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第百三十一の話 光りし者と呪われし者1

大長編、スターーーート!!!

〜???視点〜



憎い。


あいつが憎い。


何で僕じゃない?


何であいつなんだ。


何であいつが選ばれたんだ。


何で全てにおいて勝っている僕じゃないんだ。


おかしい。


全て間違ってる。


何もかも。


腹が立つ。


ムシャクシャする。


だから気晴らしに、一時あいつの目の前で皆殺しにしたことがある。


そう、老若男女関係なく、見境無く、血の雨を降らせた。


その時のあいつの顔と言ったら……。


またあの顔が見たい。


あいつが今の僕のように憎しみを込めた目で睨んでくる姿が見たい。


そして虐殺したい。


あの恐怖に逃げ惑う愚かな奴らの顔が忘れられない。


だから僕はあいつを追ってきた。


そう……僕らの世界とは異なる、僕らにとって未知に溢れたこの世界に。


あぁ、楽しみだ。


すごく楽しみだ。


あなたに会えるんだから。


そしてあなたの前で殺戮が行えるんだから。


そしてあなたを殺せるんだから。


だから……待っててね?




僕の愛おしい……たった一人の……。








〜アルス視点〜



【サァァァ……】


……………雨、か。



「むむむむむ………。」

「さぁクルル?早く取りなさい。」

「……只今…十分経過。」

「十分間悩むものか?」

「こいつにとってはそんなの普通なんだっての、久美。」


ふと窓から視線を逸らし、横を見てみる。クミさんとリリアンが遊びに来ていて、魔王とフィフィとリリアンでこの間ボクが全敗したババ抜きで盛り上がっている。一方、クミさんはテーブルの席につきながらクッキーを食べ、リュウジさんも同じく向かい合わせに座ってお茶を飲んでいる。


ボクは……もう一度、右腕の肘を組んだ足に乗せたまま、ベランダの窓から空を見上げる。今日はあいにくの雨で、空は灰色の雲に覆われていた。大雨とも言えないけど、小雨とも言えない。雨はポツポツと水音をたてながら地面を濡らしていた。



……ただ、この雨はあの頃を思い出す……決していいとは言えない、最悪のあの頃を……


寂しさと悲しみに満ちた、あの頃を。



「とりゃあああああ!!」

「はーいババ取ったー!私の勝ちー♪」

「うみゃあああああああああ!!!???」

「……クルル、負け。」

「うえええええええええええん!!!」

「…とゆーより、リリアン強すぎではないか?」

「そりゃな、基本無表情だもんなこいつ。」

「……ポーカーフェイス。」

「まさにそれね。」

「うぅ……グス。」


…………。


「…ねぇアルス〜。」

「…?え、何フィフィ?」


一人、感傷に浸っているとフィフィが飛んできてボクの肩にとまった。


「一人でなぁにポケ〜っとしてんの?」

「…な、何でもないよ。」

「またまたぁ〜♪アルスらしくないよ?」


…………。


「…ボクだってたまには感傷に浸りたい時だってあります。」

「?感傷って?………あ。」


何のことか気付いたらしく、慌ててボクの肩から離れる。


「…ごめん、アルス。」

「…いえ、別に…。」

「?何の話だ?」


……そっか、リュウジさん達は知らないんだ……でも………。


「いえ、何でもないんです。」

「……ただ、昔……。」

「ちょ、リリアン!?」


「……昔……楽しみに置いてあったパンから……カビがボンって生えた事件があったから。」



ちょっとこけた。



「……バカ?」

「……あの、その哀れみの込められた目で見るのやめてくれません?」


悲しさ倍増しますから…違う意味で。


「む〜!こうなったらリベンジ!ねばねばーぎぶあっぷ!!」

「ねば一個いらない。」


魔王、懲りてないみたいです。


「…あれ?リュウくんクッキーは?」

「あ、やべ。全部食っちまったか。」

「えぇぇ〜〜〜!!??楽しみに置いておいたのに〜〜!!」

「すまんって。代わりにせんべいやるから。」

「やだやだー!クッキーがいい〜!」


泣きながら駄々こねる魔王。わがまま言わない。


「……はぁ、しゃーねぇな。駅前で買ってくるか。」

「あ……龍二、私が行く……。」


リリアンが名乗り出て立ち上がった。


「?リリアンがか?そりゃ悪ぃぜ。」

「いい……ちょうど雨にうたれたかったから。」

「し、詩的なこと言うんだなリリアンって。」

「どういたしまして……久美。」


…………。


「リュウジさん、ボクも行きます。」

「あん?お前までか?何でまた。」

「リリアンと同じ理由です。」

「似合わね。」

「うわぁ即答です!?」


軽く傷ついたボクでした…。


「…んじゃそう言うなら悪いけど買ってきてくれねぇか?」

「…モチ。」

「はい。」


リュウジさんからお金を受け取り、愛用の革袋に入れる。


「じゃ行ってきますね。」

「…すぐ帰る。」

「滑るなよ?」

「行ってらっしゃーい♪おいしいのねー♪」


リビングから出て行く間際に見たのは、リュウジさんが魔王を蹴り飛ばしてる瞬間だった。





********************





【サァァァァァ……】


「……。」

「……。」


静かに降りしきる雨の中、ボクとリリアンは互いに無言のまま雨で濡れた道を傘をさしながら歩く。時々草か何かから水が跳ねる音がしたり、水が流れる音がしたりする。


その音が、ボクの気持ちをさらに沈めた。


「……。」

「…アルス。」

「?」


最初に無言を破ったのはリリアンだった。


「何?リリアン。」

「……。」


ボクの方を向かず、前方を向きながら歩き続けるリリアン。ボクはリリアンの次の言葉を待っていた。


「……。」

「…リリアン?」




「…まだ…“あのこと”について気に病んでる?」

「!!」


…感づかれてたんだ…。


ボクは思わず立ち止まると、リリアンはボクより数歩先を歩いてから立ち止まってから振り向いた。


「…そうなの?」

「……。」


…………。


「…もしそうなら…その気持ちをいつまでも抱え込んでいてはいけない…。」

「……。」

「…忘れろ、とまでは言わない…けど、あなたは間違ったことはしていない…ああでもしなければ、あなたは死んでいた。」



……わかってる。



「…私だって…未だにあの感触が忘れられない…今までどれだけ多くの魔物を切ってきた中で…あれほどつらいのは無かった…。」



そんなこと……。



「…だけど「わかってる!!」……。」


…………。


「そんなこと……言われなくてもわかってる……。」

「…………。」


いつの間にか……ボクの胸の中には、何かモヤモヤしたものが渦巻いているかのようで、気持ち悪かった。これは今回が初めてのことなんかじゃない…この雨が降るたびに、モヤモヤが沸き起こる。


出来ることなら、このモヤモヤを吐き出したい。剣を突き刺してでも抜き取りたい。


でも…出来ない…どんなに吐き出そうとしても、どんなに力強く胸を叩いても、このモヤモヤは消えない。



多分、ボクの中から永久に消えることはない。これからも、ずっと、ずっと。



「…………そう。」


一言そう言うと、再び前を向くリリアン。気が付けば、ボクは傘で雨をしのぐのを忘れていて、びしょぬれだった。


「…あなたがそう言うなら…私は…何も言わない。」


…………。


「…ごめん、リリアン…怒鳴ったりして。」

「…いい。」


リリアンは軽く、ほんの少し首を振った。


「……行こう。リュウジ達が待ってる。」

「……うん。」











「へぇ〜、随分この世界に馴染んでるみたいだね?」



!!!???



「………この、声………。」

「…………。」


リリアンでさえ動揺する、この声……。


「あれれ?随分驚いてるみたいだなぁ?」


…………



忘れもしない…いや、忘れることなんかできない……この、声…!



「…どこにいる…。」


傘を捨てて、ボク達は身構える。かなり…近くにいる。


「どこ?君達もうボケたの?上だよ上。」

「「!?」」


上……電柱の天辺!




「やぁ、久しぶり♪」

「……あ……あぁぁ……。」




灰色の空が視界を覆いつくす中……黒い影が、高い位置からボク達を見下ろしていた。



血のように赤い髪、闇よりも深い黒い目、そして鼻を通した真一文字の長い傷……。



「……お前、は……。」


リリアンが横で小さく呟く。でもボクは全く声が出ない。あまりのことで声を出す力さえなくなっていた。


間違いない。あの顔の傷は……。



「…ア…。」



ようやく…ようやく搾り出せたのは……








「アラン……!!」

「やぁ……アルス♪」





大切で………忌々しい、そいつの名前だった。


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