの悪い奴って多いんだよなぁ。


つか、そんなことぁどうだっていい。



「…そんなら、」

【ドン!】



俺は土台の一部を蹴りつけた。



「俺が、」

【ガララ…】



蹴った部分が崩れ、しゃがみ込む。



「世界最強と豪語する、」

【ガラ】



瓦礫をのけると、そこから出てきたのはうるしで塗られ、何重にも鎖で巻かれた長方形の箱。空の光を受け、鈍く輝いている。



「オメェに、」

【バキィン!】



箱を持ち上げ、鎖のうち一本を掴み、思いっきり引きちぎる。これは特殊な鎖で、俺以外の人間には触れることさえできない。



「教えてやる。」

【ヒュ】



箱を天高く投げる。箱はクルクルと空中で回転し、俺の頭上目掛けて落ちてくる。



【キィン!!】



エルで切り上げ、箱を真っ二つにする。若干時間差があり、空中から落下しながら箱に一本の線が入る。



やがて箱が開き、もとい分かれ、中身が露になる……俺はそれを、地面に落下する前に右手で引っ掴む。




「お前にとって何が足りないのかをな。」




【シュイン!!】



右手のそれを振るい、を脇に飛ばす。



姿を現したのは、アレ……俺の体半分くらいの長さ、そして一片も曇のないその研ぎ澄まされた刃………












「行くぞ………『龍刃りゅうじん』。」



龍神りゅうじん』の名を冠する日本刀・・・を、俺は手にした。




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