第百二十八の話 新技は世のため人のため……
〜花鈴視点〜
「おっすー。」
「あ、カリンさんいらっしゃいませ。」
アルスに店員みたいに迎えられたアタシこと花鈴は、龍二の家に遊びに来ました。暇で暇でしゃーないんだもん。だから。
…とゆーかアルスの格好…。
「?アルス何してんの?」
「……えっと……。」
…頭に花柄の頭巾被ってヒヨコマークがプリントされたピンクのエプロン着てるアルスの姿は、そりゃすんごく可愛いけど……あ、ハタキ持ってる。てことは……。
「掃除してんの?」
「……はい。」
「へぇ?手伝い?」
相変わらずアルスって律儀ねぇ。
「……いえ、その……。」
?
「………ババ抜きで負けて罰ゲームとして。」
……………。
「……なるほど。」
「100戦中100敗でした。」
「全敗じゃん。」
「…クスン。」
つーか100戦ってやりすぎ。そしてアルス弱すぎ。
「…まぁいいか。で?龍二どこ?」
「あ、リュウジさんならリビングにいますよ?でも…。」
「?でも何?」
「……あの通りです。」
リビングに通されたアタシが目にしたものは……
「……あいつ何してんの?」
「それがずっとあのままでして…。」
ベランダの淵で外を見ながら胡坐をかいて座っている龍二だった。
「あ、カリンちゃんいらっしゃーい!」
「やほ。」
「やほ……ねぇ、あれ何してんの?」
和室から出てきたフィフィとクルルに小声で聞く。
「ん〜………わかんない。」
「右に同じね。」
「あれ?フィフィ私左側に立ってるよ?」
「お黙り。」
うわ、フィフィツッコミキツ。
「…………。」
……で、相変わらずあいつは無言……。
「軽く一時間前からずっとあのまんまなのよ。」
「ふ〜ん……精神統一かしら?」
「それが声かけても無言で…。」
……何か気になるわね……。
「……龍二〜?」
「…………。」
試しにアタシも声をかけてみる……うあ、やっぱ無視。
「ねぇ、アンタ何してんのよ?」
近づいて上から顔を覗き込む。
……いつもののんびりしたような顔じゃなくて、おだやかに眠っているかのように目は閉じられてピクリともしない。両手はヘソの前で重ねるように組まれていて、やっぱり微動だにしない。
………完璧座禅じゃないの。
「…………。」
…………。
【ミョ〜ン】
…………。
【ペチン】
…………。
「…反応無し、か。」
ホッペタつねってみても動かない……すごい集中力。
てか何でいきなり座禅?今までだってこんな姿見たことないのに。
「…………。」
「……龍二〜?」
耳元で小声で呼んでみる…………………。
「……やっぱ反応無しね「何だ?」ってうわあああああお!!??」
いきなり目開いた!!マジびっくりした!!
「んだよいきなり叫びやがってただでさえうるせえのにお前。」
「し、しょうがないでしょずっと黙ってたんだからアンタ!つかちょっと待って何か今すっごい聞き捨てならないこと聞いた気がする。」
「気ニシナーイ。」
「いや気になりまくり。」
………相変わらず腹立つわねこいつ。
「で?何か用か?」
「べ、別に?暇だったから……そーゆーアンタは何してたの?座禅?」
「いんや。」
?違うの?
「……新技開発のために体内に氣を溜め込んでたとこ。」
……は?
「新技?」
「そ。」
…………。
「…どんなの?新技って?」
「今から見せてやるさ。」
そう言って、人差し指を前方の外へと向けた。
「見えるか?」
「?何が?」
…………………。
「…あ、蚊のこと?」
「ピンポーン。」
うわ、小っさ。よく目を凝らさないと見えないわねあれ。
「で?あれがどうかしたの?」
「まぁ見とけって。」
そして龍二は人差し指を蚊に向けたまま再び瞼を閉じた。
……当然、蚊だってジっとしてるわけもないから、外をプンプン飛び回っている。すでに人差し指の軌道上から外れていた。
……つかホント何がしたいのこいつ?
「……。」
「……ねぇ、リュウくんどうしたの?」
「クルル、ちょっと黙っといた方がいいわよ。殴られるから。」
フィフィ、アンタ経験済み?
「……。」
……沈黙……。
「はっ!」
【ビッ!!】
……………………………
はえ?
「……うし、完成。」
…………あ〜…………
いきなり目を開いたかと思うと、指先から青くて細い“レーザー”が飛び出し、ちょうど射線上に入った蚊と向かい側の塀を貫いた。当然、蚊はポトリと落ちた。
……………。
「……え、何?何ですか今の?」
「新技。」
「……嘘ん。」
…………。
「名づけて『龍糸貫』。」
…………あれですか?さながらレーザーガンってこと?
「いやぁ〜長時間胡坐かいてたせいで足疲れたぜ〜……花鈴、足もんで。」
「あ、は〜い……って何でやねん!!」
ビシ!っと右手の甲でベタなツッコミ。
「え〜いいじゃんよ足もむくらい〜。」
「あのね、アタシはアンタなんかにこき使われるような人間じゃないの。甘く見ないでよね!」
ったく、誰でも利用しようとするんだからこいつは……。
「………花鈴?」
「何よ?」
「発射。」
【チュン!】
………………。
「悪ぃけどもんでくれね?」
「………………はい。」
仕方なくズボンの上から両足のふくらはぎをもむことに。いやだってね?振り向いた途端に頬切れたんですよ?背後の壁五ミリくらいの小さな穴開いたんですよ?つーか発射してんの見えなかったんですよ?額貫かれるよりもんだ方がマシでしょ?
……ええそうですよ、どうせアタシは龍二にこき使われる運命なんですよ!悪い!?悪いですか!?ええそうですね悪いですね!!
「……カリンさん、怒ってません?」
「……いいえ〜?ぜんっぜん?」
アルスにニィッコリと笑いかける。自然ともむ手にも力が入った気がするけど多分気のせいでしょ。
「あ〜もうちょい強めに。」
「…………。」
……チッ、やっぱ痛がらないか。
「あ〜〜〜〜〜気持ちいいの〜〜〜〜〜……。」
「お爺ちゃんかアンタ。」
「何て言うか、頭から血が出るくらい気持ちいいの〜…。」
「……それ気持ちいいとは言わないわよ?」
むしろ痛そう通り越してヤバイ……とゆーか例え自体がヤバイ。
「あ〜〜〜〜でもマジメに気持ちいいな〜〜〜〜……。」
「そ、そう?」
「俺も孫が出来たら肩もんでもらうか。」
アンタまだ18でしょうが。
「……おう、サンキュな。」
「ええ。」
もみ終わると、龍二は足をプラプラ揺らした。やれやれ。
「……。」
「……。」
「……何?二人とも?」
「「別に。」」
ぶ、ぶっきらぼう……アルスとクルルが妙にぶっきらぼう……。
「何アンタ達?ジェラシー。」
「!?ち、違います!!///////」
「?何それ?」
フィフィの言葉に顔真っ赤なアルスと話にならないクルル。両極端。
「……どうでもいいけど、新技なんて考えてどうすんの?」
これ以上強くなったらこっちが困る。色々と。
「ん、ああ。最近、龍閃弾が強くなり過ぎちまったんでよ。」
………はい?
「……それどゆこと?」
「直接相手に弱龍閃弾ぶち込んだら気絶じゃ済まなくなっちまったってこと。」
弱ですか、弱なんですかい。弱ぶち込んだらどうなるんですかい。いやあえて聞かない方が身のためかも。
「つーわけで、龍閃弾に代わる新しい技を考えてたんよ。」
「……それがさっきの?」
「イエス。」
…………。
「……あのさ、龍閃弾に代わる技って言ったよね?」
「ああ。」
「……つまりさ、それって純粋に……
お仕置き技?」
「イエス。」
「「「『!!??』」」」
【ズサァ!】
あ、アルス達一斉に後方へ避難した。
「…いや、あのさ、それお仕置き技にするよりさぁ。」
「ん?」
「あ〜……………!そ、そう!世の中のために使いなさいよ!」
アルス達のためにもって意味合いも含めて。
「?例えば?」
「た、例えばさぁ……「きゃー!ひったくりよー!!」……。」
……いい例があった。
「ほぉ、ひったくりか。」
「……そうね。」
かなり近くから声がしたわね。
「…よっと。」
で、龍二は庭の塀をよじ登ったんで、アタシもつられてよじ登って塀の向こうを見てみる。
……あ〜、黒いフードパーカーを着込んだ男が、スーツの女性の持ってるハンドバッグを無理矢理奪おうと引っ張ってるという典型的な図がそこにあった。
「……随分タイミングかつ都合いい展開ね。」
「作者はこういうのが好きなんじゃね?」
いや、ただ単純にこういう展開にした方が楽なんだと思う。まぁ確かにここ人通り少ないけどさ。
「にしても、あの女バッグ放しゃいいのに。」
「……重要なもんでも入ってるんじゃないの?判子とか。」
「なるへそ、んじゃ放すわけにゃいかねぇよな。」
「そうよねぇ……あ、とゆーかあのバッグ、『ヘルメス』のバッグじゃないの?高級ブランドの。」
「ほう、詳しいな。」
「当たり前でしょ。ああいうのチェックしてんだから。」
「ふ〜ん、そういうのよくわからんが、高級ブランドのバッグは手放したくはねぇだろな。」
「そりゃそうよ。アタシだってあれ手放すくらいだったら財布上げるわよ。」
「それマジで言ってんのか?」
「……まぁ、第一持ってないけど。ヘルメスなんて。」
「じゃダメじゃん。」
「あ〜欲しいな〜バッグ…。」
「って!和やかに会話してる場合じゃないでしょう!?」
「同感。」
いつの間にかアタシの隣までよじ登ってきたアルスとフィフィのツッコミにアタシ達は現実世界に引き戻された。
「あ、そうだったわね……じゃ龍二。ドカーンとやっちゃって!」
「龍閃弾?」
「いや違う違う違う!新技!」
龍閃弾なんかドカーンと放ったら木っ端微塵でしょうが。
「あ〜はいはい…しゃーねぇな。」
めんどくさがりながらも一指し指を男の方に向けて……
「…『龍糸貫』。」
レーザーを放った。
「!?ぐあああああああ!!いてぇええええええええ!!!」
龍二が放ったレーザーは、的確に男の右足のふとももを捉えて貫いた。いくらレーザーが細くても、かなり痛いと思う、あれは。
「すごい!命中しましたよリュウジさん!」
「さすがね〜。」
まぁ、男の距離が近いと言っても塀の上から不安定な姿勢で撃ってんだから、命中させるのは難しいわよね〜。
まぁ、これでさすがにしつこいひったくりも
「もいっちょ。」
【チュン!】
「うぎゃあああ!!」
…………。
「ほれ。」
【ピィ】
「うどおおおお!!??」
…………。
「とどめに四発目。」
【ドーン!】
「ぐげふ!?」
…………。
「応用技、完成。」
「…………。」
二発目は右肩を貫いて、三発目は左足のふくらはぎ、四発目は拳大の青い気功球が指先から飛び出して男の急所に命中、男は気絶した。
「……リュウジ。アンタやりすぎ。」
「そうか?」
「……あの、さっき編み出したばかりなのにもう応用技ですか?」
「なんとなくやってみたらできた。」
「「「…………。」」」
規格外ってこういうのかな?
「…………。」
「で?世の中のためってのはこういうのか?」
「……まぁ、その……はい。」
正直なところ何とも言えません。
「そかそか。」
龍二は何を納得したのか、頷きながら塀から降りた。
…アタシとアルスもいつまでも塀の上で身を乗り出したところで何にもないから、降りることにした。
「うむ、じゃ軽くお茶にするか。」
「……さ、賛成ー。」
……ま、まぁ役に立ったってことでいいかな。
「よーし、そんじゃさっそく……アルス?」
「?はい?」
「わりぃんだけどお茶菓子切らしてっから買ってきてくれね?何でもいいからよ。」
「え……ボク掃除中なんですけど。」
「今からレッツゴー。」
「……あの、正直外暑いので魔王に」
「照準よし。」
「い、行ってきます!!!」
人差し指を向けられたアルスはエプロンを慌てて脱ぎ捨ててリビングから出てった。つーか頭巾取り忘れてるわよ。
「あ、クルルー。和室散らかしっぱなしだから片付けろよお前。」
「え〜?今乗り気じゃな〜い。」
「右目に風穴。」
「ぴぇぇ!片付け開始!!」
ボソリと呟いた龍二の言葉に慌てたクルルは和室へGO。
…………。
「……世の中のために使うんじゃないの?新技。」
「いやぁこれ脅しに使えるな〜って。」
「……この鬼。」
「結構。」
……さいですか。
こうして、新技は世の中のためとアルス達お仕置き用として利用されることとなりました。ドンマイ。
最近、時差ボケ抜けたはずなのに寝不足です……。