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第百三十六の話 光りし者と呪われし者6

今回は短めです。

〜龍二視点〜



『お、弟ぉ!!??』


全員見事にハモった。俺は黙ってたけど、正味オラマジでびっくらぶっこいただ。


「ちょ…私、アルスからそんな話聞いてないよぉ!?」

「…龍二、アンタは?」

「いや、初耳だ。」


…つーかあいつの家族構成なんて正直興味なかったし。だから聞かなかったが…聞いたら聞いたでビックリだ。あ、ビックリしたって二回言った。これで三回目。もうわけわかんねぇ。


「……。」

「……ん〜……でも何で黙ってたよ?」


いや、黙ってたのにはそれなりの理由があるからなんだろうけど…まぁ何だ。一応聞いてみたってな感じで。


「…………これは…前半部分はアルス本人から聞いた話だけど……。」



……ゆっくりとだけど……語り始めた。



―――――――――――


――――――――


―――――


―――



あれは、アルスがまだ、アリスと名乗っていた頃の話……



アルスとアランは、ホントは仲がいい兄弟だったの。


でも、村の人達はアルス達を皆よってたかっていじめていた。


とくにアルスは……アランよりひどい扱いを受けてたみたいで……対してアランは、ケンカが強くて、よくアルスを泣かしてた奴を返り討ちにしてたわ。


でも、時々負けては泣いて……ケガして……そんな時は、アルスがずっと慰めてた。


境遇はひどかったけど、二人はいっつも互いを信頼し合ってて、助け合ってたらしいの。


ずっとずっと、こんな関係が続くと思っていた……




………そんなある日…アルスの下に王宮から神官が現れて、アルスが神の勇者の生まれ変わりだと大々的に告げた。


『彼女こそ、この世界を暗黒から救い出し、我々を光溢れる真の平和な世界へと導いてくれる存在だ』と。


その時から、周囲からのアルスに対する対応が一転して変わったってことはアルス本人から聞いたわよね?


……それを見て、一人快く思わない人物がいた。




それがアラン……姉だけが皆からチヤホヤされるのを見て、妬ましく思ってたらしいわ。




その日から、アランはアルスに対してつっけんどんな態度を取り続けて……結局、アルスの仲直りしたい、という願いも虚しく、アルスは勇者として村から旅立っていった。



それからアランに何があったのかは、アルス自身も、当然私達も知らないわ。



ただ、私達でもわかること。それは……あいつは、敵になったということ。




ここからは、私達も実際に体験した話。


旅の道中、私達が立ち寄った村で夜中に盗賊団が奇襲をかけてきた。当然、私達も宿から出て応戦したわ。


数も減ってきたというところで……アルスは、見てしまったの。




盗賊団に紛れて、村人の首をはね飛ばしているアランの姿を。




あいつの顔は壮絶だったわ。村人を切った時の返り血を浴びて血まみれの顔のまま、恍惚とした表情で私達に向かって笑いかけていた。


そしてアルスに向かって言ったわ。『僕が邪魔だと思う奴は、例え誰であろうと…例えアンタだろうと、全部切り殺していくよ。それに……殺すのってサイコーだからね。』って……。


その時のアルスの表情は、私達は忘れてない……あれは、もう弟に向けるような表情じゃなく、まるで何かに取り憑かれたかのような………恐い顔してた……。



その時は、一通り村人を笑いながら殺して、アルスに今回だけは特別に見逃してあげるって言って村から去ったけど……その日からアルスは、アランを探す為に世界中を駆けずり回った。




会って話し合うんじゃない……殺すために。




そして……雨が降る中、その日は来た。




魔王城に一番近い森で、アルスはアランと対峙した……私達も加勢したわ。


ただ、昔から力の方はアランの方が強くて……剣の腕も、あっちの方が数段上に見えた。


けど、激しい斬り合いの末にどうにかアランの剣を叩き落したアルスは、とどめをさそうと剣を振り上げた。






『アラン!これで終わらせてやる!!』

『チィ………!』






………でも、あいつは……






『……姉さん。』

『!?』

『………なぁんてね♪』






卑怯にも、かろうじてアルスの中に残っていた弟に対する思いを利用した……。






『!し、しまった…!』

『バイバーイ……バカなアリス♪』






隙をついたアランは、隠し持っていた毒のナイフでアルスに襲い掛かった。






『させない!』

『なっ!?……ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!』






その時に、リリアンが咄嗟にアルスを庇って毒のナイフを持っていた左腕を、斧で叩き切った。


痛みに悶えるアランに、アルスは自分の力を振り絞ってアランに切りかかってって……そして……






『アルス、いって!!』

『!!………うぅぅぅあああああああああああああああああああああ!!!!』

『う、うわあああああああああああ!!!???』






暗い、深い谷底に……突き落とした。




―――


――――――


―――――――――


―――――――――――――



『…………。』

「……これが、私達が知ってる限りの…真実よ。」


……………まぁ、何と言うか……………



「…マジかよ…。」

「…………。」


うん、この一言に尽きるわ。


「…でも、谷底に突き落としたまではよかったんだけど…。」

「……死んで、なかったってわけね。」


雅と花鈴が代弁し、また沈黙。



………弟………たった一人の弟……あいつがどんな思いで弟のことを見ていたのか。


あいつは人一倍優しい。よって、何の罪もない人間を目の前で笑いながら殺した弟をどう見ていたのか…………本当のところはよくわからんし、あいつ自身からの口から聞かない限り知らん。


ただ、わかることと言えば…。



「…アルスは、決着をつけるべく俺の家から出て行ったってことか……。」



……あの、バカが。



「……おい、もうこうなったら是非もなしだ。手分けしてアルス探すぞ。」

「え…皆で行動した方が安全じゃ…。」

「固まってたら行動が制限される。それに天分町は広い。アランがどこにいるかもわからん。危険度は増すが、今はアルスを探すのが最優先だ。」




『今の……アルス……ダメ……会わせ、ちゃ……』




………リリアンの忠告が、俺の頭の中で反響する。



俺も直勘でわかる…今のあいつは、アランに会ったらダメだ。



「ともかく、スティルとロウ兄弟と雅と香苗が一チーム、俺とクルルとフィフィと花鈴が二チームという風に分かれる。文句は受け付けない。」


もう時間もない。このパーティ編成で行く。


「スティル、カルマケルマ、雅達絶対守りぬけ。」

「は、はい!」

「魔王様と行けないのは不服だけど……仕方ない!」

「…今回はツッコミなしだ。」


わかってんじゃんカルマ。


「行くぞ。」

「オッケー!」

「はい!」

「よ、よし。」


俺はT字路の左を、雅達は右への道を行く。




…今の俺は、アルスを心配する気持ちと同時に何故かメチャクチャ腹が立っていた。



その……アランって野郎に。








〜アルス視点〜



「……。」

【ザァァァァァァ……】


赤い雲から雨が降り注ぐ…雨は地面を濡らし、草木を濡らし、ボクの髪を濡らし、鎧に水滴を作った。



この雨からは、魔力が感じられた。魔王が使う闇魔法なんて比じゃないかのような…禍々しい魔力。本来なら草木を潤し、人々に恵みを与える雨が、人に害をなす存在と化している。今はまだ効果的には微々たる物だけど、時間が経てば何かが起こる……そんな気がする。




「やっぱり来てくれたね……アリス♪」




…そして、この事態を引き起こした忌むべき張本人がボクの目の前にいた。




「…あれ?一人で来たの?大変だったでしょ〜ここまで来るの。」

「お前が知るべきことじゃない。」


自分でも内心驚くほど冷徹な声……でも今は気にしていられない。


「うわ、冷たいなぁアリスは〜。昔は優しかったのになぁ。」

「……その名前を口に出すな。」

「いやだね♪僕はこの名前が気に入ってるんだ♪……イライラしてる君の顔が見れるし♪」


【シャリン】


「……黙れ。」


しっかと睨みつけつつ、剣を抜いて切っ先を向ける。ただ、今アランはある建物の屋根の上にいるから、地面からだと切っ先は届かない。


…でも、ボクには関係ない。


「やれやれ、熱いな〜アリスは。」

「……一つ聞く。あの紙に書いてあったことは事実なの?」

「?あの紙?」

「……。」

「あぁごめんごめん。おどけたつもりだったんだよ。ちゃーんと覚えてるよ。だからそんな睨まないでよ。



もちろん、今は僕は町には手を出さないよ。約束する。」


…………つまりは、もう少ししたら町を襲う、ということになる。



そんなこと……させない!



「……ねぇアリス。」

「……。」


ボクは返事をしない。ただ無言のまま射殺すつもりで睨みつけているだけ。


「……ここ懐かしいと思わない?」

「…?」


…何を言ってる…?


「この、草木に覆われ、眼下には村が広がってる……いや、ここからは町だな……この光景、懐かしいと思わない?」

「……。」


チラリと背後を振り返った。


……確かに、周囲は木々で覆われていて、草も生えて、高い位置にあるからここからでも町を一望できる……いつか見た光景に……似ていた。


「ふと、あの頃を思い出すよ……ホント何でだろうね?」

「…………。」

「ただ僕の中にあるのは、純粋な殺意と快感……一番好きな風景は、血の海だというのに……。」

「……!」


……アラン……。


「…全く…わけわかんないよ。ねぇ、アリス?」

「…ボクにお前の気持ちなんかわかるわけない。」

「そんなことないさ。」

「!?」


……どういう……意味?


「君は僕と大して変わらないよ?



憎しみで僕を殺そうとしてるところが♪」


!!!


「……アラン!!!」

「はいちょっと待ったー。」


剣を構えた瞬間、アランが両手で制す。


「悪いんだけど…僕と戦う前に、ウォーミングアップしてくれない?じゃないと僕、満足に戦えないよ。」

「……ふざけるな!今すぐ降りてこい!」

「だからぁ、ダメだって。ちゃんと戦いたいもん。



それじゃ……『我、創造する者なり!アベラスト・セフィ』!!」

【ザザァァァァ……】


「!?」


周囲の泥が盛り上がり、中から出てきたのはボクらの世界の中級モンスター、グルゲロッグ……何故!?


「それじゃ、ウォーミングアップスタート♪こんなザコい奴らなんかで死なないでね〜。」


屋根の上で寝そべりながら、お気楽に言うアラン……。


「……。」



…許せない。



『ギギギギギギ…。』



命を……。



『……ゲガアアアアアアアア!!』



弄ぶなんて……!



「…許せない…!」

【ザン!】


横から飛び掛ってきたグルゲロッグを剣で叩き落す。



【バサァ】



…絶命したグルゲロッグは、砂となって土へと帰っていった。




「……アラン!」

『グガアアアアアアアアア!!』





絶対に……許せない!!


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